虐待や貧困、親の病気などの理由で、親と暮らすことができず児童養護施設などで過ごす子どもたちは、基本的に18歳になると一人で社会に出ていかなければなりません。
頼れる家族がいない中で、一人で暮らしていく大変さ。
お金のこと、学校のこと、仕事のこと、人間関係のこと‥、日々の不安や悩み、つまずきを相談できる相手がおらず、孤立してしまうことが少なくないといいます。
「子どもたちの明るい未来をつくるのは、私たち大人の責任」。
そう話すのは、NPO法人ブリッジフォースマイル広報の藤好千晶(ふじよし・ちあき)さん。
親を頼れない子どもたちが「安心の格差」「希望の格差」を乗り越えるために、ブリッジフォースマイルでは、さまざまなプロジェクトを行っています。
活動について、お話を聞きました。
お話をお伺いした藤好さん
NPO法人ブリッジフォースマイル
親を頼れない子どもたちが、社会へ羽ばたく時に直面する「安心の格差」と「希望の格差」を乗り越えて、未来へ向かう勇気を持てるような支援をカタチにしています。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2024/04/15
巣立ち前の子どもたちを支援する「巣立ちプロジェクト」のセミナーの様子。一人暮らしに必要なさまざまなスキルを、社会人ボランティアと共に半年かけて学ぶ
──今日はよろしくお願いします。最初に、団体のご活動について教えてください。
藤好:
親を頼れないすべての子どもたちが、笑顔で暮らせる社会をつくるために活動している団体です。児童養護施設や里親家庭等にいる小学生からケアリーバー(社会的養護のケアから離れた若者)まで、幅広く支援しています。
基本的に児童養護施設の子どもたちは、18歳で施設を出た後、頼れる親や家族がいないまま、自立しなければなりません。
「巣立ち前」の高校3年生を対象に、お金のことや仕事のこと、生活のこと…、自立する時に必要な知識を事前に知って、準備しておこうねということで、「巣立ちプロジェクト」というセミナーを行っているほか、施設を退所した後、「巣立ち後」の若者たちの支援も行っています。
東京・下北沢にある居場所「せたエール」。「家具類は企業から提供いただき、温かみのある空間となっています。ここで一緒に調理をして食事をしたり、くつろいだりしています」
藤好:
代表の林がよく口にするのが、「子どもたちは何も悪くない」ということ。
格差をなくしたいというのは、活動を始めてからずっと変わらずにある想いです。子ども・若者たちや家庭の課題を、「親や家族のせいだ」と責任を押し付けるのではなく、社会構造に大きな問題があると感じています。
私たちは「安心の格差」と「希望の格差」を乗り越える機会をどんどん作っていきたいと思っていて、そのために広くさまざまな子ども・若者を支援するプロジェクトを実施しています。
ボランティア向けの研修の様子。「子どもたちを支援する上で必要な知識やコミュニケーションスキルの研修制度が整っていることは、ブリッジフォースマイルの大きな特徴のひとつです。安心してボランティア活動ができる仕組みづくりがなされています」
「巣立ちプロジェクト」の金銭管理のワーク。「退所後のお金のトラブルは少なくありません。退所前に、お金にまつわることを知っておくことはとても大切です」
──それぞれの事業について、詳しく教えてください。
藤好:
これから社会に出ていく若者を対象にした「巣立ちプロジェクト」は、児童養護施設や里親家庭にいる高校三年生に限定したプロジェクトです。
さまざまな背景を抱え、不安を感じながらも子どもたちは社会に出て、一人で暮らしていかなければなりません。彼らのひとり立ちを支援するのがこのプロジェクトで、対面、あるいはオンラインでいくつかのグループに分かれ、半年かけて計6回開催されています。
巣立ちプロジェクトで活用している、ブリッジフォースマイルが制作に関わった『巣立ちのための60のヒント~施設から社会へ羽ばたくあなたへ~』。「社会に潜む危険や引越しの手続きなど、社会で生き抜くための知識やスキルが詰まった一冊です」
──どのような内容ですか。
藤好:
健康管理、妊娠などの性教育、住居や税金、金銭管理など、一人暮らしをする上で必要なことを学びます。
最大の目的は、困った時はどこに誰に相談をするか、どういう風に問題解決をしていったら良いかということをワークを通して考え習得してもらうことです。参加する高校生と同じ人数くらいの社会人ボランティアが参加するので、大人とコミュニケーションを取ることにも徐々に慣れていける工夫もあります。
最終回には、実際に一人暮らしを頑張っている先輩に足を運んでもらい、体験談を共有してもらっています。
──確かに、外部と関わる準備にもなりますね。
藤好:
そうですね。あとは、自分が施設や里親家庭にいることを、周りに言わずに高校生活を送っている子もいます。参加者の感想に多いのは「巣立ちプロジェクトに参加したことで、このような境遇に置かれているのは自分だけじゃないんだ、と実感できた」という声です。
支援者だけでなく、同じような境遇の仲間の存在というのは、彼らにとっては大きな支えだと思います。
高校生と社会人ボランティアによるワークの様子。「ボランティアはセミナーの1週間前、合同でセミナーのレクチャーをオンラインにて受講し、当日に臨んでいます」
藤好:
この「巣立ちプロジェクト」にはもう一つ特徴があります。
プロジェクトに参加するとポイントがもらえ、ポイントと引き換えに、洗濯機や冷蔵庫などの家電や家具、タブレット、リクルートスーツなど、一人暮らしに必要な生活必需品を受け取れる「トドクン」というプロジェクトを利用できる仕組みになっているのです。
「巣立ちプロジェクト」に6回参加すると3万ポイント獲得できて、高校卒業後から28歳まで、いつでも使いたい時にポイントを使うことができます。特に一人暮らしをスタートする際には出費が多いので、大きな助けとなっているようです。
──知識を得て、さらに一人暮らしに必要な道具も得られて、嬉しいですね。
藤好:
本音でいうと、巣立ちプロジェクトで「一人暮らしの知識がつくよ」だけでは、子どもたちはなかなか参加しようというモチベーションにはなりづらいです。
一人暮らしに向けてアルバイトをしてお金を貯めている子どもたちにとっては、このプロジェクトの参加が、アルバイトの時間を削ってしまうことにもなるからです。なので「参加すると一人暮らしの知識がつくだけでなく、ポイントがもらえて、生活用品と交換できるよ」と言えるのは大きいことだと思っています。
多くの企業さんからご寄付いただいているので、そこを有効的に活用していきたいという思いもあります。中には、企業さんからたくさんご寄付いただき、就職の際に必要になるワイシャツが0ポイントでもらえる、みたいなこともあります。
プロジェクトに参加すると参加ポイントが付与され、巣立ちの際に生活必需品に交換できる寄付仲介の「トドクン」のページ。「アイテムの多くは、個人や企業からの提供で賄われています」
──「巣立ちプロジェクト」では、一人暮らしに向けてのさまざまな知識をお伝えされるということですが、具体的にはどういった内容なのでしょうか。
藤好:
基本的なことですが、健康保険への加入の必要性や危機管理、何よりお金の話は大切です。社会的養護下の子どもたちは、入所期間中の子ども手当やアルバイト代などを貯金していて、一般的な18歳よりもお金を持って社会に出ます。
そんな彼らの友達が、「お金貸して」と気軽に言ってくることがないとも言えません。でも、明らかに彼らがその友達と違うことは、本当にお金がない時に助けを求められる親や家族がいないということ。病気をするかもしれないし、何か予想外の出費があるかもしれない。生きていくためのお金だから、そこを踏まえてきちんと金銭管理をし、むやみにお金を貸したりしないでほしいというような話をします。
性教育に関しては、学校で教える範囲がさまざまだったり、児童養護施設で話すにしても、職員さんとの距離が近くてちょっと話しづらいという場合もあります。なので、私たちのセミナー内でも必要な情報を具体的な部分も含めてお話ししています。
普段は「えりほ」というニックネームでみんなに呼ばれている、代表の林恵子さん。育児中にキャリアに悩み参加したビジネス研修で、児童養護施設を調査する機会を得て、「がんばるべきなのは、子どもたちではなく大人たち」と思った林さんは、2004年にNPOを設立した
代表の林さんを囲んだ、巣立ちプロジェクトのリーダーの皆さん。「リーダーも、社会人ボランティアの方々が担っています」
藤好:
さらに、巣立ちプロジェクトでつながった子どもたちが実際に社会に出た後を、「自立ナビゲージョン」というプログラムで個別にサポートしています。
親を頼れない子どもたちは、生活の中でのトラブルや悩みを周囲の大人に相談できず、抱え込むことが少なくありません。「自立ナビゲーション」では、プログラムを希望した若者たち一人ひとりに「自立ナビゲーター」という専任のメンターボランティアがついて、基本的には月に1度、話を聞いたり、相談に乗ったりします。
若者たちにとって、自分のことを気にかけてくれる大人がいるというのは嬉しいこと。具体的に何かを一緒にするというよりは、緩やかにつながり、孤立を防ごうという取り組みです。
期間は2年間で、カフェなどで会って話をしたり、オンラインでやりとりをしたり。どこで会う、何をするということは、基本お任せしています。このプログラムが成り立つのは、ボランティア研修がしっかり整っているからこそです。
さらに、巣立った子どもたちの孤立を防ぐために、気軽に立ち寄れる居場所事業と、クリスマス会やスポーツ大会などを通じて、同じ境遇の仲間たちがつながる「アトモプロジェクト」という事業も行っています。
居場所は現在、関東では横浜・下北沢・浅草橋、あとは九州の佐賀と熊本にもあり、今度北海道でも立ち上がります。
居場所のとある日の晩ごはん。「居場所に集まったメンバーで食べたいメニューを出し合い、冷蔵庫にある食材をみつつ、夕方にスーパーへ行って食材を調達。調理や片付けは分担して行います」
藤好:
親を頼れない10代から30代の若者が対象で、ケアリーバー(児童養護施設、里親等、社会的養護での生活経験のある人)、児童相談所に保護されたことがある人、虐待など親から不適切な関わりを受けている人等が該当します。利用には事前の登録が必要です。
ご飯を食べに来るという人もいれば、話をしに来た、まったりしに来たという人もいます。
ここで相談事業もしていて、個別に相談が必要な場合は相談にも乗りますし、その内容によっては、必要な機関につなぐこともしています。また、当事者同士がいろんなテーマで話し合う「シャベル」という座談会も開催しています。
──巣立ち前から巣立ち後まで、手厚く支援されているんですね。
巣立った後の子どもたちとつながり続ける「アトモプロジェクト」で開催された「アトモクリスマス」の様子。「若者とボランティアやスタッフ、久々の再会で、話が尽きません」
仕事体験プログラム「ジョブプラクティス」。「写真はお菓子メーカーにて、新製品の商品見本作成を体験した際の様子です。ひとつのお菓子が誕生するまでの工程も学びました。プログラムの内容は、企業側から提案していただくことがほとんどです」
藤好:
子どもたちの「希望の格差」を埋めるために、巣立つ直前だけではなく、もっと早い段階の子どもたちも対象となっている「ジョブプラクティス」という仕事体験プログラムも行っています。
児童養護施設の子どもたちに「将来何になりたい?」と尋ねると、施設職員や心理士といった、福祉関係の仕事を口にする子が少なくありません。彼らにとって、最も身近な大人であり、職業だからです。
それはとても素晴らしいことですが、世の中にはもっといろんな仕事があること、いろんな生き方をしている大人がいることを知り、一般の子どもたちと何ら変わらないような夢を描いてほしいと思っています。
ご支援いただいている企業さま等に声をかけ、1~2日間、受け入れていただきます。私はこれまでにアパレルやネイリストの仕事体験に関わりましたが、子どもたちの目が本当に輝いていて、すごくいいなあと思いました。
引き受けてくださる側の職員の方々も、子どもたちが楽しめるように、プログラムの内容をしっかりと考えてくださったり、一人の大人として切実に子どもたちに向き合ってくださる様子に、とても感動します。
──かけがえのない体験になりますね。
淡路島で行われた、合宿型のジョブプラクティス。農作業を体験した
当事者たちが自らの体験をスピーチした動画をもとに、社会問題を参加者みんなで考える「コエールワークショップ」。スピーチ準備合宿での記念写真
藤好:
児童福祉法の改正により、今、行政は、社会的養護下の子どもたちが社会に出る前の予防的な支援よりも、社会に出た後、何かあってからの支援に力を入れる方向にシフトしています。したがって、私たちのこれまでの予防的な活動への予算が大きく削られることになりました。
しかし、公的資金がいただけないからといって、予防的支援活動をやめるわけにはいきません。当事者の子どもたちはもちろん、施設の職員の方たちにも喜んでもらってきたし、これまでのプロジェクトのシステムも、そこで得たつながりやノウハウもあります。引き続き、支援を行いながら、予防的支援の重要性を今後発信していかなくてはと思っています。
団体の活動の一つ、家具や家電が備え付けられ、家賃も安価な大学・専門学校生を対象にしたシェアハウス「スマイリングプロジェクト」。「ロールモデルとなる社会人と一緒に生活することも大きな特徴です」
──読者の方たちに、メッセージはありますか。
藤好:
私たちは、社会的養護下の子どもたちのことを「かわいそう」という一言で片付けたくありません。
子どもたちには、未来に向かって、希望を持って歩んでいけるんだよ、ということを伝えていきたい。そのために必要な支援を、一つひとつかたちにしてきました。
「こんなことがあってかわいそうだね」とか「大変な人生だね」よりも、「ここから未来を掴んでいこうよ」というところでつながっていきたい。ただ、その時にどうしても始まりが違うから、そこの格差を埋めて、同じ土俵に上がれるように、環境を整えてあげたいと思っています。また、背景には社会の問題が大きく関わっていることも忘れてはいけません。個人の問題だけでなく、社会問題なんだということを、多くの人に知ってもらいたいと思っています。
活動について話し合うスタッフの皆さん。「年に2回、通常の会議とは別に、日頃なかなかじっくり議論ができない課題に対して理解を深める『がっつり研修』を行っています」
藤好:
記事を見てくださった方たちには、まずこういう子どもたちがいるということを知り、「自分に何ができるか」を考えて、アクションするところまでやっていただけたら嬉しいです。
周りを見渡した時に、「あの子、いつも同じ服を着ているな」とか「お腹を空かせてそうだな」とか、関心を持ってもらうだけでも、違ってくるんじゃないかなと思います。
──最後に、チャリティーの使途を教えてください。
藤好:
チャリティーは、巣立ち前・巣立ち後の子どもたちをこれからも支援していくための資金として、さまざまなプロジェクトに活用させていただく予定です。
ぜひ、コラボアイテムで応援していただけたら嬉しいです。
──貴重なお話をありがとうございました!
居場所「せたエール」の開所準備が整った際の記念写真。「場所決めや備品集めなど、開所までの準備はとても大変ですが、新しい居場所ができた時は最高の気分です」
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
4月。新しく入学したり、就職した方もいらっしゃると思います。
環境の変化にあって、何かあった時に駆け込める実家、頼れる親や家族の存在はすごく大きいと、自分の経験を振り返っても思います。しかしそのように頼れる存在がない中で生きていくとしたら、どれだけ孤独で不安でしょうか。
仕組みを持って若者たちを支援されているブリッジフォースマイルさんの取り組み、すごいなと思いました。ぜひチャリティーアイテムで、若者たちの一歩を応援してください。
【2024/4/15~21の1週間限定販売】
空高く飛ぶ鳥の姿を描きました。
壁を乗り越え、思い描いた夢に向かって飛び立つ若者を表現しています。
鳥の下に町並みを描き、どんな人も希望を持って生きられる社会への願いも込めています。
“A brand new day awaits you(新しい1日が、君を待ってる)”というメッセージを添えました。
JAMMINは毎週週替わりで様々な団体とコラボしたオリジナルデザインアイテムを販売、1点売り上げるごとに700円をその団体へとチャリティーしています。
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