視覚と聴覚、その両方に障害のある「盲ろう者」をご存知ですか?
今週JAMMINがコラボするのは、盲ろう者の自立と社会参加のために活動するNPO法人「東京盲ろう者友の会」さん。
理事長の藤鹿一之(ふじしか・かずゆき)さん(58)は、26歳の時に全く見えなく、全く聞こえなくなりました。
外の世界から遮断された状態に、「すべてが終わった」と感じたといいます。
そんな時、「指点字」と呼ばれるコミュニケーション手段と出会い、「心に映る景色が変わった」と藤鹿さん。
「僕の中ではそれまで、心に映る景色は真っ暗闇でした。指点字で、諦めていた周囲とのコミュニケーションが再びとれると知った時、まるで光が差し込んだようでした。見えないけれど目の前が明るくなって、聞こえないけれど心の耳がよみがえり、気持ちが楽になりました」と振り返ります。
指点字について、また見えなくても聞こえなくても感じられるやさしさについて、指点字通訳者の梶純子(かじ・じゅんこ)さん、甲賀佳子(こうが・けいこ)さんの通訳のもと、お話を聞かせてくださいました。
お話をお伺いした藤鹿さん
NPO法人東京盲ろう者友の会
「話し合える仲間がほしい」「身の回りのことが自分でできるようになりたい」。
盲ろう者が安心して日常生活を送れるようにサポートしながら、自立と社会参加のために活動しています。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2025/05/12
指点字で会話する藤鹿さん。買い物を終え、お店の方の「ありがとうございました!」という挨拶を指点字で通訳を受けながらお店を出るところ
──今日はよろしくお願いします!指点字でお話をお伺いするのが初めてなので、少し緊張しています。
藤鹿:
よろしくお願いします。山本さんが話してくださったことを、指点字で通訳してもらってから話しますので、ちょっとゆっくりめに話してもらえたら嬉しいです。
──ありがとうございます。わかりました。
早速ですが、今していらっしゃる指点字とはどのようなものですか。
藤鹿:
左右の人差し指、中指、薬指の6本を使い、パソコンのキーボードをキータッチするように指を動かします。通訳・介助者がその上に指を重ね、全く同じ指を使って指を動かすことでコミュニケーションを取ります。一見ピアノの鍵盤をたたいているように見えます。
通訳・介助者現任研修会の「通訳・介助ニーズ論」にて、講義をする藤鹿さん。「現任の通訳・介助者向けに、事例を交えながら講義をしています。クイズ形式にするなど、受講者に考えを深めてもらえるよう工夫しながら話しています」
──左右の6本の指を使って、どのようなルールで指を動かしているのですか。
藤鹿:
しくみは点字と同じです。点字というのは、横2、縦3、合計6つの点で50音を表現します。同じように、左右の指を使って「あいうえお」等と表します。
──難しそうですね。
藤鹿:
私は先に点字を学んでいたので、すんなりと入ることができました。
梶:
人それぞれですが、私も先に点字を知っていたので、指点字は入りやすかったです。
甲賀:
点字を知っていれば、指点字を打つことはできると思います。ただ通訳となると、それ以上のものが求められてくるのかなと思います。
「お惣菜屋さんへお弁当を買いに、通訳・介助者と外出しているところです。街並みや周囲のお店、季節感などの説明を受けながら歩いています」
藤鹿:
確かに、指点字でおしゃべりができることと、通訳ができるというのはまたちょっと違うかもしれません。通訳はやはり訓練が必要です。
梶さんと甲賀さんは通訳歴も長く、私のニーズに応えていただけるので、大変助かっています。
東京盲ろう者友の会は、盲ろう者の社会参加と自立を目指すことを目的に、私のような盲ろうの当事者と、梶さんや甲賀さんのような支援者で設立された団体です。
相談事業の様子。「盲ろう者や通訳・介助者、行政、支援者などから様々な相談を受けています」
藤鹿:
新宿区にある東京都盲ろう者支援センターでの事業は多岐にわたり、たとえば私の場合は指点字の訓練を受けましたが、当事者がそれぞれに合ったコミュニケーションをとれるような訓練やパソコンなど電子機器の活用訓練、また梶さんや甲賀さんのような通訳・介助者の派遣や養成、当事者や家族、支援者等からの相談、盲ろう者の社会参加促進のため交流会や学習会等の開催などを行っています。
まずは「盲ろう者でも頑張っていける」という意欲を持つことが何より大事で、というのも、それがなければ「コミュニケーション手段を見つけよう」という気持ちになりませんよね。
私は聴覚だけでなく視力も完全に失った時、完全にお手上げ状態でしたが、友の会と出会い、指点字を知って、気持ちが180度いい方向に変わりました。
盲ろう者向けパソコン訓練の様子。「盲ろうの職員が担当しています。点字ディスプレイとパソコンをつないで、点字を読みながら内容を確認しています」
交流会『クリスマス会』の一コマ。「グループごとに、冬にちなんだビンゴゲームを楽しみました」
──目が見えず、耳も聞こえない。重複した障害によって、日々の生活にどのような困難がありますか。
藤鹿:
盲ろう者と言っても、全く見えないし聞こえない人もいれば、見えにくくて聞こえにくいという人もいます。全体として「他者とのコミュニケーション」「情報入手」「単独移動が難しい」の三大困難があると思っています。他は、環境や障害の程度によってさまざまだと思います。
コミュニケーションや情報入手の難しさはイメージしていただきやすいかもしれませんが、移動についてはちょっとイメージしづらいかもしれないですね。
盲ろう者は見たり聞いたりすることが難しいので、一人でどこか行きたいところに行くことができないのです。私も、通訳・介助の方がいなければ、今日、ここまで来れていないんです。
学習会「籐かご」は、センター設立以来続いている人気のプログラム。「講師も盲ろうの方で、参加者は毎回、籐かご作りと仲間との会話を楽しんでいます」
──コミュニケーションの手段があれば、困難も和らぎますし、解消できることもありますね。
藤鹿:
12年前の統計になりますが、視覚障害と聴覚障害、両方の障害者手帳を持っている人は、全国に14,000人いるとされています。ただ、これはあくまで統計上の数字で、表には出てこないだけで、実際にはもっといるのではないかと思われます。
私も以前は、視覚障害の手帳しか持っていませんでした。「聞こえない」という事実をなかなか受容できなかったし、すでに視覚障害の手帳を持っているんだから、あえて聴覚障害までとる必要がないと思っていたんです。
視覚と聴覚、重複した障害を持つ盲ろう者は希少で、支援があるということをまだまだ知らない当事者もたくさんいらっしゃると思います。外に出る機会や情報を得る機会、ましてや当事者同士が知り合う機会は滅多にありません。
「クリスマス会の恒例!盲ろう者がサンタクロースになって登場します!」
藤鹿:
多くの方に盲ろう者のことや、私たちのような支援団体があることを知っていただくことで、当事者に代わって「こんな支援団体があるよ」「指点字や触手話などのコミュニケーション手段があるよ」と、つないでいただけるきっかけにもなればと思っています。
──確かに。見えない、聞こえない当事者の方が、自ら情報にアクセスするのはすごくハードルが高いですね。
藤鹿:
私の場合、友の会以外の場所で、盲ろうの当事者の方と知り合ったのは二人だけです。
もし近くにおられたとしても、自分一人だと見えないし聞こえないので、それを察知することはできません。一緒にいる介助者の方に「同じ会場に盲ろう者の方がいますよ」などと教えてもらわない限りは、知ることもできないんです。
支援者向けの研修会の様子。「相談支援事業所職員や行政職員等を対象に、盲ろうについて理解を深めていただくことを目的に、毎年、盲ろう者の相談支援に関する研修をしています」
お惣菜屋さんにて。「店員さんと、おすすめ商品や営業日など聞き、会話を楽しみながら買い物をしています」
──藤鹿さんは、26歳で全盲ろうになったそうですね。ということは、それまでは見えたり聞こえたりしていたのですか。
藤鹿:
はい。先天性の白内障で生まれつき弱視でしたが、視力については、それなりに見えていました。今、こうやって画面越しにお話している山本さんの姿も、以前は見ることができました。しかし徐々に見えなくなり、聞こえなくなり、26歳で全く見えない、全く聞こえない「全盲ろう」の状態になりました。
実は毎年、年を越して元日の朝に外に出る度に、少しずつですが前の年より見えなくなって、聞こえなくなっているのを感じていて、「将来は全く見えず、聞こえなくなるのかな。そうなった時に、自分はどうなるんだろう」と不安を抱いていました。
だから26歳で全盲ろうになった時、「すべてが終わった」と思いました。体は生きていても心は死んで、しばらく家に引きこもっていました。
──そんな中から、どうやって今のような明るい藤鹿さんになられたのでしょう。
藤鹿:
指点字と出会い、また人とコミュニケーションがとれるということを知った時、心に映る景色が変わったんです。
それまで真っ暗闇だったのが、指点字でまた会話ができると知って、まるで心に太陽が昇ってくるようでした。見えないけれど目の前が明るくなったし、聞こえないけれど心の耳が蘇った気がしました。何より、気持ちがすごく楽になりました。
私は子どもの頃から人見知りをしたことがなく、赤ちゃんの時には、コワモテのおじさんに「抱っこして」と手を振っていくほどだったそうです。もちろん覚えていませんが…(笑)。そのぐらい人が好きな私にとって、コミュニケーションがとれなくなるというのは、とてもつらく、受け入れ難いことでした。
全盲ろうになってからは、知らない人と会うことがとてもこわかった。盲ろう者だということを知られるのが嫌でした。自身の障害が受容できなかったんです。なぜか。私自身、「盲ろう者は楽しく生きていけない」と思い込んでいたからなんですよね。
しかし指点字に出会い、人とまたコミュニケーションが取れるようになり、理解のある人たちに恵まれて、あきらめていたことをまたできるようになりました。その時にはじめて、自分の障害を受け入れることもできました。
「盲ろうの仲間とのおしゃべりはやっぱり楽しい!その人らしさは、手からも伝わってきます」
──今、楽しいことはどんなことですか。
藤鹿:
今ではすっかり気持ちが変わって、いろんな方と出会い、お話しできることが本当に楽しいです。今もこうして山本さんとお話しできて嬉しいです。
「何もできない」と自分自身で諦めていたけれど、おかげさまで、今では海外にも行けるようになりました。いろんなところに行けることもすごく楽しいし、私はおいしいものを食べるのが好きだから、いろんなおいしいものを食べられるのが楽しいです。
「おいしい」というのは、味だけのことではないんです。
先日、長野のある専門学校で講義をさせていただいたのですが、お話を伺うと、なんと一人の先生が、10年ほど前、学生の時に私の講義を聞いてくださったそうなんです。私は目が見えないからわからなかったんだけど、そうやって伝えてくださって、すごく嬉しかった。
そこでは「校長食堂」といって週に1度、校長先生と数名の先生がお昼ご飯を作ってくださるんですが、その日のお昼に「力うどん」をいただきました。
どこにもある、普通のうどんかもしれません。だけど、先生たちが一生懸命作ってくださって、それを学生さんたちと一緒に食べられて、3倍おいしく感じました。次回は麻婆豆腐だそうです!楽しみです。
2025年2月、東京都盲ろう者支援センターにて開催した「盲ろう者福祉ワーカー研修会」にて、盲ろう疑似体験の様子。「目はアイマスクで、耳はヘッドホンで音を出し周囲の声を遮蔽して、聞こえないようにして体験を行います」
学習会「エジプト体操」にて。講師の先生と一緒に、衣装をつけてパチリ!
藤鹿:
先日、好きだったパンケーキのお店が閉店することを知りました。
お店に行く度にいつも声をかけてくださった店員さんが、わざわざ席まで来て教えてくださって、会計の際に「閉店するまでに、ぜひまた来てください」と言ってくださったんですが、忙しくて行くことができず…。残念です。
でもグルメを通じて、本来つながることのなかった方、この店員さんとも出会えたわけですよね。盲ろう者として生きてきたからこそのご縁、出会える人や出来事、感じられる喜びがあります。
パンケーキのお店はなくなってしまいましたが、またいつか、その店員さんと街中でばったり会えたら…、きっと声をかけてくださったら嬉しいなと思っています。
──藤鹿さんが、見えなくても聞こえなくても、感じることを大切に、出会いやつながりを大事に過ごしていらっしゃることが伝わってくるエピソードですね。
学習会「ウォーキング」での集合写真。「ウォーキングは人気のプログラムで、毎回多くの盲ろう者が参加します。この日は2.5km歩きました!」
藤鹿:
26歳で全盲ろうになった時、「恥ずかしい」という気持ちがありました。相手が話しかけてくれても、見えないし聞こえないから反応できない。「見下されることもあるんだろうな。嫌だな」って思っていました。
でも、通訳・介助者がいて、指点字というコミュニケーションがあれば、声をかけてもらった時に、通訳を通して話ができるし、新しい世界を知ることができます。
私は今、堂々と「自分は盲ろう者です」と言うことができます。
──読者の方に、藤鹿さんが知ってほしいことやお伝えしたいことはありますか。
藤鹿:
やはりですね、「見えなくて聞こえないってことは、何もできない」って思われがちだと思うんです。
講演などさせていただく時に、私が椅子の背もたれに上着をかけただけで、「すごい」などと言われてしまうんです(笑)。
学習会「籐かご」にて、完成した作品をセンターの職員さんが見せてもらっているところ。「絶妙な力加減で、手の感覚だけで編んでいきます」
藤鹿:
でも、何もできないなんてことはないんです。見えなくても、聞こえなくても、工夫をして、理解のある人たちや良い支援者さんに出会えれば、いろんなことができるんだということを、皆さんにも知っていただきたいと思っています。
皆さん、もし盲ろう者と出会った時には、「何もできないよね」ではなく、理解して、工夫して、「一緒に何か楽しんでみよう」という気持ちで接していただけたら嬉しいです。
──最後に、チャリティーの使途を教えてください。
藤鹿:
チャリティーでいただきましたご寄付は、盲ろう者が社会参加に向けて一歩前進できるよう、盲ろう者が使える情報機器の購入などに使わせていただきます。
皆さん、応援してくださいね!
──貴重なお話をありがとうございました!
学習会「籐かご」の最後に、参加された盲ろう者や通訳・介助者の皆さんで、今回のコラボデザインアイテムを手に、集合写真を撮ってくださいました!皆さん、ぜひ応援お願いします!
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
インタビューは、相手の方の表情や視線だったり間だったり、非言語で感じ取る情報もとても多いです。今回、盲ろうの当事者である藤鹿さんに、指点字による通訳を使ってインタビューさせていただくということで、最初は少し不安で、緊張していました。
しかし、藤鹿さんのユーモアと素敵な笑顔、何よりまっすぐに私を見てお話ししてくださることがすぐに伝わり、不安は最初の3秒で飛んでいきました。手を重ねて通訳する指点字も、なかなか人と近く触れ合う機会がない昨今で、私はとても素敵なツールだと思いました。
最後に、東京盲ろう者友の会さんの言葉をご紹介したいと思います。
サン=デグジュベリの「星の王子さま」に「大切なものは目に見えない」という一節があります。盲ろうの立場に変えると、「大切なものは、目に見えないし、耳にも聞こえてこない」であり、「見えない、聞こえないからこそ、大切なものがわかる」ということでもあるかと思います。
【2025/5/12~18の1週間限定販売】
見えない、聞こえないからこそ感じられることがあり、どこにいてもささやかな、でもとても大きな喜びや幸せを見つけ出すことができる。そんなメッセージを、さりげなく日常を豊かに彩ってくれるさまざまなものを描いて表現したデザインです。藤鹿さんのお話に登場したパンケーキも描きました!
“Everyone has a story to tell(皆、語れるストーリーを持っている)”というメッセージには、障害やその有無に関係なく、互いの人生をリスペクトし、認め合う豊かな関係性や社会が広がってほしいという願いを込めました。
JAMMINは毎週週替わりで様々な団体とコラボしたオリジナルデザインアイテムを販売、1点売り上げるごとに700円をその団体へとチャリティーしています。
今週コラボ中のアイテムはこちらから、過去のコラボ団体一覧はこちらからご覧いただけます!