まるで人間のような格好やしぐさでショーやテレビに出るチンパンジーの姿を、皆さんも一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。知能が高く、また動作も人間に近いところがあるチンパンジーは、過去に面白おかしくエンターテイメントに使用されてきました。
人間に慣れさせるために、ショー用のチンパンジーは、幼いうちに母親や仲間の群れから引き離され、人の手で育てられます。チンパンジーとして生きていくために必要な術を得る機会もなく、人間のように振る舞うことを教えられて育ったチンパンジーは、ショーを引退した後、群れの中で生きていくことが非常に難しいといいます。
かつて動物園の飼育員として、チンパンジーの「ミッキー」と一緒に、人前でショーを披露していた野上悦子(のがみ・えつこ)さん(50)。自分の手で育てたミッキーが次第に笑わなくなっていく姿を見て、「根本的に間違ったことをしているのではないか」と気がついたといいます。
「すべてのチンパンジーが、チンパンジーらしく暮らせるように」。
野上さんは、2004年に「サンクチュアリ・プロジェクト」を設立。奮闘を経て、かつてエンターテイメントに使われていた、ミッキーをはじめとする5にんのチンパンジーが現在、「熊本サンクチュアリ」の43にんの仲間と一緒に暮らしています。
「彼らはもう、ひとりじゃない。チンパンジーも人間と同じように笑うんです。でもそれは、仲間がいるからこそできること」。そう話す野上さん。
活動について、お話を聞きました。
NPO法人サンクチュアリ・プロジェクト
エンターテイメントに使用された後、単独飼育を続けられているチンパンジーが、チンパンジーらしく暮らせる環境を用意したい。ひとりぼっちのチンパンジーのためのサンクチュアリづくりを目指し、2004年に設立された団体です。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2024/11/25
スタッフと遊んで、笑っているエディー。「エディーも、ミッキーと同じ動物園のステージでショーをしていました。人間との付き合いが長かったので、エディーも人間が大好きです」
──今日はよろしくお願いします。最初に、団体のご活動について教えてください。
野上:
エンターテイメントに使用された後、ひとりぼっちで暮らしているチンパンジーのためのサンクチュアリをつくることを目指して活動を始め、チンパンジーへの正しい理解を広めるための教育活動をしています。
コロナ禍以降中断していますが、各地の動物園で「チンパンジーの喜ぶ顔が見てみたい」と題して、チンパンジーに関するレクチャーを受けてもらった後、参加者の皆さんにチンパンジーのために一肌脱いで奉仕活動をしてもらうという活動をしています。
山から切ってきた枝に小さく切った野菜や果物を実がなっているように刺してもらい、それをチンパンジーの運動場にセットして、チンパンジーたちが採食する様子を観察してもらう、という「実のなる木」をみなさんの手で作ってもらいます。これは野生のチンパンジーの採食シーンを再現した取り組みで、本来のチンパンジーの姿を知ってもらいたい、ということで始めました。
「チンパンジーの喜ぶ顔が見てみたい」(京都市動物園)でのレクチャーの時間。「本来のチンパンジーのくらしについて1時間ほど皆さんに説明させていただいた後、動物園のチンパンジーを喜ばせるための作業を皆さんと一緒に行います」
野上:
現在は、動物園での教育活動はお休みしていますが、熊本サンクチュアリのチンパンジーたちを支援するための活動を行っています。
人間と同じように社会性を持つ動物であるにも関わらず、エンタメに使われて、たったひとり、狭い檻で何十年も暮らすチンパンジーがいます。ひとりほっちのチンパンジーたちが仲間と一緒に暮らせるサンクチュアリを作れないだろうかと、2004年に活動をスタートしました。
現在は熊本にある京都大学野生動物研究センターの附属施設「熊本サンクチュアリ」でチンパンジーの世話をしています。ここは、過去に医学研究に使われたチンパンジーが余生を安心して過ごせる場所として2011年に設立されました。エンターテイメントで使用された後、ひとりぼっちで暮らしていたダイチ、スマイル、ルミー、エディー、ミッキーの5にんも受け入れてもらい、ほかのチンパンジーたちと一緒に暮らしています。
笑うミッキー。「よく走りまわり、よく暴れまわっています。エディーやルミーとも喧嘩したり遊んだりしています。喧嘩の後にちゃんと仲直りしようとするのを見て、『なかなかやるな』と思いながら見守っています」
──活動のきっかけを教えてください。
野上:
私はもともと、鹿児島にある動物園で飼育員をしていました。当時、そこでチンパンジーと一緒にショーをやっていたんです。
ショーのために、人間の言うことを聞くチンパンジーを育てる必要がありました。生まれて間もないチンパンジーの赤ん坊を母親から取り上げ、人間の手で育て、チンパンジーだけどチンパンジーではない、別の動物を作り上げることをしていたんです。
しかし、人間より力が強くなるチンパンジーをショーで安全に使えるのは、せいぜい5、6歳まで。引退後はチンパンジーとして生きていくわけですが、人間に育てられたチンパンジーは、チンパンジーとしての社会的スキルを身につけておらず、群れに入ることが非常に困難です。
仲間とグルーミングをするチンパンジーたち。「グルーミングは体をきれいに保つためだけでなく、互いの絆を強める効果があります。仲の良いもの同士が、互いのグルーミングに長い時間を費やします」
人間の子どものように育てられ、ステージに立つ2歳ごろのミッキー。「この写真を見てかわいい、と思わないでください。これはチンパンジーに対して、決してやってはいけないことです。この写真を掲載することは誤ったチンパンジー像をお見せすることになるので、掲載するかどうか悩みましたが、『やってはいけない』『このようなチンパンジーはかわいそうだ』と理解していただきたい、という思いで掲載します」
野上:
ショーで私のパートナーだった「ミッキー」は、生まれてすぐ母親から引き離して、人間の子育てと同じように粉ミルクで育てました。本来ならばずっと母親に抱かれているはずなのですが、おむつをしてベッドに寝かせて。人間を育てるように育てたんです。
チンパンジーは本来なら「ナックルウォーク」と呼ばれる四足歩行をしますが、ミッキーはショーの訓練のために靴を履かせて服を着せて、二足歩行をさせていました。
ミッキーが2、3歳になる頃には一緒にステージに立って、パンケーキを作ったり、拍手やバイバイをするとか、私と会話しているように見せるといった、まるで人間のように振る舞うショーをやっていました。
──そうだったんですね。
野上:
幼いころは遊びの一環のような感じでミッキーも楽しんでやっていたんですが、5、6歳になった頃、「あまりやりたくないや」というような素振りを見せるようになりました。ショーの時だけでなく、できるだけ好きなようにさせていたオフの時間さえミッキーは楽しくなさそうで、一体どうしたんだろうと思いました。
5歳頃、まだ楽しそうな頃のミッキー。「ステージに立っていない時間は、できるだけミッキーを散歩に連れ出し、園内のいろいろなところに出かけていました。その時のミッキーは、私のそばから離れないこと以外は自由でした」
野上:
同じ時期、ミッキーは吐いてはまた食べるという吐き戻しの異常行動が頻発するようになり、何かおかしいと思いました。そこで初めて「もしかしたら、根本的に間違ったことをやっているのかもしれない」とやっと気がついたんです。
ミッキーとショーをやる一方で、飼育員として、動物園の別の動物に対しては環境重視のことにも取り組み、命を救うために人工保育をしなければならなかった場合、できるだけ早く親の元に返す、ということもやっていました。同じ種の仲間の中で暮らすことの大切さなどをわかっていたはずでした。
「そうか、ミッキーもそうするべきだったんだ。こっちが正しい世界だったんだ」と気がついて、当時の園長に相談したら、「じゃあ、ミッキーと野上さんが安心して引退できるように、チンパンジーの島をつくろうね」という話をしてくださって。
でも、それはすぐには実現できないし、「お金が必要になるし、まずはがんばってお客さんに来てもらおう」って何とか正当化して、ミッキーにも頑張ってもらいながら、ショーを続けていたんです。
しかし園長が変わり、いよいよミッキーも10歳になり言うことを聞かなくなった頃に、動物園の経営方針が変わり、方向性の違いから私は動物園をクビになりました。
ミッキーは亜種間雑種(チンパンジーには亜種があって、国内の多くの動物園では西チンパンジーが暮らしています)なので、ほかの動物園には引き取ってもらえず、また他の飼育員がコントロールするには年齢的にも難しかったため、ひとりぼっちの檻の中での生活が始まったのです。
──そうだったんですね。
野上:
人間の勝手で、ミッキーをチンパンジーらしくないチンパンジーに育ててしまった。「彼のことをなんとかせんとあかん」と思っていました。だからミッキーとずっと一緒にいるつもりだったのですが、動物園を去らなければいけなくなりました。
当時、動物園としてもチンパンジーは要らないという話で、6にんいたうちのふたりは、繁殖目的で他の動物園に引き取られていきましたが、亜種間雑種だったミッキーは引取先がなく、
また動物園には展示する場所もなかったので、ミッキーは誰の目にも触れることなく、裏側でたったひとり、ひっそりと暮らすことになったのです。
左からルミー、エディー、ミッキー。「3にんとも、同じ動物園からやってきました。初めて3にんで同居した日の写真。動物園では3にんとも別々の檻の中で暮らしていましたが、格子越しに顔見知りだったので同居するまでに時間はかかりませんでした」
野上:
テレビ番組で、洋服を着て、まるで人間のようにふるまうチンパンジーの姿が面白おかしく放送されていました。当時は、そういう風潮が強くあったように思います。
でも、それは本来の姿ではないんです。チンパンジーが服を着ていること自体おかしいし、チンパンジーが買い物に行くわけはありません。自発的にやっているように見せかけて、後ろでトレーナーが怖い顔をしているのがテレビには映っていないだけ。本人がやりたくてやっているわけではないし、数知れない犠牲と苦痛を負わせているのです。
ミッキーもそうでしたが、子どものチンパンジーは好奇心が旺盛で、最初はなんでも楽しんでやってくれます。だから人間も「チンパンジーも楽しんでくれている」と正当化しがちですが、それは最初の1回か2回まで。撮影やショーのために何回も繰り返しやるというのは、虐待とまではいわないにしても、強制です。
「全てチンパンジーがやりたいときにやりたいことだけをやらせています」ということであれば、百歩譲ってまだましかもしれませんが、決まった時間にやりたくないのにやらせて、しかもそれがまるで本人の意思や本来の姿であるかのように見せるのは、一番やってはいけないことだと思います。
──確かに…。
スマイル(左)とケンボー(右)。「スマイルも、かつてエンターテイメントに使用されていました。熊本サンクチュアリに来るまでおとなのチンパンジーを見たことがなかったので、来たばかりの頃はチンパンジーが怖くてたまりませんでした。ゆっくり時間をかけて優しいケンボーとお見合いを繰り返し、一緒に生活できるようになりました」
野上:
私自身、ミッキーとショーをやっていた時は、ショーを正当化して「ショーを通じてチンパンジーの姿を知ってもらえたらいいな」と自分に言い聞かせていました。が、そんなわけはないんです。
やっていて気づいたんです。テレビやショーの中で人間のようにふるまうチンパンジーは、本来の姿ではありません。間違った情報を見て、ただ「かわいい」で終わるだけ。そこから「野生のチンパンジーのために寄付しよう!」なんて思う人、いないんですよね。
本来の姿を発信しないと、野生のチンパンジーも守れない。
エンタメのためにチンパンジーを犠牲にして、嘘で塗り固めた姿を、まるで本来の姿のように発信する。それは絶対に、やってはいけないのです。
「ケンボーはとても優しいおじさんで、ダイチやスマイルの最初の仲間になってくれました。ダイチもスマイルも、ケンボーおじさんを頼りにしています」
「チンパンジー(特に男)は、レスリングしたり追いかけっこしたり、おとなになってもよく遊びます。遊びが激しくなってどちらかが強く叩いてしまったりすると喧嘩になることがありますが、喧嘩の後はすぐ仲直りしてまた遊び始めます」。写真はゴウとサンゾウ
野上:
人間の勝手な都合でひとりぼっちになってしまったチンパンジーが、仲間と暮らせるサンクチュアリを作りたい。2003年に動物園をクビになり、2004年に団体を立ち上げました。各地の動物園の飼育員さんにも賛同していただき、情報交換したりホームページを作ったりしながら、まずは啓発活動に力を注ぎました。
2005年、同じようなビジョンを持っておられた、当時の京都大学霊長類研究所の教授に声をかけていただいて、2年間先生の元で研究のお手伝いをしながら野生のチンパンジーを見に行く機会も得ました。2007年、医学実験に使われたチンパンジーが余生を安心して暮らせる場所として「チンパンジー・サンクチュアリ・宇土」(熊本サンクチュアリの前身)が京都大学霊長類研究所と製薬会社の運営協力でサンクチュアリとして発足し、私は2007年からスタッフとして携わるようになりました。
「熊本サンクチュアリ」は、2011年に京都大学の施設として発足した、かつて医学実験のために使用されていたチンパンジーたちが、余生を仲間と暮らすための施設。「それぞれのチンパンジーの個性に合わせて、できるだけ彼らが快適に過ごせるような環境づくりを心がけています。現在48にん(男29にん女19にん)のチンパンジーが暮らしています」
野上:
当時の「チンパンジー・サンクチュアリ・宇土」には、医学実験に使われたチンパンジーが79にんいました。熊本への赴任を打診されたとき、最初は「ミッキーのためのサンクチュアリを作りたいのであって、まだ会ったこともない79にんはちょっと背負えない」と思ってお断りしたんです。だけど、「ミッキーも連れてきたらいいんじゃない」と言われて、「それなら行きます」と。
ミッキーのためだったら、何でもできると思いました。熊本に引っ越して、79にんのチンパンジーとつきあい始めました。のちに、この79にんは私にとって、ひとりひとりがかけがえのない大事な友人であり、家族のような存在となりました。
「一組のチンパンジーたちが遊び始めると、その楽しい雰囲気は周りに伝染し、ほかのチンパンジーたちも遊び始めます。彼らが楽しそうに笑って遊んでいる時間が、一番大好きなひと時です」
──ミッキーも連れてくることができたんでしょうか。
野上:
そこからミッキーを受け入れるまでに16年かかりました。でも、この16年間でチンパンジーの群れのこと、社会のこと、本当にたくさん勉強させてもらいました。熊本に来てすぐにミッキーを迎え入れていたとしたら、きっとうまくいかなかったと思う。
チンパンジーはひとりひとり皆個性が強くて、一概に「この時はこうしたらいい」とはいえません。そういったことをたくさん学ばせてもらい、決して無駄な時間ではありませんでした。
ただ、心の中にはどんな時も、ずっとミッキーがいました。体は動くんだけど、心にはずっと穴が開いていた。「ここでたくさんのチンパンジーと一緒にいるのに、ミッキーのことは放ったらかしやな」って、ずっと思っていました。
サンクチュアリ・プロジェクトとして、初めて熊本サンクチュアリに迎え入れることができたチンパンジーは「ダイチ」です。2019年でした。
ダイチもミッキーと同じく、私が勤めていた動物園で、ショーのために連れてこられたチンパンジーでした。ただ、ダイチは私が動物園に入ったタイミングで入れ違いで出ていったのでほぼ面識はありませんでした。トレーナーをしょっちゅう噛んで「手に負えない」と追い出され、その後は関西にある民間の動物園に引き取られて暮らしていました。
2015年ごろから、2カ月に1度ほどの頻度でダイチに会いに行き、飼育を手伝いながら動物園の方と関係性を築き、先方から「受けいれてほしい」と言っていただいて、熊本サンクチュアリに受け入れることになりました。
ラッキーと遊ぶダイチ(左)。「ダイチは長い間ひとりで暮らしていましたが、すぐにチンパンジーの仲間と一緒にいたい、という意思表示をしました。ダイチが仲間と暮らし始めるまでに時間はかかりませんでした。写真は、プレイフェイスという表情で笑うふたりです。この後レスリングが始まり、ふたりとも『ハッハッハッ』と笑い声をあげながら盛り上がっていきます」
野上:
一方で、ミッキーは本当に苦労しました。ミッキーは生まれた動物園で、変わらずずっとひとりぼっちで暮らしていました。動物園側に「引き取りたい」と伝えましたが、私も執着が強すぎて感じの悪い態度を取ってしまったり、先方の気分を害するようなことを再三やってしまって、よかれと思ってやったことは全て裏目にでて本当にうまくいきませんでした。
しかし、転機は突然訪れました。ある日、動物園から「引き取ってくれないか」と連絡がきたのです。2022年の秋でした。
そして2023年3月、やっとミッキーを熊本サンクチュアリに迎えることができたんです。
ミッキーの元を去ってから、20年の歳月が流れていました。
野上さんが大好きなミッキーの笑顔。「この笑顔を見るために、これまでやってきました。これからもこの笑顔、みんなの笑顔のために…」
「チンパンジーも、抱き合うことがあります。写真はサイ(左)とコテツ(右)が、ご馳走を目の前にして喜びを分かち合うように抱き合っているところです」
──ミッキーと久々に会った時はどうでしたか。
野上:
久々の再会は、想定パターンCの「塩対応」でした。
ミッキーがどう思ったのかはわからないですが、明らかに「来てくれたの?!」という反応ではありませんでした。ちゃんと私のことを覚えてはいましたが、見てはいけないものを見てしまったと思ったのか、もしくは「何しにきたん?」って思ったのかもしれません。
熊本サンクチュアリに来てから、ミッキーは1週間、検疫のためにケージで過ごさなければなりませんでした。環境が変わり、緊張もあったと思います。ただ私が行くと、初めて会うチンパンジーとは異なる反応を見せたので、私のことはちゃんとわかっているんだろうなと思いました。
すぐに昔、彼が私にやっていたことをしたんです。私の手の傷にミッキーが指をあててじっとこちらを見る。これは昔、よくミッキーと一緒にやっていた「(映画の)E.T.ごっこ」なんですが、「ああ、全部覚えてるんだな」と思いました。
「チンパンジーは本来、木の枝でベッドをつくって休みます。飼育下の環境でベッドを作るだけの植物を育てることは難しいので、スタッフが山から大量の枝を切って運んできてチンパンジーたちが快適なベッドを作れるように工夫しています。写真は、枝で作ったベッドで休むサンゾウです」
野上:
ミッキーと離れてから、いろんなチンパンジーといろいろな経験したので、逆に私の方がちょっと警戒していたかもしれません。半年も経つと、まったく昔と同じような感じになりました。
ミッキーはもう、ひとりではありません。
同じようにひとりぼっちだった仲間と一緒に、同じ空間を共有できる生活を始めました。まわりには緑があるし、走り回れます。もう、ひとりだけで暮らさなくて良いんです。
──ミッキーも野上さんも、よかったですね。
野上:
ミッキーを受け入れられた時のことは、忘れられません。
あまりにも年月がかかりすぎて、周りの皆も無理だろうと思い始めていたし、私も「もしかしたらかなわない願いなのか。ミッキーが死ぬか私が死ぬか、どちらが先なのかな…」と思い始めた矢先でした。
今もふわふわした気持ちで、ミッキーのことを見ています。
「仲間と暮らしていれば、当然喧嘩もします。仲間が多いと誰かが味方になってくれて、誰かが仲裁してくれて、ほかの誰かは慰めてくれたりします」
──野上さんが、ミッキーにそこまで思いを寄せられたのはなぜでしょうか。
野上:
もちろん他の方にも手伝っていただきながらですが、赤ちゃんの時から自分の手で育てたので、我が子のような思いがあったのかもしれないです。子どもを産んだことがないので「親」としての気持ちがどんなものかわかりませんが…。
「ミッキーを何とかしたい」という思いは原動力としてずっとありましたが、サンクチュアリ・プロジェクトを立ち上げてからは、ほんとうにたくさんの方に背中を押していただきました。だから途中で「やってみたけど、やっぱりダメでした」ということは言いたくなかった。
応援してくださる方たちがいたことが、諦めずに続ける力になりました。団体を立ち上げていなければ、諦めていたかもしれません。
「ベッドづくりの時間も、私が大好きな時間です。チンパンジーたちは夕方になると、枝や麻布を折り込んでベッドを作り始めます。それぞれこだわりがあって、寝心地が良いように整えていきます。一度寝転がってみて、いまいちな時はまた起き上がって納得いくまで丁寧にベッドをつくります。満足そうなネストグラント(おやすみなさいコール)が聞こえてくると、『今日も良い一日だったな』と思うことができます」
──やっていてよかったと思う時は、どんな時ですか。
野上:
あのひと(チンパンジー)たちが楽しそうに笑っている姿を見ると、この環境を整えられて本当によかったと思います。
チンパンジーも、人間と同じように笑うんです。でもそれは、仲間がいるからこそできることなんですよね。
人間と同じように誰かと暮らせば、ケンカもするし、仲直りもするし、ちゃんと仲裁するひともいれば、野次馬もいます(笑)。そういう複雑な社会で、仲間と共に生きられるということが、「チンパンジーらしい」ということではないかと思います。
そして、あっちに行きたい、こっちに行きたい、誰といたい、こうしたい…、ちゃんと自分で選択して生きられる環境があること。その意味ではまだまだ発展途上ですが、最終的にはそこを目指したい。人間も同じですが、彼らが選んで暮らせる環境を、用意してあげられたらと思っています。
植物が生い茂る熊本サンクチュアリ。「チンパンジーが暮らす環境は、できるだけ植物が茂るように努めています。初めの頃は、すぐに抜かれてしまった小さな苗木たち。一つ抜かれたら10本植える。粘り強く植え続けていると、緑豊かな環境になってきました」
お誕生会の様子。「熊本サンクチュアリでは、誕生月のどこかで誕生会をしています。主役がご馳走を堪能したら、グループの仲間も『お呼ばれ』します。写真はノリヘイの誕生会の様子です」
──読者の方にメッセージをお願いします。
野上:
チンパンジーに限らずですが、動物と関わる時に、その子に合った、その子に適した生活を考えてもらえたらと思います。
人間である自分は楽しくても、飼育下の子は、囲われた空間でしか生きていけません。それを作ったのは人間で、それが本当に良いのかということは、私も常々、自問自答しています。
目の前にあるいのち、長いその子の生涯を見据えて、最後まで付き合う覚悟がないのであれば、携わるべきではないと思います。
──チャリティーの使途を教えてください。
野上:
チャリティーは、ここにいるチンパンジーたちの誕生会のために活用させていただきたいと思っています。
採食エンリッチメントの一環として、熊本サンクチュアリにいる48にんのチンパンジー全員の誕生会を行っています。誕生日を迎えるチンパンジーとその仲間(平均5にん)にご馳走をプレゼントしています。ひとりあたり700円ほどで、仲間5にんで食べると一回の誕生会費は3500円。48人分の費用として168,000円を集めたいと思います!
ぜひ、チャリティーアイテムで応援いただけたら嬉しいです。
──貴重なお話をありがとうございました!
「仲間と、毎日をたのしく、チンパンジーらしく暮らせるように。ぜひ応援よろしくお願いします!」
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
野上さんのチンパンジーへの深い愛情と敬意が伝わるインタビューでした。
人間がいちばんえらいとかすごいとか、人間だから上とか下とか、人間だから好き勝手にできるということは全然なくて。ただ同じいのちとして、彼らのいのちや暮らしを、人間である私たちがどう知り、どう思いやるべきかということを、今一度、考えなければならないと思いました。
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笑顔でたわむれるふたりのチンパンジーを、かわいいタッチで描きました。
ひとりじゃない。誰かと一緒だから笑顔が生まれる。チンパンジーをはじめとする、すべての命ある生きものがその生きものらしく、健やかに生きる社会への願いを込めたデザインです。
“Share laughter with others(周りの人と、笑いをシェアしよう)”というメッセージを添えました。
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