
2025年、クマの出没数・人身事故数は過去最多となりました。
「クマの生息地が『奥山』から『里山』に移行しており、人の生活圏とクマの行動圏がかつてなく接近したことがその背景にあると考えられる」と話すのは、今週JAMMINがコラボする一般財団法人「日本熊森協会」事務局長の森菜々(もり・なな)さん(41)。
「人身事故が増えると、捕殺圧も高まります。2025年は、14,134頭が捕殺されました。2023年も人身事故が多く、9,276頭のツキノワグマ・ヒグマが捕殺されましたが、もし捕殺によって人身事故が減らせるのだとしたら、2025年に、こんなにたくさんの人身事故は起こらなかったはずではないでしょうか」と森さん。
「クマによる人身事故が過去最多となった2025年、よく聞かれた質問は『クマの命と人の命、どちらが大切なのか』というものでした。
私たちの答えは『どちらも大切』。人の命を守るため、人身事故を減らすためには、被害防除がいちばんの対策で、私たちにはまだまだできることがあります」
そう話す森さん。
今回は森さんと、日本熊森協会滋賀県支部長の村上美和子(むらかみ・みわこ)さん(69)にお話を聞きました。

知床で見かけたヒグマの親子。「母グマは、子グマに独り立ちができるようになるまで、愛情いっぱいに生きるすべを教えます」
一般財団法人日本熊森協会
奥山の保全・再生に取り組む実践型自然保護団体。
大型野生動物がつくる自然豊かな水源の森を次世代へと残していくため、人間によって荒廃した森林を再生し、保全する活動を行っています。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2026/03/30
最初に、事務局長の森菜々さんにお話を聞きました。

お話をお伺いした森さん(写真左)
──昨年(2025年)はクマの出没数・人身事故数が過去最多となり、報道も白熱していました。なぜ、過去最多となったのでしょうか。クマが増えているのですか。
森:
国の見解では、「クマの保護政策をとったことでクマの数がかなりに増えていて、(昨年秋からの)森の実りの大凶作により森の中に食べられるものがなく、クマが一気に人里に出てきた」というようなことなのですが、私たちとしては、そんなふうには考えていません。
というのは、私たちも山に入ったり、また現地の方たちに話を伺ったりしても「奥山にクマの痕跡がない」からです。
──そうなんですか。
森:
1997年に日本熊森協会が設立されて30年近くになりますが、その当時から、クマをはじめとするいきものたちの生息地である森の環境は、一向に改善しておらず、むしろ奥山は劣化する一方です。また、近年特に東北や北海道では、かなりのクマを捕殺しています。
そのような状況で「クマの数が増えてあふれてくる」というのは、考えにくいのです。

秋田県で見つけた「クマ棚」(クマが木に登って実を食べるときに枝を折って作られる鳥の巣のような形のもの)
──ではなぜ、出没が増えたのでしょうか。
森:
クマの生息地が「奥山」から「里山」に移行しており、人の生活圏とクマの行動圏がかつてなく接近したからだと考えます。
豊かな生態系の中でクマをはじめとするさまざまないのちが育まれていた奥山の天然林は、戦後、拡大造林計画によってスギ・ヒノキの人工林に変わっていきました。
スギやヒノキの人工林は、人が入って手入れすることを前提に、単一の木が山にびっしりと植えられています。しかし1960年代以降、海外から安い木材が入るようになり、人工林は放置され、荒廃していきました。

放置された人工林(兵庫県)。下草もなく、地面がむき出しになっている
森:
木がびっしり植わった森は、重なる枝葉によって日光が入りません。本来であれば多様な生命があふれているはずの森ですが、真っ暗で草も生えない、クマはもちろん、鳥や虫も生きられないような環境になってしまっています。
奥山に暮らしていた生きものたちは、わずかに残された天然林に追いやられていきました。
その数少ない天然林でも、2000年代になり、地球温暖化等の影響で劣化が進んでいます。東北でも「ナラ枯れ」と言って、クマの食べ物となるどんぐりの成るコナラやミズナラが巨木を中心に木が枯れてしまう現象が広がっていますし、昨年は北海道にもナラ枯れが侵入しました。山のてっぺんを激しく削る大規模風車や、北海道や東北ではクマ生息地でのメガソーラー建設も広がっています。

奈良県平群のメガソーラー計画地。森林を大規模に破壊する開発が進められている
──野生動物が棲める場所が、どんどん失われているんですね。
森:
そうです。
一方で里山は、ひと昔前は人の手によって管理され、人も薪や落ち葉を利用していたので簡素な林になっており、人の気配があったので、クマをはじめとする野生動物が棲む奥山の境界の緩衝帯となっていたのですが、地方の過疎化・高齢化によって、人が入らなくなり、木が成長し、藪も増え、結果として、野生動物が暮らしやすい環境を生んでいます。今やクマは荒廃した奥山を捨て、里山と集落周辺に生息地を変えています。
奥山と里山とで以前はしっかり棲み分けされていたはずが、クマやその他の野生動物生息地と人の住環境が、限りなく近くなってきている現実があるのです。
いずれにしても、クマが人の近くに出没するおおもとの原因を作っているのは、私たち人間なのです。

クマをはじめとする野生動物が暮らしていくための自然と生態系のあった奥山。人工林や大規模風車、メガソーラーの設置などで奥山の環境はどんどん失われ、一方で人が入らなくなった里山にクマが出没するようになった

愛知県で錯誤捕獲されたツキノワグマ。捕獲されると、ほとんどにおいて殺される
森:
2025年は人身事故の数が過去最大となり、14,134頭(環境省発表 令和8年1月速報値)のヒグマ・ツキノグマが捕殺されました。親も子も関係なく捕殺されます。
先ほどの話で、国の方針としては「クマが増えているから、管理できるような数にまで減らそう」ということのようですが、そもそも野生動物の数を把握することは難しいと私たちは考えています。各自治体が調査して出している生息推定数も、最小値から最大値まで何倍も幅のあるものであり、一定の範囲の実調査をしてクマの生息密度を出し、それに自然度が低い場所も含めて面積をかけるなど過剰推定になっていると考えられる調査もあります。
「推定数」をベースにどんどんクマを殺していては、いずれ本州でも、九州と同じようにクマが絶滅するのではないかという危機感を抱いています。
なんとか今、ここで方向転換する必要があるのです。

罠に捕まったクマ。「兵庫県で箱罠に掛かったツキノワグマ。クマが大好きな米ぬかが誘因物となっていた」
森:
人身事故が増えると、捕殺圧も高まります。
2023年も人身事故が多く9,276頭のツキノワグマ・ヒグマが捕殺されました。しかし、もし捕殺によって人身事故が減らせるのだとしたら、2025年に、こんなにたくさんの人身事故は起こらなかったはずではないでしょうか。
──確かに。
森:
メディアが煽る恐怖心によって、ひたすら罠をかけてクマを捕殺しても、本当に先を見据えた解決にはつながりません。私たちは「クマを殺すだけでは、問題は解決できない」と訴えています。
昨年の大量出没、人身事故最多を受けて、国としては、一層の罠による捕殺を進めることを可能にするガイドラインを策定しました。
しかし実際のところ、仕掛けた罠の近くに集落があったとしたら、米ぬかやハチミツなどの強力な誘引物を入れた罠によって遠くのクマまで呼び寄せてしまい、人身事故のリスクは、逆に高まってしまいます。
日本熊森協会は、国に要望書も提出しましたが、「捕殺ではなく、防除作業に予算やマンパワーを割くような方針に変えてほしい」と強く訴えています。

日本熊森協会本部のある兵庫県豊岡市での防除活動の様子。民家近くの草藪を刈り払って見通しをよくする
──具体的に、どのような防除があるのですか。
森:
電気柵の設置や藪刈り、クマの棲家となる奥山の森の整備、緩衝帯の整備など、総合的な防除の対策を推進することで、初めて人身事故を防ぐことができます。
熊森協会の本部がある兵庫県豊岡市では、3年ほど前から、行政と協力しながら、クマの被害防除作業を行っています。
クマと人との間に距離があれば悲惨な事故は防げます。現場の状況を調べ、集落にクマが入り込まない環境をつくることが大切です。藪刈りをしたり、クマが登らないように柿の木にトタンを巻いたり、柿の実が成っているなら、クマがやってこないようにとってしまったり…。こういった作業は、集落に人手があれば何とかできますが、過疎や高齢化が進んでいると、困っていてもなかなか対応できないという現実があります。

豊岡市での防除活動。「2025年は柿が生り年で、たくさんのボランティアの方に参加していただき、柿もぎを進めました」
──確かに。困っていながら、どうしようもできないという地域は少なくないでしょうね。
森:
約30年前に日本熊森協会が設立されて以来の長いお付き合いのある豊岡市でさえ、防除の依頼をいただくようになったのは、3年前からです。
中山間地域の過疎と高齢化が急速に進んでいることが背景にありますが、地域の方たちとの信頼関係を築くことができなければ進められませんし、被害を防ぐために捕殺以外の方法が、実は一番重要であるということがまだまだ知られていないということを改めて痛感しています。
今後の私たちの目標として、クマ問題に悩んでいる地域の方たちと一緒に、一つでも二つでも、防除の取り組みを増やしていきたいと思っています。
日本熊森協会は、兵庫県尼崎市の中学校の生徒たちと理科教師の活動から始まりました。理科教師の森山まり子は初代会長になり、現代表の室谷悠子は当時の生徒の1人です。
初代代表の森山まり子がスタートした時は本当に小さな市民団体でしたが、当初から「現場を見る・問題に悩む地域に足を運び、話を聞く」ということを非常に大切にしており、「地域の方たちとつながりながら、できることを模索し、行動する」というスタンスは、今も全く変わっていません。
時折、「クマが出没する地域に住んでいないのに、都会のど真ん中から何を言うんだ」というような批判をいただくことがあります。しかし実際に困っている地域の方たちを差し置いて、我々が何かをするということはあり得ません。なぜなら、地域の方々との協力なしに、共存の道はないからです。
地域の方たちと対話をしながら、一緒に対策を進められたらと思っています。

「クマの生息地にお住まいの方々と、現場を見ながら一緒に対策を考えます」

クマ問題や再生エネルギー設置による環境破壊問題の渦中にある岩手県にも、支部が結成された
森:
クマによる人身事故が過去最多となった2025年、よく聞かれた質問は「クマの命と人の命、どちらが大切なのか」というものでした。
私たちの答えは「どちらも大切です」。「人の命も守りたいので、人身事故を減らすために地域を支援しています」というものです。
「クマを殺すな」ということを言っているのではなく、人の命を守るため、人身事故を減らすためには被害防除が一番の対策であり、私たちにはまだまだできることがあるということを知っていただきたいと思っています。
──確かに。
森:
昨年、メディアでは「クマ」が炎上ワードで、「人喰いクマが現れた」などとセンセーショナルな内容を発信すれば、閲覧が爆発的に伸びたようです。
私たちの元にも取材が来ましたが、この問題を面白おかしく取り上げ、対立を煽る傾向が強くありました。しかしそれでは、共存のあり方について、冷静な議論を進めることができません。
誹謗中傷も非常に多かったのですが、少し落ち着いて見てみると「本当にクマだけが悪者なのか」「毎日クマが捕殺される報道を見るのは耐えがたい、他に解決方法はないのか」というご意見も、非常に多くいただいていることに気づきました。
共感してくださる方がたくさんいることがわかり、活動の励みになりましたし、「捕殺以外の方法がある」ということを、今後も発信していこうと思いました。

滋賀県高島市朽木で広葉樹林化を進めるための道づくりの作業(ここでは間伐)をしている

「すべての命を源である水を生み出す森は、野生動物なしでは成り立ちません」
森:
クマをはじめとする野生動物が安心して暮らせる場所が失われているという問題は、熊森が活動してきた30年近く、何も解決していません。
1度破壊した自然は、5年10年という短いスパンで再生するのは不可能で、数百年から千年と時間がかかります。山のてっぺんを削り取る風力発電や大規模に森林を伐採し切土・盛土をするメガソーラー建設で破壊した森は、もう元に戻らないかもしれませんが、目先の利益だけを見て自然がまだまだ破壊されている現実があります。
国が政策として動けないのであれば、民間の力で少しでも何かできれば、という思いで、放置人工林の広葉樹林化の活動も発足当初より続けています。その中で、より多くの皆さんとつながって、「自然の森を戻していこう」という声を、もっともっと広げていけたらと思っています。
──読者の方に、メッセージをお願いします。
森:
私は今、子育ての真っ最中なんですが、そこでも感じているのは「一人では、子育てできない」ということです。周りに助けられながら成り立っていることがたくさんあって、それは人間同士だけの話だけではありません。「自分だけが良ければいい、人間だけが良ければいい」というやり方は長続きしません。いずれ、自らの首を絞めることにつながっていくでしょう。その意味でも、共存はすごく大切です。
私たちがこの日本でこれからも暮らしていくために、すべての生き物と共存をベースに考えていく必要があるということを、ぜひ皆さんに知っていただきたいです。
クマの出没に悩んでいる地域だけにこの問題を押しつけるのではなく、都市部の人も含めて、この問題を一緒に考えていけたら。いろんな角度からの共存を、進めていけたらと思っています。

ヒグマの親子。「知床で見かけた親子。ここでは人間が危害を与えないので、近くに人間がいても襲うことはありません」
ここからは、日本熊森協会滋賀県支部長の村上美和子さんにお話を聞きました。2004年に滋賀県支部(熊森滋賀)を立ち上げ、琵琶湖の水源の森を守るために尽力してこられました。

お話をお伺いした村上さん
村上:
日本熊森協会のことを知る前から、自然環境には興味がありました。
滋賀に引っ越す前は大阪の箕面市に住んでいたのですが、当時から子どもの手を引いて山歩きをしたり、環境負荷を減らすために省エネ生活をしたりしていました。
琵琶湖が大好きで、滋賀に引っ越して少ししてしばらくした時、知り合いの方から日本熊森協会の前代表の森山まり子さんの講演会のカセットテープをもらいました。聞きながら、ボロボロと涙が止まりませんでした。
カセットテープをいくつもダビングして、たくさんの方に「聞いてほしい」って配ったんです。テープを受け取ってくださった一人の方が「森山さんを呼んで講演会をしよう」と言ってくださって、講演会を開催し、その後、「琵琶湖を取り巻く環境をよりよくしたい」と熊森滋賀を発足しました。
熊森滋賀は「とにかく現場に出て、現場の様子を見ながら実践する」という色が強い支部です。最近では、イノシシ被害に困っておられる農園に出向いて電気柵を設置したり、野生動物の隠れ場所を作らないように草刈りをしたり、森づくり活動をしたり、過去にはサルの被害に困っておられる地域で、追い払いのパトロールをしていたこともありました。
素人の私たちが、どうすれば、実際に現場で困っている方たちの力になれるのか。
野生動物の具体的な防除の方法を学ぶための講演会やフィールドワークも企画しています。

2025年11月、滋賀県支部では、柴犬を使った野生動物の追い払い勉強会を実施。「特別に訓練した犬のテリトリー意識を活用し、野生動物を追い払う方法です」
──滋賀でもクマは出没するのですか。
村上:
たくさんのクマが出没します。ただ本当にありがたいことに、滋賀県の鳥獣対策室、自然環境保全課の方たちは昔からとても理解があって、「クマはいて当たり前」というスタンスで、基本的にそっとしておいてくださるし、市街地に出て人身事故が起きない限り、捕まったクマも放獣しようとしてくださいます。
ただ、昨年は違いました。マスコミ報道の過熱に伴って目撃情報が多く寄せられ、それまでの「そっとしておこう」から「何か対策しないと」というような雰囲気に変わったと感じます。実際に自然環境保全課の方も「今後もし国の方針が変わったら、これまでと同じようなやり方は難しい」というようなことをおっしゃっていました。
なので私たちとしてはより一層、出会い頭の人身事故が起きたりしないよう、防除を徹底するようにしています。

「2025年7月、滋賀県高島市にあるブルーベリー農園さんからイノシシ被害で困っているとご相談をいただき、専門家のご指導のもと、草刈り・電気柵設置を実施させていただきました」

「2008年、突然の出来事。それは『トチノキ巨木が切られているようだ』という一報。詳細は分からない。この巨木がある谷は『早谷』といわれ、この谷が北川となって、やがて安曇川となり、琵琶湖に注いていきます。このトチノキ林のあるびわ湖水源の森が伐採されれば、たちまち美しい森林の風景が壊され、水源の破壊が災害を起こし、琵琶湖に注ぐ安曇川の支流である北川が汚染される。それは、そこに暮らす人々の文化をも破壊することも意味します」
──樹齢3~400年のトチノキの巨木群を、たくさんの方たちと守られた過去があるそうですね。
村上:
2008年、とある山主さんに「山のことを話してほしい」とお願いに行くと、「それどころじゃない」と。琵琶湖の水源の森にあるトチノキ巨木が、集中伐採されているというんです。
「なんとか止めてほしい」ということで、そこからあちこちに連絡をとりまくり、行政や議員さん、マスコミなども巻き込んで、伐採から守ったということがありました。
──なぜ、トチノキが集中伐採されていたんですか。
村上:
木目が白くて美しい木なのですが、中国の富裕層の方たちが日本で買ったマンションの内装に使いたいというニーズがあるようで、山主さんから4〜5万円で買い付けた木を伐採して原木市場に出すと、300万円ぐらいになるんです。
4万円が300万円になるんだから、まあおいしい話ですよね。
業者がとてもやり手で、山主さんに「トチノキは400年経つと、倒れてだめになってしまうから」などと話を持ちかけて買い取って、伐採した木をヘリコプターで山から吊り出していました。
伐採するのはトチノキだけではありません。トチノキを引っ張り出すために、周りの木も全部、伐採してしまうんです。

ヘリコプターで運び出されるトチノキ。「(写真左)切り倒されたトチノキが朽木の空高くヘリコプターで運ばれるさまを見た時の衝撃は、今も鮮明に記憶の中にあり、その驚きと戸惑いは筆舌につくし難いです。(写真右)伐採現場の切り株から、生えていた大きさを推測した時の心の痛みと後悔は、今も残っています。経済価値のない幹や、運び出すのに支障のある木までをどんどん切り倒し、谷に放置した行為への怒りは、今も消えることはありません」
──ええ…。
村上:
「森を守らなければ。何百年とここに生えてきた木を、絶対に切らせない」と思いました。巨木を運び出すヘリコプターの真下で反対したり、巨木の周りで皆と手をつなぎ、「木を切るより先に、私たちを切ってくれ」と訴えたこともありました。
当時は、本当に必死でした。
裁判などを経て、その間にもいろんな人が各方面で交渉をしてくれて、たくさんの方たちの協力のもと、最終的に伐採を阻止できたのは、すごく大きなことでした。
──よかったですね。だけど、その森の伐採は阻止できても、違う森のトチノキに目をつけられませんか。
村上:
実は同じ業者が、実はまた別の森で、トチノキ巨木の伐採計画を進めていました。その情報をキャッチし、たくさんの方たちと連動して、該当するトチノキを買い取るために動きました。最終的には日本熊森協会がトチノキ巨木トラスト基金を集め「琵琶湖源流の森林文化を守る会」が48本のトチノキを買い取り、伐採から守ることができたのです。
そして現在、滋賀県が先頭に立って、トチノキ巨木の整備事業に取り組んでくださっています。最初のトチノキの巨木が伐採された当時の県知事だった嘉田由紀子さんが住民の声を聞いてくださって、トチノキを守るようにしてくださったのです。

トチノキの食文化の象徴、トチノミの皮むき。「大変な作業も、みんなで集まって力を合わせればまた楽し!デンプン含量の高いトチノ実は、かつては米の代用食として利用されてきました。しかしながら、トチノ実は、アクが強くそのままでは人間は食べることができません。アクを抜くための前段階として、実の皮むき作業をします。実を食べられるようにする作業のうち一番地味な作業で、退屈な作業。そこをみんなで楽しく作業することで、楽しいものに変えていきます。山村の食文化をつないでいく地味な作業が人をつなぎ、トチノ森をまもっていく」

(写真左)「朽木と福井県の境には見事なブナ林が広がっており、谷筋にはトチノキをはじめとした豊かな植生があります。大型のワシ、タカ類も飛び交い、可憐な花たちも咲き誇っています」。(写真右)「金居原土蔵の南、岐阜県との県境鞍部。一方は杉の川へと、一方は八草川へと流れていきます」
──皆さんの声と行動が、社会の動きを変えたんですね。
村上:
そうです。あの時…、「素人の自分に、一体何ができるんだろう」と思いました。だけど熊森滋賀を立ち上げたからには、トチノキ巨木を守りたいと心から思いました。
切られた現場の写真展示をしたり、マスコミに手紙を書いたり…、できることをやっているうちに、少しずつこのことが社会に知られ、各方面の人とつながることができて、やがて滋賀県が政策として動いてくれるまでになったのです。
この時、山主さんから「(困っている人たちの)応援団になってほしい」と言われたんですが、この言葉が、私の中でとても肚に落ちたんです。
「トチノキ巨木を守る」という目的のために、熊森が全面に出て主張するのではなく、一歩引いてでも、困っている地域住民の方たちの応援団になって、私たちにできることを徹底したらいいんだと思いました。
──そうだったんですね。
村上:
私たちは、至らない素人集団です。だけど、トチノキ巨木の時もそうですが、実際に現場で困っている方たちの声を聞き、それに寄り添いながら、同じ目標に向かって、一緒に活動できる。
本当に困っていながら、でもどうして良いかわからない、人手が足りないとか、やり方がわからないという地域は、少なくないのではないかと思っています。
私たちはそういうところに飛び込んで、お役に立てる自然保護団体でありたいと思っています。

「近年、シカの増殖によってトチノキの自然再生が難しくなってきています。写真は、朽木トチノキ林で採取した実を発芽させた後、シカ害を受けなくなるまで琵琶湖のほとりの休耕田で育てたのち、生まれ故郷に返そうという試みをしているところです」

「琵琶湖源流の森、朽木生杉でトチノミ拾いをしました。このトチノミが苗になり、また山へ戻り大木に育って実をつけるようになります。この子どもたちが、大人になる頃に…」
──村上さんが、最も守りたいものは何ですか。
村上:
琵琶湖に続く水源の森、琵琶湖に続く川、琵琶湖、すべてです。
トチノキ巨木を守った森で今、巨大な風車の建設計画があります。他にも3つほど、風力発電の計画が進んでいます。
…どうやって止めることができるのか。
事業者に対して、住民説明会を開くようお願いしたりはしていますが、私たちが突然、その場へ行って「反対!」と訴えても、なかなか事態は動きません。要は、「地域の方たちの声」が必要なんです。その声を受けて、私たちはいくらでも、応援できます。
──地域の方たちのアクションが必要なんですね。
村上:
今、自然環境は、後戻りできない大変なところに来ています。
この破壊の先に何があるのか…、正直、想像したくもありません。
ですが、トチノキ巨木が人々の思いとつながりによって守られたように、いろんな視点の方たちと手をつなぐことができたら、社会はまだ変えられる。希望はあると思っています。

森の一滴のしずく。「木々の葉っぱから落ちる最初のひとしずく。その一滴の集まりが谷をつくり、大きな流れとなり、川となり、琵琶湖へと注ぎ、やがて海へと流れくだる」
──今回のコラボのテーマは、「だからこそ、共存を目指す!」です。
村上さんにとって「共存」とは?
村上:
「循環していく」ことかなと思います。
いろんな動物、植物、微生物も含めて、自然のなにもかもが循環しています。森の木が倒れ、それが微生物で分解され、土として栄養になり、その次の命をつないでいく。そのような循環を、断ち切らないことだと思います。
──最後に、読者の皆さまへ、メッセージをお願いします。
村上:
私自身、自然に起きている問題を知らなければ、熊森滋賀を立ち上げることはなかったと思います。
目の前の自然に起きていることを、興味を持って知ってほしい。そう願っています。

「滋賀県高島市朽木でのトチノキ伐採問題が一段落した頃、長浜市の木之本町金居原という岐阜県境に近い場所でも、トチノキの買い占めに端を発した巨木林の伐採問題が勃発しました。そこで、この地域性を調査すべく山に入っていた時に、生まれて間もない、親グマから離れた子グマと遭遇しました。驚きと恐怖からカメラを持つ手は震えました」
日本の森や自然環境は、待ったなしのところに来ています。
すみかを失ったいきものたちが、他にどこに行き場があるというのでしょうか。
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