CHARITY FOR

絶滅危惧種の生息域外保全、動物園での繁殖推進のために「継続した研究」を〜岐阜大学応用生物科学部 動物保全繁殖学研究室

動物の糞を採取、そこに含まれる性ホルモンを分析することで「繁殖」につなげる活動をしている岐阜大学応用生物科学部 動物保全繁殖学研究室が今週のチャリティー先!

「特に絶滅危惧種に関しては、生息域外での保全の場として、動物園が最後の砦になってきている場合があります」と話すのは、教授の楠田先生。楠田先生の研究室では、動物の糞中に含まれるホルモンを分析してその個体の発情期や排卵を調べ、動物園での繁殖をサポートしてきました。

「たとえばツシマヤマネコにしても他の動物にしても、研究室として基礎データは持っていても、それはあくまで調査した個体のデータであって、他の個体にはあてはまらないことも多くあります。
飼育環境や状況とも照らし合わせ、それぞれの個体を継続して調べていくことが非常に重要。そしてまた、繁殖につながった後も、生まれた子が成長して、性成熟して、交尾し、妊娠し、出産後に発情回帰し…、また次の世代、さらにその次の世代の繁殖も、つないでいかなければいけません。

長く、たくさん検査してデータを積み上げることで、繁殖に関するまた新しいことも見えてくる。それが真の研究でもあると思っています」

そう話す楠田先生。
活動について、お話を聞きました。

お話をお伺いした楠田先生

今週のチャリティー

岐阜大学応用生物科学部 動物保全繁殖学研究室

全国の動物園・水族館、日本動物園水族館協会、環境省と共同で、特に絶滅の危機に瀕した動物の生殖現象について性ホルモンや行動などを研究し、繁殖につなげる取り組みをしています。

INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2026/02/16

絶滅危惧種の糞中ホルモン代謝物の
分析を通して、生息域外保全を支える

糞中ホルモン代謝物の分析の様子。「多摩動物公園のインドサイ『ゴポン』と『デコポン』の糞中ホルモン代謝物を測定中。糞から性ホルモン代謝物を抽出し、その濃度を分析しているところです」

──今日はよろしくお願いします。最初に、研究室のご活動について教えてください。

楠田:
全国各地の動物園や日本動物園水族館協会、環境省と一緒に、動物の繁殖生理の研究を行っています。

特に絶滅危惧種に関しては、動物園が「生息域外での保全として最後の砦」になってきている場合があります。動物園での繁殖をうまく進めるために、動物の糞を採取し、性ホルモンを分析することで、繁殖生理を解明しながら、発情期や排卵、妊娠の状況も調べています。

通常は血液を採らないと調べられないことですが、動物たちが排泄した糞を使って調べるので、血液に比べて調べられる内容の限界もあるものの、動物のストレスも、人のリスクも回避されるというメリットがあります。

──なるほど。糞から調べることができるんですね。

乾燥させたスマトラトラ(上野動物園)の糞

楠田:
はい。動物たちはそれぞれ、ホルモンの作用で繁殖行動や発情が見られますが、目に見えて明らかなものばかりではありません。

行動パターンが変わる、鳴き声が変化する、餌を残すといったことが見られた時に、その場でなかなか、それが発情によるものかどうかを判断しきれないことがあります。すると「もっと強い行動変化があるのではないか」と飼育員が期待したり悩んだりしている間に、発情のピークが終わってしまうことがあります。

たとえばネコ科動物の場合、ライオンを除き基本的に単独生活している種がほとんどなので、普段はオスとメスは分けて飼育されています。発情のタイミングを見誤って同居させてしまい、死傷事故につながるリスクもあります。

糞中ホルモンの分析結果と行動とを事前に突き合わせることで、個体の変化をより深く観察することができます。発情行動の種類やパターンが分かるようになれば、死傷事故などのリスクも当然避けられますし、同居や交尾のチャンスも増えます。

「ツシマヤマネコ(名古屋市東山動物園)のメスの糞中ホルモン代謝物濃度の変化と行動変化を比較したグラフ(論文発表した図)。この比較によってどういった変化が発情に伴うものかがはっきりします。今後はその発情行動をもとに、雄との同居のタイミングを決められるようになります」

──行動観察と糞中ホルモン代謝物の分析をセットで、事前に調べて、行動の意味を把握しておくんですね。

楠田:
ネコ科動物の場合、多くは「交尾排卵」といって、メスは交尾による刺激で排卵が起こります。つまり、排卵の有無がわかれば妊娠の可能性も見えてきますが、残念ながら、それは人の目では判断できません。
しかし糞の中の「プロジェステロン」というホルモンの代謝物濃度の数値が上がっていれば、排卵したことがわかります。逆に数値が上がっていなければ、妊娠の可能性はゼロなので、「また次のタイミングでメスをオスと同居させよう」という繁殖計画が立てられます。

排卵確認の後は、妊娠判定です。たとえばツシマヤマネコの場合、妊娠1ヶ月半ぐらいから、糞中のプロスタグランジン代謝物濃度が上がってきますので、その変化をもとに判断しています。
妊娠がわかれば、出産に向けて産箱を用意したりと、飼育する側は体制を整えて準備ができます。

「ツシマヤマネコやアムールヤマネコでは、糞中プロジェステロン代謝物濃度の上昇によって排卵があったことを判断できます。このホルモンが高く維持されていることと、交尾から1ヵ月半くらい経ったところで糞中プロスタグランジン代謝物濃度が上昇していれば、妊娠と判断しています」

繁殖につなげるためには、
定期的・継続的な検査が必要

「2024年に生まれたマヌルネコの子どもたち(写真提供:神戸どうぶつ王国)。糞中ホルモン代謝物の分析によって、交尾後の排卵と妊娠を調べていました。長年追跡してきたため、悲願の繁殖成功でした。王国の皆さんに妊娠判定結果をお伝えした際、一緒にとても喜んだことをよく覚えています」

──糞中ホルモン代謝物の分析は、どんな検査なのですか。

楠田:
全国から多くの分析依頼があり、各地の動物園から、私たちのところに数ヶ月ごとに糞が届きます。研究室にはほぼ毎日、どこかの動物園から、数ヶ月分まとめた糞が届きます。届いた糞は分析まで冷凍保存して、研究室の学生たちや分析補助員がそれぞれの研究動物を担当し、一つひとつ調べています。

乾燥させて粉状にした糞に、試薬のアルコールを入れると、このアルコールにホルモン代謝物が抽出されてきます。それを機械や薬品を使って分析し、その数値の変化から、発情や排卵状況を判断します。

大学も動物園もあまり予算がない中で、たとえば試薬、容器や器具…、毎回の分析のために使う消耗品や機器の維持、冷凍庫や電気代などに、かなりのお金がかかっています。糞中ホルモン代謝物の分析データが長期的に多く蓄積されていくことによって色々なことが分かってくる一方、経費面で研究を継続していく難しさがあります。

──そうなんですね。

糞からのホルモン代謝物の抽出液を保管している冷凍庫の一部。「各地から届く糞や抽出液を保存するために、研究室には全部で20台ほどの冷凍庫があります」

楠田:
糞中ホルモン代謝物の分析については、人の血液検査のようなイメージを持たれることがあるのですが、一回の検査結果で繁殖につながる何かがわかるかというと、そんなことは全然ないんです。
一回ではなく長期的、かつ定期的に調べることで見えてくる個体の「変化」を読み取って初めて、繁殖につなげられるデータになっていくので、「継続して分析する」というのが非常に大切です。

たとえばツシマヤマネコにしても他の動物にしても、研究室として基礎データは持っていても、それはあくまでその個体のデータであって、他の個体に同じようにあてはまらないことも多くあります。

個体それぞれのホルモン変化、それを基礎データと比較することで見えてくることもあるし、たとえば同じ個体でも、繁殖のために場所を移動させたりした時に、生理状態が良い方に変わったり、悪い方に変わったりすることもあります。
繁殖を目指すのであれば、個別に、継続して分析することがとても大切です。

ハシビロコウ(神戸どうぶつ王国)の糞からの性ホルモン代謝物の抽出液

「絶滅危惧種保全の最後の砦」。
動物園が担う役割

インドサイ(多摩動物公園)のゴポン(母)と2024年に生まれたデコポン(第4子)。「ゴポンはもともと横浜市立金沢動物園で飼育されており、その時代の2004年から、20年以上にわたって糞中の性ホルモン代謝物濃度の変化を追跡しています。この間に4回すべての妊娠判定に関わることができました。これほど長く繁殖生理状態を調べているインドサイは世界でゴポンだけかもしれません。長年の継続で様々なことが分かってきています」

──「動物園が、動物たちの生息域外での保全活動の最後の砦の場」とのことですが、絶滅が危惧される種をはじめ、今、動物園は種を存続させていくという役割を担っているのですね。

楠田:
1973年にワシントン条約が採択(1974年発効)され、野生動物の国際取引が規制される中、「できる限り動物園の中で繁殖させよう」というふうに、世界の動物園の考えが変わっていきました。

また、人間の経済発展に伴う生息地の開発・破壊が進み、野生動物がどんどん減っていく中で、特に絶滅危惧種に関しては、生息地だけでなく「動物園でも保険的に保全していこう」という機運が高まっていったのです。その流れの中、動物園にとって「繁殖」は、最大の課題となりました。

──そうだったんですね。

楠田:
動物園で繁殖をしていくとなった時に、一つの園だと飼育場所の限界があるし、そこに割けるコストや人員も大きな課題になります。そこで、日本中または世界中の動物園で「この動物にはどれだけのスペースがあって、どれほどの数を、どういう飼育ができるか」といったことを見渡して、動物種ごとに繁殖拠点などの役割を設け、関係園で手を組んで繁殖を進めるという動きもあります。

──動物園同士が協力して、保全活動もしていたんですね。

楠田:
世界全体で保全していく種もあるし、一方で、ツシマヤマネコやニホンライチョウなど日本にしかいない絶滅危惧種の場合は、環境省と日本国内の動物園が協力し合って動いています。

一つの施設で繁殖するとなると、やはりキャパシティに限界があるし、災害など何かあった時に全滅しないようにといったリスクも踏まえ、いくつかの場所に分散させておくことも重要です。

──そうなんですね。

楠田:
繁殖拠点や活動の役割を決めている動物があって、どの個体をどこに、どう移動させるかといったことを関係者が集まって毎年話し合い、各園が役割分担を持って動いている絶滅危惧種もあります。

絶滅危惧種の保全は、生息域内保全(もともと生息していた場所での保全)が大前提ですが、動物園が加わって生息域外保全をしています。飼育下である程度、個体群が維持できるようになれば、将来的に野生復帰しようという考えで進められている種もあります。

2025年に開催された「ライチョウ保全シンポジウム」での発表の様子。「種の保存法に基づく保護増殖事業が進められているライチョウでは、生息域内保全、生息域外保全、野生復帰がセットになって、多くの関係組織が連携して保全活動を展開しています。保全団体、動物園、環境省、大学などの関係者が集まり、それぞれの調査研究の状況が報告されました」

動物園の歩んできた歴史

「『ヤマネコ祭』(井の頭自然文化園)や『やまねこ博覧会』(京都市動物園)など、ツシマヤマネコの保全普及イベントが、毎年動物園で開催されています。関係する団体や大学の研究室もブース出展して、それぞれの活動を紹介しています。私たちもほぼ毎年出展し、研究活動を紹介しています」

──なるほど。ツシマヤマネコやライチョウと同じ考え方で、世界の単位で保全している動物もいるということですね。そうすると、動物園の役割というのは非常に大きいですね。

楠田:
実は私は動物繁殖学研究の傍ら、「動物園学」という学問も専門にしています。
「動物園で動物を飼育する」ことに対する(動物福祉的な)批判は、動物園が歩んできた歴史が影響している部分があると思っていますが、現在、動物園のあり方というのも大きく変わってきています。

──そうなんですか。

楠田:
近代動物園の起源は、19世紀のヨーロッパです。まだ交通網も十分ないような時代に、世界中の珍しい動物を持っているというのが富と権力の象徴とされ、王様が宮殿の周りで動物を飼い始めたのが始まりとされています。

娯楽としての要素から脱却し、教育・研究機関としての学術動物園として1828年に設立されたのが、イギリスの「ロンドン動物園」でした。
日本では、幕末から明治にかけてさまざまな西洋文化が入ってくる流れの中、1882年に、博物館的な意味合いで、日本最初の動物園である東京・上野動物園が開園しました。
日本で次に古い動物園は、1903年に開園した京都市動物園です。初期の園長は学者で、教育・研究機関として動物園を運営していこうとしていたことが窺えますが、うまくいきませんでした。

──なぜですか。

楠田:
日本には古くから「見世物小屋」の文化もあり、「世界中の動物を日本に紹介する」となった時に、その学術的な側面ではなく、ただもの珍しい動物を見る・見せるという側面だけが広がっていったようです。

さらに第二次世界大戦後、復興が進む中で、遊園地などと一緒に動物園が作られるようになり、「娯楽の場」としての側面が強くなっていきました。そういうことが求められた時代でもありました。

──確かに、遊園地と動物園がセットになった場所が少なくなかったですね。

楠田:
しかし、いくつかの動物園は内々に協力し合い、世界中の動物を繁殖させる技術を身につけてきました。
時代が進み、特にこの10年の日本では、動物園外からの保全の期待が一気に高まってきていますし、動物福祉の観点から、世間の目も厳しくなってきています。
そんな中で「保全のために動物を飼育する」という軸を持っている動物園は、「野生動物の状況を、一般の方たちに訴えていく」という役割への期待も強まっています。

世界と比べると日本はまだ遅れていると言われますが、今、動物園の内外で、このようなあり方の変化は急速に進んでいます。
飼育や展示方法も、以前は柵で覆われたコンクリートのケージだったところから、なるべく本来の環境を再現した飼育展示にしていこうというふうに変わってきているのは、大きな流れで言えば、保全や動物福祉を強く意識した動物園のあり方に関連するものです。

「野生動物保全繁殖研究会という集まりがあり、毎年開催される大会では、動物園・水族館での繁殖研究の進捗や成果が報告され、情報共有が行われています」

「目的は研究ではなく、繁殖」

「2000年、学生の頃に多摩動物公園で初めて見たアフリカゾウ(タマオとアイ)の交尾の様子です。この年の交尾によって妊娠し、マオが誕生しました。その後、アイの次の繁殖やマオの新たな繁殖に向けて、それぞれ繁殖生理状態を調査することになりました。当時はまだ、自分がその後、このようなことに関わることになるとは夢にも思いませんでした」

──そんな流れの中で、糞中ホルモン分析を通じて繁殖に貢献しておられるんですね。

楠田:
動物の命をつないでいくために、私は「研究」と言いつつ、個体ごとの「繁殖」をかなり重視してきました。
「研究」として考えれば、たとえばツシマヤマネコやアフリカゾウでそれぞれのデータさえとれたら、学会や論文で発表して終了、ということになります。

だけど実際に繁殖につなげるとなった時、研究データだけがそこにあっても、どうにもなりません。
各個体の飼育環境や状況とも照らし合わせ、それぞれの個体を継続して調べていくことが非常に重要なんです。繁殖につながった後も、生まれた子が成長して、性成熟して、交尾し、妊娠し、出産後に発情回帰し…、また次の世代、さらにその次の世代の繁殖も、考えてつないでいかなければいけません。
動物園の飼育員や獣医師と共に、その時々のそれぞれの個体の双方のデータを持ち寄って、考え続けることが大切です。

動物のホルモンに関して、世界には論文報告もたくさんあります。だけど、それはあくまでデータであって、各動物園にいる一個体、一個体のことがわかるかというと、そうではありません。

研究を目的にすると、調査して終わり、論文を書いて終わりです。でも、それでは繁殖にはつながりませんし、動物園も困ります。
研究だけではなく繁殖が目的だから、正直、終わりはありません。とにかく分析を続けないと繁殖につながらないことも多く、継続していける体制を作っていきたいと思っています。

長く、たくさん検査してデータを積み上げることで、繁殖に関する、これまで見えてこなかったまた新しいことも見えてきます。それが、真の研究でもあると思っています。

「2022年、名古屋市東山動物園でアジアゾウのアヌラが第2子を出産しました。妊娠末期から出産後の子育てまで、その状況を観察協力することになっていて、岐阜大学の学生たちと数ヶ月間のシフトを組んで観察を行いました。2013年の第1子出産の時も、同様に観察協力を行いました。アヌラは超安産でした。ゾウの繁殖には何度も関わらせていただきましたが、残念ながら、出産の際に駆けつけても間に合ったためしがありません。写真は左から、母のアヌラ、第1子のさくら、第2子のうららです」

「自分が飼育し、現場で繁殖に関わっているつもりで分析しよう」

大学の学部生の頃、動物園で実習をする楠田さん。「左は上野動物園のアジアゾウ舎、右は多摩動物公園のアフリカゾウ舎です」

──繁殖につなげるということ、繁殖の現場に非常に重きを置いて活動しておられるのが伝わってきました。なぜですか。

楠田:
もともと僕自身、教員になるつもりはありませんでした。
飼育員になって自分で動物を飼育して繁殖させたいと思っていましたが、まぁ残念ながらと言いますか…、そちら側にはいないわけで、外からだけど、できるだけ繁殖につなげられるよう、なるべく飼育員の立場になって、飼育・繁殖や保全の役に立ちたいと思っています。

研究している今は、軸は常に「自分が飼育し、現場で繁殖に関わっているつもりで分析しよう」というところにあります。

──なぜ、飼育員ではなく教員になられたのですか。

楠田:
小さい頃から動物が好きで、家で鳥やカメを飼育していました。繁殖には興味があって、飼っている動物の子を見たいというのはずっとありました。思い返せば、それが原点なのかなと思います。

楠田さんが高校生の頃まで住んでいた実家(1999年撮影)。「写真は、父親にねだって小さな庭に作ってもらった動物舎(2代目)です。この中でインコ類、ウズラ、ウサギ、モルモット、シマリスなど様々な動物を飼育し、繁殖を頑張っていた思い出があります。今の自宅でも同じことをしています」

楠田:
進路を決める際、動物が好きなので「獣医になろう」と思いました。後になって、動物に関わる分野はとても広いので、当時のこの考え方はかなり視野が狭かったと気づくのですが…。
しかし獣医学部に入ることができず、畜産学系の動物学科に入学し、仮面浪人しながら獣医学部を再度受験するつもりでいました。

そんなある日、大学図書館で、動物園と繁殖の研究をしている研究会の会誌を見つけました。中をめくると、やっているのは獣医ではなく畜産学系の人たちでした。
「自分が今いる動物学科の分野だ。獣医じゃなくてもできることがある」と考えを改めて、獣医師になりたいということでもなかったため、獣医学部の再受験を辞め、研究会に出入りするようになりました。

当時は動物園のことは詳しく知らなかったけど、とにかくいろいろ足を運んでみようと思って、各地の動物園を訪れるうちに、動物園に深く興味を持つようになりました。

いくつかの動物園で長期に何度も実習やアルバイトをさせてもらう中で、繁殖の研究でできそうなことを考え始めました。ホルモンの分析のためには、普通は採血をしなければいけませんが、動物の採血はそう簡単にできるものではありません。

他に何か方法がないかと調べている時に「糞中ホルモン」に出会ったのです。糞だったら、実習中の清掃時に自分もいくらでも捨てていたし、動物にも飼育員にも負担なく、集めることができます。

やったこともなければ、できるかどうかもわからないけど、先生に「やってみたい」と話したところ、先生が直々に動物園に依頼してくださって、糞をわけてもらい始めたのが最初です。もう25年以上前の話です。

──そうだったんですね。

(写真左)学部生の頃、実験をする楠田さん。(写真右)研究員時代、名古屋市東山動物園のアフリカゾウ舎で、実験用の糞を集めている様子。(※現在はアフリカゾウはいません)

楠田:
学生時代は、動物園で飼育員として働きたいと思っていました。しかし、ある動物園の飼育員さんに「お前はこちら側には来るな」と言われたことを今でもよく覚えています。
その意図というのは、その当時、「動物園の中では糞中ホルモンの分析や繁殖生理の研究はできない」「始めた研究を続けてほしい」ということでした。

糞中ホルモン研究を続けていく興味や意欲も出てきていた頃で、「外から動物園に関わることができるなら、それも一つの方法かもしれない」と思い、動物園の外にいれば、より多くの動物園の動物の繁殖に関われるのではないかと自分を言い聞かせて納得させるように考えようとしていました。
特に何か大きな決断をしてきたというわけではないんですが、続けていれば、まあどうにかなるかなと…。

──このご活動をやっていてよかったと感じられるのは、どんな時ですか。

楠田:
動物園を訪れ、生まれてきた赤ちゃんの姿を見る時は、やっぱりすごく嬉しいです。
その前に妊娠判定をしていますので、妊娠がわかった時はとても嬉しく、その動物の研究を担当した学生と一緒に喜んでいます。動物園から「無事に産まれました」と報告をもらった時にも「関われてとてもよかった」と思います。

あとは、動物園から「ありがとうございます」と感謝していただけることも、すごく嬉しいです。出産の連絡があったときや子どもが生まれたことがネットやテレビのニュースで流れた時、動物園へ見に行った時に、学生たちも「自分が関わったんだ」と、改めて皆のモチベーションになっています。
糞中ホルモン代謝物の分析は、結構地道な実験ですが、大きく報われる瞬間があります。

「繁殖の現場と研究、
連携をとりながら保全のために活動できたら」

「全国の動物園・水族館、日本動物園水族館協会、環境省などと連携して、様々な動物の繁殖生理を調べています。分析の依頼や相談は多くありますが、可能な限り受けています。幅広く分析することで、新たなことが見えてくる面白さがあります」

──今後の目標や展望などはありますか。

楠田:
糞中ホルモン代謝物の分析は、結果が出るまでに時間がかかります。
しかし現場では、すぐに結果がわかるものがあればとても便利で、簡易な妊娠検査薬を開発できたらと今、試行錯誤しているところです。

人間の妊娠検査薬のようにはいきません。人の検査薬は尿を使いますが、動物園の動物で尿を採取することは簡単ではありません。糞を使うとなると、糞を液体に変える作業が必要ですし、動物それぞれに指標になるホルモンが異なるので、さまざまな動物種に広く一般化することができません。

ネコ科動物については以前、クラウドファンディングを実施し、多くの方にご支援いただいた資金を活用して進めてきた部分があります。試験的には開発が進みつつありますが、実用化には課題も出てきています。

もう一つ、もし妊娠検査薬ができたとしても、あくまで簡易なものであり、繁殖のためには、それと並行して正式な分析も必須です。各動物園の中に、私たちがやっているような分析ができる設備の整備や卒業生が配置されるようになったらいいなと思います。

海外の先進的な動物園には、園内に研究所や大学の研究室のようなものがあるところもあるようです。園内に研究設備ができて、繁殖の現場と研究分析と、お互いさらに深い連携をとりながら、中と外とで繁殖や保全のために一緒に活動できたらいいなと思っています。

──保全のための層が、より厚くなりますね。

「やまねこ博覧会」(京都市動物園)にて、研究室の活動を紹介するパネル展示の様子

楠田:
絶滅危惧種に指定されている動物に関しては当然、保全は急務ですが、それ以外の動物に関しても、いつ何があるかわかりません。どうしても絶滅危惧種や、人気の大型動物の研究が多くて、たとえばツシマヤマネコと同じぐらいホンドタヌキやホンドギツネの繁殖生理のデータがあるかというと、そうではないんです。

でも、繁殖生理を理解するためには、多種多様な動物のデータがあればあっただけよくて、役に立つ気がしています。
チーターの研究例がツシマヤマネコに役立ったりします。ライチョウやハシビロコウも調べていますが、当研究室で動物園とは別に研究している岐阜市内の外来種ミシシッピアカミミガメの研究成果が役立つこともあります。

カメも鳥類も同じ卵生の生物ですが、動物園の鳥類の繁殖生理を考察する時に、新たな発想につながることがあるんです。

──面白いですね!

楠田:
今はたくさんいる種でも、絶滅危惧種となんら変わらない、今後どうなっていくかもわかりません。
さまざまな動物の繁殖生理を調べておけば、類似点や相違点なども見えて、繁殖のことを考えやすくなるように感じています。

私としては、いろんな動物の繁殖や生息域外保全に貢献するために、とにかくこの活動を継続するということが、真の研究だと思っています。
個体ごとの分析によってその種の特性が見えてきて、それを動物園が活用して繁殖計画を立てていく。繁殖や保全を深化させていくために、その下支えになるべく頑張っています。

──最後に、チャリティーの使途を教えてください。

楠田:
絶滅危惧種に対する動物園での繁殖と生息域外保全の推進のために、動物たちの糞中ホルモン代謝物などの分析研究を継続する資金として活用させていただく予定です。
お伝えしたように、繁殖につなげるためには、研究の継続が何より重要です。ぜひ、チャリティーアイテムで応援していただけたら嬉しいです。

──貴重なお話をありがとうございました!

2026年1月、研究室の学生の皆さんと。「今回のチャリティーへのご参加をぜひよろしくお願いします!近年、多くの動物園がクラウドファンディングを活用されています。私たちも裏側で関わっているものがあり、積極的に応援しています。つい先日まで、動物園のライチョウ保全プロジェクトのクラファンを、富山市ファミリーパークが代表となって実施されていました。このプロジェクトには私たちも深く関係しており、応援メッセージ用に皆で撮影をしました」

“JAMMIN”

インタビューを終えて〜山本の編集後記〜

楠田先生の動物と動物園への愛を感じるインタビューでした。
限られた個体、限られた環境の中で、命をつないでいくこと。人の手によって繁殖をしていくとなった時、非常に難しいところがあるのだと思います。
私たち人間の活動の影響によって、残念ながら数を減らしてしまったいきものたち。その命を未来につないでいくためには、やはり人間の力が必要です。命を守るために、たとえ普段はいきものと関わっていなくても、私たち一人ひとりが考え、行動できることがあるように思います。

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【2026/2/16-22の1週間限定販売】
研究室として繁殖に関わってこられたさまざまな動物たちの中から、マヌルネコとツシマヤマネコをリアルなタッチで描きました。
正面を見据える姿は、動物たちのひたむきな命を表現すると同時に、その命が、次世代へとつながれていくようにという思いを込めています。

“We are here to carry life forword(命を前につなぐために、ここにいる)”というメッセージを添えました。

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