CHARITY FOR

関わる人たちの愛情をつなぎ、ユーザーと絆を深め、笑顔を生む盲導犬を〜日本ライトハウス盲導犬訓練所

今週、JAMMINがコラボするのは、社会福祉法人「日本ライトハウス 盲導犬訓練所」。
1922年、視覚障害のあった岩橋武夫(いわはし・たけお)氏(1954年没)が、「視覚障害者を先導し、希望となる場所を作りたい」と開設した「日本ライトハウス」の盲導犬育成部門として、1970年に活動をスタートしました。

一頭の盲導犬の生涯には、育成する訓練士や共に過ごすユーザーさんだけでなく、多くのボランティアさんたちが関わっているといいます。

「盲導犬の卵となる子犬にとって、一般のご家庭で愛情をたくさん受けて育ててもらうというのは、非常に重要」と話すのは、子犬の育成を担当している木瀬智春(きせ・ちはる)さん。

活動について、お話を聞きました。

お話をお伺いした木瀬さん

今週のチャリティー

社会福祉法人日本ライトハウス 盲導犬訓練所

視覚障害者のための生活支援や就労支援、点字出版、視聴覚情報提供事業などを行う「日本ライトハウス」の一事業として、1970年より盲導犬の育成を行っている。

INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2024/03/18

活動について

日本ライトハウスの創設者、岩橋武夫さんとヘレンケラー。「ヘレンケラーを日本に招き、その際に通訳を務めました」

──今日はよろしくお願いします。最初に、ご活動について教えてください。

木瀬:
「日本ライトハウス」は、大阪で1922年に創立され、100年以上にわたり、視覚障害のある方のための包括的な支援を行ってきました。
視覚障害のある方の出版物の発行、リハビリやガイドの派遣、歩行訓練や生活訓練など多岐にわたる事業があり、そのなかの一つとして、盲導犬事業は1970年からスタートしました。

──長い歴史があるんですね。

木瀬:
毎年15〜18頭を世に出すことを目標に、日々訓練しています。この訓練所を卒業した盲導犬が、日本全国で活躍しています。これまでに816頭の盲導犬を作出してきました。

日本ライトハウスからデビューし、日本各地で活躍する盲導犬たち(2023年3月末現在)の名前を記した表

犬にとって「楽しんで作業ができるか」が重要

「(写真左)新たな門出に盲導犬と共に笑顔のユーザー。(写真右)お互いを信じ、盲導犬も生き生きとユーザーを誘導します。作業ができたことが足元で確認できて、しっかり褒めてもらっているところです」

木瀬:
人の目となって活躍する盲導犬になるには、さまざまな素質が必要とされます。
世界的にも活躍している犬種は、ラブラドールレトリバー、ゴールデンレトリバー、あるいはこの二つのミックス犬が主ですが、素質として「盲導犬としての作業を、喜んでできるか」を重視しており、他の盲導犬育成団体同様、私たちのもとで繁殖から携わっています。

──どのような素質が必要なのですか。

木瀬:
攻撃性や警戒心がないのはもちろんのこと、雷が鳴ったり大きな音がしたりしても怖がり過ぎず、どんな環境でも適応できる力があること。また、装具をつけて歩きますので、皮膚の感覚が過敏すぎたりしても、ストレスがかかってしまいます。

訓練の様子。交差点でしっかり止まり、褒めてもらえて喜ぶ訓練犬

木瀬:
たとえば「環境が変わる」ということに対して臆病な子がいたとします。訓練すれば作業は覚えてくれますが、「盲導犬として楽しんでそれができるか」というのは、また別の話です。

その犬が緊張したりストレスを感じそうな状況の判断は、どうしても「視認」によるものが多くなります。つまり、目の不自由な方が、そういった状況をコントロールするということは、非常に難しくなります。

──確かに。

盲導犬を迎え入れるにあたり、ユーザーも共に学ぶ。「指導員から、交差点の横断方法を学んでいるところです」

木瀬:
視覚障害者の場合、犬が行動してはじめて、ご本人に状況が伝わるかたちになります。
目の不自由な方に負荷がかかるリスクがあったり、コントロールするには危険があると判断した場合は、盲導犬の訓練途中であっても、キャリアチェンジをします。

とはいえ、臆病な子が皆、盲導犬に向かないかというと、そういうわけでもないんです。人間でも、苦手なことに取り組むうちにだんだんそれが得意になることがあるように、大きく作業に影響する行動さえなければ、最初は多少緊張しても、褒めてもらって嬉しくて、次もまた挑戦して…とステップを踏んでいくうちに、楽しくなって克服できることもあります。そうすると、自信を持って人を誘導できるようになります。

街に出ての訓練の様子。駅の改札口に案内し、尾を振る訓練犬

──そうなんですね。

木瀬:
10頭生まれたとして、盲導犬になれるのは、そのうちのたった2〜3頭です。
ほとんどのことが上手にできても、たとえば不意な物音に驚いて、車道の方にバッと飛び出てしまうとか、足がすくんで次の一歩が踏み出せないという行動があった場合、やはり不向きということになります。

盲導犬になる犬が不意な物音に驚かないのかというと、そういうわけではなくて、同じように「わ、びっくりした!」と感じはするのですが、それで道路に飛び出したり固まったりしてしまうわけではなく、ちょっと立ちすくんで、その後、ちょっと緊張しながらも歩けて、3歩進んだら何もなかったようにまた堂々と歩ける。盲導犬になるには、そういう部分が求められるのです。

──「人の目となる」には、それだけハードルが高いんですね。

訓練の様子。「(写真左)花火の音を聞かせることもあります。(写真右)バスのような高い段差も、人を意識して乗降できるように訓練します」

「一般の家庭で、愛情を受ける」ことの大切さ

「幼い頃は、いろいろなものをとにかく口に入れて確かめます」

木瀬:
訓練士の仕事をしていると、「盲導犬になる素質は、生まれつきか育ちか、どちらが重要ですか」と聞かれることがあるのですが、お答えするなら「両方」です。
生まれもった性質だけではないし、逆に育ちだけで全てを補うことも難しい。その意味で、生後2ヶ月〜1歳までの「社会化」は非常に重要になります。

日本ライトハウス盲導犬訓練所では、「パピーウォーカー」という子犬のボランティアさんが協力してくださっており、盲導犬の卵に、ご家庭でたくさんの愛情を注ぎ、さまざまな経験をさせてくださっています。

名前を呼ばれ、笑顔で答えるパピー

木瀬:
「子犬の時から訓練士が育てれば、もっとたくさんの頭数が盲導犬になれるのではないか」というご意見をいただくこともありますが、そういうことでもないんです。

訓練士は確かに、犬の行動を素早く察知し、何を思ってその行動をとったのかを判断し、そこに対して正しい学習をさせるということはできますが、見られる頭数に限りがあるし、何よりも子犬にとって、一般のご家庭で愛情をたくさん受けて育ててもらうというのは、非常に重要な要素なんです。

社会化のために、街に出るパピーウォーカーとパピーたち。「(写真左)店内を歩行する様子です。(写真右)エレベーターに乗り込むところ。扉が開くのを大人しく待ちます」

──そうなんですね。

木瀬:
盲導犬という特性上、一頭の生涯を考えた時に、パピーウォーカーさんのところで過ごす時間は、人生の「通過点」になります。

生後2ヶ月までは繁殖犬ボランティアさんの元で母犬と過ごし、その後、パピーウォーカーさんのもとで10ヶ月、さらにその後、訓練士の元で6か月~1年の訓練を受け、盲導犬としてデビュー後は、ユーザーさんの元で10歳ぐらいまで活躍して、引退後は引退犬ボランティアさんの元で過ごします。

「とにかく何でもおもちゃにしてしまうパピー。スリッパはおもちゃではないことも、少しずつ伝えていきます」

木瀬:
人と人の間を、犬が移動していくようなイメージの中で、どんな場所、どんな方の元に行っても「この子と一緒にいたい」と思ってもらえるような子であるということが、とても大切なんです。

小さい時にいかに人から愛情を受けたかというのが大切で、人から温もりを教えられた子は、どんな人のことも大好きで、たとえ一緒に過ごす相手が変わっても、人に対して絶対的な信頼を抱いています。
愛情をたくさん受けて、「どんな人も、自分のことが好きに違いない!」ぐらいに思っている(笑)子の方が、訓練でもすなおに人の話を聞いてくれますし、いろんな人に愛される子になります。

生後間もないパピー。生後2ヶ月までは母親の元で暮らす。「母犬から愛情を受け、きょうだい同士で遊んだりけんかをしたりしながら、犬社会のルールや言葉を学びます」

パピーウォーカーの元では、
人と生活する際に必要なルールを教える

パピーウォーカーのもとで愛情を受けて育つパピー。「パピーは、できたことを褒めてもらうことで育ちます」

──そうすると、パピーウォーカーさんに求められるのは「愛情を注ぐ」ことなのでしょうか。

木瀬:
盲導犬の作業には、正確性が求められます。そこは訓練に入ってから、しっかり訓練士が教えるので、子犬の段階では、作業の正確性というのは求めません。

ただ、子犬のうちから、人とコンタクトをとることや、人の食べ物をとらない、人に飛びつかない、部屋の中で粗相をしないといった、人と一緒に生活する際に必要となる最低限のルールは守って育てていただきます。

たとえば「人に飛びつくのが楽しい」と覚えてしまうと、盲導犬は大きいので、足腰の弱い年配の方に飛びついてしまった時に、非常に危険です。あるいは、盲導犬は公共の場所では、ユーザーさんの足元で座ることが基本になるので、ソファやベッドなど高さのあるところには、子犬のうちから、寝かさないようにします。

パピーの講習会にて、座学の様子。「その月齢で共通して知っておくべきことは、講習会にて学びます」

──愛情をいっぱいもらっていたら、嬉しいと飛びついてしまいそうですね。その場合は「ダメ」と伝えるのでしょうか?

木瀬:
「ダメ」と怒るのではなく、「それは違うよ」と、別の方法を提示します。たとえば、犬が飛びつきそうになったら、くるっと背中を向けるなどです。犬からすると、コンタクトを遮断されてしまうので「あれっ?」となりますよね。

犬が飛びつくことをやめ、四つ足が地面についた状態で、「シッツ(座れ)」と言って、座ったら、本人がしてほしかった撫で撫でをたくさんしてあげたり、一緒に遊ぼうか!と声をかけてあげる。そうすると犬は次第に、「相手にしてほしい、遊びたいと思った時に、飛びつくのではなく、座ればコンタクトをとってもらえるんだな」と理解するようになるんです。

──なるほど!

定期的に開催している歩行イベント。「近鉄百貨店での歩行イベント後の集合写真です」

木瀬:
パピーウォーカーをご希望される方には、事前の説明会でこのあたりのことをご説明しますが、短時間の説明で落とし込むことは難しいですし、犬も100頭いれば100通り、皆違って、マニュアル通りに動くわけではありません。

ベースの部分をお伝えして、子犬を迎えていただいた後は、各ご家庭を訪問したり、私たちの方で用意している講習会・歩行会に参加していただいたりして、普段の生活の様子をヒアリングし、必要なアドバイスをさせていただいています。

日本ライトハウス盲導犬訓練所には、ライトハウスのパピーや繁殖犬を預かってくださっているボランティアさんが、常時100名以上いてくださっています。また子犬や繁殖犬以外の、盲導犬に向かなかったキャリアチェンジ犬、引退犬たちも、その他大勢のボランティアさんのご家庭で生活を送っています。
楽しみを持って犬と向き合い、たくさん愛情を注いでくださっているボランティアさんの存在は、本当にありがたいです。

仲良く並んで日向ぼっこする引退犬。「引退犬ボランティアさんのもとで、穏やかな余生を過ごしています」

ユーザーの元で絆を深め、唯一無二の関係性を築く

24時間、365日を共に過ごす盲導犬とユーザー。「毎日の犬の体の手入れ方法も学びます。犬の健康を自身の手で感じる、とても大切な時間です」

──木瀬さんが、このお仕事をしていて良かったと感じる時はどんな時ですか。

木瀬:
ボランティアさんの元でもユーザーさんの元でも、やはり幸せそうな犬を見ると、元気をもらいますね。

繁殖して育てた子たちが、ユーザーさんのもとで、訓練士である私たちが育てた以上の仕事をする姿を、たくさん見てきました。基礎をしっかり学んだ犬が、ユーザーさんの元に行った後、絆を深め、ユーザーさんを理解して、よりその方が使いやすいようにと行動をアレンジすることがあるんです。

「二人で1頭の盲導犬と生活を送る方もいらっしゃいます。そんな場合でも、犬はそれぞれのユーザーに歩調や誘導の仕方を変えるようになっていきます。タンデム歩行では、二人分の幅を読んで障害物を回避して歩きます」

木瀬:
中には「ちょっと危ないからこうしようね」ということもありますが、時間を経て、一歩下がってユーザーさんとその子の絆を見せてもらった時に、犬の輝きよう、ユーザーさんの満足そうな表情や犬を抱きしめる姿を見ると、本当に良かったと思います。

──素敵ですね。印象に残っている子はいますか。

木瀬:
たくさんいるのですが…、マッチングしたユーザーさんと最初、歩調が合わなかったAちゃんという子がいます。歩調は、早すぎても遅すぎても、ユーザーさんがついていきにくくなるんです。

この方は以前から盲導犬ユーザーで、前の代の子がどちらかというと消極的な性格で、そこに少しストレスを感じていらっしゃったようでした。新たに盲導犬を迎えるにあたって、Aをマッチングしたのです。

Aは子犬の頃、それはもうやんちゃで、パピーウォーカーさんのところから訓練所に戻ってきた時には「どうしよう」というぐらいの子でした(笑)。2歳で盲導犬になった時は、まだ幼さが残っていて、ユーザーさんには「ラブラドールが落ち着くのは3、4歳なので、それまではちょっと子どもっぽいところもあるかもしれないけれど、一緒にがんばっていきましょう」と伝えて、がんばっていただきました。

「食事やお茶を外出先で楽しんだり、一緒に職場に出かけたり。そんな時、周りの方に温かく迎え入れてもらえると、とても嬉しいです」

木瀬:
このユーザーさんはすごく活動的な方で、Aと一緒にいろんなところに出かけ、最初こそ歩調が合わなかったけれど、少しずつ絆を深め寄り添い、見事自分のものにしてくださって、最後には「この子がほんまによう仕事してくれて、もうこの子以外の子と歩くイメージが湧かない」とおっしゃるまでになりました。

Aは活発で積極的な部分を持ったまま盲導犬になり、ハーネスを持ったら飛び込んでくるほど、盲導犬の作業が大好きで、楽しくお仕事ができる子でした。ユーザーさんとの相性がピッタリ合って、どこへ行っても周りから「素晴らしい」と言ってもらえる子に育ちました。その方の隣には、いつも誇らしげに歩く彼女の姿がありました。とても印象に残っている子です。

ボランティアに向けたイベントの様子。「ボランティアさんが、アイマスクをつけて自分の育てているパピーを探します。盲導犬ユーザーの気持ちになれたかな?」

「愛情を受けるからこそ、育まれるものがある」

キャリアチェンジした犬たちも、それぞれの場所で豊かに生きている。「12歳のお誕生日を手作りケーキで祝ってもらう、キャリアチェンジ犬のロイスくんです」

木瀬:
自分が関わった子たちが、いろんな問題もありながら、それを乗り越えて、それぞれのご家庭でユーザーさんと時を重ね、笑顔が生まれていくのを近くで見られることは、何にも代え難い喜びです。

活躍している犬たちを見ると、その子を育ててくださったパピーウォーカーさんの顔が浮かんだり。犬たちはそこまで考えていませんが、盲導犬がいきいきと活躍できているのは、幼いころからたくさんの人に愛情をもらったからこそ、育まれたものがあるからなんですよね。

利用者が新しい盲導犬と第一歩を歩み始めた姿

──読者の方に、メッセージをお願いします。

木瀬:
盲導犬に関わっていない方でも、もし盲導犬やパピーを連れて歩いている方を見かけたら、ぜひ興味を持って見守り、公共の場で歩いている彼らを応援してくださるとうれしいです。

また、盲導犬はナビはできません。白杖で歩いている方、盲導犬と歩いている方が困っておられたたら、ぜひ肩に触れて「何かお手伝いしましょうか」とお声をかけてください。皆様の暖かい声かけで、視覚障害をお持ちの方が安心して歩ける社会になります。

ボランティアさんと犬たちによる募金活動の様子

──チャリティーの使途を教えてください。

木瀬:
チャリティーは、将来盲導犬になる子犬へのワクチン接種や予防薬、避妊去勢手術、幼少期や子犬時期に体調を崩した時の医療ケアなどに必要な資金として活用させていただきたいと思っています。

近年、さまざまなものが値上がりしていますが、私たちとしては資金不足を理由に、育成の質を下げたり、犬の健康管理を欠かしたりすることはできません。ぜひ、チャリティーアイテムでご協力をお願いしたいと思います。

──貴重なお話をありがとうございました!

2023年春、法人100周年の際に、スタッフの皆さんと!

“JAMMIN”

インタビューを終えて〜山本の編集後記〜

訓練中の犬たちが、ゆくゆく出会うユーザーさんと共に、笑顔で暮らしていくことを常に考えて、細部まで神経を張り巡らしていらっしゃることが伝わるインタビューでした。そして、たくさんのボランティアさんが関わり、育成を支えていらっしゃることもすごいと思いましたし、犬が持つ力だと思いました。
終始笑顔でお話をしてくださった木瀬さん、ありがとうございました!

・日本ライトハウス盲導犬訓練所 ホームページはこちらから

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