CHARITY FOR

「寄付車を通じ、やさしさが循環する社会を」。寄付で集めた車を使い、新しい支え合いの仕組みをつくる〜一般社団法人日本カーシェアリング協会

2011年3月11日に起きた東日本大震災で、6万台もの車が被災した宮城・石巻。
この町からスタートした、「カーシェアリング(車の共同利用)」という新しい支え合いの仕組みは今、日本全国に広がっています。

今週JAMMINがコラボするのは、一般社団法人「日本カーシェアリング協会」。
震災後、被災した人たちの日々の生活を取り戻すためにと、寄付車を集めて始まったカーシェアリングの取り組みの背景には、1995年1月17日に起きた阪神・淡路大震災での経験がありました。

「被災地に限らず、車があることで前に進めることがたくさんあります。『困っている方のためにがんばってくるのよ』と送り出された車が活躍している社会は、すごくやさしい社会だと思います」と話すのは、日本カーシェアリング協会ソーシャル・カーサポート事業部長の石渡賢大(いしわたり・けんた)さん(34)。

活動について、お話を聞きました。

お話をお伺いした石渡さん(写真中央)。平成30年7月豪雨(2018年、西日本を中心に全国で発生した集中豪雨)支援の際、車の貸出拠点にて、現地スタッフ、ボランティアさんと

今週のチャリティー

一般社団法人日本カーシェアリング協会

寄付車を活用してさまざまな課題に向き合うことで、助け合いにあふれ、安心して暮らせる社会の実現を目指して活動しています。

INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2025/01/13

「寄付車のシェア」で、人々の日々の生活を取り戻す

(写真左上)2024年1月に起きた能登半島地震では、社会福祉協議会が運営するボランティアセンターにも貸出しを実施。「ボランティアさんが被災現場宅でにボランティアするためにも移動が必要。車がないことでスムーズにボランティア活動ができない状況が生まれるため、ボランティアセンターさんへの車の貸出も積極的に行いました」。(写真右上)能登半島地震で、6台の車を被災した方へ車を貸出した時の一枚。「日常生活(通勤、買い物)などのために使っていただいています」。(写真左下)令和6年1月能登半島地震の災害ごみの運搬で使われる協会の軽トラック。「被災地では瓦礫運搬のための軽トラックが不足します。とりわけ地震の災害ではそれが顕著に表れます」。(写真右下)令和2年7月、熊本豪雨にてボランティアによる瓦礫運搬のためで活用される軽トラック

──今日はよろしくお願いします。最初に、団体のご活動について教えてください。

石渡:
寄付いただいた車を活用し、新しい支え合いの仕組みをつくっている団体です。
災害により車が失われてしまった地域や過疎が進む中山間地域、あるいは車を所有することが難しい方たちに、車の貸出しを通じた支援を行っています。
2024年1月に地震、また9月に豪雨災害の起きた能登では現在、協会の車が380台ほど活躍しています。

私たちの活動は、2011年3月に起きた東日本大震災のすぐ後、震源地に最も近かった宮城・石巻で生まれました。津波により、石巻では6万台以上の車が流されました。つまりそれだけの方が、日常生活に不可欠だった車を失ったのです。
寄付で集まった車を届け、カーシェア(共同利用)というかたちで活用いただくことで、日々の生活を取り戻すお手伝いができたらと活動をスタートしました。

2011年3月11日に起きた東日本大震災にて、津波で流される車。写真は、日本カーシェアリング協会紹介動画より→https://youtu.be/v5k6OttGJ2s 

──6万台の車が流されたとのこと、街の多くが流されてしまったと思うのですが、そのような中で、車にはどのようなニーズがあったのでしょうか。

石渡:
津波で多くが流された街での生活は、通常とはもちろん異なりました。
家族や知人の安否確認のため、あるいは山に水を汲みにいくため、暖を取るものを取りにいくため…、生きるために移動が、そのために車が必要でした。

特に仮設住宅は、広い土地のある辺鄙な場所につくられることが多く、そこで暮らしていくにあたり、車の必要性はより強く感じられるところだったと思います。

2011年、仮設住宅でのテストが始まった時の様子(仮設万石浦団地)。「最初の車を、活用先の仮設万石浦団地に届けた時の写真です。私たちの車を最初に利用された方々です」

──そうだったんですね。

石渡:
当協会を立ち上げた代表の吉澤の師匠で、1995年に起きた阪神・淡路大震災の後に「神戸元気村」というボランティア団体を立ち上げ、被災者の生活の再建に取り組まれた山田和尚さんという方がおられます。

山田さんは、ご自身の阪神・淡路での経験から「これからどんどん仮設住宅ができて、移動に困る人が増えていく。復興に向けて進んでいく時に、車を共有できる仕組みがあれば、絶対に被災した方たちの力になる」と震災の翌月に吉澤に伝えました。

記念すべき、協会で1台目の寄付の車。「京都府内の企業様よりご寄付いただきました」

石渡:
それを聞いた吉澤が、翌日から「会社四季報」を片手に、一部上場企業を一軒一軒回り、車の寄付のお願いを始めました。
始めた頃は全く相手にされなかったものの、4、50件アプローチした末にようやく、最初の一台が手に入ったと聞いています。

協会を立ち上げた吉澤さん(写真右)、被災した方たちの車の必要性を伝えた山田さん(写真左)。「山田さんは、阪神淡路大震災の時に民間のボランティア団体『神戸元気村』を創設、50以上のプロジェクトを立ち上げ、約7年半活動を行いました。元々はカヌーイストの先駆け的な存在でしたが、オゾン層が破壊されていることを知った山田さんは、自身のカヌー教室を閉じ、家を売って、軽トラに乗って一人で『オゾン層保護活動』の全国キャラバンをされていました。その時に築いたネットワークを活かし、全国から物資を集めて活動を開始し、そこに多くのボランティアが集い、活動が生まれたのでした。山田さんは、『一人が動くことから世界が変わる』という信念を持って活動をされていて、実際に世界を変えてきた方でした。吉澤は、そんな山田さんの信念を受け継ぎ、この取り組みを続けています」

「コミュニティ・カーシェアリング」で
地域の人たちの関係を構築する

石巻の「貞山カーシェア会」結成の際の集合写真。「車を囲んで、会員の皆さんが写っています。楽しみながら地域の助け合いの仕組みをつくっていく一歩目の写真です。この車で乗合で買い物に行ったり、ちょっとしたお出かけのお手伝いをしたりなど、楽しい助け合いが生まれています」。この車の提供者さんのインタビュー動画→https://youtu.be/SLiEgpnMsGY

──阪神・淡路大震災での経験を踏まえて、東日本大震災をきっかけに始められたご活動なんですね。

石渡:
はい。実際に仮設住宅で車の支援を始めてみると、移動の不便を解消するだけでなく、「コミュニティづくり」に大きく貢献することがわかったんです。

石巻の仮設住宅では、抽選で選ばれた方たちが「ご近所さん」として生活しました。住民同士はほぼはじめましてで、コミュニケーションが取りにくい状況だったのですが、車の共同利用があったことで、人の関わり合いや助け合いが生まれ、やさしいコミュニティが形成されていったのです。

2011年、仮設住宅の住民に向けて、カーシェアの説明を行う

石渡:
ただ移動手段としてだけではなく、コミュニティの構築という、車の共同利用の明るく大きな可能性を教えてもらいました。

この可能性を引き継ぎ、現在は「コミュニティ・カーシェアリング」という取組みとして、石巻では11地域、石巻以外では全国17の地域(2024年12月時点) で活用いただいています。

定例の買い物ツアーへの出発の様子。「車内はいつも大盛り上がりです」

──どのような内容なのですか。

石渡:
カーシェア会という車を共同利用するグループで車を借りていただき、会員の皆さんで使っていただいています。主な使われ方としては、皆で日にちを決めて買い物やプチ旅行に行くとか、通院のお手伝いなどがあります。

各カーシェア会で、定期的に行われる「おちゃっこ会」。「来月どこにおでかけするかといったことや新しい会員さんとの交流、ルールの見直しなど様々なことが話し合われています。そして後半はみんなで楽しくお茶のみ。おちゃっこ会は親睦を深め、会の動きをみんなで話し合う大切な場になっています」

石渡:
車を中心に「一緒にどこどこへ行きましょう」や「送って行ってあげるよ」というやりとりが生まれ、やさしさと感謝が循環しています。車内で同じ空間を共有するからこそ、いろんなことが話せたりもしますよね。

車の中が温かい雰囲気で、皆さん本当に良い笑顔で、すごく素敵な活動だなと私も関わっていて思います。

──素敵ですね。

「皆で車に乗って、季節のお花を見に行ったり、お買い物に行ったり、はたまた少し遠出の日帰り旅行に出かけたり。温かな時間が流れています」

石渡:
コミュニティに関わってくださっている最高齢は98歳のおばあちゃんなのですが、毎週の買い物ツアーを生き甲斐にしてくださっていて、「みんなと楽しくおしゃべりしたいから、補聴器を買った」と言っておられました。

地方へ行くと、生活に車は必須です。しかし高齢になって免許を返納されて、なかなか思うように外出できない方もおられます。
必要なものをお子さんやご近所さんに買ってきてもらったり、宅配を利用したりもできますが、自分の目で見て選べることもだし、皆と出かけて「これ良いね」って言い合えるだけで、買い物ってこんなに楽しくなるんだなと思います。

──地域の方たちの移動問題の改善だけでなく、生活をより豊かにする役割も果たしているんですね。

ボランティアドライバーの方の声。「会社を辞めてから、社会との関わりがあった方がいいと思って始めました。移動のお手伝いをして感謝されたり、お出かけツアーを企画して楽しかったと言われると嬉しい。サラリー関係なく、ボランティアというのが自分にとってちょうどいい」「第二の人生はお金を一切もらわずボランティアをしようと思っていた。震災で母を亡くして、親孝行があまりできなかったので、同じくらいの年齢の方のお手伝いができたらなと思っていた時、タイミングよくボランティアドライバーの機会に恵まれた、というのが私が今関わっている理由です」

災害時に、被災地に車を無償で貸し出す
「モビリティ・レジリエンス」

「オートバックスセブンさまから寄付いただいた車両を陸送で被災地へ運搬していただく際の写真です。この車たちは被災地到着後、すぐに貸出しされました」

石渡:
団体として行っているもう一つの活動が、自然災害時に、寄付で集めた車を、被災者や支援団体へ一定期間無償で貸し出す「モビリティ・レジリエンス」です。

近年、日本各地で自然災害が起きていますが、被災して車を失い、困っている方々がおられます。2013年に埼玉で大雪災害が起こり、その際に協会が持っていた軽トラックを出したことから、この事業が始まりました。

協会としては、災害が起きるたびに現地に臨時の拠点を設置し、全国からそこに車を集めています。2024年は、臨時の災害拠点だけで14拠点を置きました。

能登半島支援の七尾拠点のスタッフ集合写真。2024年の能登半島地震の際は、震災発生から4日後の1月5日から石川に入り、支援の準備を開始した

──ええっ、そんなにたくさん置かれたんですね。

石渡:
石川で9拠点、山形に2拠点、秋田に1拠点、宮崎に2拠点、設置しました。

石川では、1月に能登半島地震、9月に奥能登豪雨が起こりましたよね。
通常であれば、3、4ヶ月もすると少しずつ状況が落ち着き、協会が貸し出す車の台数も減ってくるのですが、能登の場合は、1年が経つ今でも、毎日のように軽トラックの貸し出し要請があります。
それだけ被害が大きいということを実感しますし、家の解体や仮設住宅への引っ越しなども進んできたので、家財などを動かす時にニーズがあるのかなと思います。

「2017年に起きた九州北部豪雨の際、協会に入って初めて、被災地を訪れました。流木があらゆる場所を埋め尽くしており、自然災害の恐ろしさを実感しました。スタッフとして初めて被災された方に車を届けた経験でもあったため、車があることでホッとされた表情をされたのを見た時に、車の大切さを芯から理解することができたように思います」

石渡:
また石川では、被災した方への日常使いの貸し出しも、現時点で250件ぐらい続いています。
中には、1月の地震で車が被災し、新しく買われたばかりの車が、9月の大雨で被災したという方もおられました。
いずれにしても、なかなか普段の生活に戻ることが難しい、大きな被害の状況が見えてきます。

活動になくてはならない「架け橋ドライバー」。「写真は、2023年の秋田豪雨の際に石巻から秋田まで車を運搬していただいた架け橋ドライバーさんとスタッフです。私たちが活用する車のほとんどは、架け橋ドライバーという自走で車を運んでくださるボランティアさんが運搬してくださいます。車を寄付してくださる方のいる場所から車を必要としている人のもとへ車をつなぐ、架け橋役を担っていただいていることからこう呼ばせていただいています。今年、架け橋ドライバーの登録者は1000人を超えました。架け橋ドライバーの皆さんがいることで、全国から提供いただける車の受け取りや、被災地・拠点への運搬がスムーズにできています。「一度被災を経験して災害の大変さを知ったので、その恩返しとしてできる時に関わっています」という方や、「片道の交通費が出るので、プチ旅行として楽しみながら参加しています」など、様々な動機で関わってくださっています。「運転なら自分にもできるから」と比較的関わりやすい被災地支援のカタチとして好評いただいています。私たちにとっては本当になくてはならない存在です」

地域を元気に。
有償で車を貸し出す「ソーシャル・カーサポート」

石巻事務所に並んだ寄付車たち。「この後この車たちは3つの事業で活躍してくれました。被災地の拠点にも同様に車が並んでいます」

石渡:
さらにもう一つ、平時より寄付車を貸し出すことで、人と地域を元気にしようと2016年に始めたのが、地域の団体や個人の方に有償で車を貸し出す「ソーシャル・カーサポート」という取組みです。

わかりやすい事例でいうと、移動支援やフードバンク活動(食品の受け渡し)など、地域で移動が必要不可欠な活動をされているNPO団体さんがあります。
しかし活動のために専用の車を調達するとなると、特に財源の問題から、そのハードルはものすごく高いです。使途が限られた助成金では車が買えなかったり、今年は助成が出ても来年も出るとは限らなかったり…、さまざまな理由から、リスクを抱えながら個人の車を使われていることも少なくありません。

そういった団体さんがもっと気軽に車が活用できて、それによって、地域の方たちも元気になってもらいたい。そんな思いで実施している、一般的に車を借りるよりも安価で、短期間でも借りられるレンタカーやカーリースの取組みです。

「石巻で活動されているフードバンクいしのまきさん。食品の受け取りに車が必須ということで、貨物車を愛用いただいています」。フードバンクいしのまきさんの声:「車は必需品だが、財源の関係で車を購入することが極めてハードルが高いので、比較的安価で車を使わせてもらえて大変助かっています」

──助かりますね。

石渡:
個人の方への貸し出しについては、経済的に困窮した状況にある方が、車を持てるようになるまでのつなぎの間を応援しようということで、行政の困窮者支援窓口とタッグを組み、限界まで安くして車をお貸ししています。

地方に住んでいると、「働きに出て収入を得たい」と思っても、車がないことでそのスタートラインに立てなかったり、あるいは仕事先が限定されてしまい、ワーキングプアから抜け出せなかったりということがあります。そのような状況にある方に車をお貸することで、前に進むお手伝いができたらと思っています。

「石巻市内でこども支援を行っている団体さんでは、子どもの送迎などで車は必要不可欠ということで、複数台活用していただいてます」。団体さんの声:「子どもたちの送迎や校内居場所カフェの移動に使ってます!ありがとうございます!」

今日も、1年ほど前に車をお貸ししていた方から「借りた車があったおかげで、就職することができた。車がなければ、暮らしに行き詰まるところだった。おかげさまで今は順調です」とご連絡をいただきました。

「ソーシャル・カーリース」にはさまざまなメニューがあり、気軽に車を使ってもらえるので、NPOの方、地方に移住したばかりの方、地域おこし協力隊の方にも好評いただいています。また、平時は安く使えるけど、いざ災害が起きた時にはご返却いただき、被災地の支援車両として活躍してもらうフェーズフリーなカーリースのプランもあります。

車を使っていただくことが社会貢献につながる、そんな私たちらしい車の使い方をこれからも作っていきたいですね。

思いを持ってご寄付いただいた車が、災害時だけでなく、平時からたくさんの方にお役に立てているのは、ご寄付してくださった方にとっても車にとっても、嬉しいことだと思います。
また、この事業は安くはありますが有償でお貸ししていますので、私たちの大切な活動資源にもなっています。

活動を通じてインパクトを社会に残すために、ロジックモデルを作成する協会スタッフの皆さん。「起こしたい社会の変化をイメージし、それぞれの事業の活動内容の見直しや今足りない音などを真剣に議論しました」

「車と共に託された、思いもつなぐ」

借りていた車を返却する際、利用者さんに書いてもらっている「ありがとうノート」より。「写真は、能登半島地震で被災された方にご記入いただいたありがとうノートです。被災した時の思い、車が使えることでできるようになったこと、気持ちの変化などが綴られています。このありがとうノートを見ると、車の支援ができて本当に良かったなと思います」

──活躍しているのは、どんな車たちなのでしょうか。

石渡:
すべてご寄付いただいた車です。協会ではこれまで活用する車として1,516台のご寄付をいただき、716台が実働しています。
個人、もしくは企業からのご寄付で、企業の場合はまとめて5台、10台ご寄付いただくこともあるので、台数としては企業からの数が多いですが、寄付いただいた方の割合でいうと企業と個人、半分ずつぐらいでしょうか。

──どういうきっかけで寄付されるのでしょうか。

石渡:
買い替えのタイミングで「下取りに出しても良い値段がつかないから、だったら何か役立ててもらいたい」とご連絡をいただくことが多いです。

あるいは免許を返納されるタイミングで、自分の最後の相棒だった車を「まだ乗れるから、ぜひ使ってほしい」とご連絡いただいたり、ご家族が亡くなられた際に「父が大事に乗っていた車を、役に立ててもらえないか」とご連絡をいただいたりすることもあります。

所有していた方の、さまざまな思いを持って寄付される車。「能登半島地震に際して、ご寄付頂いたお車です。『結婚のお祝いに両親がプレゼントしてくれた車です。その後2人の子どもに恵まれ、子どもたちの成長を見守ってくれました。祖母の家が輪島にあり、毎年訪れていた大好きな場所です。地震で倒壊してしまい、取り壊しされてしましました。ボランティアなどを通して少しでもお役に立てることはないかと思っていたところ車の寄付のことを知り、ちょうど車を買い替えたためぜひ役立てていただければと思いました』とのこと。こちらの車は現在も、能登半島地震で被災された方の支援車両として現地で活用されています。お車の提供者さんの言葉は私たちにとってかけがえのないものです」

石渡:
私たちとしては、車の状態を伺って、そのまま活用させていただくのか、あるいはリサイクルという形で活用させていただくのか、ご提案させていただきます。

リサイクルでの活用とお伝えした時に、「車として現地で走らせてもらえないんだったら、ごめんなさい」とお断りされるケースもあります。
でも、それはそれで全然良いと思っています。愛車との幸せな別れ方のひとつとして、ご本人が納得の上で寄付を選んでいただくというのが私たちの本意であって、幸せではないお別れは、避けたいからです。

乗合でお出かけする時の一コマ。「どんな楽しいことが待っているのか、毎回ワクワクです。地域で、被災地で、寄付車があるおかげで、ポジティブな出来事がたくさん生まれています」

石渡:
ただ、リサイクルというかたちでも、車の中にある使えるパーツや資源(鉄やアルミなど)を市場に循環させることで生まれる資金が、被災地支援等の原資になります。間接的ですが、大切にしていた車が、困っている方を助けるための力になります。どんな車でも必ずお役に立てるので、ぜひ検討してもらえたらと思います。

──かたちを変えても、どこかで活躍してくれると思うと嬉しいですね。

石渡:
やりとりをしていく中で、感動的なシーンもたくさんあります。
愛車とのお別れの際、車のボンネットを撫でながら、「あんた、がんばってくるのよ」と送り出されることがあります。人生のひとときを一緒に過ごした車への思い入れというのは、きっと皆さんもそうだと思いますが、並々ならぬものがあるのではないでしょうか。

石川県能登町の「うかわカーシェア会」。「能登半島地震の影響で設置された仮設住宅で、2024年からコミュニティ・カーシェアリングの活動が始まりました。合言葉は『がんばっぺ、うかわ!』。石巻の仮設住宅で生まれた仕組が、13年経ち能登の被災地でも助け合いを広げています」

石渡:
「愛車との別れが、温かい別れでよかった」とおっしゃっていただくこともあって、それは私たちにとってもすごく嬉しいですし、協会として、すごく大事にしているポイントかもしれません。

ただ車だけをご寄付いただいているのではなく、車への思いも一緒に託していただいているということは、活動をしながら強く感じます。そんな皆さんの思いを大事につないでいきたいと思いますし、託していただいた車が、最後にその車の人生というか、役目を全うしてもらえるような使い方をしたいと思っています。

石渡さんが印象に残っている出来事。「私が協会で働き始めて最初に受け取った車のことが、今でも心に残っています。2017年の九州北部豪雨(福岡県)の時、被災された方への支援をするために車の寄付を呼びかけました。車は、福岡県八女市の方からいただいたアルトです。提供してくださったのは、写真右側のおばあさんでした。とてもきれいなお車だったので、純粋に『何故こんなにきれいで状態も良い車を寄付をしようと思ったのですか?』と尋ねました。そうしたらそのおばあさんがこういったのです。『私はこれまで80数年生きてきて、たくさんの人に助けられてたの。もうそんなに老い先が長くないので、私が恩返しすることは難しい。だから、私の車をあなたに託すので、この車でたくさんの人を助けてくれるなら、それが、私ができる一番の恩返し何じゃないかと思ったの』。こんな気持ちで車を寄付してくれる人がいるのだと衝撃的でした。このことは生涯忘れないと思いますし、それ以来協会に寄付される車1台1台にこういった思いがあるということを胸に刻んで仕事に取り組んでいます」

「全国で、やさしい寄付の車が走る社会の実現を」

今日も全国で、たくさんの人の思いと人生を乗せて、活躍する車たち。「先日、活用する車の寄付台数が1500台に到達しました。これからも寄付車の力を借りて、助け合いにあふれる社会づくりに取り組んでいきます。車の寄付が日本で当たり前の選択肢になるように、活動をしっかりと進めていきます」

──活動の中で、車とはどのようなものだと感じておられますか。

石渡:
まさに「人生を乗せる」、なくてはならないものなんだろうなと思います。
私も毎日家を出て、車に乗って会社へ行き、また車に乗って帰ってきます。都会の一部を除き、車がないと生活が成り立たないという地域の方が多いと思いますが、何かの拍子にそれが失われた時、そのリカバリーというのは本当に大変だと、活動をしながら感じています。

車は贅沢品と思われている節があり、車を失った人への具体的な支援は、世の中にほとんどありません。
だからこそ私たちの活動に価値があって、いろんな状況から車にリーチできず、困難な状況を強いられている方たちに、車を通して、生活を守ったり、取り戻すお手伝いができればと思っています。

石巻でコミュニティ・カーシェアリングを行っている全カーシェア会を招いて開催した「大おちゃっこ会」にて。「東日本大震災後、万石浦仮設住宅で生まれたカーシェアリングの活動は、たくさんの人が関わる素敵な活動に成長しました。『石巻の方が誇れる活動にするんだ』ということを活動の当初から意識して活動をしてきました。石巻で生まれた寄付車のカーシェアの仕組みが、今以上に石巻から全国に広がっていくように、そしてもっと地域の方に愛され、誇らしいと思っていただける活動にしていけたらと思います」

──読者の方に、メッセージをお願いします。

石渡:
私はこの活動をしていて、託された車たちが活躍する姿を見るのがすごく嬉しいんです。新しくはない車だけど、思いや笑顔、人生を乗せて、一生懸命走っている姿はどこか誇らしげで、純粋に、がんばれ!という気持ちになります。

日本では毎年約300万台の車が廃車になっています。
たとえばその中の、たった0.1%だけでも寄付に回すことができたら、「乗らなくなった車を、寄付して活用する」ということが、多くの方の選択肢に入ってくれば、車がないことで困っている方たちの状況が、一気に改善するのではないかと思っています。

車があることで前に進めることって、たくさんあります。愛車とのお別れの際に、誰かの生活をよくするために寄付するという選択肢をご検討いただけたら嬉しいです。

「あんた、困っている方のためにがんばってくるのよ」と送り出された車が活躍している社会は、すごくやさしい社会だと思うんです。
私たちはこれからも、寄付車でつくるやさしい未来の実現を目指していきたいと思っています。

現在、東京・御茶ノ水で、能登半島地震から1年に合わせ、日本カーシェアリング協会の災害支援に関する企画展示を開催中(1/30まで)。「災害時の様子、車の必要性などが伝わる企画になっておりますので、お近くの方は是非ご来場いただけましたら幸いです」。展示会タイトル:一般社団法人日本カーシェアリング協会 災害支援企画展 能登半島地震から1年「被災地に必要な車の支援とは 会場:ECOM駿河台2F(東京都千代田区神田駿河台3丁目11−1)、開館は平日12:00-18:00

──最後に、チャリティーの使途を教えてください。

石渡:
チャリティーは車がないことで困りごとを抱えている方に、車をお貸しするために活用させていただきます。車検などのメンテナンス、自動車税など、車を維持していくには少なくないお金がかかります。

寄付でいただいた大切な車が長く活躍できるように、ぜひ、応援いただけたら嬉しいです。

──貴重なお話をありがとうございました!

協会スタッフの皆さんと。「2024年のクリスマス、いつもご支援いただいている方からクリスマスプレゼントが届きました。車の寄付、お金の寄付、車用品の協賛、車の運搬などなど、応援いただいている方がいるおかげで、私たちの活動ができています。感謝の気持ちをもってこれからも活動を進めていきたいと思います」

“JAMMIN”

インタビューを終えて〜山本の編集後記〜

私は遅すぎる決断で(笑)、現在、自動車免許取得のために教習所に通っているのですが、石渡さんにお話を伺いながら、改めて車の可能性、車があることで人にもたらされる力があるということを感じました。
さまざまな思いを乗せて走る車と、そこで生まれる、人の笑顔。本当に素晴らしいご活動だと思いました。

誰かを思うやさしさと思いやりの心、それを受けて元気を取り戻していく人の心が、寄付車を通じて、もっともっと循環していくといいなと思います。

・日本カーシェアリング協会 ホームページはこちらから

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たくさんの人を乗せて前へと走る車を描きました。
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カーシェアリングを通じて、社会にやさしさが広がる様子を表現しました。
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