神奈川を拠点に、10代の若者たちに”キャリア共育”を提供するNPO法人「アスリード」が、今週のチャリティー先。
共同代表理事の武政祐(たけまさ・たすく)さん(36)は、新卒で営業職として入社した会社で、3年目にうつ症状を発症。
半年の休職の間、「これが本当に自分のやりたかった仕事なのかとすごく考えたし、もっと早い時期からいろんな職業を知り、将来について真剣に考えておくべきだったと思った」と振り返ります。
自らの反省と経験を生かして、「これからの日本を担う10代の若者たちに、自信と希望を持って未来を生き抜く力を育んでほしい」と、地元である神奈川で「何のために働くのか」「自分はどう生きていくのか」について学び、考える機会を提供しています。
活動について、お話をお伺いしました。
お話をお伺いした武政さん
NPO法人アスリード
10代の若者が、自分の人生を自ら考え、選び、一歩踏み出せるように。
メディア事業、体験事業、居場所事業を通じて、10代のうちから自分の将来について本気で考え、未来を生き抜く力を育むための“キャリア共育”を提供しています。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2024/07/01
冊子『みらい百花』。「中学校や高校の”総合的な学習(探究)の時間”でご活用いただいています」
──今日はよろしくお願いします。最初に、アスリードさんのご活動について教えてください。
武政:
神奈川県内を中心に、10代の若者のキャリア教育支援をしている団体です。
具体的にはメディア事業、体験事業、居場所事業の3つの柱で活動しています。
私たちの団体がスタートしたきっかけでもあるメディア事業については、中高生に向けて『みらい百花』という冊子を年に一度発行し、横浜、川崎、横須賀、藤沢、相模原、東京都町田市の中学校・高校に無料で配布しています。
──どのような冊子ですか。
武政:
一言でいえば、「いろんな働く大人たちを取材した冊子」です。地元で働く大人たちにスポットライトを当て、仕事の内容やそれぞれの向き合い方などを紹介しています。若い世代に「世の中にこんな仕事があるんだ」「こんな想いで働いているのか」と知ってもらい、将来の選択肢を広げてほしいと発行しています。
中学校で開催された体験授業の様子。「水を綺麗にする濾過機をつくる会社の社長さんに来ていただき、自社製品がどのような現場で活用されているのかお話しいただきました」
武政:
『みらい百花』というタイトル通り、若者一人ひとりが生まれ持った種を育み、将来社会で自分らしい花を咲かせてほしいと願いを込めたキャリア図鑑で、働く大人たちの人生ドラマを詰め込んでお届けしています。
──どのような方をご紹介されるのでしょうか。
武政:
毎号、紹介する方は毎号50名ほど。次号(9月中旬発行予定)では、調理師、栄養士、エンジニア、機械オペレーター、現場監督、廃棄物収集運搬ドライバー、学校の先生、企業経営者など、普段は知ることのできない社会人たちのリアルな姿をたくさん紹介しています。
探究学習に使える設問やワークシート、勉強が社会にどう役立っているのか紹介する企画ページ等も入れて、オールカラーで60ページほどの冊子です。
2019年12月に開催したアスリード設立パーティーにて、参加した皆さんの集合写真。「経営者や学校関係者など、活動を支えて下さっている皆さまが一堂に会しました」
──面白そうですね。オールカラーで無料配布とのことですが、取材費や印刷費などの資金はどう捻出しておられるのでしょうか。
武政:
アスリードの活動に共感してくださる企業様に賛助会員になっていただき、その年会費をもとに制作しています。
武政:
冊子に掲載されるのは、主にその賛助会員の企業の社員さんや社長さん。
「うちの会社に入社してほしくて応援しているわけではなく、広く将来の担い手として、この業界のことも知ってもらいたい」とこの活動を後押ししてくださっています。冊子を通じて、企業さんと一緒に未来への種まきをさせていただいています。
「みらい百花」の取材風景や写真撮影。「掲載させていただく方が、なぜその仕事を選んだのか、これまでの歩みが分かるよう学生時代から深堀りして取材をします。また、読者を誰一人傷つけないよう、言葉遣いや表現にも注意しています」
──体験事業、居場所事業についてはいかがですか。
武政:
『みらい百花』を通じて学校とつながり、「『みらい百花』に掲載されている社会人の方々から生徒に向けて、仕事の内容や働くとは何かについて話してほしい」とご相談をいただくようになりました。生徒と社会人のつなぎ役として、学校と企業をマッチングし、職業講話や対話プログラム、職場体験などをコーディネートしています。
「地域の若者を、地域で育てる」ことができると、一番いいなと思っています。
居場所事業については、2018年4月から2024年3月まで6年間、定時制高校内で行っていた校内居場所カフェ「SAKURA Cafe(さくらカフェ)」の経験を活かし、フリースクールの開校を決めました。9月のオープンに向けて動いています。
定時制高校で行っていた「SAKURA Cafe(さくらカフェ)」。「スタッフと話をしたり、同級生とボードゲームに興じたり…、自由な空間です」
「SAKURA Cafeの特徴の一つは、フードパントリー。フードバンクさまや企業さまにご支援いただき、お米やお菓子、カップラーメンなどを生徒へ無償提供していました」
──10代の若者の視点や居場所を作る・増やすようなご活動ですが、背景にはどのような課題があるのでしょうか。
武政:
現場で活動していると肌で感じるのですが、将来これからという若者の多くが、自己肯定感が低く、未来に希望を見いだせていないという現実があります。
内閣府発表の子供・若者白書(令和4年版)によると、13~29歳のうち「自分は役に立たないと強く感じる」と答えた割合は49.9%。二人に一人の若者が、未来に対して希望を持てない状況であるということは明らかです。
SAKURA Cafeにて、授業が始まる前、スタッフに勉強を教えてもらう生徒
武政:
日本の人口は減少しているにもかかわらず、若年の若年無業者層(ニート)は75万人(総称統計局 労働力調査(基本推計)2021年)、不登校児童の数は過去最多の29万9千件(文部科学省 令和4年度児童生徒の問題行動)、小中高生の自殺者数も統計以来過去最多の514人(文部科学省 令和4年2月24日 児童生徒の自殺対策について)を記録しています。
定時制高校で校内居場所カフェ「SAKURA Cafe」を運営していた時に、生徒にアンケート調査を行ったところ、「自分は価値がある人間だと思う」「自分を信じることができる」と回答した生徒は約3割。また、「希望の進路はあるが経済面で困難だと思う」と回答した生徒も約3割いました。
SAKURA Cafeのクリスマス会にて、ビンゴ大会の様子。「景品はSNSで募り、メッセージカードと共にご寄付をいただいたもの。50個以上のプレゼントが集まり、若者たちに『地域には自分たちを応援してくれる大人がたくさんいるんだ』と感じてもらっています」
武政:
自信や将来への希望を持つことができない背景には、安心して自分らしくいられる居場所がなかったり、自分を肯定してくれる大人との出会いが少なかったりするのではないでしょうか。
このままの日本で本当に良いのか。アスリードとして大きな課題ととらえています。
──確かに。
武政:
さまざまな大人に出会うことで、たくさんのロールモデルを作り「こんな生き方、考え方もあるんだ」と知る。また、そこが居場所になれば「自分には価値がある」と感じられるようになるし、自ら決断、行動し、人生を切り開く力に繋がると思う。今の若者にとって生き抜く力(自己肯定感)を持つことは、すごく大切だと思います。
中学校で開催された体験授業の様子。「美容師さんに見守られながら、生徒たちはカットの体験を行いました」
1歳頃の武政さん(写真中央)。一番上のお兄さん(写真右)、二番目のお兄さん(写真左)と
──ご活動の背景には、武政さんご自身の原体験があるそうですね。
武政:
はい。私自身が「10代の時に、もっといろんな仕事を知っておけばよかった」と思った原体験が、この活動につながっています。
──詳しく教えてください。
武政:
新卒でOA商社に入社し、3年目でうつ症状を発症、半年間の休職の末、退職した経験があるんです。
私は、9歳上の長男、7歳上の次男の3兄弟の末っ子として生まれました。「人を助ける人間になれ」ということで、父が「たすく(祐)」と名付けてくれました。
子どもの時はお調子者でしたが、中学2年生の時にいじめに遭い、高校ではバイクに没頭してバイト三昧の日々を送っていました。授業中は寝ていることが多く、高校3年生のある日、先生から「進路はどうするの?」と言われて。咄嗟に「大学に行く」と言ったら、「あなたの成績じゃ無理」と言われ、見返してやると勉強をがんばって、なんとか無事大学へ進学したんです。
SAKURA Cafeにて、毎年12月に開催していた落語会&クリスマス会。「落語に出てくる酒飲みや粗忽な登場人物に生徒は笑い、『できる自分もできない自分も、それでいい』と自己受容感を高めます」
武政:
…でも、大学で学ぶことではなく、入学することが目的だったので、特に何をするわけでもなく…。またバイト三昧の生活に戻りました。
──そうだったんですね。
武政:
二十歳になったある日、父と二人で飲む機会がありました。
父が言うには、「お前が大学に行くって言わなかったら、父さん、もうこの世にいなかったかもしれない」と。
自営業をしていた父は、会社が背負っている借金と、自分の生命保険がトントンになったタイミングで仕事をやめようと思っていたそうです。末っ子の私が高校を卒業して社会人になったらすべて精算しようと思っていたら、自分が「大学に行く」と言い出して、「なら、稼がなきゃいけない。もうちょっと頑張ろうと思えたんだ」と。「『たすく』と名前をつけたけれど、父さんが祐に助けられた」と言われました。
──素敵なお父さまですね。
「先生役となる『みらいteacher』を実施して下さった企業の方たちと、中学校での集合写真です。地域のたくさんの方たちの支えがあって活動ができています」
武政:
その時初めて、「自分の将来や生き方を、ちゃんと考えないと」って思ったんです。
大学に通っている間に、できるだけのことを学びたいと思いました。
「父がつけてくれた名前のように、多くの人を助けるためにはどうしたらいいか」と考え、「将来は経営者になろう」と思いました。従業員を雇用して、世に役立つサービスを提供できたら、たくさんの人のためになると思ったんです。今思えば浅はかですよね(笑)。
そんな時、大学の授業で非常勤講師を務めていた方が勤めている会社で、小学生向けの起業体験プログラムを運営するインターンシップ生を募集していて、「もしかしたら、何か変わるかも」と思って応募しました。
小学生が起業体験をする2泊3日のプログラムで、事業計画書を練り、銀行から融資を受け、製造・販売して決算という経営の一連の流れを疑似体験するのですが、インターンシップ生は2泊3日のプログラムのために、半年間かけて勉強して準備を重ねます。プログラム当日はとにかく子どもたちがキラキラ輝いていて。「こんな世界があるんだ」と知りました。
「働くとは何か」。就職活動を控えた高校生からの将来への不安について、親身に耳を傾ける社会人
武政:
大学卒業時、どんな仕事で起業するか見えていなかったので、「とりあえず営業力を身につけよう」とあえて営業が大変そうな会社を受けることにしました。
そして、飛び込み営業でコピー機を売り歩く日々が始まったのです。
耐用年数も長く、そうそう毎日売れるようなものではありませんでしたし、ノルマのプレッシャーから徐々に精神が疲弊し、食欲がなくなり、夜は眠れず、心臓の動悸がおさまらないといった症状が出てきました。
ある日、頭の中でぷつんと何かが切れる音がして、それを境に涙が止まらなくなり、会社から精神科の受診を勧められ、半年間休職しました。
休職している間、「これが本当に自分のやりたかった仕事なのか」ということをすごく考えましたし、「もっと早い時期からいろんな職業を知り、将来について真剣に考えておくべきだった」と反省しました。
そして思い出したのは、学生の時のインターンシップでふれた、子どもたちがイキイキと輝く姿でした。「私のように大人になってからミスマッチに悩むのではなく、若者たちが早い段階で自分の将来を考える機会を作れたら」と思ったことが、この世界に入り、団体設立に至ったきっかけです。
「6年間続けてきたSAKURA Cafeの最終日、生徒と先生から、サプライズで花束と色紙のプレゼントをいただきました。ここでの経験は、フリースクールで生かしていきたいと思っています」
共同代表理事の杉野さん(写真右)、理事の小島さん(写真左)と。「同じ釜の飯を食べて育った10年来の仲間です。インターンシップ生時代の先輩後輩という関係でもあり、それぞれ自身のキャリアに悩んだ経験があるからこそ、この活動の重要性を感じています」
武政:
現在一緒にアスリードで活動している杉野と小島も、大学時代に同じインターンシップに参加した先輩後輩同士です。皆、それぞれにキャリア教育の可能性を感じ、共にアスリードをつくってきました。
──武政さんにとって、キャリア教育とは?
武政:
自分の「あり方、生き方を考える教育」だと思います。
「将来の夢を見つけよう!」という大それたことではなく、自分がどんなことに興味があって、どんな価値観を大事にしているのか、日々の暮らしのなかではなかなか向き合う機会がなかったりすることを、一つひとつ捉えていく。
それが見えてくると、自分はある程度枠組みの中で生きていった方が心地よいのか、それとも自由に生きられる方が幸せなのか、どう生きて、どこに向かっていくのかがより具体的に見えてきます。
──確かに。
とある高校にて、イキイキと働く現場監督の指導のもと、墨出し体験をする生徒たち
武政:
「仕事はそこそこに、余暇を楽しもう」というのももちろんOKですけど、仕事は人生の半分の時間を占めるものなので、楽しめるに越したことはないですよね。「生きるために飯を食う」はずが、「飯を食うために生きる」になってしまうのは、もったいないと個人的に思います。
仕事には、三角形を横に4分割して下から順に「ライスワーク・ライクワーク・ライフワーク・ライトワーク」というステージがあるといわれます。
仕事の4ステージ
武政:
「ライスワーク(Rice Work)」は字の通り、食べるために働くこと。「ライクワーク(Like Work)」は、自分が好きなことで働くこと。「Life Work(ライフワーク)」は、もはやその人の生きがいや人生そのものとして働けていること。「Light Work(ライトワーク)」は、仕事を自分も楽しみながら、さらに多くの人に喜びを与え、社会に光を当てられていること。
上へ行けばいくほど、収入も幸福度も上がるということは、イメージしていただきやすいのではないでしょうか。
「皆さん、ライトワークを目指しましょう!」と言いたいわけではなく、こうやっていくつかのステージがあるんだと知っていたら、身の振り方はまた変わってきます。「自分はどう働きたいのか」を、考えることができるようになると思うんです。
早い段階から、さまざまな価値観や考えに触れ、自分を知り、どうありたいかを考えること。とても大切なことだと思います。
「SAKURA Cafeを利用していた元生徒が、ロータリークラブの卓話にて、堂々と自身の半生やこれからの展望について語ってくれました」
「『川崎フロンターレSDGs』の一環として、ホームゲーム開催時にフードドライブを実施し、集まった食料の一部をSAKURA Cafeにご寄付いただいていました」
──団体として、今後の展望や目標を教えてください。
武政:
冒頭でもお伝えしたとおり、9月にフリースクールを開校予定です。フリースクールに通うことが経済的に厳しいご家庭のお子様も通えるように独自の奨学制度も設けたいと思っています。
日本は教育予算が少なく、キャリア教育に充てられる予算も限られていますが、アスリードとして「キャリア教育が当たり前にある社会」を目指して、今後も活動していきます。若者たちが将来に絶望し、自ら命を絶ってしまうようなことを減らしていきたい。若者と地域の大人たちが出会い、「あの時、あの人の話を聞けて自分は大丈夫だと思えた」「しんどかったけど、がんばろうと思えた」という機会を増やしていきたいです。全国に同じような活動が広がっていけばいいなと思いますね。
「大人になった『未来の自分』をソウゾウ(想像&創造)して、雑誌や写真を切り取り台紙に貼り付ける『みらいコラージュ』。夢にあふれた子どもたちの未来に、大人たちもワクワクします」
9月に開講予定のフリースクール「アスリード SAKURAスクール」にて、スタッフや開校に携わった人たちを招いてのキックオフ会での一枚
──最後に、チャリティーの使途を教えてください。
武政:
チャリティーは、10代の若者が大人たちと出会い、職業観や価値観、視野を広げる体験事業のために活用させていただきたいと思っています。
たくさんの学校から問い合わせやご相談をいただきますが、お伝えしたとおり、行政としてキャリア教育に充てられる予算は少なく、学校として生徒たちに将来を考える機会を提供したい、いろいろな社会人に出会わせてあげたいと思っていても、断念せざるを得ないことが多々あります。
今回のチャリティーで、予算が不足している学校での運営費を補填し、キャリア教育プログラムを開催できればと思っています!ぜひ、アイテムで応援いただけたら嬉しいです。
──貴重なお話をありがとうございました!
2023年度 第4回社員総会の集合写真。「日ごろから活動を支えて下さる皆さまや、支援をしていた元生徒も参加してくれました」
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
「なぜ学ぶのか」「何のために生きるのか」…、学生時代の「なぜ?なぜ?!」に、学校の先生をはじめ、地域の大人の方たちがそれぞれの考えを教えてくれました。どれほど学ばせてもらったかしれません。それでも社会人になってから、生きていく上で指標にすべきを見失い、挫折しそうになった経験が、私にもあります。
多様な働き方(や生き方)を知ることは、自分の生き方だけでなく、周りの人のそれを認め、尊重することにもつながります。アスリードさんのおっしゃる「キャリア教育が当たり前にある社会」が、もっと広がっていけばと思います!
【2024/7/1~7の1週間限定販売】
“Flowers need time to bloom,so do you(花が咲くのには時間が必要だ、それはあなたも同じだよ)”というメッセージを、さまざまな仕事や働き方を連想するモチーフをたくさん散りばめて描きました。
若者たちが、たくさんの希望と選択肢を持って未来を創造していける社会をつくっていこうという思いを込めたデザインです。
JAMMINは毎週週替わりで様々な団体とコラボしたオリジナルデザインアイテムを販売、1点売り上げるごとに700円をその団体へとチャリティーしています。
今週コラボ中のアイテムはこちらから、過去のコラボ団体一覧はこちらからご覧いただけます!