CHARITY FOR

長崎・対馬にのみ生息する推定生息数100頭の「ツシマヤマネコ」。人との共存を考える〜NPO法人どうぶつたちの病院

長崎県の対馬にのみ生息する「ツシマヤマネコ」。
1971年には国の天然記念物に指定されています。
現在、推定生息数は90もしくは100頭ほどとされ、絶滅の恐れが最も高い「絶滅危惧IA類(CR)」に指定されています。

体はふつうのネコと同じぐらいの大きさで、自然の中に棲家を構え、田んぼをひとつの餌場にして生きるツシマヤマネコ。島の自然環境が変化する中で、さまざまな脅威にさらされているといいます。

「ひと昔前は、人間が生きるための活動が、ヤマネコの暮らしも築いてきました。しかしここに来て、人間の生活が急激に変わり、自然環境が失われる速度に、ヤマネコがついて来られていません。」

そう話すのは、今週JAMMINがコラボするNPO法人「どうぶつたちの病院」理事長で、獣医師の越田雄史(こしだ・ゆうし)さん(46)。

活動について、そしてツシマヤマネコについて、お話を聞きました。

お話をお伺いした越田先生。「対馬の佐護やまねこ稲作研究会の試験田にて、コメ作りに取り組んだ時の一枚です」

今週のチャリティー

NPO法人どうぶつたちの病院

地域に根ざした動物医療活動や適正飼育の普及などを通じ、絶滅の危機にある野生動物の回復と自然再生を目指して活動しています。

INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2024/10/07

対馬にて、ツシマヤマネコをはじめとする
野生動物の保全のために活動

民家の庭先で衰弱していた子ヤマネコを救護。「第一発見者のほとんどが地域住民の方であり、皆さんの協力がなければ、ツシマヤマネコの救護活動は成し得ません」

──今日はよろしくお願いします。最初に、団体のご活動について教えてください。

越田:
対馬で「対馬動物医療センター」という地域に根ざした動物病院を開設し、動物医療を通じてペットの適性飼養を推進、ツシマヤマネコをはじめとする負傷した野生鳥獣を治療し、対馬の野生動物を保全するために活動しています。

「ツシマヤマネコ」は、対馬のみに生息するネコ科の生きもので、現在100頭ほどが生息していると言われています。

島の野良猫や放し飼いにしている家猫から、同じネコ科なのでツシマヤマネコに感染する可能性のある病気があって、そうすると、一気に絶滅のインパクトを与えてしまいます。特に問題なのは「猫エイズ」と「猫白血病」で、明確な治療法がなく、推定100頭しかいないツシマヤマネコが一度感染すると、かなり大きなリスクになります。

人間が仕掛けたくくり罠にかかったヤマネコの治療をする越田先生。「被毛で覆われているため、足の傷の程度はとても分かりづらいです。くくり罠による救護では、まず毛を剃って皮膚の状態を確認します」

越田:
以前は、「猫の病気が感染するはずないだろう」と思われていたのですが、1996年に猫エイズに感染したヤマネコが見つかりました。これはかなり衝撃的なニュースで、感染源を調べていくと、どうやらかなり高い確率で家猫からの感染だろうということがわかりました。

この事実に危機感を抱いた九州の獣医師会の先生たちが、「ヤマネコをはじめとする野生動物の保全のためには、動物医療のない対馬で、島民の飼育動物に医療を提供しながら、猫をはじめとするペットの適正飼育を普及しよう」と立ち上がりました。

最初は九州地区獣医師会連合会として、対馬に一定期間滞在し、その間に島の飼い猫たちの無料の避妊去勢手術やマイクロチップによる個体登録を行う形で活動がスタートしました。

しかし、通いではなかなか、活動できる範囲に限りがありました。もう一歩前に進み、島に獣医師が常駐するかたちをとろうということで動物病院「対馬動物医療センター」を開設し、2004年にNPO法人として「どうぶつたちの病院」が設立されました。

2010年、長崎県佐世保市で開催したNPOの総会にて。「九州や東京の獣医師と飼育や事務に携わる職員が参加しました」

──病院開設から20年になられるんですね。
島に適正飼育は浸透してきているのですか。

越田:
だいぶ浸透してきたと思います。
対馬に限らず離島の場合、もともと島に獣医師がいないことも多く、動物を治療するといった習慣がなく、たとえば猫なら、「外にいるものだ」という認識が当たり前になっているようなところがあります。

しかし、先ほど猫エイズに感染したヤマネコの話をしましたが、その地域の人間が関わる動物、つまりペットをちゃんと管理できないと、野生動物の保全に支障をきたしてしまうことがあるのです。

──そうなんですね。

2024年3月、くくり罠による錯誤捕獲で救護された「レオ」の手術の様子。レオは右前足の先端を、自傷により失っていた

越田:
僕は2009年に獣医師として対馬に赴任してきましたが、当時はまだ、島の人たちに動物病院の存在すら知られておらず、飼い猫も外で生活するのが当たり前という感覚の方が強かったと思います。何かあった時に病院に連れていくという習慣もなく、「なんで猫を病院に連れていくんだ。その辺にもたくさんおるから、それでええやろう」というような感覚が強かったように思います。

病院自体もすごく暇で、「なかなかすごい場所に来たな」と思っていました。しかし最近はしっかり飼おうという意識の方も増え、少しずつ良くなってきていると感じます。

ただ、ペットに関しては良くなってきたのですが、島にはかなりの数の野良猫がおり、なかなか悩ましいところです。
対馬には様々な種類の野鳥がおり、外にいる猫は野鳥をハンティングしてしまいます。飼い猫は室内飼いを徹底してほしいというのはありますね。

対馬市のTNR事業で捕獲され、地域住民との調整の末、そのまま保護されることになったノラネコの「わさび」。「人見知りのため飼い主が見つからず、今では病院のネコ部屋の主となっています」

ツシマヤマネコを取り巻く脅威

「『道路にうずくまっているヤマネコがいる』と通報があり、急いで現場に向かったもののすぐには見つからず、職員総出の大捜索の末に発見されました。交通事故に遭ったようですが骨折などはなく、奇跡的に助かったため『マレ(希)』と名付けられました」

越田:
1996年に猫エイズのヤマネコが見つかって以降、新たにヤマネコの感染は報告されていません。はっきりした理由はわかりませんが、だからといって感染リスクがなくなったわけではありません。いつ感染するかわからないし、一頭が感染すると、その広がりを止めることはできませんから、私たちは依然として、かなり危機感を持って活動しています。

ヤマネコを取り巻く脅威は、他にもあります。
やはり人間が関係することで、交通事故と、鹿の問題です。

「予後をモニタリングするため、ヤマネコに首輪型の発信機を装着して放獣することがあります。もし途中で生存が難しいと判断されれば、捕獲して再度治療を行います」

──どういうことでしょうか。

越田:
対馬では今、増えすぎた鹿が山の草を食べてしまい、それによって山が荒れるという課題を抱えています。山に草が生えていないと、そこに暮らす虫や蝶々やネズミといったヤマネコが餌とする動物も減ります。食べるものがなく、生きていけない個体が出てきます。

そこで、鹿を駆除しようと「くくり罠」という罠を設置するのですが、誤ってヤマネコが引っかかり、命を落としたり足を失ってしまうことも問題になっています。昨年は10頭近くのヤマネコが、くくり罠によって命を失うか、足を失うかの被害に遭いました。
ヤマネコの推定生息頭数100頭ほどに対して、これは1割にあたる数字です。

「2015年以降、くくり罠にヤマネコがかかる事例が確認され始めました。罠にかかった状態で見つかるものばかりでなく、すでに足を失った状態で衰弱していた個体や、死体となって見つかった個体もいます。写真の個体は発見時には大暴れしていましたが、収容6日後に容体が急変して死亡しました。もしヤマネコがくくり罠かかっていた際には、多くの場合で治療が必要になるため、独断で罠から放さず、速やかにセンターに通報をお願いしますと呼びかけています」

──大きいですね。

越田:
昔も鹿はいたわけで、それでも駆除する人がいたから、すごく数が増えるということはなかったと思います。しかし山と関わる人が減り、森を管理する人が減っていく中でバランスが崩れ、結果的に鹿が増えている。これは対馬に限らず、全国共通の課題だと思います。

「保護区をつくればいいじゃないか」という話もあるかもしれません。しかし対馬の山は9割以上が私有地で、人口が減っている中、土地の所有者を見つけることも一苦労なようです。保護区を作ろうと動いておられる団体さんもありますが、実現はなかなか難しいところがあるようです。

対馬の自然。「上空からは一見緑が生い茂って見えますが、対馬のほとんどの林床は乾燥して土がむき出しになっています」

「交通事故で轢いてしまったら、速やかに連絡を。
それが、ヤマネコの命を救うことにつながる」

交通事故に遭い、雨の中道路にうずくまっているところ保護された「ひかり」。「第一発見者の方の通報が早かったため、一命を取りとめました」

越田:
ヤマネコの脅威のもう一つが、交通事故です。
人間とヤマネコの生活範囲がかぶっていて、人間が車に乗っている限り、交通事故はある種、避けられないところがあります。どれだけ注意して走っても、突然飛び出してきた時に、轢いてしまうということがあるからです。

ただ、轢いてしまったなら、せめて「轢いた」と教えてほしいというのが個人的な気持ちです。

──どういうことでしょうか。

越田:
獣医として、交通事故に遭って運ばれてきたヤマネコの処置をしていますが、ヤマネコを轢いた人が直接連絡をくれるケースは、ほぼないんですね。
道路で倒れているヤマネコを見た人が連絡をくださることがほとんどなんです。

交通事故により保護され、一度は野生復帰したものの自力での生存が難しく、再収容された「トラ吉」。「現在は九十九島動植物園で暮らしています。本当に多くの苦難を乗り越え、多くの方々のご協力に支えられ、力強く今日を生きています」

越田:
その場合、轢かれてから時間が経ってしまっているために、命を救えないことがほとんどです。処置が早ければ早いほど、命が救える確率は高くなります。だから、故意でなければ轢いたことを責める気持ちはないから(罰せられる事もありません)、ちゃんと連絡してほしいと発信しています。
だけど、やっぱり轢いた方からの連絡はないですが…ここが徹底されるだけで、救える命があることは確かです。

もう一つ、事故が起きてすぐに連絡をもらえたら、事故現場の状況がより詳しく把握できるので、同じことが繰り返し起きないような対策も考えやすくなります。ぜひ協力してもらえたら嬉しいなと思っています。

──ヤマネコが事故に遭った場合、現場に行かれるのですか。

越田:
環境省の「対馬野生生物保護センター」が24時間365日対応してくださっていて、連絡があると現場に駆けつけて収容します。生きている場合はそのまま野生生物保護センターに運ばれ、僕はそこで治療を行います。

交通事故の現場。「過去の事故発生地点の近くに看板が建てられていますが、そこには獣道(動物たちの通り道)があるため、同じ場所で繰り返し交通事故が起こってしまっています。運転中に注意喚起の看板があったら、少しでも気にかけてスピードを緩めてほしいです」

人の勝手な都合や感情で、
命を落としてしまうヤマネコがいる

これまでに2度、くくり罠によるケガで保護された「シマト」。「1回目は左前肢にケガを負いましたが、幸い機能障害等は残らず山に帰すことができました。写真は2回目の保護時のもので、左後肢の腐敗が進行していたため残念ながら断脚するしかありませんでした」

越田:
先ほど「くくり罠」の話をしましたが、これも罠にかかって随分時間が経ってから収容されるケースが後を絶たず、ヤマネコの命が助からないケースがあります。ものすごく嫌な気持ちで治療しています。

──どういうことですか。

越田:
くくり罠は、全国的によく使われる罠ですが、動物が踏み板を踏むと作動し、足首に金属のワイヤーがきゅっと締まって逃げられなくなる仕組みです。
締め付けが強いため、かかってしまった動物は、時間が経つと締め付けられた部分が血行不良になり、先端が腐ってくるんです。

くくり罠にかかってしまったヤマネコは、逃げたいがために必死になって動きまわり、それがさらに足首を締め付けることになって、結果、運ばれてきても足を切断しなければならいとか、命を落とすことにもつながりかねないのです。

──そうなんですね…。

くくり罠によって腐敗した左後肢を断脚手術した後の「シマト」。「3本脚となりましたが、リハビリを乗り越えて、断脚個体初の野生復帰を果たしました」

越田:
罠の場合は、罠を仕掛けた人が連絡をくれるケースがほとんどで、交通事故と同じように保護してセンターに運ばれてくるのですが、見た瞬間「ダメだろうな」という子と、そうではない子がいます。

その違いは何かというと、「罠にかかってどのぐらい時間が経っているか」です。もうダメだろうなという子は、罠にかかってから長時間放置された子で、センターにきた時点で骨が露出していたり、指がちぎれていたり、季節によりますがウジ虫が湧いていたりします。

──ええ…。

越田:
罠をしかけて2日も3日も経ってから気づくというのは、罠をしかけた場所を毎日見回っていれば、起こり得ません。罠にかかっても、時間が経たないうちに見つけられたら、助けられる命があるんです。つまり、罠をかける人が「めんどくさいな」「どうせかかってないからいいか」「2、3日経ったから、そろそろ見に行こうか」という気持ちで見回りを怠ることで、命を落とすヤマネコがいるのです。

「オリモ式」と呼ばれるくくり罠の1種。「四角い枠の周囲にワイヤーの輪を固定して、土の中に埋める。上から動物が踏むと枠内の板が沈み、バネの力でワイヤーの輪が締まって足を捉える仕組みになっています」

越田:
鹿を駆除することも必要なことで、「罠をしかけるな」とは思いません。
ただ、それがヤマネコであれ駆除対象の動物であれ、命を相手にしているわけであって、たとえ駆除するとしても、なるべく苦しまないようにとか、きちんと向き合った上でやってほしいと個人的には思っています。

ヤマネコが罠にかかってしまうことも、ある種、避けられないことではあります。だけど、早い段階で見つけて適切な対応ができれば救えたかもしれない命が、人の勝手な都合や感情、惰性だけで苦しんだり、亡くなったりする。…本当に嫌だなあと思うんです。

しかも何日も罠にかかっている状態というのは、一体どれほどの痛みであり、恐怖でしょうか。ずっと捕まった状態なので、食べたり飲んだりすることもできません。そういうことを考えると本当にモヤモヤするし、同じ人間として、被害に遭ったヤマネコたちを治療しなければならないのは、正直とてもつらいです。

ツシマヤマネコ以外の野生動物の救護も行う。写真は、幼獣時に保護されたツシマテン。現在は、井の頭自然文化園で暮らしている

「野生動物の問題に見えて、
結局のところは、人の問題」

野生復帰訓練中の「ひかり」。「保護時は幼獣でしたが、大きな野ネズミや鳥類の捕獲ができるほど逞しく成長しました!」

──先生としてはどのような思いで治療してらっしゃるのですか。

越田:
ひとつでは収まらない、どこにも発散できない悲しみや怒り、憤りがあります。
なんとかしたい、なんとか命を救いたいという思いがある一方で、どれだけ頑張っても救えないこともあって…なんと表現したら良いのかわかりません。

もうダメだと思っても、「いや、もしかしたらダメじゃないかもしれない。命が助けられるかもしれない」と信じて、できる限りのことをやります。獣医である自分が諦めてしまったら、どうにもならないので…。

そしてやっぱり、一見は野生動物の問題のように見えて、「結局のところ、人間次第だよね。人間の問題だよね」っていうところに辿り着きます。

──人間の問題なのですね。

対馬内で開催された、ヤマネコを含む自然を残すための勉強会の様子。島内外の人が協力して、野生動物保全に取り組む

越田:
僕はもともと、人と関わりたくなくて、動物に寄り添う仕事がしたいと思って獣医になりました。だけど野生動物の問題を解決していくためには、動物以上に人と関わって、折り合いをつけてやっていかなければならないところがあります。

もちろんそれぞれに意見や立場があるわけですが、嫌な気持ちになったり残念に感じたりすること少なからずあって、かつそれを表に出せないことにも違和感を覚えて…、でも、なんとかうまく折り合いをつけてやっていく以外にありません。

対馬で開催された、動物愛護週間イベント「わんにゃんフェスティバル」にて、島の人たちにペットの正しい飼い方を伝える越田先生

越田:
一方で、この活動をしていたからこそ救えた子たちがいるし、良い出会いもたくさんありました。モヤモヤしながらも、時々「ああよかった」と思える出来事があって、それを原動力に、日々頑張っている感じです。
関わったヤマネコたちが元気になって、野生に戻る場に立ち会えるのは何よりの喜びで、僕が今日まで活動を続けてこられた理由ですね。

ヤマネコたちの未来が今後、どうなっていくのかはわかりません。だけど自分が関わっている間は、ヤマネコたちのことを見届けてやりたいと思っています。

トラ吉の野生復帰のシーン。「放獣されてからが、彼らにとっての本当の闘いです。生き延びてくれ!と願うばかりです」

──「見届けてやりたい」と思われるのはなぜでしょう。

越田:
ヤマネコに限らず、野生動物はなかなか、人間から目を向けてもらえない存在だと思います。どんな動物も生きていく権利があって、その動物らしく生きていってほしいと思いますが、それすらも人間の勝手な都合や感情のブレだけで決められ、振り回されている現状があります。

だから、自分は彼らに目を向けていたい。あまのじゃくなのかもしれませんが、他の人がしないことを、自分がしてあげたいと思うんです。

「動物園のツシマヤマネコイベントにも参加しています。写真は、井の頭自然文化園が制作したかるた遊びを通じて、子どもたちにツシマヤマネコについて学んでもらっているところです」

──獣医としてツシマヤマネコと接する中で、彼らから何か感じられることはありますか。

越田:
それはないですね。
治療のために痛いことをしているし、彼らは感謝もしていないと思っています。でも、それでいいんです。感謝してもらいたいから治療をしているわけではなくて、ただ自分がやりたくやっている。ある種、自己満足なところがあるんです。

幼い時から、他の多くの人が目を向けないものに目を向けたいと思っていました。その対象が、僕にとっては自然環境や野生動物だったんです。

どうぶつたちの病院のスタッフが飼育員として常駐する「環境省対馬野生生物保護センター(通称ヤマネコセンター)」。「終生飼育となった『ナミ』にボディタッチの練習をしている様子です。治療だけではなく、日々の健康管理も重要な仕事です。このようなハズバンダリートレーニング(受診動作訓練)は、飼育動物のストレスを軽減しながら健康管理を行うために取り入れています」

「ヤマネコが生きていくためには、人間が必要」

ヤマネコが生息する対馬北部、佐護集落の田園。「ヤマネコを含む、さまざまな野生の生きものに配慮した稲作が行われています」

越田:
ヤマネコは、田んぼを餌場にして生きる動物です。そして田んぼは、人間がヤマネコのためではなく、自分たちのために作ったものです。人間が人間のためにしているものが結果、ヤマネコにとっても良かった。人間が山に入って木を切り、木材にしてきたのも同じです。人間による人間のための活動が、ヤマネコの暮らしも築いてきました。

しかしここに来て、人間の生活が急激に変わり、自然環境が失われる速度に、ヤマネコがついて来られていません。これまで築かれてきた人間とヤマネコとの関係性が崩れ、さまざまな問題が起きています。

ヤマネコが生きていくためには、人間が必要です。人間がいなくなったら、ヤマネコが生きていけるとは思いません。
ヤマネコのためにも、人間も健全に存在していく必要があるし、共存していくことが望まれています。

対馬南部、内山集落の田園。「集落周辺には原生林も残っていて、炭作りも行われています。自然との共生が今後も続いていくこと願っています」

──読者の方に、メッセージをお願いします。

越田:
人間はこれまでの営みで、ある意味ほぼ無意識のうちに、野生動物たちと共存してきました。しかし生活が大きく変わったことで、これまでのように無意識のままではいられなくなってきていると思います。野生動物や自然環境のことに目を向けて、意識してもらいながら、共存のかたちをとっていく時代ではないかと思います。

島内の人に限らず、島外の人たちにも目を向けてもらえたらありがたいです。なぜかというと、対馬だけで物語が形成されるわけではなく、島外の人が訪れたり関わってくださったりすることで、島内の人たちの意識も高まるし、経済も回り、良い循環が生まれるからです。

先ほど、「感謝をしてほしいわけじゃない」と言いましたけど、この活動に興味を持って応援してくださったり、コメントをいただいたりすると、やっぱり嬉しい。やってきたことが間違いじゃなかったと思えたり、自分たちの活動を通していろんなことを考えてくださる人たちがいてくれると思えることが、僕もスタッフも、大きな励みになっています。

「2021年以降、野生動物の侵入被害に困っている地域の方と一緒に、鶏小屋などを修繕する活動を始めました。野生動物との『共存』を目指す活動のひとつです」

越田:
そして、僕たちが発信している情報だけを信じるのではなく、実際に対馬に来て、見て、感じてもらえたらと思います。なかなか気軽に来られる場所ではありませんが、ここで何かを感じてもらえたら嬉しいし、さらに欲を言えば、「ツシマヤマネコに興味を持って、この島に来たんです」と地元の方にもぜひ積極的に伝えていただけたら嬉しいです。

そうすることで、島の人たちにも、ツシマヤマネコの価値を身近に感じてもらえるからです。いずれにしても、未来がもっと良い方向に向いていくことを期待したいです。

──最後に、チャリティーの使途を教えてください。

越田:
チャリティーは、ツシマヤマネコをはじめとする保護された野生動物の治療費として、また野生復帰が難しい場合、動物病院で終生飼育するために必要な資金として活用させていただく予定です。コラボアイテムで応援いただけたら嬉しいです。

──貴重なお話をありがとうございました!

「どうぶつたちの病院」スタッフ、関係者の皆さんと。「活動を始めて20年。野生を守ることに、わたしたちは貢献できているでしょうか」

“JAMMIN”

インタビューを終えて〜山本の編集後記〜

他の生きものと同じ場所で暮らしていながら、いつから人間が、まるで全部自分のもので、自分たちさえ良ければそれで良いというように振る舞えるようになったのでしょう。どうぶつたちの病院さんが送ってくださったヤマネコたちの写真。愛らしい姿につい微笑んでしまうと同時に、彼らが今日も厳しい世界を生きていると思うと、胸がいたくなりました。
人間である私たちが見渡す景色。そこに、人間だけでなく他の命が確かにあって、生きていること。そして我々はそこから、実はたくさんの豊かさをもらっていること。そのことを、もう一度認識しなければなりません。

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【2024/10/7~13の1週間限定販売】
ツシマヤマネコを中心に、対馬に生息・自生している動植物を描きました。

動物…ツシマヤマネコ、ツバメ、ツシマアカガエル、カヤネズミ
植物…稲、アオツヅラフジ、ハクウンキスゲ、センニンソウ、ゲンカイツツジ

ツシマヤマネコの命とつながる動植物を円環のように構成することで、命の尊さ、相互に作用する生態系の豊かさやバランスを表現しています。
“Find balance in life(命/生のバランスを見つけて)”というメッセージを添えました。

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JAMMINは毎週週替わりで様々な団体とコラボしたオリジナルデザインアイテムを販売、1点売り上げるごとに700円をその団体へとチャリティーしています。
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