CHARITY FOR

三段峡で「自然」と「人びと」を結び、次の100年につなぐ〜NPO法人三段峡-太田川流域研究会

広島県山県郡安芸太田町にある峡谷「三段峡(さんだんきょう)」をご存知ですか。
全長16kmに及ぶ峡谷内には、美しい景観と縄文時代の前から変わらない河川環境、育まれ続けている動植物のいのち、豊かな生態系が残されています。

1917年、初めてこの渓谷に立ち入った写真家の熊南峰(くま・なんぽう)は、山水画のような美しさに心奪われ、「都会に住む人の癒しの場に」と、大変な苦労をしながら人が歩くことができる峡谷にすると同時に、貧しい山村の新しい産業としての観光業の発展や、三段峡の文化的価値の発信をしました。

それから100年の時を経て南峰の掲げた精神性が再度、見直されています。

「ここは自然と人とを、つなぎ直す場所」。
そう話すのは、NPO法人「三段峡―太田川流域研究会(通称『さんけん』)」理事長の本宮炎(ほんぐう・ほのお)さん(48)と、事務局長の本宮宏美(ほんぐう・ひろみ)さん(48)。
三段峡について、またご活動について、お話をお伺いしました。

お話をお伺いした、本宮炎さん(写真左)、宏美さん(写真右)

今週のチャリティー

NPO法人三段峡-太田川流域研究会(さんけん)

三段峡から里山、そして広島市街へと続く大田川流域の保全を目的に、子ども、広島、日本、世界へと誇れる環境を構築するために活動しています。

INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2025/03/31

「三段峡をフィールドに、自然に触れる体験を」

子どもたちと川の探検。シュノーケリングマスクをつけて川の中の観察する

──今日はよろしくお願いします。最初に、団体のご活動について教えてください。

炎さん:
国の特別名勝「三段峡」で活動している団体です。
三段峡は、日本にある600以上の渓谷でも6つしかない「特別名勝」に指定されおり、美しく、迫力のある景観が特徴です。全長が16kmの峡谷内ではほとんど人工物と出会うがことなく、ありのままの自然を感じられる日本でも大変貴重な場所です。

自然が豊かに残るこの場所で、「しらべる・つたえる・つなげる」の3つを活動の軸に、調査や子どもたちへの環境教育、体験の提供などを行っています。

景勝ポイントの一つ、「瀬戸」の風景。「変化に富んだ水流が三段峡らしいと思います」

──なぜ、そのようなご活動をされているのですか。

宏美さん:
ネイチャーポジティブという言葉が生まれたように、今は環境に配慮する社会を目指す動きが活発です。ただ、その自然に身近に触れて「すばらしい!」とか「楽しい!」と思う機会はどんどん減っている気がします。

たとえば川で遊ぼうと思っても、安全性の問題などから、遊べるような場所がどんどん減っています。三段峡をフィールドに、自然に触れ、そのすばらしさを感じる体験を、たくさんの人に届けたいと思っています。

──三段峡の自然の魅力を教えてください。

宏美さん:
三段峡は、1960年代上流部にダムができたものの、川は護岸工事もされておらず、魚類の専門家からも「完全な川」と言われています。人の手が加わっていないことで、本来の景観と河川環境、生態系が残されています。

国定公園の特別保護地区にも指定されていて、縄文時代より前からの自然環境がそのまま守られています。だから絶滅しかけているいきものや特別天然記念物のオオサンショウウオの姿もふつうに見られます。

オオサンショウウオの調査の様子

炎さん:
オオサンショウウオは河川の生態系ピラミッドの最上位種できれいな水が流れている場所にしか卵を産みません。オオサンショウウオが世代をつなぎながら生息しているということは、それだけ豊かな生態系があることを意味します。

オオサンショウウオが子を産み、また育っていくには、川に様々な環境が必要です。卵を産む場所、幼生が過ごす場所、小さな個体でもエサを食べられるような落ち葉のたまった場所、いろいろな環境が必要です。

本来の川は流れの緩急や、石がごろごろとある部分、砂地の部分など、たくさんの環境がモザイクのように組み合わさってできています。それは他の魚やいきものにとっても重要で、河川全体で豊かな生態系が保たる大きな要素です。

いきもの調査の様子。自分たちが捕まえた魚を観察しているところ

開峡100周年、三段峡を再定義したことが
団体立ち上げのきっかけ

「先人たちが作った道を人が歩いている姿が好きです。特に子どもたちが歩ていると、とてもうれしい気持ちになります」

──団体は2016年に設立されたそうですが、立ち上げのきっかけを教えてください。

炎さん:
ここ安芸太田町は広島県で一番人口が少なく、人口減少率も高齢化率もナンバーワンの町です。
寂れた観光地だった三段峡を町おこしとして活用しようという動きがあり、ハコモノに頼らず地域の人たちが三段峡を再定義したことに端を発します。

宏美さん:
三段峡は100年前、日露戦争の軍人であった熊南峰が写真家としてこの地を訪れて、その景観に心を奪われました。わたしたち「さんけん」は、南峰の想いを引き継いで活動をしています。

それまで「悪谷」や「地獄谷」と呼ばれ、人が入るのが難しい場所だったこの峡谷に、南峰は「都会の人にとって、癒しの場所になる」という強い信念のもと、地元の人たちの協力を得て道をつくりました。現在も残る探勝路は、自然への負荷を最小限にして、美しさも損なわない配慮がされています。

ネイチャーツアーの様子。「小さな植物の違いを確かめながら、観察しています」

宏美さん:
2017年に開峡100周年を迎えるにあたり、箱物とかイベントといった表向きで一時的なもので盛り上げるのではなく、もっと深い部分で三段峡を捉え直す必要があるとして、南峰が唱えた三段峡の価値と精神性が見直され、「三段峡憲章」が誕生しました。

炎さん:
僕らをはじめ、この憲章の誕生に携わったメンバーが、「憲章をただ壁に飾っておくのではなく、実際に実行する組織をつくろう」ということで、この団体が設立されました。

この憲章は、団体としても非常に大切にしているものです。

環境省絶滅危惧II類に指定されているイシドジョウ。西日本のごく限られた川にのみ生息している

“Be One with the River(川とともに生きる)”

秋の三段峡。「三段峡の上流部にある小さな滝。静かで清らかな空気が透明な水にのって運ばれてきます」

──団体のキャッチコピーである”Be one with the river(川とともに生きる)”にはどんな思いがありますか。

宏美さん:
川の近くに行かないと、川のいきものは見られません。
遠くから眺めているだけだと、雨水を海に運んでいるだけのように考えるかもしれません。でもその中にとてもかわいいいきものがいるんです。

川底にはスナヤツメやカジカ、流れと一緒に泳ぐムギツクやオイカワ…。でも、この川も昔の姿とは違います。水温が上がっていたり、ダムや堰が作られたり、人間の生活の影響で川で暮らすいきものの種類も変わってきています。

ダイオウゴマガイ。「足元の落ち葉や石の裏にもたくさんのいきものが暮らしています。わずか数ミリの陸貝などもひっそりと息づいています」

炎さん:
こういったことは、川を調べ続けていないと気が付きません。
蒸発した海水が雨になって陸に降り、また海へ還るのが川です。川の環境は私たちの暮らす自然環境の指標になるのです。

“Be One with the River”は”川と一つになる”、”川とともに生きる”といった意味です。

日々の暮らしの中で、もっと川に寄り添う気持ちを当たり前にしたいと思ってこの言葉を大切にしています。そのために豊かな自然が残る三段峡をフィールドとして、調査研究を行いながら、世代を通して様々な人が環境保全に関われる活動をしています。

「女夫淵」から見た水面の様子。「美しい水面が紅葉の山々を反射して輝いています」

「名前を呼ぶことで、ものに愛着を持つ」

落ち葉をつかった自然体験にて、葉っぱを見つめる子ども。「たくさんある落ち葉も、一つひとつ、表情が違います」

──お二人が、三段峡というフィールドを通して伝えたいことはどんなことでしょうか。

宏美さん:
私が知ってほしいことは、「名前を呼ぶことで、ものに愛着を持つ」ということです。

川が川として存在し、水が水であるすばらしさは、何というのかな、私たち人間との関わりの中から生まれると思うんです。川は、人との関わり、人の認識の中で「川」と呼ばれるものになる。川に限らず、人がその名前を呼ぶことで、そこに思いが加わって、互いが生かされているのです。

三段峡に咲くソヨゴ。「樹木の花を見たことはありますか? 椿は大きくて赤い羽根が咲きますね。でもこのソヨゴは、とても小さな白い花を咲かせます。葉もしっかりしており、風が吹くたびにそよぐから『ソヨゴ』。冬の間は硬く耐え、緑の葉っぱを茂らすのに、花はこんなに小さくかわいいです。そこにとても惹かれます」

炎さん:
妻は植物が好きで、名前をたくさん知っています。

「名前が呼べる」ということは「違いを知っている」ということ。一つひとつの個性を知っているということだと思うんです。
「名前を呼ぶことは、そのものに対して敬意を表す」というネイティブインディアンの言葉があります。名前を知ろうとするのは、自然を大切にする最初の一歩だと思います。

(写真左)ナメラダイモンジソウ。川岸に咲く花の形が「大」の字に似ているかわいい花。(写真右)ヒトリシズカ。すっと立った白い花が美しい

──確かに…。知らないと、その前に知ろうという気持ちがないと、その名前を呼ぶことはできませんね。

炎さん:
「自然を大事にしよう」という言葉は、ひと昔前よりもずっとたくさん聞かれるようになりました。自然や生態系保全への関心は、ずっと高くなっています。

だけど今、どれだけの人が、草や木、花や苔、いきものの名前に関心を持っているのかなと思うことがあります。
昔の人は名前を知り、その特性を知って、自然を上手に活用していたんですよね。「自然を守らなきゃ」という意識は強まっているのに、自然が人の生活から切り離されているように感じます。

アカショウビン。「森の中かから『トゥルルルー』と独特の鳴き声を響かせます。樹洞に住むために、良い森にしかいません」

自然と人との結びつきを、つなぎ直す場所

川の体験イベントにて、怖がりな子どもが水に浮かんで満面の笑み。後ろのお父さんもうれしそう

宏美さん:
自然に触れ、感じたときの、心地よさがあります。
それが、本当の意味で自然を守っていくことにつながっていくと思っています。

三段峡は「問いかける渓谷」ととらえるのはとても気に入っています。
渓谷に入った時、心地よさや癒しを、動物である私たち人間も必ず感じる。風を感じたり、冷たい水に触れたり、砂利を踏んだり、川の中にいるいきものを探したり…。自然の一部に触れ、そこで「楽しい、美しい」と感じた時に、そこに愛や優しさが生まれ、一人ひとりの行動や発想の変化につながります。

言葉で伝えるのが難しいんですが…、「ここから世界を変えていける」、私たちはそう信じて活動しています。

炎さん:
三段峡は、自然と人との結びつきを、つなぎ直す場所じゃないかと思います。

目の前に咲く小さな花、足元に生えている苔の存在を知る。「自然を守る」のではなく、「自然と共に生きていく」感覚を、三段峡は思い起こさせてくれます。

川の石に立ち、三段峡の自然に浸る炎さんと宏美さん。活動初期の頃の一枚

100年先へ、三段峡を残していくために

瀬を登ろうとする子ども。「全身を使い、川と向き合います」

──お二人が好きな三段峡を教えてください。

宏美さん:
川の音がすごく好きです。
真冬と真夏で、水の音が違うんですよ。

──ええ?!そうなんですか。

宏美さん:
夏は水温18度ほどで、ちょっとした渓谷を下る時にできる滝に落ちる音が高くなるんです。冬は水温2度ほどになり、そうすると、流れる音が低いんですよ。さらに雪が降ると、雪が音を吸収してくれて、静かに聞こえるんです。

──ええー!すごい。知りませんでした。

炎さん:
水は温度によって粘度が変わるので、お湯をコップに入れる時と、水をコップに入れる時でも音が違います。

狭い渓谷をサルが飛んで越えていたといわる「猿飛」の景色。「深く静かな淵がとても好きです」

──それが川の流れで感じられるとは…。なんど壮大なスケール。本当に人工物がなくて、そこにある自然を感じられる環境なんですね。炎さんはいかがですか。

炎さん:
「瀬戸(せと)」という景勝が好きです。大きな石の間を渦巻くように流れる水の迫力がものすごいんです。有名な滝もありますが、僕はここの景色が好きです。自然の中の一部になった気持ちになります。

──お二人が残していきたいものを教えてください。

宏美さん:
三段峡は最小限の道を作ってありますが、崩れてしまうとそのまま道が塞がれてしまいます。
未来の子どもたちが、この16キロの道を整備し続けたいと思わないことには、道は残っていきません。だからこそ、たくさんの人と一緒に守り続けていく必要があると思っています。

──「思い」が継がれていく必要があるのですね。

地域の人たちとイベントを企画中。「年配の方と若い方が対等に話し合う場づくりも大切にしています」

「自然は、あなたのとなりにある」

「枯れた立木を、キノコが分解しています。菌類によって分解されながらいろんないきものの命を育み、次の命をつなげている木々の姿が好きです」

炎さん:
全国に自然的な特別名勝は12か所しかありません。その中には、かの「富士山」もあるんです。

三段峡もまた、広島や日本の自然の良さを伝えてくれる日本の宝だと思っています。もっともっとたくさんの人、日本だけじゃなくて世界の人に大切なことを教えてくれる場所として残していきたいと思っています。

三段峡にはオサンショウウオが豊かに生息しているとお話しました。でも伝えたいのは「オオサンショウウオを守ろう」ではなくて、オオサンショウウオに限らず、植物やいきものたちが「あなたの隣にいる」ということです。 

実はよく見ると、僕たちの暮らしの周りは、さまざまないのちが溢れている。同じいのちとしてこの地球に一緒に生きていることを思い出す、三段峡が、そのきっかけの場所。そう思っています。

「三段峡のビジターセンターの運営もしています。訪れた方々に三段峡の魅力を伝える大切な施設です。この施設は皆さんの寄付で運営しています」

──読者の皆さんへ、メッセージをお願いします。

炎さん:
三段峡は2025年、名勝指定から100周年を迎えます。
次の100年を見据え、この先、自然とどう向き合っていけばいいのかという問いを、皆さんと考えていけたらと思います。

宏美さん:
ぜひ三段峡に、私たちに会いに来てほしいと思います。
私たちを通して、いろんなものに出会ってくれたら嬉しいです。

──最後に、チャリティーの使途を教えてください。

炎さん:
チャリティーは、三段峡の整備・保全のため、またここで暮らすいきものたちの生息地の保全や調査のために活用させていただきます。また若い調査員を育てるのも大切にしています。ぜひ、応援いただけたら嬉しいです。

宏美さん:
自然に気持ちを寄せることが、世界の環境を守ると思います。今回のJAMMINさんとのコラボグッズを着て、一緒に三段峡を歩きましょう!
三段峡のかわいい花を教えますよ。

──貴重なお話をありがとうございました!

冬のオオサンショウウオ調査に集まった皆さんと。「70歳を超える大先輩から20代の大学生まで、皆で一緒に調査に取り組んでいます」

“JAMMIN”

インタビューを終えて〜山本の編集後記〜

お二人のインタビューから、三段峡という場所が持つさまざまな景色、澄んだ音、匂いや感覚、エネルギーまでもが伝わってくるようでした。
それはきっと時を越え、三段峡を成す一つひとつの生命、またここに思いを馳せてきた人たちの魂ともに、意識として在り続けてきた姿、信念であり、祈りのようなものではないかと感じました。豊かな土地、生態系、意識が、もっともっと広がっていきますように。
三段峡、私も行ってみたいです…!

・さんけん ホームページはこちらから

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【2025/3/31-4/6の1週間限定販売】
オオサンショウウオを中心に、アマゴやヤマセミなど三段峡に暮らすいきものを描きました。
版画のようなタッチで描き、またオオサンショウウオの体に宇宙を描くことで、その神秘性や尊さを表現しています。

“Be one with the river”、「川とともに生きる」というメッセージを添えました。

チャリティーアイテム一覧はこちら!

JAMMINは毎週週替わりで様々な団体とコラボしたオリジナルデザインアイテムを販売、1点売り上げるごとに700円をその団体へとチャリティーしています。
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