
2025年に設立120年を迎えた公益社団法人「日本山岳会」が今週のチャリティー先。
山を愛する人が集い、山を通して、温かな交流と絆を育んできました。
「山に行くと、山の仲間の温かみを体で感じる」と話すのは、日本山岳会理事の大塚哲生(おおつか・てつお)さん(68)と、広報委員会の永田弘太郎(ながた・こうたろう)さん(74)。
山の魅力、日本山岳会の魅力を、お伺いしました。

お話をお伺いした永田さん(写真左)、大塚さん(写真右)
公益社団法人日本山岳会
山岳を愛し、探究し、社会に貢献する志を持ち、ボランティア精神に富んだ会員が集う会。「みんなの日本山岳会」というスローガンのもと、多様性を重視し、一人ひとりが自分らしく、また互いに助け合い、支えながら成長できる組織を目指して活動しています。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2026/04/13

夏の丹沢。塔ノ岳の尊仏山荘前。ヤビツ峠から来て、これから戸川林道へ下る
──今日はよろしくお願いします。最初に、日本山岳会さんについて教えてください。
永田:
家庭や会社の世界とはまた別に、山を愛し、山という世界を持つ人たちのための会です。
ベーシックな山登りに限らず、沢登りや山スキー、植物鑑賞会…、オールラウンドな山登りをやっていますし、登山好きの方に限らず、山小屋のオーナーさんや山岳ガイドさん、林野庁の方、山を研究のフィールドとしている大学の先生、初心者から世界の高峰登山隊のメンバー、若者から高齢者まで、さまざまな「山好き」の人たちが集まっていることが特徴です。

仲間たちと山を楽しむ永田さん。「新年山行にて、熱海にある玄岳での集合写真です。この後、熱海の遺跡などを訪ね、熱海温泉施設で新年会を行います」
──素敵ですね。
永田:
2024年には、団体設立から120周年を迎えました。日本人が初めて山をレジャーやスポーツの対象として捉え、その楽しさおもしろさを日本中に広めてきました。
我々は「クラブライフ」と呼んでいますが、山に登るだけではなく、会を通じて一緒に山に入る仲間ができること、20年30年と付き合える気心の知れた仲間になっていくこともまた大きな魅力です。

日本山岳会創立120周年記念事業のひとつとして、カナダのアルバータ峰初登頂100周年を記念し、アルバータ峰に登ったユースクラブ。アルバータ峰をバックに集合写真
永田:
東京・市ヶ谷に本部があります。
理事会や委員会の活動拠点としてだけではなく、講演会や講習会などを開催しています。120年続く「山岳」や月刊誌「山」の発行、山に貢献した人へのアワード、先鋭的な登山への助成、山岳祭の振興、山岳古道の調査など多くの社会貢献活動を行っています。
また、15,000冊の図書を有する「山岳図書館」があり、一般にも開放されています。この本を読みたくて入会する人もいます。
全国には34の支部があり、支部員同士で山に登るだけではなく、それぞれ登山教室や自然観察会を開催したり、登山道を整備するなど公益的な活動をしています。

近年の会報「山岳」。年1冊の刊行で昨年120号となる

夏の北アルプス。白馬岳から白馬大池に下る
大塚:
日本の山には、「助け合う」という独特の文化があります。
というのは、山をやる人たちは「山は危険である」「安全に下山する」という共通認識を持っているからです。それぞれが互いに、危険を理解して行動しているからこそ、仲間意識が生まれるのです。
言葉で表現するのは難しいのですが、山に行くと、山の仲間の温かみを体で感じるんですよね。今、この話をしているだけでも心が温かくなります。
山をやる人たちは、この「温かみ」を前提に、一瞬にして連帯感を持てるというか…。
この「山の文化」が、日本山岳会にも流れていて、この温かさが伝わるといいなと思って活動しています。

仲間たちと共に山を楽しむ大塚さん。「随分以前のことですが、定例山行の後に皆で食材を持ち合って湯豆腐を作り、おいしくいただきました」
永田:
山に入ることで、美しい自然だけでなく、温かい仲間にも出会える。各地で温かい交流があるのは、日本の山ならではかもしれません。
たとえば普段、道を歩いていて、信号で立ち止まったり人とすれ違ったりする時、誰も「こんにちは」などと挨拶しませんよね。山では、必ず言います。全然知らない方と「景色が美しいですね」などと話したりもします。
山小屋も、それぞれ個性がありますが、場所によっては、同じ山小屋に滞在した人が、まるで長い時間を共に過ごしてきたかのような仲間になれる。これが「山の文化」です。

親子向けの自然体験教室での一枚。「仲間同士で助け合い、お子さんが安全に沢を渡れるようにサポートします」
──山岳会で「山の文化」に触れられるのですね。
大塚:
山登りを始めようと思っても、最初は、どこのどんな山に登るのか、どんな準備をしていけばいいのか、全然わかりませんよね。
日本山岳会には山の知識や経験が豊富な人がたくさんいるので、どの山に登るかもそうだし、さまざまな技術も学ぶことができます。
山登りに関しても、今はインターネットで、さまざまな情報を得られるようになりました。
でも、情報が曖昧だったり当てにならなかったりして、実際に何か起きた時に、対応ができないということも起こり得ます。
安全な経験を積んだ人と、どんな山があるか、どう安全に歩くか、何かあったときにどう対応するかということを隣で学びながら一緒に歩けるのは、特に初心者の方には、すごく大切なことだと思います。

上高地、徳澤園でのテント講習。日本山岳会では初級者向けに、読図講習や気象講習、医療講習など1年を通して行っている

登山の際のリュック内の装備の一部。ストック、カッパ上下、ヤッケ、スパッツ、皮手袋、タオル、常用薬、レジャーマット、GPS機能付き腕時計、ミラー(裏面はエマージェンシーカード)、非常食、緊急用ブランケット、レサコ(人工呼吸用補助具)、傘、ブラシ、鈴、十徳ナイフ、呼子、クマスプレー、OS-1、常温用水筒、冷温水用水筒
──時折、山での遭難や滑落の報道を見かけます。「安全」は、すごく大切なことですね。
永田:
そうですね。
日本の多くの山は、「コンディションが良い時」は、誰でも登れてしまいます。
だけど、たとえば雨が降ったり風が吹いたり、一度コンディションが悪くなると、ベテランでさえ難しい山が出てきます。
特に山を始めたばかりだと、対応や予想することが難しく、事故につながることがあります。
大塚:
山の知識を持たないまま山に入ってしまったがために、たとえば夕方から山に登ったり、必要な道具を持たずに軽装備で山に登ったり、本来、ちゃんと山のことを知って準備と対策をしていれば事故に遭わずに済んだ人が、事故に遭っているというような印象も受けます。

山の講習会。アイゼン講習、ワカン講習、雪崩講習など、安全対策の一環として各支部で行われている
──どのような準備と対策が必要ですか。
永田:
まずは、ちゃんとした靴を履いていくこと。それから、雨具と食料、水は必須です。
「何があるかわからない」ことを前提に準備しておく必要があります。
大塚:
道に迷った時は、基本的には「戻る」が原則。多分こっちの方向だからと進み続けてしまうと、余計に迷ったり、道ではないところに出て滑って落ちたりということが起きる原因にもなってしまいます。
事前に地図などでその山の道をあらかじめ頭に入れておくと、もし迷った時、自分が今、どのあたりにいるのか、どのルートだとより安全に下山できるかということも余裕を持って考えられます。
──事前にルートを知っておくことも大切なんですね。
永田:
道に迷っている間に、暗くなってしまうと何も見えません。
一晩、明るくなるまで待てれば良いですが、その準備や知識がないと「早く帰らないと」と焦って、結果、それが事故につながることもあります。

毎年、日本山岳会の遭難対策委員会によって行われる安全登山講習会。「一般市民の方を対象に企画している講習会で、長野県警、山梨県警、富山県警などにお話をしていただいています」
──自分はさっと登って帰ってこられるつもりでも、状況によっては、一晩を過ごすことになるかもしれないということなんですね。
大塚:
雷も、当たると命を奪われますから、気を付ける必要があります。
夏の高山は、午後になると結構雷が落ちるので、北アルプスの山などは、雷を避けて朝早くに歩くようにして、午後遅くには歩きません。
でも、知らないと遅く出発をしてしまう。逃げ場もないので、非常に危険です。
あとは、天候の変化にも注意が必要です。
上昇気流や風などの諸条件から、山の天気は非常に変わりやすく、ついさっきまで晴れていても、突然曇ったり雨が降ってきたりします。
景色が見えているうちは、自分がどこを歩いているか、見通しがつきますが、曇ったり霧が出てきたりすると、道もわからなくなります。
──確かに。

皆で食材を持ち寄っての食事会。「冬は食料が凍ってしまうため、いろいろと準備にも気をつかいます。冬用のガスコンロを用意します」
大塚:
気温に関しては、高度が100メートル上がるごとに気温が0.6度下がると言われています。
たとえば3000メートルの山の場合、下から頂上の気温は、18度の差が出ることになります。下が暖かいからと軽装で行くと、防寒具がなければ酷い目に遭います。
夏の山でも、凍死することがあるぐらいです。
場所によっては、携帯電話の電波も入りません。いつもだったらさっと調べて手に入るような情報が手に入らない、誰かとすぐに連絡することができないという可能性もあるということも踏まえる必要があります。
十分な準備をしていても、事故は起きる時は起こります。
ただ、気軽に山に入って危険な目に遭ってしまうというのは、初心者の方が陥りやすい落とし穴です。

北海道の十勝岳から美瑛岳へ。チングルマ群落をはじめとする高山植物が山麓一面に咲き誇り、見渡す限り花畑が続く

霊峰白山には美濃、越前、加賀の三馬場より続く「禅定道」の山岳古道が残る。最高峰の御前峰では、ご来光を神主とともに迎える
永田:
危険性というところでいえば、山岳会の場合は複数人で登りますから、たとえば道がわからない時は二手、三手に別れて道を探したり、一人では難しいことにも対応できます。
複数で山道を歩いていると、クマも近づきません。きっと昔から、人は集団になることで、自分たちを危険から守っていたのではないかと思います。
事故が起きた時も、助けを呼ぶためにと一人が動くと、もしその人にも何かあった時、大変です。複数いれば二人一組で行動ができます。

永田さんのお気に入りの一枚。「北海道の雨竜沼湿原。10年で0.5〜1cmほどのスピードで泥炭が堆積してできる高層湿原。氷河期の遺存種など貴重な動植物が生息・生育しています」
──これまでのご経験を踏まえて、山に入る時のアドバイスはありますか。
永田:
どれだけ経験があっても、過信しないこと。
相手は自然です。自然は、人間がいくらやっても勝てません。自分に何ができるのかを知って登る。「謙虚に」というのが、いちばんのアドバイスかなと思います。
大塚:
それぞれに、思い思いに山を楽しんでもらえたらと思いますが、「安全」が何より第一です。道に迷ったなと思った時、引き返す勇気を持つことと、計画に無理があるなと感じたら、潔く諦めて帰るということもお伝えしたいです。
「今日はやめよう。またこよう」と大きな気持ちで帰って、ふもとで宴会をする。それもまた、楽しさだと思います。

大塚さんお気に入りの一枚。「1月に裏高尾山系の狐塚峠から小下沢に向かって下山している際、木の間から青いものが見えました。降りてみると、白い雪でした。ネット検索したところ、氷が「赤い光」を吸収し、「青い光」を透過・散乱させる特性を持っている為、白い雪が青く見えるとのことでした」

長野県、中山道の和田峠に続く道を歩く。創立120周年記念事業のひとつとして、全国の山岳古道を調査し、サイト「日本の山岳古道120選」を作成
──お二人が感じる、山の魅力を教えてください。
永田:
日本の山は、多様性にあふれています。いろんな山があるし、同じ山でも、その時々で見せてくれる表情は違います。
一緒に山を楽しむ仲間がいて、下に降りてくると、美味しいお店があったり、温泉があったり。とにかく「楽しくやれる」ことが魅力だと思います。
今、私は山岳古道調査をやっているんですね。
石仏や石碑、石畳、一里塚などなど、昔の人たちの痕跡や昔の人と同じ風景を眺めながら歩くのが楽しくて。

立山の一ノ越から雄山山頂に向かう登山道脇の石仏。江戸時代、富士山、白山とともに日本三霊山のひとつで、多くの参詣者が峰をめざした
永田:
古い山道に「馬頭観音」という、馬の頭を乗せた観音さまの石仏が見られるのですが、これらの多くは昔、馬が荷物を運んでいた時代に、亡くなった馬を供養するために建てられたものです。
昔の人はここを通ったんだな、同じ景色を見て山を歩いたんだななどと想像して歩くと、とても楽しいですよ。山を知ることで、日本の歴史や、昔の人たちの生活も見えてくるんです。
大塚:
私は山岳会と並行して、森づくりの活動を15年やっています。
スギ・ヒノキの人工林を、広葉樹が混ざった多様性の高い森に作り替えているのですが、植樹した木が太く育っているのを見ると、嬉しいです。
他の山でも、岩だらけのところや急斜面で木が懸命に根を張っている姿を見ると「君たちも一生懸命生きてるんだな」って感じます。
また、自分が実際に森づくりの活動に携わり、作業道を作る様になってはじめて、山道を歩く折々に、その山道のその部分が、何を重視しているからそのように作られているのかという、作り手の意図(まごころ)もわかるようになってきました。そうするとまた、山に入るのが楽しくなります。

大塚さんが携わっている森づくり活動の様子。植栽地整備の為の作業道を通すために、急な斜面に横たわっている重い枯れ木を、皆で力を合わせて取り除く
大塚:
自分がたくさん山にお世話になっているから、恩返しの意味も込めて、山の魅力をたくさんの方に知ってもらい、あわせて山をより良い環境にさせていただくお手伝いができたら嬉しい。
自然に対する恩返しをしながら、バランスのを良い状態に保っていくことができたらと思って活動しています。
──日本の山は、海外の山とはまた異なるのでしょうか。
永田:
日本の山は、小さい山が入り乱れて、すごく複雑で繊細なんですね。たとえば紅葉ひとつにしても、緑、赤、黄色…、いろんな色がありますよね。さらにその色が、徐々に変化していく…、みたいなところは、世界でも多くないと思います。
それが日本中で見られて、かつ、滝やお寺の風景とマッチしていく。そんな山に触れたいと、たくさんの外国人の方も足を運んでいます。

岩手県の名峰、岩手山の西にある裏岩手縦走路。紅葉の美しさに魅せられて多くのハイカーが訪れる。
大塚:
「山が都会から近い場所にある」というのも、日本ならではです。
身近にあって、かつ下から歩いていくと、滝や川、岩といろんな要素があって、単調ではないので楽しみながら登れます。本当に変化に飛んでいます。
日本で暮らしていると当たり前と感じてしまうのですが、各地の山それぞれに、生えている植物が違ったり、棲んでいるいきものが違ったり、同じ山でも季節によって違ったり。
世界でも有数の「狭い中での多様性に富む山」が、日本にはあります。さらに火山もあって、その地形のすごさというのも、またすごく面白い。…話し出すとキリがないのですが(笑)。
永田:
いずれにしても山で、肌で感じることは、日本人は昔からずっと、山のそばで、山から恩恵を得て生きてきたということです。日本山岳会として、山の良さ、日本の良さを、もっと伝えていけたらと思っています。

「毎年、12月の第1土曜日に行われる年次晩餐会。400〜500人の仲間が全国から集まり、イベントや食事会を楽しみます。写真は、新入会員の紹介の様子です」

山岳古道調査チームが主催した大分県国東半島での集中山行。両子山山頂での集合写真
──メッセージをお願いします。
大塚:
私たちのキャッチフレーズは「みんなの日本山岳会」です。
興味を持っていただけたら、ぜひ一緒に山に登りましょう!
「経験がないと入れないんじゃないか」と迷われている方もいるかもしれませんが、初心者の方もウェルカムです。入会には紹介者が二人必要なので、ちょっとハードルが高いと感じる方もおられるかもしれませんが、オンラインで説明会もやっているので、ぜひ!お待ちしています。
──最後に、チャリティーの使途を教えてください。
永田:
安全な登山のために、各地の支部で、豊富な経験者と一緒に登ってもらえたら最も良いなと思いますが、まずは広く、より多くの方に基礎的な山登りの知識・技術を知ってもらいたいというところで、アニメ動画の制作・配信を考えています。
チャリティーは、この動画の制作費として活用させていただきたいと思っています。ぜひ、応援いただけたら嬉しいです。
──貴重なお話をありがとうございました!

120周年記念事業のひとつ、ヒマラヤキャンプ。未来の登山文化の発展のために、日本山岳会が120年かけて培ってきた登山文化を次世代に受け継いでいる。写真は2025年、若手会員を中心としたチームが、2025年にネパールのビジョラ・ヒウンチュリ(6111m)に初登頂した時の一枚
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
「山」のお話から、文化のこと、人としての礼節や誠意など、生きていく上で大切なものを教えていただいた気がしました。昔の山には「豊かな生態系」という秩序があり、昔の人たちもそれを感じ、その一端を担いながら、山と、自然と、共に生きてきたのかもしれません。
山に入ることで、現代を生きる私たちが忘れかけている何かが見えてきたり、あるいは何かを感じられたりするのかもしれない。そう思うお二人へのインタビューでした。

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山の道具や山の自然を、「山」の字のシルエットに見えるように描きました。
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