鳥猟をするハンターのパートナーとして、鳥を探して居場所を知らせたり、鳥を飛び立たせたりといった役割をする「鳥猟犬」をご存知ですか?
毎年、冬から春にかけての猟期が終わると、病気や怪我、高齢などで猟ができなくなった犬が遺棄されるといいます。
千葉県市川市にて、鳥猟犬に特化した保護活動を行う「GUNDOG RESCUE CACI」が今週のチャリティー先。
「年を取ったから、病気になったから、鳥猟犬として使いものにならないという理由で遺棄される犬たちがいます」と話すのは、代表の金子理絵(かねこ・りえ)さん(60)。
活動について、お話を聞きました。
お話をお伺いした金子さん
GUNDOG RESCUE CACI(ガンドッグ レスキュー シーエーシーアイ)
千葉県市川市にシェルターを構え、鳥猟犬を専門に救済し、里親につなげる活動をしているボランティア団体です。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2025/04/07
シェルターの様子。「1頭1頭、ゆとりのあるケージで過ごします。ストレスにならないよう、お互いが見えないように配慮しています」
──今日はよろしくお願いします。最初に、団体のご活動について教えてください。
金子:
もともとは鳥猟犬に限らず犬の保護活動をしていました。
活動拠点である千葉県では、保健所に収容される鳥猟犬の数が他県に比べ圧倒的に多かったんですよね。都心から近い猟場が多くあるため、遺棄数や迷子が多かったのだと思います。
当時、猟犬は危険種として殺処分対象でした。殺処分を減らすために「助けてもらえるチャンスの少ない犬を率先して保護しよう」「もう鳥猟犬を使い捨てにさせない」とその時、強く思ったんですね。
そして2008年から、鳥猟犬に特化して活動をしています。
譲渡会の様子。「毎月1回、市川市のドッグランを貸切り、譲渡会を開催しています。里親募集中の鳥猟犬達をボランティアスタッフが愛情込めて見守ります」
──鳥猟犬とはどのような犬なのですか。
金子:
イングリッシュポインター、イングリッシュセッターが主な犬種として挙げられます。ペットショップで販売されることは珍しく、ほとんどが猟犬専門の犬舎からの購入、もしくは個人間での譲渡しか、入手経路はありません。
鳥猟犬に特化して活動を始めた2008年当時、11月15日から翌年2月15日までと決められた3か月間の狩猟シーズンが終わると、山に捨てられる鳥猟犬がたくさんいました。大日本猟友会の資料を見ると、2007年、2008年で狩猟免許を取得者数がぐっと増えています。狩猟ブームはやがてゴルフブームにとってかわられていったわけですが、狩猟ブームの中で、多くの鳥猟犬も捨てられていたのです。
──そうなんですね。
金子::
本来、鳥猟は犬がいなくてもできます。そもそも狩猟とは、スポーツであり娯楽なのです。
その昔、西洋では狩猟は貴族や富裕層の特権でもあり、鳥猟犬はステータスシンボルでした。
明治時代に横浜が開港されると、西洋人と共に、日本に洋犬が入ってきました。西洋文化を取り入れる中で、多くの皇族や華族、富裕層が鳥猟犬を飼い始め、日本でも鳥猟犬を飼うことがステータスとなっていったのです。余談ですが、日本で最初にブームとなった洋犬は、イングリッシュポインターと言われています。
鳥が潜む場所を見つけ、ハンターを待つイングリッシュセッター。「ハンターが辿り着き、合図を出すと、茂みに飛び込みます。鳥が飛び立ったところでハンターが阿吽の呼吸で撃ち落とします」
金子:
近年、鳥猟を行うハンターは減少し、鳥猟犬の遺棄数も減ってはいますが、いまだに放棄される犬がいます。私たちは、保護団体として狩猟や狩猟者に矛先を向けるのではなく、共に鳥猟犬を取り巻く環境改善に取り組みたいと考えています。
近年はハンターの高齢化が進み、引取りの相談も増えています。
CACIでは、引取り手がなく、保健所に持込む前に保護できればと考え「鳥猟犬相談窓口」を開設しています。狩猟団体の会報誌や自身のHPに窓口案内を掲載しています。
狩猟団体と協働で、鳥猟犬の問題に取り組んでいる。「写真は、一般社団法人大日本猟友会事務局長との打ち合わせの様子です。現在の保護状況の申し送りや、ホームページに記載する文言の確認などをしているところです」
獣猟犬保護団体「SCENTHOUND RESCUE」からバトンタッチされたポインター。「保護当時は、小柄でボロボロガリガリの骨ばった体。尾の先は切れていました。始終不安げにオドオドしていましたが、素敵な里親様に恵まれ、今は元気いっぱい!先日もカニクロス(犬と共に走るクロスカントリースポーツ)に出場し、ママと元気いっぱい走り切りました」
金子:
本当に、ごく一部のハンターが、3か月の猟のシーズンが終わると、怪我や病気になった、来年の猟期まで飼うとお金がかかるといった理由で、簡単に犬を遺棄しています。
家庭犬と異なり、フィラリア予防、ワクチンなどを接種している犬も非常に少ないです。
──鳥猟犬であるがゆえに、条件付きの存在になっているんですね…。
金子:
鳥猟犬の場合、犬のことを家族がほとんど知らないということも珍しくありません。
昨年も、ご高齢のハンターの方が入院し世話ができないと、ご家族からの依頼で鳥猟犬を引取りに伺いました。ご家族は「お父さんの犬だから」と、犬の名前すら知りません。住居と離れた外檻で飼われているため、家族との接触がないのです。
また別のケースでは、「家族の方は触れますか?」とお聞きしたら「咬むので、お父さん以外は触れません」と言われることもありました。
高齢者ハンターより引取り依頼があり保護したセッター。「保護後、乳腺腫瘍が分かり、不妊手術の際に 右側乳腺を全摘。散歩もなく閉じ込められている期間が長く、エアコンもない犬舎でした。過去、同じ場所で飼われていた犬は、熱中症で亡くなっていました。現在は新しい家族のもと、先住犬のセッターと共に幸せを紡いでいます」
金子:
鳥猟犬は、フレンドリーで、人と一緒にいることが大好きな犬種です。しかし、生まれてから使役犬として育てられた鳥猟犬は、飼い主であるハンター以外の人と触れ合うことがありません。社会性を身につける術がないのです。
そのような犬を保護して、すぐに家庭犬として一緒に暮らすことは、かなり難しい部分があります。
──たとえばどんな難しさがあるのですか。
金子:
まず、これまで首輪をしたことがない、リードをつけて散歩したことがないという犬がほとんどです。首輪やリードをつけると混乱状態になることは少なくありません。
「かなりの飢餓状態で愛護センターに収容されたポインター。人に向かって歯が出るので、処分対象になっていました。CACIで引取り、確固とした再訓練の結果、現在は問題行動もなく、里親様と暮らしています」
──山の中では自由に走っていたわけですもんね…。
金子:
そうですね。急に家庭の生活にあてはめようとすると、犬にはかなりのストレスがかかってしまいます。その結果、吠えたり家具を咬んだりといった行動をして、ますます飼うことが難しくなってしまう。
鳥猟犬だった犬を家庭犬として一緒に暮らすようにするためには、一般の犬とは異なるトレーニングが必要になるんです。
──そうなんですね。
金子:
鳥猟犬は、運動量も必要です。
猟犬のことをよく知らずに家庭犬や番犬として迎えてしまうと、運動不足が原因でストレスになり、吠え続ける、自傷行為を繰り返す、穴を掘り続けるといった問題行動につながることもあります。
猟犬を高齢者の方に譲渡したものの、散歩が十分にできずにトラブルになったというケースや、飼いきれずにまた譲渡せざるを得なかったというケースも少なくないのです。
十分に特性を知らないと、お互いに不幸になってしまう。私たちに限らずですが、知識のある団体が保護することが大事だと思っています。
トレーニングの様子。「最初のトレーニングに適しているのが『ハンドターゲット』という、犬が手に鼻でタッチする行動です。人の手の指の間に挟んだおやつやフードの匂いを嗅ぎ、手に鼻先をつけるため、鼻も使うようになっていきます。しっかり手についてきてくれるようになれば、座れ、伏せなどスムーズに教えることができるようになります」
千葉県動物愛護センターより引き取ったセッター。「保護時には睾丸腫瘍があり、外耳炎があり、右目は大怪我をしていて、両目の視力が低下していました。現在もシェルターで治療中ではありますが、ずいぶんふっくらとしてきました」
──団体として、これまでにどのような犬を保護されたのでしょうか。
金子:
ほとんどにおいて、病気や疾患がある犬、または高齢犬です。
若くて健康であれば、貰い手があるようですが、そうではない犬は、狩猟に使えなくなると、飼育するにもお金がかかるので捨てられてしまうのです。
昨年は、足の靱帯断裂、膝蓋骨骨折、脱臼と、走ることができなくなった鳥猟犬の保護が続きました。年老いていなくても、怪我して十分に走れないと、捨てます。
皮膚炎を起こしていたり、フィラリアを発症していたり、メスの場合は乳腺腫瘍で捨てられていることも多いです。
千葉県動物愛護センターより引き取ったセッター。「靭帯損傷のため股関節の変形、背骨に問題があり、立ち上がるのもままならない状態で保護されました。両後ろ足、前十字靭帯にゆるみがあります。膝関節の炎症により、ふらつき、足が前後に出ない、なかなか立ち上がれないなどの支障がありましたが、抗生剤投薬後、症状は緩和されました。その後、足の支障も丸ごと受け止めてくださいました素敵なご家族に巡り会うことができました。現在は、飼い主であるママのカフェ、神奈川・平塚にある『茶室 雨ト音』で、スタッフとして活躍しています」
金子:
捨てられる鳥猟犬たちには、不妊去勢がされていない、フィラリア未投薬、マイクロチップ未装着(首輪をしていない)、といった共通の特徴があります。
昨年は、高齢者施設に入る、病気になって入院するといった、飼い主の高齢化に伴う引取り依頼が増加しました。
引取り後にメディカルチェックを受けると、大きな病気や骨折が見つかる犬は少なくありません。
──愛されるべき「家族」としてではなく、「猟犬」としてしか見られていないんですね…。
金子:
保護した犬を診てもらっているかかりつけ医から、「健康状態に問題がない鳥猟犬に出会うのは、宝くじに当たるようなもの」と言われたことがあるぐらい、健康な鳥猟犬を保護する方が難しいです。
私たちは、飼い主からの引取りも、怪我や疾患があっても無償で行っていますが、医療が必要な犬が多いです。
「飼い主さんが体調を崩し世話ができなくなったということで引き取ったポインターです。腰に大ケガをしており、完治するまでに4か月かかり、費用は手術、投薬、診察も合わせ30万を越えました(引取りは、怪我、疾患があったとしても無償です)。現在は、里親様の元で暮らしています」
シェルターでの一枚。「安心して横たわれるように、また、体に触れることを嫌がらないようにドッグマッサージを習得したボランティアさんが、保護された犬の心と体の緊張を、少しずつほぐしていきます」
──現在、シェルターでは何頭の犬を保護しておられるのですか。
金子:
シェルターに8頭、自宅に10頭、訓練所に2頭、病院に入院中の犬が1頭います。
自宅では主に、譲渡が難しい、高齢で痴呆がある犬や、体が思うように動かない犬を預かっています。一頭でも多くと思っていますが、一頭一頭のケアが大変なので、たくさんは受け入れられません。無理をせず、できる範囲で精一杯向き合いたいと思っています。
──犬たちと接する際に、気にかけておられることはありますか。
金子:
まずは、犬が安心できる場を提供するということです。そして、新しい家族に迎えられた後のことを考えて、過多な愛情をかけすぎないよう意識しています。
里親様にもさまざまなライフスタイルがあります。シェルターで癖がついてしまうと、譲渡先で犬がまた自分で考えなければならなくなります。ここでは最低限のしつけと、犬たちが心から安心を感じられるよう配慮しています。
犬と向き合う金子さん。「『今度こそ幸せに』との願いを込めて、新しい飼い主さんへと送り出しています。本能を持って産まれてきた鳥猟犬は、訓練半ばで野に放てば迷子になることも少なくありません。飼い主として彼らを守るために、『マイクロチップの装着は最大の愛情』だと思っています」
──鳥猟犬の魅力を教えてください。
金子:
慣れると甘ったれで、とてもかわいいんです(笑)。
大型犬で、かなりの運動量が必要になるので、飼うにはライフスタイルにおいて時間的余裕は必須です。それでも一度猟犬を飼うと、虜になる方がほとんどです。
里親になってくださった方が「また鳥猟犬を飼いたい」と、再度里親になられることが多いです。皆さん、本当にしっかりケアしてくださり、どの犬も見事な美しい犬に変貌します。それを見たお知り合いの方がファンになって、ご連絡をいただくこともあります。
ある里親様は、その魅力を「犬らしさ」とおっしゃっていました。「野山をいきいきと駆け巡り、嬉しそうにこちらに戻ってくる姿を見ると、幸せで胸がいっぱいになる。ヘトヘトになるまで遊び、家でひっくり返って寝ている姿を見ると、明日もがんばろう!という気持ちになる」と。
「緑豊かな自然の中で鳥猟犬を眺めていると、全身に満ち足りた気持ちがあふれてきます。里親さまたちは日頃、口々におっしゃること…『保護犬を迎え入れたというよりも、私たちが、この子たちから多くの幸せをもらっているのです』」
「CACIを通じて知り合われた里親様たちの交流も盛んです。愛犬に関するさまざまな情報交換をされたり、共に時間を共有したり…、日々を楽しんでおられます」
金子:
里親様のもとでたくさん愛情を注いでもらい、皆、本当に見違えるような姿になります。
昨年、保護したイングリッシュセッターは、高知県安芸郡安田町大野近辺を1年近く徘徊し、捕獲されました。
愛護センターでは、保護頭数が増えると、古い犬から順番に殺処分されます。「このままでは、殺処分されてしまう」と思い、引取り手を見つけるために私たちも発信をしましたが、なかなか見つからなかったため、千葉から高知まで、私が引き取りにいきました。
引き取った当初はガリガリにやせ細り、毛はパサパサで、視力も弱くボロボロの状態でしたが、ケアをして、新しい家族が見つかり、ここを卒業していきました。
ある時、譲渡会会場にものすごく綺麗なセッターが現れたんです。飼い主さんを見ると、あの高知で保護したセッターだったんです。里親様と歩いている姿は、まるで別犬のようでした。
日本最大級の譲渡会「パナソニック譲渡会」でのCACI講演会の様子。「多くの方々に、日本における鳥猟犬の現状を知っていただくことができました」→YouTube動画はこちらから
──最後に、チャリティーの使途を教えてください。
金子:
チャリティーは、シェルターの運営費として、また鳥猟犬を保護するための資金として活用させていただく予定です。ぜひ、応援いただけたら嬉しいです。
──貴重なお話をありがとうございました!
2024年に開催された、鳥猟犬愛好家の集い「GUNDOG FES」にて。「里親様をはじめ、現役ハンター、犬舎オーナー、狩猟団体の方々が一堂に介し、楽しいひとときを過ごしました」
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
GUNDOG RESCUE CACIさんとは、2023年以降2度目のコラボです。
人が好きで、人と一緒に猟をすることを楽しみにしている犬が、まるでモノのように捨てられてしまうというのは、本当にかなしく胸が痛みます。飼い主に捨てられるその時、犬は一体、どんな気持ちでしょうか…。
どのような理由であれ一緒にいると決めた以上、動物が与えてくれる愛情を、飼い主は同じように、あるいはそれ以上に返していく必要があると改めて感じます。チャリティーをぜひ応援してください!
・GUNDOG RESCUE CACI ホームページはこちらから
【2025/4/7~13の1週間限定販売】
川沿いの茂みで、ポインティングのポーズをとるイングリッシュポインターと、セッティングのポーズをとるイングリッシュセッターを描きました。
セッター、ポインターの持つ気高さを、有機的かつ優美な装飾や文字で表現しています。
“A radiant life with true friends”、(真の友との輝かしい人生)というメッセージを添えました。
JAMMINは毎週週替わりで様々な団体とコラボしたオリジナルデザインアイテムを販売、1点売り上げるごとに700円をその団体へとチャリティーしています。
今週コラボ中のアイテムはこちらから、過去のコラボ団体一覧はこちらからご覧いただけます!