CHARITY FOR

病気や障害のある子どもとその家族の「ときめき」を大切に、「行ける場所より行きたい場所」へ〜東京おでかけプロジェクト

(撮影:吉澤健太)

病気や障害、医療的ケアが必要なお子さんとその家族に向けて、全国でイベントを開催する「東京おでかけプロジェクト」が今週のチャリティー先。

「だれもが心躍る素敵な場所でイベントを開催し、障害に対する社会の目を変えていきたい」と話すのは、団体を立ち上げた中嶋弓子(なかじま・ゆみこ)さん(38)。

「バリアフリーが整っている福祉施設、医療従事者や医療機器が揃っている場所…。『行ける場所』はたしかに安心感があって、居心地もいい。でもそうじゃなくて、心が躍る『行きたい場所』に行こう、行きたいけれど今までは行けなかった、そんな場所を開拓していこうよという思いで活動しています。そしてそのために、街の人たちや企業とも組みながら、社会の目も変えていきたい」。

そう話す中嶋さん。中嶋さんと、副理事で、障害のある子を育てる嵯峨麻衣子(さが・まいこ)さん(39)にもお話を聞きました。

お話をお伺いした中嶋さん(写真下段右から3人め)と嵯峨さん(下段右から2人め)。(撮影:吉澤健太)

今週のチャリティー

東京おでかけプロジェクト

未来を変える、ひとときを。
病気や障害がある方とその家族が、人の目を気にせず、安心しておでかけできるおでかけイベントを全国で開催しています。

INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2025/01/06

病気や障害のある子どもとその家族に向けて
全国でイベントを開催

家族向けのイベントの様子。神保町ブックハウスカフェでおはなし会を開催したときの一枚(撮影:吉澤健太)

──今日はよろしくお願いします。最初に、団体のご活動について教えてください。

中嶋:
「東京おでかけプロジェクト」は、病気や障害、医療的ケアがあるお子さんとそのご家族向けに、全国で素敵な場所を借りてイベントを開催、おでかけ場所を開拓しながら、街の人たちの目が変わるきっかけを作れたらと活動している団体です。

わたしは前職の日本財団に勤めていたとき、病気や障害のあるお子さんとそのご家族向けに日常的に利用できる児童発達支援事業所のような福祉施設から、ご家族で楽しんでいただける旅行・キャンプ施設まで、何十億という資金をかけて全国各地に整備するプロジェクトに従事していましたが、一方で「社会が変わっていく」手応えは強く得られませんでした。

佐賀の武雄市図書館では、本物のハープやピアノによる演奏会や絵本作家によるライブペインティングなどを開催(撮影:吉澤健太)

中嶋:
たくさんのご家族と一緒にご自宅からおでかけしたり、旅行やキャンプも楽しんでみて、ご家族でのおでかけの時のハードルは、専門職やだれかのサポートがなかったり道中あるいは施設のバリアフリーが進んでいないことだけでなく、おでかけしているときにご家族に向けられる「社会の目」であることを強く実感したんです。

一般には見慣れないチューブや呼吸器などの医療機器をつけていたり、突然大きな声やアラーム音が鳴ってしまうと、周りの目が気になって、でかけることが億劫になってしまいますが、わたしたちが大切にしているのは、「行ける場所より行きたい場所」に行くということ。

バリアフリーが整っていて、障害がある方々だけが利用できる場所は安心感がありますが、ときにそういった場所でおでかけに慣れる練習を一緒にしながらも、その次の一歩として、街の人や企業の方々の協力を得ながら、心躍る場所に行こうよということを大事にしています。

──具体的に、どのようなイベントを開催されているのですか。

中嶋:
大きく3つの事業があって、ご家族向け、親御さん向け、どなたでも参加いただけるインクルーシブなものがあります。

ご家族向けのイベントは、障害種別や診断の有無、年齢制限はないものの、「はじめてのおでかけ」を応援することも多いです。お子さんが入院していたり通院したりすると、でかける先が限られてしまい、「でかける場所といえば病院かコンビニか」というようなご家族がたくさんおられます。
ご家族みんなが安心して楽しく、心躍りながら過ごせるおでかけの第一歩として、わたしたちのイベントに参加していただけたらと思っています。

嵯峨:
8歳になるわたしの長男は、重度の知的障害とてんかん発作、右半身の麻痺があり、日々の生活はわたしがほぼ全介助しています。感情はとても豊かで、嬉しいと「わーっ」と叫んだり、左半身は活発に動くので、周りのものを引っ張ったり叩いたりしてしまうことがあります。そうすると、おでかけのハードルがすごく高くて…。

「一般に慣れないチューブや呼吸器などの医療機器をつけていたり、突然大きな声やアラーム音が鳴ると、周りの目が気になるご家族も多いです」(撮影:吉澤健太)

嵯峨:
車椅子を使用していると通れる場所や道のデコボコが気になるのはもちろん、大声を出したり何かを壊したりしてお店や周りの人に迷惑をかけたらどうしようと思うと、外出中ずっと気を張って、自分も楽しむことができないんです。

「息子と一緒におでかけしたい」という気持ちはあるけれど、いざでかけてみると「行かなきゃよかった」と思うことが多くありました。でかけずに家にこもっている方が、刺激もないけど、よっぽどゆっくりできるんです。でかけるにしても「行きたい場所はあきらめて、行ける場所に行こう」というふうになっていくんですよね。

だけどゆみちゃん(中嶋さん)は違いました。
「こんな素敵な場所があるんだけど、行かない?」って誘ってくれて、それがわたしにとってすごく新鮮で、ワクワクする冒険でした。「こんな場所があったんだ!」って、忘れかけていたことを思い出させてくれて、ドキドキする世界に誘い出してもらったんです。

そして、東京おでかけプロジェクトのイベントに参加したことがきっかけで、日々の生活に戻ってからも「次はあそこに行ってみようかな」って、次に行きたい場所を考える、ワクワクしていいんだっていう気持ちを後押ししてもらいました。これは、わたしたちの活動の大きな魅力だと思っています。

「絵本が大好きな息子と初めて本屋に行って、溢れんばかりの笑顔を見てもっと息子とおでかけをしたい!と思いました」と副代表の嵯峨さん

「おでかけサポーター」も同行、
子どもの本専門店で、家族みんながワクワクする時間を

「東京おでかけプロジェクトは、医師や看護師、当事者の他に、本屋さんや声優、おもちゃコンサルタント、デザイナー、学生など多様なメンバーで構成されています」(撮影:吉澤健太)

──嵯峨さんが参加されたのは、どのようなイベントだったのですか。

嵯峨:
最初に参加したのは、本の街・神保町(東京)にある子どもの本専門店「ブックハウスカフェ」で開催されたイベントでした。長男が生まれてから、売り物の本に手を出して破ったらどうしよう、泣き叫んだらどうしようと、「本屋に行こう」という発想自体、持ったことがありませんでした。

でもこのイベントでは、本当にたくさんの絵本に触れることができて。「絵本って、こんなにいっぱいあるんだ!」って、長男よりもわたしの方がワクワクしていたと思います(笑)。

中嶋:
先日もブックハウスカフェでイベントを開催したのですが、11歳で初めて本屋さんに来たというお子さんが参加してくれました。30冊ぐらい買って帰っておられました。
オンラインで、クリックひとつでも買える時代ですが、「自分の目で見て、触れて選ぶ」という機会がとても少ない方たちなので、喜んでいただいています。

ブックハウスカフェのおはなし会では、プロの声優さんたちが大活躍。おもちゃコンサルタントとコラボしてダイナミックなおはなし会に(撮影:吉澤健太)

──本屋さんの場合、通路が狭かったり、他のお客さんもいたりすると思うんですが、どのようなかたちで開催されるのですか。

中嶋:
ブックハウスカフェでは、はじめはお店を貸し切って、参加者だけでゆったりお気に入りの1冊を探す冒険タイムを楽しみます。その後、おはなし会を楽しんでいる間にお店の開店時間になると、途中から他のお客さんたちも入って来られるようなかたちをとっています。

完全に貸し切ってゆったりと安心してお店を楽しむだけでなく、お店に来られる一般のお客さんたちと、インクルーシブな場を自然とつくりだすことでこういうお子さんや家族がいることを知ってもらうきっかけになったと思っています。

──素敵ですね。

おはなし会での一枚。「神保町といえばカレーの街。おでかけサポーターと一緒に、みんなでおいしいカレーパンをほおばります」(撮影:吉澤健太)

中嶋:
おでかけは行きたい場所へ行くまでと、帰るまでが一苦労。東京おでかけプロジェクトでは、そんなご家族のサポートも行っていて、ひと家族につき一人、「おでかけサポーター」がつきます。イベント中だけでなく、会場まで、そして帰るまでの道中も一緒にバリアフリールートを探しながらおでかけをサポートします。

「おでかけサポーター」は、医師や看護師、福祉の専門職や教員を目指す学生さんたちに携わってもらっています。「支援する・される」という関係性ではなく、もっとフラットな「友達のような感覚」で一緒におでかけを楽しんでもらうことも、すごく大事にしています。

「おでかけサポーターは、医師や看護師、福祉の専門職や教員を目指す学生たちが大活躍しています」(撮影:吉澤健太)

「自分を大切にする時間を」。
親御さんに向けたイベントも開催

高級なバラ専門店ROSEGALLERY銀座と資生堂パーラーの協力を得て開催している「銀座へおでかけプロジェクト」(撮影:吉澤健太)

──親御さん向けはいかがでしょうか。

中嶋:
ご家族ではじめてのおでかけにでかけられたら、次のチャレンジとして、「お子さんは預けて、親御さん一人で遊びにおいでよ」というご提案をしています。「わたしを大切にするわたし時間を」というコンセプトでいくつか事業を展開しているのですが、そのひとつが、銀座にある「ROSEGALLERY銀座」で開催しているイベントです。

わたしも大好きな銀座にあるバラの専門店なのですが、プロのメイクアップアーティストによるヘアメイクを体験していただき、さらにプロのカメラマンに街中でポートレート撮影をしてもらった後、「資生堂パーラー」でお茶をするという内容です。

「ふだんはほとんどメイクをしないという方も、プロのメイクアップアーティストにメイクをしてもらってみるみる表情が変わっていきます」(撮影:吉澤健太)

中嶋:
この日の唯一のルールは「お母さんや、〇〇ちゃんママと呼び合わないこと」。
わずか数時間ですが、子どもの話やケアの話は抜きにして、ふだんのメイクや洋服の話題で盛り上がると、みなさん「わたし、こんなに笑うのが好きだったんだ」「次はこんなことがしてみたい」と母親としてではなく”わたし”として語りはじめて、その表情は少女のようにキラキラしています。

──そうなんですね。

嵯峨:
わたしもこのイベントに参加しました。
普段から自分でお化粧はしますが、プロの方にしていただくとやっぱり違うんです。みなさんと「かわいいね」って言い合いながら、テンションが上がって、撮影も恥ずかしいぐらいポーズをとるんですが(笑)、ドキドキするし、すごく楽しいんです。

中嶋:
このイベントに参加した方たちとは、「同窓会」というかたちで、年に1度集まって近況を報告し合っているのですが、多くの方が「あのイベントがきっかけで新たなことにチャレンジした」と言ってくれました。

「またみんなに会いたい!」と参加者の声から形になった同窓会イベントでは、イベント後の変化を称え合った(撮影:吉澤健太)

中嶋:
小さなことかもしれませんが、それまではずっと子どもにつきっきりだったのが、「夜、友達に誘われたら断っていたけれど飲み会に参加してみました」とか、「十年ぶりに百貨店で化粧品を買ってみました」。「諦めていた習いごとも、回数券ならいけるかもって思い立って行ってみました」とか、「週に一度はワンピースの日って決めて、どんなにケアがあってもワンピースを着てテンションをあげています」など。

自分らしさを取り戻すと、日常の中にときめく瞬間も増えていくんだなと感じています。

「銀座へおでかけプロジェクト」での一枚。「バギーを押しながらのおでかけではなかなか履く機会のないヒールやお気に入りの靴で参加していただきます」(撮影:吉澤健太)

役割や世間の目から離れ、「自分らしさ」を取り戻す

「銀座へおでかけプロジェクト」参加者さんの笑顔(撮影:吉澤健太)

──普段の生活で背負っているさまざまなものから解放されて、自分自身を楽しむ時間なんですね。

中嶋:
そうですね。わたしは幼少期をアメリカで過ごしたのですが、日本に戻ってきて感じたのは、「与えられた肩書きを演じる」ということがすごく多い社会だということでした。

日本人は特に、周りからどう見られているかを気にすることが多いですよね。
わたしたちのイベントに参加される方も、「障害児を育てる親として、自分が楽しむ時間をもつのはダメなんじゃないか」とか「おしゃれなんてしちゃダメなんじゃないか」と、後ろめたさや罪悪感を感じておられる方が少なくありません。

一般の子育てであれば、子どもがある程度の年齢になれば、自分の時間を持てるようになります。しかし病気や障害のあるお子さんを育てる親の場合、「障害児の親」という社会の目が、ずっと続いていくんです。

──確かに。

名古屋の「アルチザンフラワーズ」では、世界に一つだけの”わたし”のための花束をつくるレッスンを開催(撮影:吉澤健太)

中嶋:
その中でがんばり続けた結果、「病気や障害のある子の親」以外の部分の自分のアイデンティティを見失っていくようなところがあると感じています。

銀座のイベントに参加したあるお母さんが、「これまで、どこへ行っても『障害のある子を持つ大変なママ』という目線を感じてきたけれど、ここではそれを感じなかった。他の誰でも何でもない、”わたし”として接してもらっているのがわかって、すごく嬉しかった」という感想を述べられたことがありました。

「素敵な名前を持って生まれた”わたし”」として、人とのつながりや出会いが取り戻されることが、「自分らしさ」を取り戻すことにもつながります。

──自分と向き合い、大事にできる時間なんですね。

父親も参加できるイベントを開催しようと「文喫 六本木」で「自分らしさ」を探すワークショップを開催。本棚をつくりあげた(撮影:須藤敬一)

中嶋:
「○○ちゃんのママ」や「○○くんのパパ」である以前に、「わたしとは何者か」を大切にする時間があってもいいいんじゃないかということは、活動を通じてお伝えしています。

親御さんに向けて、高級なバラ専門店「ROSEGALLERY銀座」でのイベントとは別に、名古屋の「アルチザンフラワーズ」というカフェを併設した花屋さんで、「わたし」のための花束をつくるワークショップ、六本木にある「文喫 六本木」という有料の本屋さんの一部を貸し切り、数万冊の本の中から「自分らしさ」を探すワークショップも開催しています。

すべてに共通しているのは、「自分自身を大事にする」ということ。
メイクや花束、本はあくまで手段であって、短い時間だけど、これらを通じて、自分自身とぐっと向き合ってもらうひとときを提供しています。

──素敵ですね。

中嶋:
ワークショップの中で「ご自愛レター」という、自分自身に向けた手紙を書いてもらうんです。
キラキラした時間はあっという間に過ぎて、魔法はその日のうちに消えてしまいますが、普段の生活に戻って自分自身が消えてしまいそうな時に読み返してもらえたらと思っています。

「『ご自愛レター』は、魔法が解けても読み返せるように書いていただく、自分自身に向けた手紙です」(撮影:吉澤健太)

「自分に集中して楽しんでもらえるように」イベントの時間やサポート内容も工夫

イベントを支える運営スタッフたち。「会場はもちろん、移動の際にスムーズなサポートができるよう入念に下見を行い、参加者のことも教えていただきます」(撮影:吉澤健太)

中嶋:
親御さんたち向けのイベントは、なるべく2時間半程度で終わるように設定しています。
親御さんにとって「子どもを誰かに預けても良いかな」と思える時間がこのぐらいの長さだと教えてもらいました。子どものことから一瞬離れて、自分自身に向き合える、ちょうどよい時間の長さだと思っています。

逆にこれ以上の長さになると、子どものことが気になって、目の前のことに集中できなくなってしまう。運営側としてはタイトなスケジュールになるのですが、「あっという間で、子どものことを心配せず、自分に集中できた」と言っていただいています。

──そうなんですね。

中嶋:
親御さんが一人でイベントに参加していただく際に、東京おでかけプロジェクトとして、二つのサポート制度を用意しています。

ひとつは、ご自宅に「おでかけサポーター」を派遣して、留守中のお子さんと一緒に時間を過ごすこと。医療や福祉のサポートはご家族や専門職にお任せしていますが、楽しく遊ぶことを目的に派遣しています。ただなんとなく一緒に過ごすのではなく、お子さんが何が好きか、どんなものに興味があるか、事前に打ち合わせをして、遠慮なく一人でのおでかけを楽しんでもらいたいと思っています。

親御さんの留守中、自宅で子どもたちと遊ぶ学生おでかけサポーター(撮影:吉澤健太)

中嶋:
親御さんたちはどうしても「自分だけが楽しい思いをするのは申し訳ない」とふだんから自分が楽しむことに罪悪感を抱きがちです。あるお子さんは「巨大生物が好き」というので、親御さんの留守中、おでかけサポーターと一緒に、新聞紙で巨大な生物を作りました。
家に帰ると嬉しそうに巨大生物でびっくりさせようとするお子さんがいたそうで、すごく喜んでもらえました。

──お子さんも楽しめるのは嬉しいですね!

中嶋:
もうひとつが、医療や福祉サービスでカバーできない費用面の補助です。
お子さんの預かりをヘルパーさんだけでなく保育のプロに頼むなど、家族だけに頼らなくていい状態にしたいと考えています。

わたしたちのイベントは、参加する方々から必要な費用は参加費をいただいて開催しています。非営利団体のイベントは無料のものも多いので迷いましたが、「なんでも無料にされるより、費用をきちんと払うから充実したサポートをしてほしい」という声をたくさん聞いたので、無料にしたりするのは違うと思いました。

表参道にある国産オーガニックコスメブランド「MiMC」と、ヴィーガンレストラン「ブラウンライス」の協力を得て始まったメイクアップイベントの様子(撮影:吉澤健太)

中嶋:
イベントをはじめる際、お子さんのケアのために働きたくても働けないお母さんたちも多く、ただでさえ自分のために時間やお金を使うことに罪悪感があるのに出てこれるだろうかと不安もありました。

でも、はじめてみると旦那さんの方から「そんなイベントだったら、どんどん行ってきなよ!」と送り出してくれて、お子さんを初めて旦那さんに預けて外出してみた、という方もいれば、「新しいお化粧品がほしくて、短時間だけど働いてみた」という方もいて、全員がそうではないと思いますが、自分を大切に労わったり、ご褒美があるからがんばれるのかもしれないとも思うようになりました。

社会の目が、「障害のある子どもの親」を演じさせている

ファミリーフォトのイベントでは、夫婦ではにかみショットも撮影。束の間の「夫婦時間」もつくっている(撮影:吉澤健太)

──誰でも参加可能なイベントはいかがですか。

中嶋:
どなたも参加可能なイベントは、「同じ時間、同じ場所で”ただ一緒に”過ごす機会」を提供してます。世界遺産・仁和寺(京都)にご協力いただき、普段は入れないエリアに入れていただいて著名な方を招いたパフォーマンスやワークショップを行ったり、チャリティーイベントを開催しています。

──話は少し変わりますが、中嶋さんがこの活動を始められたきっかけを教えてください。

中嶋:
日本財団に在職していた時に、毎月数件ほど「診断はついていないけれど、障害のある子を育てている。利用できる場所やイベントが何もない」、「いろんな窓口に相談したけれど、どこも相手にしてくれない。どうしたらいいかわからない」という相談をいただくことがあったんです。

ダウン症の書家の金澤翔子さんを招いて仁和寺でイベントを開催したときの様子(撮影:吉澤健太)

中嶋:
日本財団としての助成先は、年間50団体ほどあったのでおつなぎできるときはおつなぎしていたのですが、そんな施設や団体が周りにない、どこにもつながれないという方たちは、本当に行き場がないんです。

当時、バリアフリーの整った学校や福祉施設、旅行・キャンプ施設は少しずつ増えていましたが、ふと思い立って気軽におでかけできるような、週末にちょっとだけ足を伸ばして行けるような場所があまりないなと。「ホップ・ステップ・ジャンプ」の日常を支える「ホップ」と遠出の「ジャンプ」はあるのに、その間の「ステップ」が足りないと感じていました。

在職中にサポートできなかった方たちのために、ほんのひとときかもしれないけれど、人とつながり、刺激を受けて、「ホップ」から「ステップ、ジャンプ」につなげてもらえるような場を作りたいと思い、在職中から始めていたこの活動を退職して本格的に始めました。

特に、病気や障害の種別、診断の有無、年齢を問わないようにしているのは、あのときどこにもつなげられなかった方々を受け入れたいという強い想いからです。

──そうだったんですね。

仁和寺では、お寺が大好きで家族一緒に記念撮影をしたいというリクエストに応えて、2024年はファミリーフォトの撮影も行った(撮影:吉澤健太)

中嶋:
この活動をはじめる前、医療的ケアが必要で24時間人工呼吸器が欠かせないお子さんのいるご家族に、しばらくの間、おでかけなど付き添わせてもらっていたことがありました。一緒にいると、親御さんがいつも周りに「ごめんなさい」「ありがとう」と言っておられて、そのことにずっと違和感を感じていました。

社会が「障害のある子どもの親」を演じさせているというか、背負わせていると感じたんです。わたしがわたしであるように、〇〇さんは、〇〇さんなのに。

そう感じるのは、たぶんわたしの原体験もあります。子どもの頃、移り住んだアメリカでは「アジア人」日本に戻ってきてからは「帰国子女」と言われて、いじめられました。日本に帰国した時、アメリカと同じ感覚で自分の意思で希望して留年したのですが、学年がひとつ違うだけで、異質な存在として社会人になるまで見られ続けました。

社会人になってからも、会社では「みんなと同じでなければいけない」ような空気をずっと感じていて、自分らしさってなんなんだろうと何度も悩みました。でも、自分をわかってくれる人が一人いたら、いや、わかってくれなくてもそばにいてくれる人がいたら、それだけで生きていけるんじゃないかなって。

わたしも周りの友人や知り合いにたくさん助けてもらったので、このプロジェクトに関わってくださるみなさんとは友のように接したいし、支援者や当事者という言葉を超えて、「新しい友との出逢い」をつくる場でありたいなと思っています。

──「支援が必要な人」や「大変な人」としてでなく、「友」として接してくれたら嬉しいですね。

先天性ミオパチーという難病で医療的ケアのあるキッズクリエイターYURINAデザイン、寄付付きフェアトレードコーヒーの販売も開始(撮影:吉澤健太)

「それぞれが心地よいと思うもの、好きなもの大切に」

中嶋:
病気や障害があると、いろんな選択肢がまだまだ少なくて、もっと選べる社会になったらいいなと思います。それに、病気や障害がなくて、いろんな選択肢があっても今の社会は「どれを選んでもいいよね」っていう空気感があまりないと感じます。

「これじゃないといけない」「これが正しい」っていう、「正しいか正しくないか」のものさしではなく、それぞれが心地よいと思うもの、好きなものを大切にして生きていける社会になったらと思っています。

──最後に、チャリティーの使途を教えてください。

中嶋:
チャリティーは、今後も全国で心躍るひとときを待っている方々のためにイベントを届ける資金として、またご家族同士のネットワークづくりをしていくために活用させていただく予定です。ぜひ、応援いただけたら嬉しいです。

──貴重なお話をありがとうございました!

チャリティーを目的としたさまざまなファンミーティングも開催。クリスマス寄付報告会での一コマ

“JAMMIN”

インタビューを終えて〜山本の編集後記〜

求められていると感じる役割にはまってしまうこと、それによって本来の自分を見失ってしまうことは、皆さんも人生どこかで経験したことがあるのではないでしょうか。自分を振り返っても、その時に本当の自分を見つめる機会があったり、本来の自分を受け入れてくれるような人がいることで「本来の自分でいる」ための一歩を踏み出すことができたなと思います。
東京おでかけプロジェクトさんのご活動を通じて、本来の自分でいられる、ときめきと笑顔が広がっているのだなと思いました!

・東京おでかけプロジェクト ホームページはこちらから

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