こども家庭庁の資料によると、令和3年度の要保護児童の数は4万1千人超、うち児童養護施設に入所している児童の数は2万3千人となっています。
今週JAMMINがコラボするのは、東京・赤羽にある児童養護施設「星美ホーム」。
さまざまな背景を抱えて施設にやってくる子どもたち。
「関わる子どもたちの、最善の利益を保証していくために我々はいます」と話すのは、副施設長の立入聡(たちいり・さとし)さん(56)。
1948年、戦後間もなくスタートした星美ホーム。
子どもたちが「大切にされている、愛されている」という日常の暮らしをしっかりと用意した上で、子どもたちの自己肯定感を高めるため、安心安全な環境からさらに一歩、外の世界に踏み出す「非日常の体験」を大切にしているといいます。
活動について、お話を聞きました。
お話をお伺いした立入さん(写真右から二人目)
児童養護施設 星美ホーム(社会福祉法人扶助者聖母会)
児童福祉法に基づく児童養護施設。子どもたちの明るい未来のためにさまざまな取り組みをしながら、小さな声に耳を傾け、寄り添いながら養育、支援しています。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2025/06/09
グループホームの外観。「2021年に全てのグループホームが新築となり、10棟を運営しています。快適な環境の中で家庭的に生活できるようになっています。地域分散化を推進しており、本体施設よりもグループホームで生活する子どもの割合が多くなっています」
──今日はよろしくお願いします。最初に、星美ホームさんについて教えてください。
立入:
東京都北区赤羽にある児童養護施設です。
本体施設で過ごす子どもより、地域にある小ユニットのグループホームで過ごす子が多いのが特徴です。
──児童養護施設と聞くと大きな建物をイメージするのですが今は小ユニットのグループホームがメインになってきているのですか?
立入:
全国的に見るとそうでもないですが、東京では小ユニットのグループホームが普通になってきています。
星美ホームはその中でも地域分散化が進んでおり、現在、本体施設に36名、地域のグループホームに58名の子どもが暮らしています。
「グループホームの設置により職員数も確保でき、食事作りなども余裕をもってできるようになりました。できたての料理をみんなで食べる時間も、子どもたちにとっても楽しみの一つになっています」
──グループホームはどんな建物なのですか。地域ということでですが、古民家を借りたりされているのでしょうか。
立入:
いいえ、そうではありません。
少し特殊な形をしており、7LDKほどの広さの1フロアにひとつのグループ、2階、3階にもそれぞれグループが、玄関も別で、1棟につき2、3のグループが暮らしているようなかたちです。
児童養護施設の中で、これだけ地域分散化を進めているところは珍しいと思います。
──なぜ、地域分散化を進めておられるのですか。
立入:
いろいろと理由はあるのですが、結果的にいちばん大きいのは「職員の数が増やせる」からです。
本体施設の場合、1ユニット6人の子どもに対し、人員配置は4人と定められていますが、グループホームでは9人配置できます。子どものことを考えると、関わる大人は多い方が良いと思っています。
グループホームの内部。「開放的なリビングと大きなキッチン、一人ひと部屋の個室もありプライベートの空間も確保されています。業者の方と綿密に打ち合わせ、工夫された設計により1棟の建物に2~3つのグループホームとし、グループホームの孤立化も防止しています」
──ユニットで一緒に暮らすメンバーは、どのように分けておられるのですか。
立入:
男女別で、学年はバラバラです。幼児だけは男女混合で、年齢も近い子どもたちで一つのユニットを作っています。
──普段の生活はどのような感じなのですか。
立入:
食事については、手をかけていくことがすごく重要だと考えており、それぞれのユニットで、朝昼晩と毎日調理しています。
後は子どもたちの衣服なども、「被服費」と言って国から支給される費用があるのですが、もちろん施設全体の裁量があり、限りある中でにはなりますが、職員が子どもたちと一緒に買い物に行って、本人たちが着たいものを尊重するようにしています。
課題がないわけではありません。しかし日々の暮らしの中で、子どもたちが温もりや生活感を得られるよう、より高みを目指したいと思っています。
日々の暮らしの様子。「宿題などが終わると、自分たちで自由に過ごします。自分の好きなことや、やりたいことができる時間も多くあり、自主性や主体性を育んでいます」
──部屋はどうなっているのですか。
立入:
子どもたちは一人ひとり個室があって、夜はそこで寝ます。
最近ある職員に聞いたのは、子どもたちの就寝前に、一人ひとりと個別に関わる時間を持つようにしているということでした。今日の出来事を聞いたり、一緒にカードゲームをしたりしているそうです。
本体施設の外観。「2021年に本体施設の改築・2023年にホールやグラウンドの改築が終了しました。開放的なリビングや個室が完備され、グラウンドでは子どもも職員も毎日元気に走り回って
います」
スタッフ同士の打ち合わせ。「職員の人数も多いですが、その分コミュニケーションをしっかりととるようにしています。DX化も進めて業務の効率化を図りながらも、大事な部分は職員同士が顔を合わせて、理念のもとに子どもたちをどのように支援していけばいいのかを話し合います」
──施設として、大事にされていることはありますか。
立入:
職員として「強制や命令をするのではなく、子どもたちとしっかりと対話する」「(スタッフ同士で)価値観を共有する」「子どもたちが大切にされていると感じられるまで大切にする」の3つを大切にしています。
関わる子どもたちの「最善の利益」を保証していくために、我々はいます。事情があって家庭から離れている子どもたちの、自己肯定感や自尊感情を高めることが我々の役割で、そのためには、職員によって、あるいはユニットによって感覚や対応にバラつきがあると「誰と関わったか」で、子どもに対する偏りが出てしまいます。
その誤差ができるだけ生まれないような組織づくりを心がけていて、職員の数が多いので、皆が価値観を一致させていくことをすごく大事にしています。
──そうなんですね。
「子どもたちは、地域の幼稚園や小中学校に通っています。幼稚園や学校との情報共有や職員間の連携を大事にしており、研修なども積極的に行っています」
立入:
子どもたち一人ひとりとの関わりに関して、たとえば一人の職員で抱え込んだり孤立したりしないように、チームで支え合うようにしています。
また、大人たちが良き言葉や体験に触れることが、関わる子どもたちの豊かさにもつながっていくと思っていて、集まって価値観を共有することを大切にしています。
「過去にマイケル・ジャクソンさんも来園されました。その縁もあり、マイケル・ジャクソンさんのファンの方々からご支援していただいていたこともあります。規模が大きい分、支援団体さまなどからたくさんのご支援をいただく機会が多く、感謝しています」
体験学習の様子。「体験学習プログラムはそれぞれ〝ねらい〟をもって行っています。幼少期は自然の中で、子どもたちと過ごすことで、関係性が構築されることにつながっていきます」
──子どもたちに対してはいかがですか。
立入:
安全安心を感じられる日常生活がまず保証されていることが、何より大切です。
子どもたちと日々、丁寧に接しています。
でも、日常生活の中だけでは、子どもたちのそれまでの逆境体験を乗り越える難しさがあると思っています。
子どもたちが自己肯定感や自尊感情を高めるために、さらにそこから一歩、踏み出す経験が必要と考えており、非認知能力を向上させる体験学習に力を入れています。
非日常の特別な環境での体験を通じて、子どもたちは自分と向き合い、自尊感情を育んでいけるのではないかと思っていて、「日常」と「非日常」の両方のプログラムがあることが、とても重要だと考えています。
──たとえば、どのようなプログラムがあるのですか。
立入:
ちょうど今も、十数名の小学生の子どもたちと職員が、広島の無人島に行っているところです。
2005年から行っている「星美ホーム百名山」は、中学生男子を対象に実施している8日間の旅です。その年の参加者がチームとなり、百名山の山を目指します。道中は徒歩移動、宿泊はキャンプ場などを使い、食事も基本的にはすべて自分たちで用意します。
2005年から開始した「百名山~海抜0mからの挑戦」。「毎回海からスタートし、2024年で49座の山に登頂してきました。大自然の中で、本気になって活動に取り組み、山頂を目指していく姿は、毎年感動的です。そして子どもたちには大きな達成経験と自信を与えてくれます」
立入:
ほかにも琵琶湖を一周する「琵琶湖一周プロジェクト」、中学生女子を対象にした「中学生女子キャンプ」、海外で支えられる側から支える側を体験する「海外ボランティアプログラム」などがあります。
いずれのプログラムも、引率するスタッフは、危険がある時をのぞいて、子どもたちに介入することはしません。出てくるさまざまな課題を、子どもたちだけで解決していくのです。
全く異なる環境、さらに何から何まで自分たちで決めてやらなければいけないという環境に身を置いて、子どもたちはいろいろなことを感じ、成長します。
「自分の足で苦労して登ってきたからこそ、得られるものがあります。日常ではなかなか体験できない〝心の揺れ〟は非日常の冒険的な野外活動の中にたくさんあります」。写真は「中学生女子キャンプ」の一場面
立入:
一気にシビアな環境に置かれることで、急速に自分や誰かへの理解が深まっていくという効果があると思っていて、体験を通じて非認知能力が向上し、成功体験をして、結果として自己肯定感や自尊感情が高まります。
その先に何があるかというと、「どうせ自分なんて」とか「(施設を出た後)どうせ就職でしょ。進学なんてムリ」のような、自分や自分の将来に対する悲観的な感情から抜け出すことができるということなんです。
体験学習から戻った後、「実は部活に入りたいんだ」とか「やってみたいことがあるんだ」って、チャレンジするようになる子も少なくありません。
無人島キャンプにて。「電気もガスも水道もない中で生活することは、日常がいかに便利で周りの人の助けの中で成立しているのかを体験的に学び、改めて考える機会となっています」
──安全な中だけにいると気づけないことに、気づけるようになるんですね。
立入:
最近、特に力を入れているのが「冒険教育プログラム」です。
高校生ぐらいの年齢になって児童養護施設に入所するお子さんの場合、傷つきや逆境体験が深刻化していて、職員と関係性を築くのが難しいことが少なくありません。
施設に来る子どもの気持ちになってみると、「ここは一体どんな場所なんだ」「向き合ってくれる大人はどんな人なんだ」って、当然、不安な気持ちがたくさんあると思うんです。
そういう子が入所する際、職員と信頼関係を構築するようなプログラムを実施しており、効果を感じています。
──どんなことをするのですか。
たとえば、子どもと職員がペアになり、ロッククライミングを経験します。
登る際、お互いの体にロープを結び、安全を確保しますよね。子どもが登っている時、安全を確保するのは職員で、職員が登っている時、安全確保するのは子どもです。
そのような形で、お互いの信頼度を高めていくのです。
──なるほど。体で経験して、信頼を築いていくんですね。
自然の岸壁を登っていくロッククライミング。「体験を通して、さまざまなことを学んでいきます」
創設者のお祝い会。「子どもと職員が一緒になって発表します。子どもたちが自分の得意なこと、好きなことを発表できる場でもあり、自己表現できる機会となっています」
──立入さんは、星美ホームの副施設長として、社会的養護のもとにある子どもたちのことをどのように捉えておられますか。
立入:
深刻な事情を抱え、確かに守られることが重要ですが、だからといって隠れていかなきゃいけないことばかりじゃありません。深刻な話をするとそちらばかりがクローズアップされるけれど、それだけじゃないというか。
逆境体験をしている子が多く、生活が滞ることも多いですが、前向きに生きている子もいます。
背景をみると、確かにつらいし、大変かもしれない。だけど過去だけ見ていてもしょうがないから、過去を踏まえて今、そしてこれからどう生きていくかっていうところを見て、支援していかないとと思っています。
だからこそ、自尊感情や自己肯定感を高めることが重要なんです。
夕食の風景。「夕食はできる限り、できたてを食べてもらえるように心がけています。食は愛情を伝える大切なもののひとつです。食事も雰囲気も温かくすることで、子どもたちの安心感につながっていきます」
立入:
児童養護施設を出た後、幸せに生活をしてくれていたら嬉しいけど、もし何か困ったことがあった時に、「ここがあった」って頼ってくれる場所として、子どもたちの中にこの場所が内在化されていることが重要だと思っているし、また必要に応じて、周りの人たちに助けを求められる関係性が築ける人として育っていってほしいと思っています。
ある映画に出る機会があり、その映画に出ている子どもたちにもいろんな背景があって、一人の子は、海外でのボランティア体験や、この映画の撮影でも自信を得て、それまではずっと低迷していたんだけど、今は「映画を撮りたい」と映画制作の専門学校に通っています。また別の子は、以前はほとんど人前でしゃべることができなかったのですが、「俳優になりたい」と、その道を目指してがんばっています。
──そうなんですね!
立入:
中には、混迷を極めている子もいます。でも、非認知能力を上げる良い経験ができれば、自尊感情が高まって、自分の将来に希望を持てるようになるという事例です。
──一人ひとり、それぞれの背景、思い、感情、ペース…一筋縄ではいかない、いろんなことがあると思います。どのようなスタンスで関わっておらるのですか。
立入:
「自己決定を援助する」というスタンスかなと思います。
どんな決定であっても、「じゃあ、とりあえずやってみな」って応援する。その時に、我々ができる限りのサポートや選択肢の提示はします。
12月に開催されるクリスマスの聖劇。「練習を重ね、本番を迎えます。程よい緊張感の中で練習の成果を発揮する姿に、子どもたちの成長を感じることができます」
「公益財団本法人安藤スポーツ・食文化振興財団様より、野外活動(百名山)の取り組みを評価され、表彰されたこともあります。社会的も教育的にも自然体験活動が子どもたちの成長に有益であることは裏付けられています」
──立ち入りさんは、職員になられて長いのですか。
立入:
30数年になります。
でも今日、山本さんに話したような言語化できるようになったのは本当につい最近で、ずっと、とにかく毎日が必死でした。
何年前だろう?10年か20年ほど前に、施設の子どもたちと一緒に、自転車で日本縦断したんです。
その子たちが今30過ぎになって、たまに一緒に飲みに行ったりすると、思い出話として、この時の話が出てくるんですよね。
自転車で日本縦断した子どもたちと立入さん。「2003年、2004年に当時の高校生男子が日本列島縦断に挑戦し、見事に走破しました。その時はつらく苦しくても、達成した後はそれを補ってあふれ出すくらいの喜びや達成感が得られ、新たな自分を知るうえで重要な要素になるのではないでしょうか」
立入:
その子たちに関していうと、今の暮らしで、経済的な問題なども抱えながら、それでも自分の人生を、すごく強く生きてるんですよね。その姿をみると、「これが答えだ」って思えるというか。
日々一生懸命でよくわからないけど、施設を出た人たちが力強く生きている姿をみると、すごく嬉しいです。
──今も緒に飲みに行けるなんて素敵ですね!
読者の方に、メッセージをお願いします。
立入:
児童養護施設として、子どもたちが「愛されている」と感じられる環境を、一生懸命作っています。「愛されている」と感じられる環境があれば、子どもたちはそこから一歩出て、外の世界に挑戦する勇気を持てます。
ぜひ「愛されている」と感じる環境を、一緒に作っていきませんか、力を貸してもらえませんかとお伝えしたいです。
──最後に、チャリティーの使途を教えてください。
立入:
チャリティーは、施設を退所した子どもたちに、食料や日用品などを支援するための資金として活用させていただければと思います。ぜひ応援いただけたら嬉しいです。
──貴重なお話をありがとうございました!
子どもたち、職員の皆さんと。「ここ数年で、職員の数が大きく増加しています。また、支援してくださる方々も増えています。子どもたちには自分が一人ではないということを感じながら、前向きに人生を送っていってほしいと思います」
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
言葉にするのが難しいですが、子どもたちの過去の体験を過剰にしすぎず、フラットな視点でお話しくださる姿がとても印象的でした。
確かに、過去の景色は変えられないかもしれません。だけど、今と未来の景色はこれから、作っていくことができる。自分と世界との関係も、新たに築いていくことができる。
子どもたちが心の空に輝く星を探す日に、「自分たちは最大限、君のそばにいるよ」という、揺るがないやさしさ、覚悟、スタンスを見せていただいたように思いました。
【2025/6/9~15の1週間限定販売】
夜空の下、月明かりに導かれて船を漕ぐ一人の人の姿を描いたデザインです。
周囲に見守られ導かれながら、胸いっぱいに空気を吸い、信じた人生に向かって歩む様子と、その挑戦を、社会がやさしく、温かく見守る様子を表現しました。
“Find your place in the universe(宇宙の中で、あなただけの場所を見つけて)”というメッセージを添えました。
JAMMINは毎週週替わりで様々な団体とコラボしたオリジナルデザインアイテムを販売、1点売り上げるごとに700円をその団体へとチャリティーしています。
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