令和5年の小中高生の自殺者数は513人(うち小学生13人、中学生153人、高校生347人。厚生労働省自殺対策推進室、警察庁生活安全局生活安全企画課『令和5年中における自殺の状況』より)。
子どもの声を、無料の電話やチャット相談で受けとめ、「あなたは大切な存在」と伝え続けてきた「チャイルドライン」。全国のチャイルドライン実施団体を支えるNPO法人「チャイルドライン支援センター」が今週のチャリティー先。
1998年に日本で初めてのチャイルドラインが世田谷で開設されて以来、時代の変化のなかで、子どもの声に寄り添い続けてきました。
「顔は見えないやり取りですが、子ども自身が深層にある本当の自分の気持ちに気付いていくような時間になれば」と話すのは、事務局の向井晶子(むかい・しょうこ)さん。
活動について、お話を聞きました。
お話をお伺いした向井さん
NPO法人チャイルドライン支援センター
子どもの権利条約の理念に基づき、子どもの「声」を受けとめ、子どもがありのままで安心できる心の居場所になること、そして、受けとめた「声」を社会に発信することで、子どもが生きやすい社会をめざして活動しています。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2024/12/09
電話相談を受ける様子。チャイルドラインでは、全国にいる2000人のボランティアが電話相談を受けている
──今日はよろしくお願いします。最初に、団体のご活動について教えてください。
向井:
「チャイルドライン(R)」は、18歳までの子どもと電話やチャットでつながり、子どもの気持ちを大切にしながら話に耳を傾け、どうしたらいいかを一緒に考える活動をしています。相談は無料で、全国に69あるチャイルドライン実施団体が、電話やチャットを受けています。
私たちチャイルドライン支援センターはチャイルドラインのスムーズな運営に尽力しているほか、子どもが生きやすい社会の実現を目指し、相談から見える子ども達の現状を広く社会に発信する活動も行っています。
全国の子どもたちに配布しているカード
──相談を受ける団体は、全国にあるんですね。
向井:
はい。全国40都道府県に、69のチャイルドライン実施団体があります。
どの実施団体も毎日実施しているわけではなく、一番多いところで週に6回。全国どこからかけても、その時に開設している団体が電話やチャットを受ける仕組みです。
さらに、それぞれの実施団体で「受け手」と呼ばれる相談を受けるボランティアの養成やさらなるスキルアップのための研修などを行っています。
電話やチャットを受けるときには、受け手をサポートする「支え手」が必ずつき、受け手が困ったときにサポートしたり、子どもへの情報提供に必要性を検討し、さらに相談終了後、対応についての振り返りを行います。
受け手は自分の受け方を見直すことで、自分の偏見や価値観、癖などに気づくことができます。これを繰り替えることで受け手としての学びを深めることができます。
電話相談は、必ず二人体制で電話を受けるようにしている
──どんなふうに相談にのられるのでしょうか。
相談に対して、具体的な解決法などをアドバイスされるのですか。
向井:
子どもの権利条約では、18歳未満の人を子どもと定義し、子どもたちは単に守られるだけの存在ではなく、おとなと同様に、ひとりの人間としてさまざまな権利を持つ主体であることが記されています。
子どもからの相談に対して、私たちが「こうした方がいいよ」と具体的なアドバイスをしたり、「それはこうだよね」と決めつけたりするのではなく、子どもが自分自身で答えを見つけられるように一緒に考えていきます。
受け手が過去に同じような経験をしたことがあっても、それはあくまでも自分の経験であることを認識して、今つながっているこどもはどういう気持ちでかけてきているのかに寄り添い、その子どもにとっての「最善の利益」は何かを一緒に考えながら、傾聴と対話をします。
──具体的には、どのように?
向井:
子どもの中に、言語化できていない思いやモヤモヤしたものがあった時に、それを少しずつほぐしていくような、たとえば「どうしてそう思ったの?」とか、「どう思ってそうしたの?」という質問をしていくことで、子ども自身気づいていなかった自分のこころの奥にある気持ちに気づいていくような時間になればと思っています。
「1970年代に北欧で始まった子どものためのホットラインは世界各地に広がり、現在は133の国や地域で、155団体がチャイルドラインとして活動しています」
向井:
私たちは顔の見えない相談相手として、子どもたちが相談の後、自分自身でその問題に向き合っていけるように、1本の電話やチャットのなかでどうサポートできるかを考え取り組んでいます。
「どうしたらいいと思う?」と、具体的な答えを求める子どももいます。特に最近は常に答えがあって、誰かがその答えを与えてくれる環境があたりまえになっている子もすくなくありません。親や先生に聞くと教えてくれる。それと同じような感覚でチャイルドラインにつながってくる子もいます。
必ずしも答えがあるわけではない社会で生きていくには、自分で考えて主体的に決めることが大切です。チャイルドラインは「あなたはどう思うの」「どうしたいの」ということを問いかけるようにしています。
養成講座の様子
チャイルドライン支援議員連盟の勉強会の様子。学校における「聴かれる権利」の保障」について提言しているところ。「子ども自身に関わることなのに、自分たちの意見は聴かれずに物事が決められ進んでしまうことに不信感を抱く子どもも少なくありません。意見を聴いてもできないことはあります。そんなときは『できない理由』を伝えることも大切です」
向井:
中には泣きながら電話をかけてくる子もいます。「何があったの?」と状況をきくところから始まって、「泣いていいよ」と、ゆっくり時間をかけて聴いていきます。危険な状況だと判断した場合は、「提案させてもらってもいい?」と断った上で提案することもあるし、法に触れるようなことであれば、そこはしっかり伝えながら寄り添います。
どこまでがアドバイスでどこまでがアドバイスではないのか、線引きは難しいですが、子どもが気づいていない選択肢を提案するなど、その子にとっての最善は何かを一緒に考えます。
──たとえば虐待やいじめのような相談があったとして、対面しているわけではないので具体的な支援は難しいですが、どのように相談にのられるのでしょうか。
向井:
チャイルドラインはあくまで電話やチャットによる支援です。
相談者の顔は見えないですし、安心してどんなことでも話してもらえるように、名前やどこに住んでいるかを尋ねることもしません。また、たとえば沖縄からの電話を北海道で受けるなど、遠隔地で相談を受けているケースも少なくないので、解決のために現地に行って具体的に動いて何かをするということはできません。
だけど、「一緒に考える」ことはできます。相談の内容を親には言えない、友達には知られたくないということも結構あって、でも、おとなの支援が必要だなといういう時には、「近くに味方になってくれそうな人がいないか」「相談できる人がいないか」を一緒に考えます。
──なるほど。
向井:
まずは「寄り添う」こと。否定せず、「あなたのつらい気持ち、わかるよ」と気持ちに寄り添い、どんなことでも一緒に考えます。
「子どもが安心して話のできるこころの居場所でありたいと願い活動しています。聴いてくれる人、自分をありのままに受けとめてくれる人がひとりでもいたら、ひとは『生きていていい』と思えるのではないでしょうか」
チャット相談の様子。「チャットは第1・第3月曜日と火曜日から土曜日までの毎日実施しており、全国36の実施団体が対応にあたります」
向井:
2016年からは、チャットによる相談もスタートしました。
携帯電話が普及した今、固定電話を持たない家庭も増えています。子どもにとって電話をかけることは以前に比べてハードルの高いものになっています。SNSの普及で文字のやりとりに慣れている子どもにとっては、より気軽に相談ができる場になっています。
「電話に変わる手段があるといいな」と始めたチャット相談ですが、2020年にコロナの感染拡大で緊急事態宣言が出た際は、親も子も自宅にいるようになり、子どもが親に聞こえることを気にして電話での相談をしづらいという状況にも陥りました。
──チャットという相談手段もあってよかったですね。
向井:
そうですね。ただ、全く知らない子どもとおとながやりとりをするわけで、チャットの文面から相談している子の意図や思いを読み取るためには、電話よりも時間がかかります。電話で話すことで伝えられる声のぬくもりは伝えられないので、我々の大切にしている「寄り添う」ということをチャットで表現できるよう、それぞれの受け手が研修を通して学びを深めています。
──電話とチャットで、相談の内容や傾向が異なるということはあるのでしょうか。
向井:
電話もチャットも自分自身に関することや学校でのことが多いです。
目立って傾向が違うこととしては、チャットでは、性の多様性(LGBTQ)に関する相談が多いことでしょうか。電話だとどう反応されるかがこわいけど、チャットだとそこまで露骨な相手の反応は見えないから、相談しやすいということがあるのではないかと考えています。
──そうなんですね。
「たくさんの人に支えられて活動しています。写真は、LINEさんとコラボして作成したチャイルドラインの説明です」
向井:
2023年4月〜2024年3月の1年間で、電話相談は34万件を超える発信数、チャットは13万件を超える訪問がありました。電話相談は年々減少傾向、チャット相談は増加傾向にあります。
相談内容を細かく分析すると「自分自身(雑談や、心に関すること)」は電話もチャットも43%を超えており、次いで「学校」に関することが電話は20%、チャットは31%、「性」に関することが電話は19%、チャットは4%、「家庭」に関することは電話が11%、チャットが15%。他にも部活、地域、職場に関する相談などもあります。
チャットでは性に関する相談が4%と割合は大きくありませんが、その内訳は性の多様性が多くを占めています。
「死にたい(希死(自殺)念慮)」という相談は、電話もチャットも入ります。昨年は合計で1,117件の相談がありました。
──多いですね。
向井:
「死にたい」と直接口にはしなくても、背景に「死にたい」気持ちを抱えていると思われる相談が627件あり、こちらもあわせると合計で1,744件を超える、「死にたい」に関する相談があったことになります。
どんな話でつながってきても、「あなたは大切な存在なんだ」と伝え続えることで、長い目での自殺防止になると考えています。
元男闘呼組のメンバーで構成される”Rockon Social Club“が立ち上げたプロジェクト「DON’T WORRY」。「公式グッズ『”DON’T WORRY”×”チャイルドライン”』ステッカーを通して、さまざまな困難や傷を抱える子どもたちに『心配しないで、仲間がいるよ』というメッセージを伝え、子どもたちの心の支援を行うチャリティプロジェクトです」
2024年度のチャイルドライン支援議員連盟との勉強会の様子
向井:
子どもたちからの相談内容を、個人を特定しない形でデータ化し、毎年さまざまな分析・研究を行い、社会への提言も行っています。
「チャイルドライン支援議員連盟」という国会議員で構成する議員連盟があり、毎年、議員と関係する省庁の担当者とテーマを絞って勉強会を開催し、子どもたちの相談内容や、相談を受ける中で気づいたことを提言として届けています。
2024年度のテーマは「性教育」を考えています。子どもたちの話や子どもの状況から生きるための教育としての包括的な「性教育」が足りていないということを感じています。「いのちの安全教育」などもされていますが、たびたび起こる性虐待や新生児遺棄といった事件を耳にすると、知らないことで不幸になっている子どもがいることにとても心が痛みます。第一段階として今、学校における性教育で教えていないことで、子どもが知っておく必要のあることがまだまだあると思っています。
教育関係者向けに、子どもの権利条約とチャイルドラインについて話しているところ。「子どもの権利条約の理念を広めることも大切な役割と考えています」
全国研修の様子。「毎年、全国から運営者が集まり、その時の課題をテーマに取り上げ研修します。この年は、支え手の在り方をメインテーマとしました。運営者は自団体に戻り、メンバーと学びを共有しています」
向井:
子どもたちの声を聴いていると、日本の社会はまだ本当の意味での多様性、多様な生き方を受け入れられていないと感じます。ひととしてお互いを尊重すること、自分と同時に周りの人も皆大切な存在であること、自分とは異なる価値観をもつ他者を認める意識がもっと社会に浸透していくとよいのにと思います。
一人ひとりの子どもがありのままで受け入れられ宇社会が築かれていく必要があると思っています。
多くの子どもは家庭と学校の往復という狭い世界で生きています。
家庭は親の価値観で学校は学校の価値観で運営されていますが、おとなの価値観を押し付けられることで、つらい思いをしている子どもがたくさんいることを知ってほしいです。
そして子どもには、「あなたが今生きている世界よりもっと広い世界がある」ということを伝えたいと思います。
「企業の皆さんと、子どもにカードを届ける発送作業をしました。その時の一枚です」
──25年間子どもたちから相談を受けて来られた中で、子どもたちの変化などは感じていらっしゃいますか。
向井:
相談の内容は、どうでしょう…、「大きくは変わらない」と皆言ってはいますが、「子どもから諦めを感じる」という話は出ています。
──諦め、ですか?
向井:
はい。具体的な数字に表れにくい部分ですが、「どうせ私なんて」「どうせかわらない」「がんばったってあの程度じゃん」というあきらめです。ただ、チャイルドラインにかけてくるということは、あきらめきってはいない、と考えて受けとめるようにしています。
ネットでの情報が過多ななか、「しあわせとは何なのか」をおとなである私たちが、見失っていることもあって、子どもたちに十分伝えられていないのかもしれません。
時代がどんなふうに変わっても、私たちは変わらず、つながった子ども一人ひとりに対して「つながってくれてありがとう」という気持ちと、「私たちはあなたの味方だよ」「ありのままで、あなたは大切な存在なんだよ」ということを伝えていきたいと思っています。
子どもの自殺が高止まりしていることを受け、SNS相談を実施する団体で構成するSNS相談コンソーシアム主催で緊急フォーラムを開催。子どもに耳を傾けることの大切さを訴えた
──読者の方にメッセージをお願いします。
向井:
人の話を否定せずにきくこと、相手をありのままに受け入れること。これは相手を子どもに限ったことではないと思います。皆がそうやって相手を受け入れるようになったら、社会はもう少し、生きやすい場所になるのかなと思います。
──最後に、チャリティーの使途を教えてください。
向井:
チャイルドラインは25周年を迎えます。
子どもが生きやすい社会をつくっていくために、チャイルドラインというものがあることや、子どもの権利条約で子どもの権利がどのように定められているかということを、一人でも多くの子どもやおとなに知っていただきたいと思っています。
アイテム購入ごとのチャリティーは、チャイルドラインの活動を知ってもらうための広告や宣伝費として活用させていただく予定です。ぜひ、アイテムで応援いただけたら嬉しいです。
──貴重なお話をありがとうございました!
2018年の全国フォーラムにて、当時の理事の皆さんと
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
周りのおとなには相談しにくいこと、あるいは周りのおとな以外のおとなの意見も聞いてみたいこと…、子どもの頃に、そんなことがたくさんありました。環境や家族構成、性格、価値観といった自分のバックグラウンドを知らない人に伝えようとするだけで、「あっ、私はこんなふうに思っていたんだ」と思考が整理されてスッキリしたことが何度かあったし、「聞いてもらえる」というのは大きな励ましや力になっていたと今振り返って思います。チャイルドラインさんの電話やチャットを通じて、子どもたち一人ひとりの力が発揮されることを願います。
【2024/12/9~15の1週間限定販売】
チャイルドラインさんの相談のツールである電話やタブレットをモチーフに、そこで人と人とがつながり、エンパワメントされる様子を一筆描きで表現しました。孤独やしんどさを感じる時に、「あなたの存在はあっていいんだ」という心からの言葉によって、生きる力がつながっていくことも表現しています。
“We are always on your side(いつでもあなたの味方だよ)“というメッセージを添えました。
JAMMINは毎週週替わりで様々な団体とコラボしたオリジナルデザインアイテムを販売、1点売り上げるごとに700円をその団体へとチャリティーしています。
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