1990年代には、8年連続で犬の殺処分数が全国1位だった茨城。
「人と動物のいのちにやさしい社会」を目指し、茨城で2008年より活動するNPO法人「動物愛護を考える茨城県民ネットワーク(CAPIN)」が今週のチャリティー先。
「動物に限らず、生きとし生けるものすべての尊さや大切さについて触れ、学び、考えられる場になれたら」と話すのは、CAPIN代表理事の鶴田真子美(つるた・まこみ)さん。
イタリア文学を学んでいた鶴田さんは、イタリアを訪問した際、猫に優しい街の人たちに触れ、動物のいのちと尊厳を守る法律があることを知ります。
「イタリアでできるなら、日本でもできるはず。日本で殺処分されるいのちを無くせるはずだ」。
最初は1匹の猫のTNR(野良猫を捕まえて不妊去勢手術を行い、元の場所に戻すこと)から始まった活動は、2011年の東日本大震災で被災動物と出会ったことから、シェルターでの保護・譲渡活動へと広がっていきました。
「犬猫の神様に就職したつもりで、とにかく一生懸命活動しています」と話す鶴田さん。
活動について、また活動への思いを聞きました。
お話をお伺いした鶴田さん
NPO法人動物愛護を考える茨城県民ネットワーク(CAPIN)
人と犬猫を中心とした動物のやさしい共生のために、殺処分される犬猫の保護・譲渡、啓発活動、行政・司法への働きかけを行っています。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2024/08/26
第1シェルターの様子。「2011年の東日本大震災以降、CAPINは全国動物ネットワーク事務局として福島に通い、被災動物支援を行いました。福島第一原発から半径20キロの警戒区域で緊急保護した犬猫たちが、次々と茨城にやってきました。急遽収容できる施設が必要となり、救援本部に義援金を申請し、筑波山近くの旧豚舎を使わせてもらうことになり、のちの第1シェルターとなりました」
──今日はよろしくお願いします。
最初に、団体のご活動について教えてください。
鶴田:
茨城で、虐待されたり捨てられたりする犬猫を保護し、新しい里親さんに譲渡する活動をしています。
この問題について一人でも多くの方に知っていただくために、地域のお祭りなどでのチラシの配布や、学校に出向いていのちの授業の開催などの啓発活動のほか、動物福祉に関する法律や条例を作るためのロビー活動も行っています。
特に2019年からは、過去には8年間連続で殺処分数トップだった茨城の殺処分ゼロを達成するため、「殺すんだったら、こちらで引き受ける」ことを決めて、収容された通算618頭の犬猫を、死に物狂いで引き出してきました。
噛み犬の北海道犬「カムイ」。「2019年に開設した第2シェルターには、扱いにくい噛み犬や元野犬が多数おります。毎日のお世話で刺々しかった犬たちも穏やかに。噛まれないよう犬を優しく扱っていくボランティアさんたちの存在なくては成り立ちません。里親探しに繋げていけるよう努力しつつも、シェルターはこの子らを守る最後の砦。気長に楽しみながらやっていきます」
鶴田:
茨城は動物福祉の意識がかなり遅れており、行政はなかなか動いてくれません。市民の方から「虐待の可能性がある」「捨てられている」といった相談が我々のところに寄せられることも少なくなく、行政で引き取られると何日か後には殺処分になってしまいますから、私たちのところで保護し、あたたかな里親さんを見つけることに尽力しています。
2つのシェルターがあり、現在150頭の犬と50匹の猫がいます。またTNRを専門とした「パルTNR動物福祉病院」を運営しています。
「常総市の野犬問題を解決するため、2015年から2019年にかけて、常総市とCAPINで会議を重ねました。その結果、県と市、獣医師会、CAPINで役割分担をしながら野犬150頭を全頭保護、譲渡に繋げることができました。常総市には野犬シェルターができ、民間団体JOSO WAN ZEROも立ち上がり、常総市は茨城県で初めて殺処分ゼロを達成しました。常総市で殺処分ゼロを達成できたことが、茨城全体でも殺処分ゼロを達成できるはずだという希望につながりました」
2009年より取り組んでいる大学での地域猫活動。「これまでに200匹以上を避妊去勢してきました。猫好きなカメラマンや外国人留学生からの相談で、構内に多くの猫がいることを知りました。風邪をひいて目やにだらけの痩せた子猫たちをたくさん保護、譲渡しましたが、半年後にはまた次の世代が生まれます。母猫に避妊をしないと解決できない、と必死に捕獲しTNRを繰り返しました」
──今は犬も多く保護されていますが、最初は、地域猫の活動から始まったそうですね。
鶴田:
はい。2008年に筑波大学の敷地内で数を増やしていた野良猫のTNR活動を始めたのが最初です。当時はまだTNRの認知や理解も低く、大学側から締め出しを食らったこともありましたが、理解してくださった教授や職員の方、学生さん方が手伝ってくださって、敷地内で捕まえた猫に不妊去勢手術をして、またリリースするという活動を行いました。
翌年には大きな効果が出て、私たちが立ち入ったエリアでは新たに子猫が生まれることはほぼありませんでしたが、立ち入れなかった宿舎エリアでは、引き続き子猫がたくさん生まれました。「TNRに効果がある」ということを大学から公式に認めていただいて、以降15年間、大学内でのTNR活動も続けています。
2020年12月、鶴田さんが自前で設立した「パルTNR動物福祉病院」。「茨城県は放し飼いも多く、避妊手術をしない犬猫の外飼いも珍しくありません。フィラリア予防も広まらないため、外飼い犬は5年で終わる命です。もしも保護犬や保護猫を助ける基幹病院があれば、近隣の野良犬猫に避妊去勢をし、フィラリア予防や治療につなげられます。また、当会シェルターにいる犬猫の診療も速やかに行え、薬は原価で購入できます。空き家になっていた近くの動物病院を買い取り、クラウドファンディングでたくさんの方にご支援いただいて、屋根の修理や水道工事をしました。2階はイベント会場、ボランティアさんの宿泊所として使用しています」
──一回やったら終わりではなく、ずっとやり続けるんですね。
鶴田:
TNRは、その後の見守りがとても大切です。大学の敷地内といっても、近隣の住宅地と柵で仕切られていたりするわけではないので、新たに猫が入ってきたり、捨てられていることもあります。
不妊手術をしていないメスの猫が1匹増えるとまたどっと数が増えてしまいますし、手術をした猫たちの継続した見守りと、時に医療も必要です。終わりはなく、徹底的にやり続けることが大事です。
第1シェルターの猫舎には、50匹前後の猫がまったりと暮らしている。写真はCAPINを卒業した保護猫の「ムーミン」。「元は大学地域猫で、シェルターからカフェねこだんごさんでの里親会を経て譲渡されました。今は幸せに里親さま宅で過ごしています」
──そこから、どのようにしてシェルターを持って犬猫を保護する今のご活動にまで広がっていったのでしょうか?
鶴田:
2011年3月の東日本大震災が大きな転機でした。
福島と茨城は隣同士です。茨城に避難されていた被災者の方たちから、福島に残してきた犬や猫の相談を受け、捜索のために現地に入るようになりました。すると飼い主が避難のためいなくなり、あちこち放浪する犬がたくさんいたのです。
これはなんとかしなければと思い、つくば山麓にある土地を借りてシェルターを建て、被災した犬を保護するようになりました。
毎年開催してきた、衆議院議員会館での院内集会。「ペット法塾との共催、CAPINは事務局を務めています。院内集会は国会議員や市民と動物をめぐる諸問題や法改正について対話し現場の課題を発信する場となっています。2024年7月の院内集会では、全国動物ネットワークとして第2種動物取扱業への(規制でなく)支援を訴えました」
鶴田:
福島には、全国各地で活動されていた多くの保護団体さんが集まっていました。被災動物を一頭でも多く助けるため、捕獲器を貸し借りしたり、フードを送り合ったり…、互いに協力して活動していました。
その時のご縁で「全国動物ネットワーク(動物ボランティア団体全国民間ネットワーク)」という保護団体ネットワークを作り、現在は法律の改正を訴えたり、国会議員さんを集めた勉強会を開催したりしています。
2011年7月、被災動物の保護に入った福島県南相馬市にて、イタリア人写真家ピエルパオロミッティカ氏が撮影。「住民は避難し、犬猫だけが取り残されていました。いつ次の爆発があるかわかりませんでした。警戒区域の検問には、地方から来たという少年のような自衛隊員らが装甲車に座らせられて押し黙っているばかりでした。そんな中、置き手紙をして黙々と捕獲機をしかけ、給餌をしました。倒壊家屋が並ぶだれもいない夜の町。傾いた信号機と街燈が点滅。あたりは静まり返っていました。数キロ先の海岸には車が突き刺さり、津波の痕もそのままで、救助が来る気配もないのです。夜はビジネスホテルに宿を取りましたが、大手新聞社は警戒区域に立ち入っての取材が禁止とのことで、フリージャーナリストと動物保護ボランティアしかおらず、まるで戦場だと思いました。南相馬市長と懇意のイタリア人ジャーナリスト・ピオデミリア氏とともに活動しました」
茨城県動物指導センターの大部屋で、飼い主または里親の迎えを待つ犬たち。「茨城県には犬猫収容施設として老朽化した野犬抑留施設『動物指導センター』1個所しかありません。全県の犬猫はここに集められて殺処分されてきました。頭数に対しスペースが狭く、老朽化した犬舎ではエアコンも効かないので、新たな動物愛護センターの建設が待ち望まれています」
──茨城は、殺処分数が全国でもワーストだったとのことでした。茨城ならではの課題などはあるのでしょうか。
鶴田:
茨城は全国でもトップに犬の殺処分が多い県で、お伝えしたように過去に8年間、殺処分数がトップでした。野犬や捨て犬も多く、猫の活動をしている当時から、犬の問題を感じていました。
茨城は気候が温暖で、畜産が盛んな場所です。野犬が群れになって鳥や豚などを襲って食べて、生き残ることができる環境があります。
この5年間、殺処分をゼロにするために必死で引き出しをしてきましたが、それでも年間、1,000頭の犬猫が動物指導センターに収容されます。生まれたら川に流す、土に埋める…犬猫を捨てることが特別悪いことではないという意識が根強く、それが殺処分数トップという不名誉を反映していると思います。
──すごい数ですね。
「左の犬『あさひ君』は、茨城県動物指導センターに収容された野犬の子です。収容時、すでに5ヶ月に成長しており、このままセンターで大きくなると殺処分対象にもなりかねないとCAPINで引き出しました。預かりボランティアさんのお宅に移動してから、徐々に心を開き、穏やかで安定した成犬になり、そのまま里子に迎え入れられました」
鶴田:
茨城の動物福祉が遅れているエピソードとして、「パルボ」という犬猫のウイルス性感染症の蔓延があります。パルボは糞便などで簡単にうつる感染症で、感染すると下痢や血便、嘔吐などの症状が見られ、ワクチンを打っていなければほぼ100%、死に至る病気です。
このパルボ、東京では40年も前に撲滅しているのですが、収容した犬猫の健康のためにワクチンを打ったりはしない茨城の施設では蔓延し、いのちを落とす犬猫がいます。パルボは、皮肉を込めて「茨城病」と呼ばれているぐらいです。
「救えた犬より、手が届かないまま助からなかった犬をいつも思います。写真の犬は、常総のヤマトくん。最後まで捕まらなかった常総野犬には他にオッドアイのチビママとメキズがいて、テレビ局が取材に来たり、捕獲の達人と言われる方々が各地から常総にいらして、さまざまなやり方で捕獲を試みられてきました。ついに2019年、茨城の野犬問題に取り組むNPO法人KDPの方が2頭を保護してくださいましたが、このヤマト君が最後まで捕まらずにいます。どこかで自由に生きているだろうか。おやつを持つ手の先まで近づいてくれたのに、1メートル以内には来ようとはしませんでした。気高いオスの野犬。凛々しさに惚れこみました」
──そうなんですね…。
鶴田:
これ以上、不幸ないのちを出さないためには、他の保護団体やボランティアさんの協力を得て保護・譲渡していくより他ないと思っていますが、子犬や人馴れした犬、ブランド犬などは里親が見つかりやすく施設から引き出してもらいやすいですが、野犬や噛み犬は、どうしても施設に残ってしまいます。
どこにも行き場がない子たちの最後の砦として、CAPINで保護しています。
茨城県動物指導センターから引き出した子猫の「メイちゃん」「むぎちゃん」。「幼くして収容されましたが、CAPINで引き出し、預かりボランティアさんのもとですくすく育ち、譲渡担当ボランティアさんのご協力で里親会に参加、幸せな家庭に迎え入れられました」
保護したばかりの犬をシャンプーするボランティアさん。「この子は、石岡市の山奥の崖に暮らす野犬の群れにいました。犬捕獲の達人ボランティアのしみゃおさん、あんこさん、ゆめのぱぱさんがチームで次々と捕獲、ファミリー全頭を保護しました。野犬を減らすには、メスの犬を残さないことが肝要です。半年ごとに繁殖し、あっという間に増えるからです」
──CAPINさんのシェルターについて教えてください。
鶴田:
東日本大震災の直後に作った「第1シェルター」と、茨城の殺処分数ゼロを目指し、毎週3、4頭の引き出しを始めた2019年に作った「第2シェルター」の二つがあります。第1シェルターには60頭の犬、50匹の猫、第2シェルターには8〜90頭の犬、猫は今のところ4匹います。
第1シェルターは広く、犬1頭あたり3〜4畳の広いスペースを確保しています。ドッグランもたくさんあって、動物福祉の観点では申し分のない、恵まれた環境です。
庭のプールで遊ぶ「ラキ」。「ラキは、かすみがうら市で警察も出動する咬傷事故を起こした噛み犬でした。茨城県動物指導センターに収容されてからは虎太郎と呼ばれ、暗い個別房に閉じ込められていました。センターレスキューペアレント(CRP、殺処分止めるために、実際に家に迎えたり飼育したりはできなくても、医療費や飼育費を支払うことで、里親が決まるまで、あるいは寿命を迎えるまで、継続して1頭のいのちを支えるプログラム)の方により、殺処分を免れてCAPINシェルターへ。俺さま気質でやんちゃな甘えん坊ですが、扱い注意のため、新規ボランティアさんはNGで、ラキがこよなく愛する特定のボランティアさんだけが関わります。背景にある青い三角屋根がシンボルのドッグランは、テレビ『天才!志村どうぶつ園』の取材でタレントの森泉さんがデザインしてくだり、テレビ曲からプレゼントしていただきました」
鶴田:
第2シェルターは、殺される犬たちをまず避難させようという緊急避難的な位置付けの場所で、噛んだり人馴れしていなかったりと難しい犬が多いこともあり、脱走したり噛まれたりということがないよう、犬と関わるスタッフを限定しています。
まずはここで不妊・去勢手術を受けたりワクチンを打ったりと適切な医療を受け、いのちが脅かされない、安心できる暮らしをしてもらい、人馴れが進めば第1シェルターに移ります。二つのシェルターで、雰囲気は全然違います。
──そうなんですね。
CAPINの第2シェルターの様子。「2019年には毎週4頭の犬を殺処分していた茨城県。それを止めるため、同じ数の犬を引き出そうと決意しました。第1シェルターはすぐに満杯になったため、近所の空き家を買い取って第2シェルターとして開設し、元柿畑だった庭にハウスとドッグランを次々と建てて毎週の引き出しに備えました。野戦病院のような勢いで次々とレスキュー犬が収容され、朝晩の世話、医療に忙殺されながら、また新たなレスキューをする日々でした。『殺処分を止めることはできない』といい、短期間に非公開で80頭もの殺処分を行った県に対し、収容された犬猫の撮影、情報開示請求、愛護センター設立の署名活動、住民訴訟、県庁や議員宅に足を運んでの交渉…、考えつく全てをやりました。裁判を通じ、やがて殺処分は毒エサからペント注射となり、ついに止まりました。2020年5月のことです」。写真は新潟からの里親希望者さんとお見合いする「チイ君」。この後、このご家庭へ正式な譲渡が決まった
鶴田:
第2シェルターでは1年ほど前から、地元の自立支援センターに通う方たちに、犬のごはんづくりやお掃除などをお願いしています。毎日4、5人のメンバーさんが来てくださり、とても助かっています。来てくださる方も動物好きな方が多く、喜んでくださっていて嬉しいです。
さらに今年からは障がいのある方を雇用し、一緒に働いていただくようになりました。動物の世界では、障がいのある方が活躍できる場がたくさんあると感じています。もしかしたら、作業に少し時間がかかることもあるかもしれません。でも、ここにいつも来て、ここにいてくださるだけで、動物たちにとっては人間に慣れることができるし、ボランティアのスタッフたちも、孤独を感じることがありません。
CAPINシェルターにて、お皿を洗う自立支援センターの利用者さん。「施設の清掃、洗濯、犬散歩、毛布切り、うんち拾い、草取り、フェンス修理、柿や梅の収穫…、やるべきことは多岐にわたり、私たちも犬猫たちも助けられています。犬や猫との触れ合いを通して、皆で助け合えることがとてもうれしいです。生きていればみな病気をし、いつかは老いと死を迎えます。障がいも個性のひとつで、誰しもあふれる命を輝かせています。犬猫助けは人助け。犬猫SOSの陰には貧困問題、独居高齢者、障がい者、DV被害者の問題が隠れていることがあります。動物と人との共生を探りつつ、いろんなことを解決しながら活動できるとよいですね」
──なぜ、自立を目指す方や障がいのある方と一緒にやろうと思われたのですか。
鶴田:
初期の頃からボランティアで関わってくださる方に福祉のプロの方が多く、不登校や引きこもりの方の支援をされていて、利用者さんをお散歩に同行されています。そうした仲間たちからアドバイスをもらうこともありましたし、第1シェルターの大家さんが知的・精神障がい者グループホームをされていて、何か一緒にできないかという思いもありました。
私自身、25年前から夫と、子どもの虐待防止のNPO活動も行っています。人の福祉と動物の福祉、両方がかなうともっといいなという思いがあって、積極的に取り組んできました。
殺処分を止めるため、ほぼ毎週末、里親会兼パネル展を開催。「カフェねこだんごさん、つくば市メガドンキさん、CASAさん、トリミングサロンのカリフォルニアドッグさん、船橋市マーベラスさんほか、県内各地で開催しています。里親会は、里親を希望する方との出会いだけでなく、啓発や、それを通した新しいボランティアさんとの出会いの場でもあります」。写真はパシフィコ横浜で開催されたイベントでの1枚
──そうだったんですね。
鶴田:
児童養護施設に動物を迎えると、子どもたちが心を開くようになる。虐待を受けた子どもが法廷で証言をする際に、犬を撫でながらだと精神的な負担がかからない状態で話せる。服役中の方が、動物をお世話することで更生が早まる…。
動物を介在した福祉も、さまざまな分野で試みられています。
「つくばインターナショナルスクールの生徒さんたちが、毎年1月から3月の日曜日にCAPINシェルターで犬しつけ教室に参加してくださっています。猫舎で過ごしたり、犬ハウスに絵を描いたり、里山を犬とお散歩したりしながら、交流を深めています。アメリカ、カナダ、ウクライナ、中国、アフガニスタンからのボランティアさんもおられ、トランスナショナルな雰囲気です」
鶴田:
動物は、人の心を開かせたり、癒やしたりする力を持っています。日本ではまだまだ少ないですが、動物の癒やしの力を活用して、障がいのある方の感性が高まったり、感情が落ち着いたり、そういった場となることも目指していきたいと思います。
CAPINとして、福祉の分野で今後もっとできることがあればと思っていて、現在、就労継続支援B型事業所の開所を目指して勉強中です。
動物のいのちも人のいのちも、そこにあるだけで素晴らしいんですよね。何よりも「いのちが第一」に尽きます。CAPINが動物に限らず、生きとし生けるものすべての尊さや大切さについて触れ、学び、考えられる場、「あらゆるいのちの交流の場」になれたらと思っています。
パル動物福祉病院の2階で定期的に開催しているイベントの様子。「ヨガ教室やクラフトワークショップ、絵画教室などを開催しています。毎月第3土曜日は、ベジランチとヨガの日。畜産動物の福祉やアニマルライツについて話し合うきっかけともなっています。地球環境のためにも、また私たちの健康のためにも、菜食玄米、マクロビを生活に取り入れていけたら素晴らしいと思っていて、ヨガのマヤ先生が作る美味しいベジランチはそのきっかけになるかと思います。野菜づくり、漬物づくりにも挑戦しています」
イタリアでの1枚。「イタリアは動物や子どもに優しい国で、各自治体にシェルターがあります。迷い犬猫は自治体が運営する施設に入り、マイクロチップで飼い主につながらなければ、ワクチン、避妊去勢を受けて里親譲渡されます。ペットショップで犬猫の生体販売はありません。扱うのは金魚やハムスターくらいで、あとはフードや首輪、ペットシーツを店頭に並べています」
──「いのちが第一に尽きる」とのことですが、そもそも鶴田さんが、このご活動を始められたきっかけを教えてください。
鶴田:
私はもともとイタリア文学を専攻・研究しており、いくつかの大学で30年近くイタリア語の講師をしていました。小さい頃から動物が好きだったのもありますが、イタリアを訪れた際に、現地の方たちの猫の扱いを見て、「これが日本でもやれたら、殺処分をゼロにできるんじゃないか」と思ったのが、最初のきっかけです。
イタリアの人たちは、動物も子どもも大好き。すごく愛情を示す国民性なんです。そこに強く影響を受けました。
ローマ郊外にある巨大な犬猫保護シェルター。「駅を降りると、目の前がシェルターの入り口。広大な敷地に数百の犬猫が保護されています。犬猫をショーウインドーに入れて物品のごとく展示する行為は、多くのイタリア人が受け入れないでしょう。1メートルの短い鎖で犬小屋につなぐのもイタリアでは違法です。犬猫はきちんと認可を受けたブリーダーか保護施設から迎えるのが普通です」
鶴田:
1985年、大学を休学してイタリアで生活しましたが、その時は野良猫が街にたくさんいました。2000年に再び訪れた際、全然野良猫がおらず、「どうしたんだろう?」と調べてみたところ、1991年に「愛護動物繁殖防止法」と「殺処分禁止法」という法律ができたことを知ったのです。
この法律で、繁殖しないこと、犬猫を殺すのは獣医師の立ち会いのもと苦しみを取り除くためだけということ、また(街にいる)猫たちは街の宝で、街の保護下にあって、誰であっても猫を虐待してはならないといったことが定められたんですね。動物福祉に関してはドイツが有名ですが、実はドイツよりも先に、このような法律を作っていたんです。
──そうなんですね。
「イタリア旧市街の中心にあるトッレアルジェンティーナ広場には、神殿やポンペイウス劇場の遺跡があります。近くには大きな書店やレストランがあり、観光客であふれています。遺跡へ続く階段を降りていくと、なんと遺跡の下に保護猫シェルターがあります。病気別に管理され、きちんと医療も施されており、財源は観光客の寄付だと聞きました。代表の方に伺ったところ、行政は観光地から猫とボランティアたちを追い出そうと何度か警察を投入したものの、ボランティアが団結して座り込み、猫を守り抜いたそうです。権力に負けない精神力はどこから来るのでしょうか。リソルジメント(国家統一運動)やレジスタンス(ナチスやムッソリーニへの抵抗運動)を経験した国民だからかと思います。他国により解放されるのでなく、ファシズムから自分たちで自由と独立を獲得したのですから。地球が回っていることすら認められなかった中世の後、ルネサンスを経て、何かを妄信することなく自分の頭で考えることの大切さを知り、自分の人生は自分で決めてよい、きちんと言葉にして自分の意見を言う勇気、権威より人間こそが大事だということが隅々まで行き渡っている国だと感じます。その点、日本はまだ中世だと感じます」
鶴田:
法律の内容に感動し、「日本にもこんな法律があれば、殺される子たちを助けられる。イタリアでできるんだったら、日本でもできるはず」と思い、まずは法律の翻訳から着手して、国会議員をはじめとするいろんな人に見てもらうために行動しました。
これは犬猫に限った話ではなく「人を含めた、いのちをいかに扱うか」という話につながっているんです。
ガンジーが「その国の偉大さや道徳的発展の程度は、動物をどう扱っているかを見ればわかる」という言葉を残していますが、動物に優しい国というのは、結局は人にも優しい国です。その国が動物をどう扱っているかは、人権や民主主義に対するスタンスも映し出されていると思います。
世界的に見ても日本の動物福祉のレベルは最低ランクですが、たとえばジェンダー・ギャップ指数(経済・教育・健康・政治における男女格差の度合い)も世界最低ランクです。
イタリアをはじめとするEU諸国は男女格差が少ないことでも知られていますし、死刑制度を持たず、監獄に入っている人の人権がしっかり認められていたり、精神病患者が薬漬けで隔離されたりするようなこともありません。
──確かに…。
イイタリア動物保護団体ネットワーク「ENPA」を表敬訪問。ローマ本部にて。「イタリアは、積極的な法整備に邁進しています」
鶴田:
イタリアから帰国して日本を見た時、「この国は変わらなければならない」と思いました。
私はイタリアに引っ越すことができても、日本の犬猫は殺処分から逃れられません。「ここで、自分が変えるしかない」と思っていた時にTNRを知り、「野良猫にごはんをあげて、地域でお世話してもいいという方法があるんだ」と知った時はすごく嬉しかったです。そして1匹の猫をTNRするところから、活動を始めました。
──そうだったんですね。
鶴田:
現場ではなく、法改正の運動をやりたいと思ったこともありました。でも、現場では日々いろんなことが起こり、そこでしか変えられないことがありました。犬猫の神様に就職した気持ちで仕事を辞め、とにかく、この活動を全力でやってきました。
CAPINとして、2010年には牛久市動物愛護協議会、2013年には阿見町、守谷市の動物愛護協議会に参加、条例制定に関わってきた。「写真は、神達岳志常総市長に動物愛護条例を作りシェルター開設を求める要望書を提出した時の1枚です」
鶴田:
私が一番好きなイタリアの詩人で、イタリア文学が発祥した12世紀はじめに活躍した「アシジの聖フランチェスコ(聖フランシス)」という人がいます。鳥と心を通わせ、会話ができたというフランチェスコは、「動物愛護の守護聖人」と言われています。
人生あと何年残されているかわかりませんが、聖フランチェスコが生きた「生きとし生ける全てのいのちを大切にする世界」を、ここ茨城で実践していきたいと思っています。
まだまだ取り組まなければならないことはたくさんありますが、少しずつ状況が改善され、良くなっていると感じることもあります。今後は、殺処分だけでなく、畜産や実験動物の問題にも取り組んでいけたらと思っています。
2010年からCAPINで活動していた副理事長の「M博士」こと松下明行さんと保護犬のてっちゃん。「松下さんは普段は研究所で実験をされている物理の教授でしたが、腰が低く、いつも誰もやりたがらない仕事を率先してやっておられました。穏やかで仏さまのように優しく、誰からも慕われていました。残念ながら病気で今春に急逝されましたが、私たちの胸に今でも生き続けています。
一緒に写っているてっちゃんは、水もなく、炎天下の日差しから身を守るものがない牧場にずっとつながれていた犬でした。飼い主さんがなかなか所有権を手放さず苦労しましたが、最後はポニーもてっちゃんも、CAPINでレスキューすることかないました。動物を救うには、飼い主さんとの粘り強い交渉が欠かせないことを痛感したと同時に、飼い主の虐待やネグレクトから動物を守るために、1日も早く法律を整備する必要があると感じました。犬は狂犬病予防法を口実に保護できますが、猫は手が届かないことが課題となっています」
「地球は人間だけのものではなく、たくさんの生命体のもの。私たちの生命は山、川、海、大地、空につながっています。また、その先に待つ生物学的死から、誰も逃れることはできません。『死すらも讃えられんことを』と謳った、聖フランシスの太陽の賛歌は私の胸にいつもあります。殺処分されるはずだった不要犬猫が、今この時を笑顔で生きている。その姿を目にする度、いのちの尊さ、尊厳を思います。この活動を通し、多くのかけがえのない友、在俗のフランシスカンたちと出会い、また深い学びを得ました。とても感謝しています」
──最後に、チャリティーの使途を教えてください。
鶴田:
チャリティーは、殺処分される犬猫を保護した際に必要となる初期医療費や飼養費として活用させていただく予定です。行政が公金で殺処分する犬猫を1頭でも多く保護し、あたたかな里親さんにマッチングさせるため、ぜひ応援いただけたら嬉しいです。
──貴重なお話をありがとうございました!
ゴールデンウィークに笠間市の「笠間芸術の丘公園」にて開催されるビッグイベント「陶炎祭」にバザーとパネル展で参加。「ボランティアの皆さまと一緒に、いのちの大切さ、犬猫を捨てたら犯罪、虐待も許されないことを市民の皆さまに訴えました。ボランティアの皆さま、いつもありがとうございます。そして全国の皆さまに、茨城からLOVEとPEACEを送ります。いつか遊びにいらしてくださいね。素晴らしいTシャツをデザインくださいましたJAMMINさま、ありがとうございます!」
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
鶴田さんが、ひたむきに「いのち」と向き合ってこられたことが伝わってくるインタビューでした。理解のある飼い主さんのもとで幸せに生きる子がいる一方で、明日殺されるかもしれないという恐怖の中で生きる子や、明日食べるものがないとか、寒くて凍え死にそうだったり、暑くて暑くてたまらない中を生きる子もいます。日本では残念ながら、たくさんの子たちがそのような脅威にさらされていますが、しかし同じいのちなのです。
私たちに、何ができるでしょうか。
【2024/8/26~9/1の1週間限定販売】
一緒にお散歩していたり、ゆったり過ごしていたり、じゃれていたり。犬、猫、人が自由に、いきいきと行き交う姿を描きました。
人も犬も猫も、皆与えられた生を豊かに生きる権利があり、今、この瞬間を共に謳歌できる喜びを描くことで、いのちが尊重される社会への願いを込めました。JAMMIN看板猫で野良猫出身のミヤとタミ(ウタ)も登場しています!
“Be the reason someone smiles today(今日、誰かを笑顔にしよう)“というメッセージを添えました。
JAMMINは毎週週替わりで様々な団体とコラボしたオリジナルデザインアイテムを販売、1点売り上げるごとに700円をその団体へとチャリティーしています。
今週コラボ中のアイテムはこちらから、過去のコラボ団体一覧はこちらからご覧いただけます!