私たちにとって非常に身近な「パーム油」。
「アブラヤシ」というヤシの実から採取され、スナック菓子やインスタント麺など加工食品、化粧品や洗剤など、日常生活に欠かせないさまざまなものの原材料として使用されています。
食品の表記には「植物油」や「植物油脂」と記載され、また日本では家庭用の油としてそのまま使うことはほとんどないことから、馴染みがないと感じる方も少なくないかもしれませんが、日本での年間消費量は約70万トン、一人あたりに換算すると5kgものパーム油を消費しているそうです。
「パーム油は、プランテーションで大量に生産できるので他の植物油に比べて価格が安く、供給も安定しています。また酸化や熱に強く、食感が滑らかで、口どけも良い。消費者に安く美味しい食品を届けたいと努力する企業が、まず選ぶ油でしょう」。
そう話すのは、今週JAMMINがコラボするNPO法人「ボルネオ保全トラスト・ジャパン」事務局長の青木崇史(あおき・たかし)さん。
しかし、そんな私たちにとって便利な油が、一方で熱帯雨林を破壊し、そこで暮らしていた動物たちのすみかと、生物多様性を奪っているのをご存知でしょうか。
かろうじて残された森を買い取り、野生動物の暮らしと、生物多様性を未来へと残すために活動するボルネオ保全トラスト・ジャパン。
プランテーション開発の裏で何が起きているのか、お話を聞きました。
お話をお伺いした青木さん。森林破壊により生きる場所を失い、保護されたボルネオゾウの子どもと
NPO法人ボルネオ保全トラスト・ジャパン
動物と人が共に生きる社会をつくり、未来につなぐことを目指して。
残された熱帯雨林を保護し、生物多様性を保全し、動物と人間の関係を損なう問題を解決し、いのちをつなぐ社会のあり方について考え、伝えるために活動しています。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2026/06/23
キナバタンガン川の低地には、60mを超えるような超高木が林冠を突き抜ける多層構造の熱帯雨林が広がる。「林床から突出木まで明瞭な垂直分化が見られ、それぞれの階層に適応した多様な動植物が棲み分けています。樹冠部には小~中型哺乳類、鳥類、無数の昆虫類が生息し、林床では大型哺乳類が移動するなど立体的な生態系が形成されています。希少な固有種も多く、世界的に重要な生物多様性ホットスポットです」
──今日はよろしくお願いします。最初に、団体のご活動について教えてください。
青木:
「ボルネオ島」という、世界で三番目に大きい島で、環境保護のために活動している団体です。
ボルネオ島はマレーシア・インドネシア・ブルネイの3つの国に分かれていますが、私たちは島の北部、マレーシアのサバ州というところで活動しています。
サバ州の北部を流れるキナバタンガン川という大きな川の流域にはかつて熱帯雨林が広がっていましたが、50年ほど前から、植物油(パーム油)を生産するためのアブラヤシプランテーション開発が始まりました。わずかな期間で、下流域に広がっていた熱帯雨林の8割以上、面積にして48万ヘクタールほどが伐採されてしまいました。
キナバタンガン川河岸に広がるアブラヤシプランテーション。「かつて広がっていた豊かな熱帯雨林は伐採され、多様な命が息づいていた森は無音の農園へと姿を変えました。ボルネオ島の野生動物は居場所を失い続けています。空から見るこの風景は、私たちが失った、二度と取り戻すことのできない大切なものの大きさを静かに物語っています」
青木:
熱帯雨林が激減すれば、当然そこに住んでいた動植物も減っていきます。
かろうじて残された熱帯雨林の中にいくつかの野生生物保護区や保存林が制定されたですが、それらがさらなる開発によって分断してしまわないよう、保護区の間に残る森を買い取る活動をしています。
たとえば保護区Aと保護区Bの間の森を買い取ることができれば、動物たちにとっては、細くて小さいかもしれないけれど、つながった森を残せます。これを「緑の回廊」と呼びます。
熱帯雨林で維持されている生物多様性を未来へ残していくことが、私たちの使命です。
アブラヤシプランテーションの中へ入り込んだボルネオゾウの群れ。「本来、彼らが暮らしていた熱帯雨林がプランテーション開発によって失われ、ゾウと人の生活圏が重なるようになりました。日本のクマやシカと同じような状況です。農作物の被害や人身事故につながる『人とゾウの軋轢(コンフリクト)』を引き起こし、サバ州では深刻な課題となっています」
土地を買い取ることで、ボルネオ北東部のキナバタンガン川流域に残された熱帯雨林のアブラヤシプランテーションの開発による分断化を食い止め、野生動物の生息域と地域の生態系をそのまま守ることを目的としたナショナルトラスト活動「緑の回廊プロジェクト」。この写真の奥、キナバタンガン川の奥に広がる森にも緑の回廊対象地がある
青木:
さらに、ボルネオ島の現状を日本の皆さんに知ってもらう啓発活動にも力を入れています。というのは、アブラヤシのプランテーション開発には、私たちの暮らしが少なからず関わっているからです。
──どういうことでしょうか。
青木:
「パーム油」をご存知でしょうか。
私たちの生活に深く関わっているこの油の生産のために、巨大なプランテーション開発が進み、熱帯雨林が失われていきました。
パーム油は、世界で一番生産量・消費量の多い油で、日本も近年は年間約70万トンを輸入しています。これは一人あたり年間、4〜5kgを消費している計算になります。
アブラヤシの果実は熱帯地方で年間を通して収穫できます。そのためパーム油は大量に、安く、安定して生産できるので、消費者に安くものを届けたい企業としてはとても使い勝手が良く、さまざまな用途に用いられています。
──知りませんでした。
パーム油を使った商品いろいろ。「インスタント麺、スナック菓子、石けん、洗剤など、私たちが普段何気なく手に取る商品にパーム油は使用されています。『何気ない消費の選択が、熱帯雨林とそこに暮らす野生動物の未来に影響を与えていること』に気づくことは、私たちが持続可能な未来を築くための第一歩です」
青木:
食品には「パーム油」ではなく「植物油」や「植物油脂」と表記されることがほとんどなので、馴染みがないと感じられる方も多いかもしれないですね。
朝起きて、顔を洗って、朝ごはんを食べて…というだけで、すでにパーム油のお世話になっています。私たちの生活はパーム油が入ったものであふれています。
──どんなものに使われているのですか。
青木:
まずは食用です。ポテトチップスやインスタントラーメンの麺を揚げるのに使われています。さらにはチョコレート、アイス、菓子パン、冷凍の惣菜…。風味や食感をよくしたり、保存性を保つためにも使われます。
「日本ではパーム油は主に加工食品や洗剤などの原料として使われ、他の植物油のように店頭で売られることはまずありません。一方、原産国マレーシアのスーパーではパーム油がそのままの姿で並び、家庭用としても普通に販売されています。現地では当たり前の光景が、日本では見えにくいこの産業の存在を浮き彫りにします」
──以前、熱帯雨林の破壊によって生息地を失い、絶滅寸前と言われているオランウータンのために活動されている「おらけん(NPO法人日本オランウータン・リサーチセンター)」さんとコラボした際にも、パーム油のために森林が大規模伐採されているという話を伺いました。以来、食品表示をよく見るようになったのですが、市販のお菓子や加工食品には、植物油がかなり入っている印象を受けます。
青木:
食品以外にも洗剤や石鹸、口紅やクリームといった化粧品、医薬品にも使われます。ヨーロッパやインドネシアでは、バイオマス燃料としても使われていますし、粉ミルクにも入っています。
ボルネオ島に暮らす野生のオランウータン。「ボルネオの森で、ボルネオオランウータンの子どもが、枝に身をゆだねて写真を撮る人間を見下ろしています。この穏やかな姿の裏で、彼らの生息地は急速に失われています。人間による影響がないはるか昔は42万頭以上いたとされるボルネオ島のオランウータンも、今では約5~6万頭に。森が切り開かれ、棲む場所を奪われ、命をつなぐことが難しくなっています」
熱帯雨林を伐採して作られたアブラヤシプランテーション。「かつてこの場所には、何層にも重なり合う森が広がり、多様な生き物が複雑な関係の中で共存していました。今あるのは整然と並べられたアブラヤシの列と、それを区画する直線的な道路網。アブラヤシの規則正しいパターンは、自然本来の景観に比べて視覚的にも生態的にも違いが際立ちます」
──パーム油の原料となるアブラヤシプランテーション開発のために熱帯雨林が破壊されているということですが、アブラヤシはどんなふうに育てられるのですか。
青木:
「プランテーション」とは、一種類の作物を大量に、効率的に作る農法で、アブラヤシ以外にも、お茶(茶葉)やコーヒー、バナナ、カカオ、ゴムなどが有名です。
歴史を遡ると、植民地時代、ヨーロッパの列強各国がアジアや南米に入ってきた際に始まりました。ボルネオ島が19世紀後半に南部をオランダ、北部をイギリスに植民地化された後、プランテーションは20世紀初頭のゴムの栽培から始まり、続いて中盤以降にアブラヤシプランテーションが広がりました。
アブラヤシの果房。「1つの房は30〜50cmほどの大きさで、重さは15〜25kgにもなります。ぎっしり詰まった果実(手前のカップに入ったもの)はひとつの果房に1000~2000個も実り、赤い果肉からパーム油、中央のタネからはパーム核油がとれます。この房ひとつで、だいたい約5kgの油が搾れます」
──アブラヤシを植えて、どのぐらいの期間で油がとれるようになるのですか。
青木:
1メートルほどの苗木を植えてから、3〜4年でヤシの実が収穫できるようになり、そこから25〜30年間、収穫できます。
──ええ!長いですね。
青木:
ゴマや大豆、菜種など他の植物油の原料と比較して、アブラヤシは一年草ではありませんので毎年種を蒔いて育て、収穫し、またという作業がありません。一年中収穫することができます。果実もそれらの植物と比べて圧倒的に大きいため、生産性も高く、そのぶん多くの油を得ることができます。同じ面積から取れる油の量は、大豆の8〜10倍にもなります。
また、当たり前ですが熱帯地方は一年中夏なので収穫に「時期」がありません。そのため生産量が安定しています。植物油というカテゴリーで見ればパーム油は作る側にとっても買う側にとっても、本当に便利で優秀なんです。
熱帯雨林を皆伐して作られたアブラヤシ・プランテーションの風景。「眼前の丘陵地は段々に開かれ、植えてから30年ほどだったアブラヤシの植え替えを行っています。その先は見渡すかぎり、遥か遠くまでプランテーションが続きます。かつてはここに森があったことすら、想像が難しい光景です」
青木:
アブラヤシは赤道直下の熱帯でしか育ちません。開発に適した広大な熱帯雨林に覆われたボルネオ島は、うってつけの土地でした。開発するときには、アブラヤシを植えるために本来あった熱帯雨林をすべて燃やして皆伐し、アブラヤシの苗を植えていきます。
サバ州のプランテーション開発は1970年代に始まり1990~2000年代がピークでした。一方で、ボルネオ島の2/3を占めるインドネシア領では2000年代から始まった大規模開発が現在も続いていて、過去10年の平均は40万〜50万ヘクタールに及ぶと言われます。
さまざまな生き物が暮らし、豊かな生物多様性を誇っていた森で、それを伐採し尽くして、単一な種類の植物だけを植える。見た目にはアブラヤシの大きな葉が繁り、緑が広がっているかもしれませんが、現地で環境保護活動をしている人たちは「緑の砂漠」という表現をすることもあります。そこにあった生態系はすべて失われ、命は消えてしまっているのです。
──そうなんですね。
密猟や森林破壊によって母親を失ったオランウータンの子どもたちのための孤児院、サバ州にある「セピロク・オランウータン・リハビリテーションセンター」にて。「密猟や森林破壊で母親を失った子どもたちは、ここで人との距離を保ちながら自然に近い環境で訓練され、登る、掴む、食べ物を探すなど、生きていくための基本を学び、野生復帰を目指します」
青木:
プランテーションは「農園」です。なので、当然、人が出入りします。
アブラヤシの果実を効率良く、また継続的に生産するためには農薬の散布が必要ですし、切り開いた路面に雑草が生い茂ってくると人間が作業しづらいので、除草剤も使います。
農園の生産性を上げるための人間側の「努力」は続いていくわけですが、熱帯地方は雨が多く、土地が浅いため農薬が河川に流れ、汚染も問題になっています。現地の村人からは「昔は当たり前に採れた魚がとれなくなった」という話も耳にします。
──収穫したヤシの実は、そのまま現地で油になるのですか。
青木:
はい。収穫した果実を24〜48時間以内に加工しないと油の質が落ちてしまうため、農園の近くに搾油工場があります。簡単に言うと、持ち込まれた果実を蒸して、柔らかくして、搾ればパーム油ができます。
ただ絞ったままの状態では匂いや色にクセがあるので、その後に脱色や脱臭などの工程を経て、透き通り、臭いのない油になります。
「搾油工場では収穫してすぐのアブラヤシ果房を蒸気で130~160℃に加熱し、次に分離された果肉を圧搾機で絞ると、粗パーム油(CPO)と呼ばれるパーム原油ができます。その後、精製・脱色・脱臭工程を経て市場に出せる透き通った食用油に仕上げられます。種子の部分からは別工程でパーム核油が抽出され、両者は異なる用途に使われます。大量の果実を高速処理できる施設では一連の工程が途切れなく続き、効率的な大量生産を支えています」
アブラヤシプランテーションの中を歩く子ども。「この写真には、決して豊かとは言えない地域で生きる多くの家族の現実があります。ボルネオ島の一部では他に安定した産業がなく、パーム油産業が地域経済の大きな柱となっているのもまた事実です。大人だけでなく時に子どもも家族の仕事を手伝い、家計を支えているのかもしれません」
青木:
パーム油の世界生産量は年間約8,000万トン。そのうちインドネシアが約60%、マレーシアが約25%を占めます。この数字だけを見ても、インドネシアやマレーシアにとって、パーム油は作れば作るだけ売れる、非常に大切な経済資源であることがわかります。
環境保護活動をしている立場からすれば、プランテーション開発が熱帯雨林の伐採、環境破壊の元凶であることは紛れもない事実で、「今すぐプランテーション開発をやめるべきだ」と言うのは簡単です。
しかし地元の人たちにとって、これは生きていくための術、経済発展のためであり、大事な産業であるという意識は必要だと思っています。
インドネシアでは、アブラヤシ関連製品の輸出は、ここ数年では全輸出額の8~9%を占める年もあり、農業関連では最大の外貨収入源です。
マレーシアもパーム油は製造業以外で最も重要な輸出品目のひとつです。食品や化粧品、バイオ燃料用途での国際需要が高く、電機製品や石油製品と並んで収益に大きく貢献しています。
絶滅の危機にある動植物の保全や密猟の取り締まり、保護区の運営、環境教育などを行い、生物多様性の豊かな森を未来へ守る役割を担うサバ州の政府機関・サバ州野生生物局の皆さんと
──確かに…。しかし世界的にもこれだけ環境保全の意識が強くなっている中で、批判などもあるように思うのですが。
青木:
サバ州では保護区を設けたり、州政府による野生動物保全の取り組みも着実に進んでいるとは思います。一方で、熱帯雨林が今も減少していることもまた事実です。それだけパーム油の需要が世界的に高い、ということです。
──私たちが消費しているから、ということですね。
青木:
「持続可能」なものにしていくために、手当たり次第に熱帯雨林を伐採して開発を進めるのではなく、同じ面積の中でよりたくさん、効率よく作りましょうと品種改良なども進められています。とはいえプランテーション開発は今も進んでいるわけで、このまま今の状況が続けば、動物たちの生息域はもっと狭まり、個体数も減り、生態系はさらに破壊されていくでしょう。
プランテーションでは労働者の農薬による健康被害や、違法労働・児童労働といった人権的な問題も指摘されています。そのような視点からも、本当に持続可能なあり方を考えていく必要があります。
団体として、生きる場所を奪われたゾウの支援も行っている。「親とはぐれて保護された子ゾウを飼育するには、多額の費用がかかります。ニュージーランドの乳業大手Fonterra社と組み、3回にわたって粉ミルクを支援しました」。写真左から、ボルネオ保全トラスト・ジャパンの石田理事長(当時)、坂東理事、サバ州野生生物局長オグスティン氏(当時)、青木さん
緑の回廊プロジェクトで取得した土地の位置を、地図とスマートフォンのGPSを照らし合わせて現地で確認しているところ。「図面に示された土地境界と、実際の地形や位置情報を付き合わせながら、獲得した森の様子を実際に現地で見て確かめます」
──そのような中で「緑の回廊」プロジェクトを行っておられるんですね。
青木:
キナバタンガン川の下流域には、2005年に制定された10の保護区があります。
しかしこれらの保護区の立地は飛び飛びでした。保護区の間に残された森をどこかの企業、もしくは所有者がプランテーションにしてしまったら、それぞれの保護区は分断され、孤立してしまいます。
そうではなく、残された森の、全部は難しくても一部を買い取って、細くてもいいので森同士をつなげておくことができれば、動物たちは移動ができるし、「大きな森」としてみることができる。森が散り散りになって分断してしまうよりは良いよね、というのが「緑の回廊」の概念です。国際自然環境保護連合(IUCN)が提唱している「生物生息空間の形態・配置の6つの原則」の中でも、「分断された地域は回廊でつなげるのが良い」と定義されています。
もちろん、いちばん良いのは大きな森がそのまま残ることですが…、それが難しい場合に、生きものたちの生息地や生態系を残す方法として、せめて残っている森と森とをつなげておこうという概念です。
──なるほど。
緑の回廊プロジェクトで獲得した森の中を、現地の職員とともに確認して歩く。「蒸し暑い熱帯雨林の中を職員の案内で進んでいくとゾウのフンがあり、野生動物が実際に行き来している証拠に、保全の手応えを感じる瞬間でもありました。人と自然が共にある未来を目指し、現場での一歩一歩が積み重ねられています」
青木:
この概念に基づき、私たちは保護区と保護区の間を守るようなかたちで、森を購入しています。2009年に活動をスタートし、年間平均して5~8ヘクタールを購入してきました。
これまでに購入したのは全部で116ヘクタールほどで、うち93ヘクタールはすでにサバ州政府に寄贈して、保護区として管理してもらうための手続きを進めてもらっています。残りの20ヘクタールも同様にしたいと考えています。
──政府が一方で経済発展(開発)を後押しし、一方で環境を保護していると考えた時に、「政府には手渡さず、自分たちで…」という発想になりそうだとも思ったのですが…。
青木:
先ほどもお伝えした通り、パーム油の生産は現地の人たちの生活と切り離せないもので、100%悪だと言い切れるものではありません。そうならざるを得ない背景や理由があって、それを、部外者である私たちが一方的に糾弾することではないと思っています。
でも、森と、そこで暮らすいきものたちは、残しておいてほしい。私たちの活動はそこに尽きます。
土地は本来、その国、その地域の人たちのものであると思うので、「生物多様性を守る森として、ここを未来永劫残してほしい」という思いとともに、彼らに委ねていきたいと思っています。
動物園とボルネオ保全トラスト・ジャパンによる「ボルネオ保全プロジェクト」始動を記念したイベントにて、記者会見での一枚。写真左から瀧川直史氏(豊橋総合動植物公園)、坂東元氏(旭川市旭山動物園・ボルネオ保全トラスト・ジャパン理事)、故佐藤哲也氏(那須&神戸どうぶつ王国)、福守朗氏(鹿児島市平川動物公園)。「日本の動物園界を牽引するリーダーたちが、命の故郷・ボルネオのために連携して立ち上がり、このプロジェクトに込めた期待を語りました」
青木:
今、地球上の自然環境がどんどん侵食されているような状況で、今後、人と野生動物が軋轢を起こす場面は、世界中で増えていくでしょう。その中で、どうやって未来に自然を残せるのか。コントロールする、というと言い過ぎですが、私たち人間が積極的に関わらないことには自然を守っていけない状況になってきています。
その時に、都会で便利な暮らしをしているだけでは、自然に対する意識も理解も育っていきません。それはやがて、人間社会にとってもよくない状況を生みかねないと思っています。
活動を通じて、今起きていることだけでなく、自然に関わること、理解することの大事さを、特に若い世代の人たちに、伝えていきたいと思っています。
2024年12月、東京・八重洲のHANASAKA SQUAREにて開催された「ライティングオブジェ2024」の関連イベントとして、ボルネオの環境問題と生物多様性保全をテーマにしたトークショーの様子。講師は、ボルネオ保全トラスト・ジャパン理事で旭山動物園統括園長の坂東元(ばんどう・げん)さん。「ボルネオ島の野生動物や保護活動について紹介し、参加者は、美しくも危うい熱帯林の姿や、動物たちの映像に見入り、遠い地で現実に起きていることの危機を感じていました。誰の未来のために、なぜ守る必要があるのかを考える啓発の場となりました」
動物園で実施された参加型ワークショップ「分断ゲーム」の様子です。参加者はオランウータンになりきり、熱帯雨林が現在進行形で分断されつつある環境を模したフィールド上で生きるための移動や選択を体験します。遊びながら学ぶ体験型のワークショップは、熱帯雨林の分断が動物たちに与える影響を直感的に理解できるしかけとなっていて、大人も子どもも真剣に楽しく環境問題を学ぶことができます。
──私たちにできることはありますか。
青木:
ボルネオ島と聞くと遠い場所のように聞こえるかもしれませんが、同じアジアです。広い目で見ればそんなに遠くだとは感じません。また日本でもボルネオ島と同じように、自然破壊や野生動物との軋轢、森の劣化などの問題が起きています。
一足飛びに「世界の環境問題を考えよう」という必要はなくて、まずは身の回りのことや身近な自然に、興味や疑問を持ってもらえたらと思っています。
「子どもの時は虫をたくさん見かけたのに、最近は全然見ないな」とか「この商品はどこから来たのかな」「ごみになってどこに行って最後はどうなるのかな」など、自分の半径5メートル、10メートルの自然や、日常生活の延長に考えを巡らせてもらえたら。それはきっと、生活スタイルの改善にもつながっていくんじゃないかなと思います。
そこからさらに興味を広げて、ボルネオにも思いを馳せてもらえたら嬉しいです。
キナバタンガン川沿いの熱帯雨林で撮影されたボルネオゾウの群れ。「ゾウは社会性の高い動物で、メスと子どもたちが群れをつくって暮らします。群れの中では子供を真ん中に置いて守ります。ボルネオゾウが安心して暮らす頃のできる世界を作るために、私たち人間は何をすべきで、何をすべきでないのでしょうか」
──最後に、チャリティーの使途を教えてください。
青木:
チャリティーは、未来へ熱帯雨林を残していくため、「緑の回廊」プロジェクトで森を購入するための資金として活用させていただきたいと思っています。
熱帯雨林の購入には手間と時間とお金がかかるので、どんどん買えるわけでも、すべてを買えるわけでもありません。土地の価格も、為替の影響などもあって活動を始めた頃と比べると倍以上の価格になっていて、1ヘクタール(100m×100m)あたり250万から300万円かかります。
ボルネオ島の森と生物多様性を未来へと残すために、ぜひ、応援いただけたら嬉しいです。
──貴重なお話をありがとうございました!
オランウータンが自分の意思で自由に川を渡り、対岸の森を行き来できるようにとはじまった「吊り橋プロジェクト」。写真は「オランウータン吊り橋第1号」前にて、スタッフや関係者の皆さんの集合写真。「地域住民や現地の環境団体との協力無しではできなかったこの取り組みは、私たちの活動を象徴するプロジェクトのひとつとなり、6つの橋をかけました」
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
私たちにとって、実はとても身近なパーム油。
便利さや美味しさの裏で熱帯雨林が破壊され、野生動物たちのすみかが失われているという事実を、皆さんはどう受け止めるでしょうか。
すでに破壊されてしまった森を取り戻すことは、難しいかもしれません。
しかし今日から、何かひとつ、未来を変える行動は起こせるはずです。ボルネオ島で起きている現実を、自然との関わりを考えるきっかけにしていただけたらと思います。
【2025/6/23~29の1週間限定販売】
ドリアンやラフレシア、フタバガキなどのボルネオの森を代表する植物と、そこで暮らす代表的ないきものであるゾウ、オランウータン、サイチョウを描きました。
“BORNEO BREATHES, WE BREATHE(ボルネオは呼吸する、私たち”も”呼吸する)”というメッセージを添えました。
JAMMINは毎週週替わりで様々な団体とコラボしたオリジナルデザインアイテムを販売、1点売り上げるごとに700円をその団体へとチャリティーしています。
今週コラボ中のアイテムはこちらから、過去のコラボ団体一覧はこちらからご覧いただけます!