「誰もが安全で安心な子育てができる社会」を目指し、栃木県で妊娠、子育てに関わる支援活動を行う特例認定NPO法人「そらいろコアラ」が今週のチャリティー先。
妊娠から出産、子育ての中で、自宅以外に居場所がなく、頼れる人がいない親子が悩みを一人で抱えてしまわないようにと、医療や福祉の専門家が寄り添い、伴走支援を行っています。
「何よりもいちばんは、『子どもたちの命をつなぐこと』が私たちの役割。
まずは子どもたちが健全に生きられるように、保護者も含めて、家族まるごと支援しています。時間はかかっても信頼関係を築きながら、『関わり続ける』ことが大事だと思っています」
そう話すのは、そらいろコアラ事務局の伊藤美南子(いとう・みなこ)さん。
活動について、お話を聞きました。
お話をお伺いした伊藤さん(写真左)。共同代表の鳥飼さんと
NPO法人そらいろコアラ
誰もが安心で安全な生活を送れるように。
医師を含む医療・福祉の専門家が中心となり、地域の子育てを支える活動をしています。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2025/08/18
そらいろコアラの居場所。「かわいいコアラのポストは、居場所設置当初、地域のボランティアさんが手作りしてくれたもの。居場所の目の前には広々とした畑があり、持ち主の方のご好意で一部を使用させてもらっています。スタッフやボランティアが居場所に来る親子とともに手入れを行い、子どもたちが自分で収穫したお野菜を居場所で調理して食べることも」
──今日はよろしくお願いします。最初に、どのような活動をされているか教えてください。
伊藤:
まず一つが、LINEの無料相談窓口「コアLINE」です。
原則栃木県にお住まいの方を対象に、夜間や休日を含む365日、妊娠や出産、育児に関するご相談に、助産師や保健師といった専門の相談員がオンラインで対応しています。
もうひとつが、リアルな居場所で対面支援を行う「そらいろポケット」です。現在は真岡市にある拠点を居場所として開放し、子ども食堂の開催や物品提供などをしながら、子育て支援をしています。
ある日の子ども食堂の様子。「この日、調理に参加してくださったのは、地元のボランティアの皆さん。手を頭に当ててコアラのポーズ。この日は、お弁当にしてテイクアウト形式でお持ち帰りいただきました」
──居場所は、誰でも来て良い場所なのでしょうか。
伊藤:
ご自身や家庭の事情等で、子育てに何らかの不安や困難があるご家庭やその子どもたちを中心に、予約制で来所いただいています。
たとえば親御さんに心や身体の疾患があったり、困窮をはじめとする家庭環境の重層的な課題から、疲労が積み重なっていたりするケースも少なくありません。自分たちが生きるのも精一杯な中で、小さなお子さんのお世話はすごく大変です。自らSOSを出し、つながってくださる方も多いです。
居場所には、基本的には妊産婦さん、お母さんや小学生までの子どもたちに直接来ていただいて、悩みごとや心配ごとに対して専門知識を持つスタッフがアドバイスをしたり、食事の提供もしているので、実家にいるような感じでここでゆっくりお食事をとっていただいたり、ご寄付頂いたおむつやミルクを持ち帰っていただいたりしています。
居場所まで直接来ることが難しいような場合は、スタッフがご自宅まで迎えに伺ったり、あるいは自宅を訪問するかたちで、ご家族の体調だったり、ごはんをちゃんと食べられているかなどを確認しています。
「活動を支援してくださる地元企業さまや、会員となって定期的にご協力くださる個人の方などがお持ちくださる紙おむつや粉ミルク。利用者さんに持ち帰っていただいています」
「2020年の団体設立の翌年、2021年に真岡市に居場所を開設しました。そのオープンを記念したイベントでは、多くの地元ボランティアの方がご協力くださいました。地域の子どもたちも楽しく参加してくれて、忘れられない1日となりました」
──2020年に団体を設立しておられます。
団体を立ち上げられたきっかけを教えてください。
伊藤:
そらいろコアラを立ち上げる前、共同代表である鳥飼と増田は、DV被害家庭などの支援をしている団体で学生ボランティアをしていました。
そこにいた子どもたちとの関わりの中で、「誰もが安全で安心な生活が送れるように」したいというのが、立ち上げの根本にある思いです。
スタッフの皆さん、共同代表の鳥飼さん(写真左から4人め)、増田さん(写真左から5人め)と。写真左端が伊藤さん
伊藤:
いちばんは、子どもたちを救いたい。
虐待死は0歳児がいちばん多いというデータもあります。いちばん力のない幼い子どもたちが、命に関わる被害を被ることがあり、なんとか助けたいという思いで活動しています。
そしてそのためには、「子どもを支援する」だけでなく、子育ての核となるご家庭ごと助けないと助からない。だからこそ、そっくりそのまま家族ごと、力になろうよというかたちをとっています。
──そうなんですね。
伊藤:
お母さんたちの話を紐解いていくと、彼女たち自身も子どもの頃に十分なケアを受けずに育っているケースも少なくありません。
居場所での風景。スタッフとじゃれあう子どもたち。「スタッフは体力勝負です!!」
伊藤:
そうした世代間の不適切な養育の連鎖を、本人たちの力だけで断ち切るのは大変です。私たちは、「地域の実家」として、そうした親御さんが親になって戸惑うさまざまなことを、お子さんとも一対一で対話しながら、サポートしていく役割を担っています。
──そのような家庭に、行政のサポートも介入しているのではないですか。
伊藤:
仰る通り、行政のサポートの存在は大きく、私たちも、利用者さんのお住まいの市町の保健師さん等とも連携をしながら支援にあたっています。しかし、ご家庭によっては行政支援を受けることに抵抗がある等、行政の介入が難しいケースもあります。
そんな時も、私たちは民間団体である強みを生かし、対等な立場でご家庭と関わりながら、行政との橋渡しを行っています。
「ある市役所では、【コアLINE】のポスターを窓口の机に設置してくださっています。そのほか、妊娠届け出時に【コアLINE】のカードを手渡しくださっている市役所もあります」
利用者さんのお子さんを抱く助産師のスタッフ。「お子さんの成長の様子を、自然な形で確認しています」
──そのような家庭に出向かれる際、意識されていることはありますか。
伊藤:
温かいおにぎりひとつでいいので、何かひとつ、お渡しするようにしています。
そして、「それはだめだよ」という入り口ではなく、「何か困ってることはない?」「大変だよね、手伝うよ」というスタンスを心がけています。
やりとりを続け、関係ができていくと、「子どもに怒鳴ってしまった」「子どもを叩こうとしてしまった」というような、誰かに話さなければ家庭の中だけで閉じてしまいがちなことを話してくれることも増えていきます。
「こういうことをすると子どもは傷つくよ」とか「それは虐待だよ」というふうに、だめなことは言葉で伝えつつ、たとえば「子どもに手が出そうになった時に我慢した」という話を聞いたら、「よくがんばったね」と力づけていくことで、親御さん自身も変わっていきます。
「利用中のお子さんとボランティアに参加してくれた学生さん。キャッキャと楽しい笑顔あふれる時間です」
──どういうことでしょうか。
伊藤:
これは私の想像ですが、親御さん自身、幼少期に褒められたり、一人の人として認められる機会が少なかったのではないかと思うんです。
そらいろコアラでのやりとりを通して、褒められた時の「嬉しい」という感情や、「これはやっていいことなんだ」ということを、大人になってからでも感じて、それがきっかけで、子どものことも尊重する気持ちが芽生えたり、成長につながったりすることもあるのです。
一方で、子どもたちから、「ママが作ってくれたお弁当がおいしかった」とか「あの時、パパがこわかった」という話を聞くこともあります。そういった小さな声を聞きとりながら、子どもたちや、親御さんそれぞれに対して声かけやフォローをしていけることも、私たちの居場所が、彼らにとっての支えになれるところなのかなと思っています。
いずれにしても、人格を否定するとか、説教をする、怒るということはしません。
それぞれ専門職のスタッフが、相談の中でアドバイスをすることはありますが、それ以外は、どんな言葉や感情も、まずは受け入れ、対話する。時間はかかっても信頼関係を築きながら「関わり続ける」ことが大事だと思っています。
「温かいカレーライス。小さなお子さんもたくさん食べてくれる人気メニューです」
「農業に携わる皆さまから、お米やお野菜などのご寄付も寄せていただいています」
伊藤:
私たちがご家庭とつながってまず思うのは、「助けて、と言ってくれてよかった」ということです。家庭内の問題を誰にも言えなければ、そこに困っている子どもたちや親御さんがいることにも気づけません。
助けて、の声をキャッチできれば、そのすべてを我々が解決することは困難でも、私たちにできるサポートをしながら、他の支援機関と繋いだり、継続的に見守っていくことができます。
家庭で具体的に困っていることがあれば、行政や学校、医療機関とも連携して解決のために動きますし、日々の生活に困っている家庭については、LINEや居場所の利用、自宅訪問等で関わり続けながら、いつもと何か様子が違わないか、子どもの状態はどうかなど、本来は親が持つ、子どもの見守りやケアの機能の一部を担っています。
──そうなんですね。
幼稚園児のお子さんと一緒に、ウルトラマンのおもちゃで遊ぶスタッフ
伊藤:
そらいろコアラの居場所は、「親代わりに頼ってね」という「地域の実家」です。
たとえば、今のような暑い時期でも、子どもたちをお風呂に入れることが難しいご家庭もあります。
そんな時も、居場所に来てもらったときに、親御さんへ「最近、〇〇ちゃんはお風呂に入れてる?」と尋ねて、「子どもが疲れて寝ちゃうから、入れなかった~」など話をしながら、「じゃあ、今、ここで入っていったら?私たちが入れるから、お母さんはお茶を飲んでゆっくりしていて~」とか、「洗濯物を持ってきてくれたら、一緒に洗うよ」などと伝えると、親御さんも「じゃあ、お願いしようかな」という気持ちになって、甘えてもらえるというか、任せてもらえます。
「今年の夏休みは、子どもたちと一緒に宿題をするイベントを行いました。近くの公民館をお借りして、いつもより静かな環境で、ドリルや工作などに取り組みました」
伊藤:
いわゆる「普通の生活」を送ることが難しい家庭は、特に支援が必要だと思っています。
必ずしも意図的に子どもを養育しない、というわけではなく、家庭が抱える様々な事情の中で、子どもたちに意識やケアが十分に向けられないこともあります。
第三者として、私たちのような見守りが入ることで、たとえば親御さんにも「宿題をちゃんとやっているかな」とか「ちゃんとごはんを食べたかな」などという意識が芽生え、だんだんと子育てや生活に対する気持ちが根付いていくこともあります。
何よりもいちばんは、「子どもたちの命をつなぐこと」が私たちの役割です。
妊娠・子育ての孤立を防ぎ、子どもたちの安心・安全な生活を守ること。そのために、保護者も含めて、家族まるごと支援しています。
その成長の中で、保育園や小学校、そして地域社会との繋がりをつくっていくこと。彼らが今度は自分たちで、生活したり、親になって子育てをしていくときに、周りを頼りながら自立できる社会にしていきたいと思っています。
「ご近所の農家さんのご好意で、畑に里芋を掘りにお邪魔しました。大きな葉っぱに、スタッフと大はしゃぎのお子さんです」
団体内では、独自のスタッフ研修を行っている。「別団体の方や専門家の方などに講師をお願いして、支援の手法や地域連携などについて学ばせていただいています」
──医師や看護師、社会福祉士や管理栄養士さんなど、専門職の方が多く関わっている点がそらいろコアラさんの大きな特徴の一つです。
伊藤:
そうですね。専門職同士が知恵を出し合えることは強みだと思います。
ボランティア含めると50名以上のスタッフが関わっています。専門職に限らず、若年出産した方やシングルマザー、つらい幼少期を体験した方など、当事者として活動に携わるメンバーもいます。
家庭の支援方針等を話すケース会議を行うと、それぞれの専門性や背景を生かし、当事者的な視点も含め、さまざまな角度から見ることができます。
──そうなんですね。
伊藤:
私たちのような民間団体の強みは、子どもたちや家庭と対等であれることと、その機動性だと思っています。
たとえば、休日を含めた家庭の見守りや、個々の家庭のニーズに応じた物資支援など、行政ではどうしても難しいところも、私たちは民間団体だからこそ、柔軟に動けます。
それぞれの強みを活かしながら、うまく分担して、ひとりひとりを支えていくこと。一人でも多くの方の助けになれたらいいなと思います。
「2025年7月、地域の森林をお借りして、地元企業ご協力のもと、野外調理とカブトムシのイベントを行いました」
「居場所の近くで見つけた大きな切り株。お子さんと一緒にスタッフも登って、同じ目線になったら何が見えるのかな…」
──読者の方にメッセージをお願いします。
伊藤:
社会の中で、最も弱い立場にある子どもたちを守るための支援活動です。
支援を広げていくためには、社会にいる一人ひとりが、少しずつでもそこに気持ちを向けてくださる必要があると思っています。
今回のコラボアイテムをご購入いただいたり、お住まいの地域で活動する団体さんを支援していただいたり、できる形で、こういった活動に気持ちを向けていただけたら嬉しいです。
──最後に、チャリティーの使途を教えてください。
伊藤:
この秋、新たに、妊産婦さんに特化した第二の居場所を開く準備をしています。小さなお子さん連れの方も来られるので、キッズスペースがあるといいなと考えていて、絵本やおもちゃ、収納棚や敷物を購入するための資金として活用させていただければと思います。
ぜひ、チャリティーアイテムで応援いただけたら嬉しいです。
──貴重なお話をありがとうございました!
「地域のイベントにお呼びいただき、【出張コアLINE】として対面でのご相談に応じる機会がありました。写真は、イベント出展中の相談員の面々。看護師や助産師、保育士など職種はさまざまです」
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
出産や子育て、生活の中で不安があった時に、その地域で頼れる人がおらず、すべてを家族だけで抱え込むとなると、心身の負担は倍増します。
そらいろコアラさんのような団体があることで、親御さんはもちろん、お子さんにとっても、ほっと安心できる心のゆとりや、生活の中に彩りが生まれてくると思います。ぜひ、コラボアイテムで応援いただけたら嬉しいです!
【2025/8/18-24の1週間限定販売】
一本の木に、コアラをはじめとするいろんないきものが集う様子を描きました。
くつろいでいたり、遊んでいたり、子育てしていたり…地域の中に温かい見守りがあり、それはまるで一本の木の枝や葉のようにつながっていて、その温もりのなかで、一人ひとりが安心して暮らす様子を表現しました。
“Together we grow(共に育つ)”というメッセージを添えています。
JAMMINは毎週週替わりで様々な団体とコラボしたオリジナルデザインアイテムを販売、1点売り上げるごとに700円をその団体へとチャリティーしています。
今週コラボ中のアイテムはこちらから、過去のコラボ団体一覧はこちらからご覧いただけます!