日々、多くの食品がまだ十分食べられるにも関わらず活用されていない現実がある一方で、さまざまな事情から、十分な食べものを得られない人がいます。
安全に食べられるにも関わらず、さまざまな理由で捨てられてしまう余剰食品を受け取り、必要な人に無償で届ける「フードバンク」。
今週コラボするNPO法人「セカンドハーベスト・ジャパン」は、日本で最初にできたフードバンクかつ、日本で最大のフードバンクです。
「『対等な関係で食を届ける』ことは、私たちがとても大切にしている理念です」と話すのは、セカンドハーベスト・ジャパンCEOの横手仁美(よこて・ひとみ)さん。
食品を届ける時に、「人としての尊厳」を大切にしたいと話します。
ご活動について、お話を伺いました。
お話しをお伺いした横手さん
NPO法人セカンドハーベスト・ジャパン
まだ充分食べられるにも関わらず、さまざまな理由で活用されない食品を受け取り、それらを必要とする方々へ無償で提供する活動を行う日本初のフードバンクです。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2024/10/14
コロナ禍等で貧困率が上がった沖縄支援のために、食品をパッキングするスタッフとボランティアの皆さん
──今日はよろしくお願いします。最初に、団体のご活動について教えてください。
横手:
セカンドハーベスト・ジャパンは、日本で最初にできたフードバンクです。
創業者のマクジルトン・チャールズが、2000年1月、余剰になっている食品を困っている人たちのために役立てたいと、当時まだ日本にはなかったフードバンクの活動を始めました。
2002年にNPO法人になり、もう23年目になります。
パートナーである企業からいただいた余剰食品などを、母子家庭支援団体や高齢者施設、障がい者施設、児童養護施設や難民支援団体といったさまざまな支援団体や提携するフードパントリー(個人向けの食品配付拠点)を通じて、必要としている個人の方に提供しており、年間1,300トンほどの食品を扱う、日本では最大のフードバンクです。
10トントラックでの大型納品案件にも対応が可能な、セカンドハーベスト・ジャパンの基幹倉庫
──長い歴史があるのですね。
横手:
私たちの直営フードパントリー「marugohan(まるごはん)」では、毎週300世帯に食品を提供しています。また、行政や支援団体から依頼を受け、直接配送も行っています。毎週150箱ほど、多い時は月1,000箱ほどをお送りしています。
栄養のバランスを考えて、お米からおかず、調味料…、少しずついろいろなものを入れるようにしています。
他にも毎週土曜の午前中には、東京・上野の上野公園で、寄贈された食品をすぐに食べられる状態でパックしたお弁当を200〜500食ほど、ホームレスの方を中心にお配りしています。
また、お母さんとお子さんにのんびりすごしてもらえたらと、おやつと飲み物を用意した「キッズカフェ」を、毎週金曜・土曜の午後に開催しています。
子どもたちが食を通じて様々な体験ができる「Kids Café」
セカンドハーベスト・ジャパンの基幹倉庫には、ウォークイン冷蔵庫と冷凍庫を設置。温度データロガーを利用して、クラウド上で24時間温度管理を徹底している
──「フードバンク」という言葉はいろんなところで聞くようになりましたが、定義などはあるのでしょうか。
横手:
現在、全国にフードバンクと呼ばれる団体は270ほどありますが、「これがフードバンクである」という明確な定義づけはありません。独自に食品を扱い、必要な方に届けている団体はたくさんあって、子ども食堂やフードパントリーを併設しているところもあります。
ただ、どんな形態での運営であっても、受け取る利用者にとって食べ物の「安全性」は重要ですし、食品を寄贈いただく企業にとっても自社ブランド食品の「安全性」を担保するというのは重要なことです。セカンドハーベスト・ジャパンは、安心・安全な食品を保管・管理し、提供するということに注意を払っています。
「日本フードバンク連盟に加盟する団体の認証要件のひとつとして、【2年に一度、衛生管理監査を受ける】必要があります。連盟から派遣される外部の食品衛生管理専門家によって実施され、安全・衛生面に関わる90以上のチェック項目があります」
横手:
冷凍・冷蔵食品は、温度のブレなく管理がしっかりできる冷凍・冷蔵庫が必要ですし、衛生面での管理も必要です。フードバンクが定着し、誰でも困った時に食にアクセスができる社会を目指し、食品を受け取る側として、企業さんが安心して食品を渡せる環境を作っておくことは非常に重要で、セカンドハーベスト・ジャパン含む日本フードバンク連盟の10の認証団体は、「フードバンクガイドライン」をフードバンク運営の指針としています。
このガイドラインは、フードバンクガイドラインが起草された2010年当時、全国フードバンクネットワークに賛同した11団体が関わって作成したもので、フードバンク団体を運営するにあたっての原則論として守るべき17の項目が記載されています
農林水産省や消費者庁など、フードバンク活動に関わる省庁と意見交換や施設見学などを実施
セカンドハーベスト・ジャパン直営のフードパントリー「marugohan(まるごはん)」。「自分たちが必要なものを、必要な量、受け取ることができます」
横手:
私たちの活動のひとつに、個人の方が直接食品を取りに来られる配付拠点「フードパントリー」があります。セカンドハーベスト・ジャパンのフードパントリー「marugohan」では、ショッピングスタイルをとっています。いろんな企業とのつながりがあるので、豊富な食品のラインナップを揃えられることが大きなメリットです。週に3日、木金土と開催しており、なかなかこれだけの頻度で開催しているパントリーは他にないと思います。
──誰でも利用できるのですか?
横手:
食品を必要としている方ならどなたでも。初回にIDを持参して登録していただき、2ヶ月間で5回まで利用できます。最近は、利用される5〜6割が外国人の方です。
marugohanでは、スーパーマーケットでの買い物のように、自分の好きなものを選ぶことができる
横手:
フードパントリーには、野菜や果物といった生鮮食品から牛乳やチーズ、お豆腐、冷凍食品、レトルト食品、お米…、寄贈されるものによって、その時々で陳列している食品は異なりますが、栄養バランスが偏らないように気を使ったラインナップを揃えています。
利用する方には、スーパーと同じように店頭でカゴを持って、自分のほしい食品を選んでいただきます。必要な分を無償で持って帰っていただけます。
──生鮮食品まであるんですね!
そして食品を受け取るだけでなく、自分で「選べる」なんて、さらに嬉しいですね。
横手:
フードパントリーに関しては、袋詰めした食品を一方的に渡すのではなく「必要なものを、必要な分だけ選べる」ということが、同時に「人間としての尊厳」を大切にできていると考えています。
「直営パントリーのmarughoanでは、食品の受け入れ、仕分けから、陳列に至るまで、ボランティアの皆さんが、利用者の方々に必要な食品を持ち帰っていただくための作業を担当しています」
調理器具がないなどの理由で調理ができない人のために、すぐに食べられるお弁当などを提供する「配食サービス」
横手:
私たちは、企業さんから賞味期限の切れた食品は受け取っていませんし、フードパントリーにも賞味期限切れのものは出していません。
「賞味期限が切れていても、まだ食べられるからいいじゃない」とおっしゃる人もいますが、自己尊厳につながるということを考えた時に、私たちが店頭で食品を購入する際、賞味期限切れのものは売っていないのと同じように、賞味期限を切れたものをお渡しすることはしていません。
困っているから賞味期限が切れたものでも良いでしょうではなく、相手は尊厳のある方々で、食品を取りに来てくださっているという思いでやっています。
──そうなんですね。
「セカンドハーベスト・ジャパンでは、スタッフやボランティアが協力して、セカンドハーベスト・ジャパンのミッション『すべての人に、食べ物を。』の実現に向け、活動を続けています」
横手:
「対等な関係で食を届ける」ことは、私たちがとても大切にしている理念です。
誰が上とか下とかではなく、困った時には、誰でも助けを求めていいということ。
そして元気になった際には、今度は同じように困っている方をみた時に、「恩返し」の気持ちで助けの手をさしのべてもらえたら嬉しいです。もちろん強制することではありませんが、フードバンクの活動の背景には「助け合いの気持ちを、また次につなげてもらえたら」という思いもあります。
食品を寄贈してくださる企業さまとの関係についても「対等な関係」であることは同じで、「対等なパートナー」であり、「食品を提供してあげている相手」というような上下関係になるのは避けたいと思っています。必要としている人々を一緒に支援するパートナーとして、同じ目線で取り組むということをご理解いただきたいと思っています。
「セカンドハーベスト・ジャパンでは、フードバンク活動を共に実施しているステークホルダーの皆さんを招待して、活動のあれこれを見ていただく、オープンハウスを実施しています」
2024年1月1日の能登半島地震の発災直後から現地入りし、緊急支援を実施。「3月には、中期支援を視野に、セカンドハーベスト・ジャパン中能登拠点を立ち上げました」
──横手さんにとって、「食」とはどのようなものですか?
横手:
個人的な思いですが、食とは命に直結する、生きる源であり、生きていくための基本中の基本です。
「食べる」ということはある意味、皆に平等な権利です。つまり、食べられない状態というのはノーマルではありません。セーフティネットとして、どんな人も、どんな時も、食にアクセスできる状態を作っておくことが大事だと思っています。
そして、食べることが生きる源だとしたら、ただカロリーを摂取すれば良いということではなく、「食を分かち合う」ということもすごく大事です。
一緒に食卓を囲み、分かち合える相手がいたら、安心して、感謝して食べられますよね。
野菜や穀物、お肉…、生きていたいろんなものから、私たちは生きるために、命を与えてもらっています。私たちの食べものになってくれた命を無駄にしないように、大事にいただく思いを持つというか、それを分かち合える時間や仲間がいるといいなと思います。
──横手さんは2023年7月に、創業者で前代表のチャールズさんから代表のバトンを引き継がれたそうですね。どのような経緯だったのでしょうか。
横手:
セカンドハーベスト・ジャパンの代表に就任する前は、領事館や民間企業勤務を経て、国連WFP協会事務局長としてアフリカをはじめとする飢餓のある地域のために後方支援をしていました。
直接支援ではありませんでしたが、アフリカ出張などもしながら、外資系企業、食品企業をはじめとするさまざまなパートナー企業と共に活動し、これがものすごく尊い仕事であるということは感じていました。
「セカンドハーベスト・ジャパンの代表にならないか」という話をいただいた時、私がこれまでやってきたことの全てを注ぎ込んでも有り余るぐらいの挑戦だと思いましたが、だからこそやってみようと思いました。
「成長する」ことは、生きていく上ですごく大事なことだと思うからです。
──代表に就任されて1年余りが経ちますが、現在はどのような思いでおられますか。
横手:
団体でB to BからB to Cへの支援まで行っていますし、今年は被災した能登と沖縄での支援も実施しています。チャンレンジングな状況で苦労もありますが、「誰かの役に立てている」というやりがいを感じています。
あとは、仲間の存在が大きいですね。セカンドハーベスト・ジャパンには、この活動に誇りとやりがい、意義を感じている素晴らしい人たちが集まっており、彼らから良い刺激をもらっています。
日本のフードバンクの規模は、まだまだ小さいです。まずは自分たちが大きくなって、もっとたくさんの量の食品を扱えるようになること。そうするともっと支援を広げることができるようになるという使命感を持って、スタッフ一同、毎日頑張っています。
代表としてのプレッシャーもあります。だけどこの皆と一緒なら、同じ方向を向いて、これからまた、いろんなことにチャレンジしていけると思っています。
私はこの仕事の前に、大学で「批判的思考の大切さ」を教えていたのですが、まさに今、それを実践している感じです。
なんでも鵜呑みにして信じ込まず、既存のやり方やしくみにとらわれず、これまでだったら断っていたことでも、本当にそうなのかとか、もしかしたらチャンスかもしれないと思って動いてみたら前に進んだということもあって、小さな事例を一つひとつ積み重ねていくことで、これからも良い変化を生んでいけたらと思います。
沖縄では、地元フードバンクと協働で、セカンドハーベストフードパントリーを運営している
ボランティアの協力のもと、コロナ禍で困窮する学生や大学院生向けに大学構内で「モバイルパントリー」を実施した時の一枚
横手:
フードバンクもパントリーも少しずつ普及はしてきたものの、まだまだ知らない方も多く、途上にあると感じます。
現状としてはまだ難しいですが、街に交番があって、困ったことがあればいつでも駆け込めるのと同じように、食に困ることがあれば「ここに行けば、いつでも安全で必要な食べ物がある」というような場所が全国各地にある状態、フードセーフティーネットが構築された社会を目指していきたいと思っています。
また、近年さまざまな災害が起きていますが、有事の時にどうやって食を確保するか、フードライフラインの構築も考えていかなければなりません。民間の1団体ですべてを網羅することは無理で、国や自治体と連携していく必要がありますが、私たちは食の支援団体として、すぐに動ける体制を確保しておくことも大事だと思っています。
そのような責任を負いつつも、日本はまだまだフードバンク全体の規模が小さいので、もっと大きくなっていく必要があるのかなと思います。
私たちが扱う食品量は、年間1,300トン。必要とする皆さんに届けようと思うと、まだまだ足りません。食品調達量を増やすにあたっては、自助努力だけでは難しいところがあって、他団体や自治体とも連携しながら、規模感を持って活動できる状態をつくれたらいいなと思っています。
──最後に、チャリティーの使途を教えてください。
横手:
セカンドハーベスト・ジャパンが提供する一食あたりの費用は、68円です。68円で主食、副菜含む栄養バランスを考えた約400グラムの食事を提供することができます。
今回の目標金額である20万円で、約3千食を必要としている方々に提供することが可能になります。ぜひ、アイテム購入で応援いただけたら嬉しいです。
──貴重なお話をありがとうございました!
2023年11月、世界的ロックバンドColdplayの東京ドーム会場にて、セカンドハーベスト・ジャパンのブースを出展。その時の1枚
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
カゴを持って、好きな食品が選べるパントリー!すごく嬉しいし、楽しいなと思いました。一方的であったり制限されたりせずに、自分で考えて、自分で選べるって嬉しい。そう思うと、私たちは日々、食べものをただ食べているだけではなく、そこから本当にさまざまなものを得ているのだなと改めて感じました。
日本ではまだまだ規模が小さいフードバンクですが、必要な人に必要な食が届くことで、一人ひとりの、ひいては社会の、前向きな今日、そして明日への活力がつくられていくのだと思いました。
【2024/10/14~20の1週間限定販売】
いろんな食べものに囲まれて、楽しそうにはしゃぐ人の姿を描きました。どんな時でも、必要な食にアクセスできること。それは生きる尊厳を守ることであり、それによって人に力が湧いてくる様子を表現しています。
“Food is love, food is life(食べものは愛そのもの、食べものは命そのもの)”というメッセージを添えました。
JAMMINは毎週週替わりで様々な団体とコラボしたオリジナルデザインアイテムを販売、1点売り上げるごとに700円をその団体へとチャリティーしています。
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