【※今回の記事をお読みいただくにあたっての注意事項※】
アフリカゾウの密猟の現実をお伝えしたく、記事中にショッキングな画像3点が含まれます。該当する画像にはぼかし加工をしており、閲覧をご希望される場合のみ、クリックにてご覧いただけるかたちをとらせていただきました。
印鑑や置物、アクセサリーなどに用いられる「象牙(ぞうげ)」。
象牙とは字の通り、象の口から出た、長い2本の牙のこと。この象牙のために、アフリカゾウが殺されていることをご存知でしょうか。
アフリカゾウの最新の推定総個体数は41万9,000~65万頭(IUCN アフリカゾウ生息状況報告書(2016年)より)。乱獲によって、100年の間で、約3%にまで数を減らしたといいます。
アフリカゾウを守りたいと活動するNPO法人「アフリカゾウの涙」が今週のチャリティー先。
「ハンコ文化が根付き、象牙の印鑑がまだまだ良いものだとされている日本。日本人は、実はアフリカゾウの密猟の問題に大きく関わっています。本当に、象牙である必要があるでしょうか。密猟の現実を知ってほしい」と話すのは、団体理事の元井摩弓(もとい・まゆみ)さん。
活動について、また象牙の問題について、お話を聞きました。
お話をお伺いした元井さん
NPO法人アフリカゾウの涙
ケニアと日本を拠点に、アフリカゾウとサイを中心に、野生動物と森と人の共生を目標に活動をしています。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2024/02/26
アフリカゾウの姿。「オスのアフリカゾウの背中に乗っているのは、ウシツツキというムクドリの仲間。寄生虫やダニを食べる、草食系大型動物にはありがたい鳥です。視力もよく、肉食動物が来たことを、急に飛び立つことでいち早く知らせてくれます。まさに共存ですね」
──今日はよろしくお願いします。最初に、団体のご活動について教えてください。
元井:
アフリカゾウを守るために、日本とケニアで活動している団体です。
代表の滝田明日香は、普段は獣医師として、ケニアにあるMara Conservancy(マラ・コンサーバンシー。マサイマラ国立保護区のマネジメントを委託されている現地NGOで、マサイマラ国立保護区における生物多様性確保のための環境保全を行っている)に勤務しながら、アフリカゾウの密猟を防ぐための探知犬の育成「ドッグユニット」、空の上からパトロールを行う「マラソラプロジェクト」の、主に二つのプロジェクトを現地で行っています。
同時に、ゾウの牙である「象牙」の消費大国である日本で、啓発活動も行っています。
マサイマラ国立保護区の壮大な風景。「一度訪れたならば、この360°の見渡す限りの風景は忘れられない場所になります」
──それぞれのプロジェクトについて、詳しく教えてください。
元井:
ゾウの密猟は、広い国立公園の中で行われます。
国立公園といっても、柵がしてあるわけではありませんから、誰でも出入りができます。公園内は広いため、密猟者は事前に、準備した銃や弾を隠したり、あるいは殺したアフリカゾウから獲った象牙を隠しておいて、後日、取りにきたりします。真っ暗で何もない場所なので、月明かりが明るい満月の前後は、密猟が起きやすいと言われています。
代表の滝田さん。所属するマラコンサーバンシーの同僚のレンジャーたちと
元井:
隠された銃や象牙を嗅ぎ分け、見つけることで密猟や密輸を防ぐのが、探知犬・密猟犬です。銃や弾を見つければ、事前に密猟を防げますし、残念ながら象牙が取られてしまっても、それを見つけることで流通するのを防ぐことができます。
最近では、密猟者を追いかける追跡犬の育成も行っています。 犬の体力や能力も非常に重要で、素質や人好きであるかといった性格も見極めながら、現在は3頭と共に活動しています。 このプロジェクトを始めたのは2013年で、最初はアメリカから犬を導入したのですが、生まれ育った場所と、アフリカの大地の環境が全く違うため、うまくいきませんでした。以後はケニアで生まれ育った犬を育成するようになりました。
アフリカゾウの密猟を防ぐための探知犬。左から「BUMA」「ROP」「SHIRO」。「ハンドラーとの信頼関係を築きながら、トレーニングを行います。2021年には新しい探知犬、追跡犬を迎え、滝田の指導のもと、トレーニングを行っています」
──空からのプロジェクトはいかがですか。
元井:
アフリカゾウは、集団行動する生き物です。大地を縦横無尽に移動しますが、人が車で行くことができる範囲には限りがあります。空からのパトロールによって見える範囲が広がり、さまざまな異常に気づきやすくなります。
瀧田は獣医師として「空からのパトロールが可能になれば、動物たちのためにできることが増えるはずだ」と、何年もかけてパイロットの資格を取得しました。団体として、パトロールのための飛行機を導入するにあたり、その費用を支援しました。
マラソラプロジェクト・購入した飛行機の前で。「広大なマサイマラを空の上から監視するだけでなく、道路が水没する雨季には貴重な移動アイテムにもなります」
象牙のために殺害されたアフリカゾウ。「言葉ではお伝えすることができません。見ていただいた写真が現実で、全てです」
──密猟の現状について教えてください。
元井:
アフリカゾウの最新の推定総個体数は41万9,000~65万頭といわれています。20世紀の初頭が900万頭だったので、この100年間で、約3%にまで減ったことがわかります。
この危機に、実は日本が大きく関係しています。というのは、私たち日本人は、象牙を、主に印鑑として大量に消費しているからです。1980年代には、世界の象牙の67%(950トン。アフリカゾウおよそ5万頭分に相当。出典:「適正な象牙取引の推進に関する官民協議会報告書」(平成28年)、「日本における象牙犀角の市場縮小の歴史」(平成28年))を、日本が消費していました。
──そうなんですか?!
元井:
象牙の国際取引は、1989年のワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)で、原則禁止となりました。日本と同じく、歴史的、文化的に長く象牙を用いてきた中国では、2017年に象牙市場を閉鎖しました。
各国が次々と象牙の取引や販売をやめていく中、日本では登録を行えば、象牙の取引は違法ではありません。世界で唯一の象牙マーケットになりつつあるのです。 現在、日本流通する象牙の約80%が印鑑として使われており、自国では購入できない海外の方が日本で大量に購入し、それをまた海外に違法で持ち出すといったことも懸念されています。
顔から切り取られたアフリカゾウ。「目を覆いたくなる光景ですが、人間とはいかに残酷であるかを思い知ると同時に、ここからどうするのか、何ができるのかを考えさせられます」
──確かに、象牙が欲しければ、購入できる日本で買おうとなりますね。でも、国際的な取引はすでに禁止されているのですよね?どうやって日本に入ってくるのですか?
元井:
「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)」によって、事業者が所有する全形牙(一本の象牙)の登録が義務づけられています。
この時に「ワシントン条約で禁止される前に日本に来たものです」と自己申告してしまえば、その出所や時期を明らかにすることを求められることもなく、実際に日本に来たのが条約以前か以後かを調べる術もありませんから、簡単に、合法な象牙として登録ができてしまうんです。
──…あって無いような制度ですね…。
元井:
やめるなら一切やめないと、きっとこの先10年20年、いつまで経っても「これはワシントン条約以前の象牙です」ということが通用してしまう。私たちは皆さんに、印鑑に使われる象牙のために、アフリカゾウの命が、今も狙われているということを知っていただきたいと思っています。
全形牙。「これは象牙というより、私たちにはゾウの死骸としか思えません」
「象牙の流通を防ぐため、ケニアの各公園で自然死したゾウの死骸から取り出された象牙が『ivory stock pile』として保管されています」
──象牙のために、アフリカゾウは殺されなければならないのですか?密猟はどのように行われるのですか。
元井:
象牙とは、ゾウの顎から生えている2本の永久歯です。子どものゾウには生えておらず、大人になって長い時間をかけて伸びていくものです。なので、象牙のための密猟という点でいうと、小さな牙をとっても仕方がないので、立派な牙が生えた年長者から狙われることになります。
──一頭あたり、どのぐらいの大きさがあるものなのですか。
元井:
アフリカゾウの平均的な体長は、鼻を含めて6~7.5メートル、肩高が2.6~3.2メートル、体重はオスで6トン、メスで2.8トンほどあります。他のゾウに比べて牙は大きく、最も長くて3.2メートル、39キロぐらいあります。
皆さん、ゾウの口から見えている部分が切り取られていると思われるかもしれませんが、そうではありません。顎がすでに象牙と同じ素材なので、顎ごと、顎から全部まるごと、ノコギリで切り取られるのです。
「密猟の後の光景は、目を覆いたくなるほど残虐なものです」
──そんな…。
元井:
アフリカゾウは非常に大きく、力の強い動物です。象牙をとろうと思ったら、密猟者にも時間と体力、労力が必要になります。顎の骨から丸ごと切り取るためには、ゾウを殺してしまわないとそういう行為はできません。
ゾウを殺し、完全に死んだのを確認してから、斧などで時間をかけて顎をかち割って、切り取って持っていくのです。その時に、ゾウの長い鼻が邪魔だからと鼻が切り取られることもあります。密猟の後の現場は、それはもう悲惨です。
──その状況を知って、それでも象牙の印鑑がほしいか?ということですね…。
象牙の商品。印鑑の他に、アクセサリーや箸などにも加工される
「ゾウには慈しみの気持ちがあり、いわゆる人間の『お葬式』のようなものを行うことが報告されています。 移動距離が長く、食べた木の実をフンとして別の場所に落とし、そこに新たな芽が生えることから『森の植木屋さん』という別名があります。生態系の大切な役割を担っているのです」
元井:
私たちが言いたいことはただひとつ、「象牙を使わないで。本当に象牙を使う必要がありますか」ということ。活動を始めて12年になりますが、少しずつ社会的な意識は変化しているものの、なかなかお伝えするのが難しいと感じています。
象牙がないと、私たちの生活に困るでしょうか。象牙の印鑑でないと、何か不具合があるでしょうか。きっと、多くの方がそうではないはずです。代替品はいくらでもあります。象牙を使うのであれば、「なぜ、象牙なのか」ということをしっかり考えた上でだと思いますし、もしその理由がないなら、「そろそろ、こんなことはやめようよ」と言いたいです。
2023年10月、東京・立川市立若葉台小学校にて出張授業を行った時の1枚
元井:
日本はハンコ文化が根付いており、役所の手続きやさまざまな契約など、印鑑がないと何もできないようなところがあります。さらに「一生使う印鑑はいいものを」「いい印鑑=象牙」という意識もまだまだあります。
私の娘が大学を卒業する際、大学の関係機関から「社会人に向けて、象牙の印鑑はどうですか」という案内が送られてきました。悪意があるわけではないことは十分理解していますが、象牙がどんなふうに取られているのか、私たちが無知に象牙を使い続けることが何を意味するのか、何を犠牲にしているのか、そういったことにもう少し目を向けてもらえたらと思っています。
サバンナを横断するアフリカゾウの群れ。「アフリカゾウは母系家族です。集団の中心にはいちばん小さな子どもがいて、子どもを囲むように集団が構成されています。もし密猟者が現れると、皆が子象を守ろうと囲んでしまうため、一挙に銃でねらい撃ちされてしまいます。 群れのリーダー、おばあちゃんゾウが長年の知識で皆を導き、文化を伝えていきます。そのリーダーが密猟にあってしまうと、群れは広大なサバンナで生き抜く知恵を授からぬまま、路頭に迷い、人間の畑を荒らして『害獣』となってしまいます。母親を亡くした子ゾウは、ライオンやハイエナに殺されてしまいます」
元井:
日本では象牙は違法ではないし、普通に流通しているので、なかなかそこに目が向けられることはないかもしれません。値段の高い、良いものを消費者も求めるし、売る側も売りたいしということも理解しますが、「脱・象牙」が一番の課題だと感じています。
コロナがあって、押印というシステムも少しずつ減ってきました。また、社会としても、動物との共生・共存に以前に増して目が向けられるようになりました。少しずつですが、前進は感じています。ぜひ、象牙のために犠牲になっているアフリカゾウのことを知っていただけたらと思います。
代々木公園で開催される「アースデイ」に出展した際の一枚。「活動報告会や、代表の滝田の帰国時に開催するイベントに加え、動物園での啓発活動にも力を入れています。これまでに横浜ズーラシアの『ライオンの日』のイベントや、横浜金沢動物園の『サイの日』のイベント、多摩動物公園の『アフリカフェア』などにも参加させていただきました」
アフリカゾウの子ども。「『ぼくたちを図鑑だけの生き物にしないで』というささやきが聞こえてくるようです」
元井:
アフリカゾウの数自体は減っていますが、一方で「数が増えている」という地域があります。アフリカは人口が増えており、土地の開発も進んでいます。人間がアフリカゾウの生息地をどんどん奪っていった結果、アフリカゾウが住める場所が狭まって過密状態になり、実際には増えているわけではなく「増えたように見えている」状態です。
人間とアフリカゾウの生息地が重なってくることで、さまざまな衝突が起きてきます。たとえば、アフリカゾウが畑のトウモロコシを食べてしまう。あの大きさですから、大食漢で、農家にとって打撃は少なくありません。でも、本来アフリカゾウの生息地であり、通り道であった場所に作物を植えているのもまた、私たちです。いつの間にか人優先になり、人の都合だけで自然に介入している。区別していくことが必要だと感じています。
──他のゾウも、同じような課題を抱えているのでしょうか。
元井:
アジアゾウ、サバンナゾウ、マルミミゾウ…、それぞれの生息地で、その国や土地ならではの悩みがあると聞きます。象牙ほしさに密猟がなくならないというのは、どのゾウも共通の課題です。
「アフリカゾウの涙」を立ち上げた、滝田明日香さんと山脇愛理さん。「ケニアで暮らす滝田と南アフリカ育ちの山脇が出会い、アフリカゾウの密猟が減らない背景には、自分たちの母国である日本をはじめとするアジアであることに焦りを感じ、2012年、『アフリカ育ちの日本人だからこそ、実態を変えられるのでは』という思いからアフリカゾウの涙を立ち上げました」
アフリカゾウだけでなくサイの保全活動も行っている。「サイも角が超高値で密売されており、ゾウと同じように密猟が多く深刻な絶滅危機にあります。このことは日本ではあまり知られておらず、広く伝えることがサイを守るための第一歩と考え、サイを飼育する各地の動物園で、啓蒙イベントを実施しています。 毎年多くのサイが密猟されている現実を伝えるため、南アフリカにおけるサイの年間密猟数と同数の折り紙サイを展示し、サイの密猟の深刻さを視覚から感じてもらう試みも続けています」
──メッセージをお願いします。
元井:
言いたいことはただ一つ。「象牙を使わないで」ということです。
同じように地球に生きている野生動物を思いやり、共存のあり方を考えていただけたら嬉しいです。
──最後に、チャリティーの使途を教えてください。
元井:
チャリティーは、現地のプロジェクト、探知犬と空からのパトロールを継続していくために、活用させていただく予定です。ぜひ、チャリティーアイテムで応援いただけたら嬉しいです。
──貴重なお話をありがとうございました!
代表の滝田さんが帰国した際、理事会にて、スタッフの皆さんと
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
元井さんから送っていただいた密猟現場のお写真を見た時、あまりにショックで、言葉を失いました。まさかここまでとは‥信じられない気持ちでした。
大学生になって一人暮らしを始める時、象牙の印鑑を贈ってもらいました。だけど、恥ずかしながら「象牙とは何であるのか」を深く考えてみたことがありませんでした。
印鑑に関していえば、今では代替の素材もたくさんあります。ゾウの命を奪ってまで、また、そのゾウの家族に苦しみや悲しみを与えてまで、本当に象牙である必要があるのか?「象牙である必要性」を、考えられたらいいなと思いました。皆さんは、どのように受け止められたでしょうか。
【2024/2/26~3/3の1週間限定販売】
森の茂みから顔をのぞかせるアフリカゾウを描きました。 こちらを真っ直ぐに見つめる、純粋で力強い眼差しを描くことで、命の尊さと、我々への問いかけを表現しました。
“We all live on the same planet”、「私たちは皆、同じ星に生きている」というメッセージを添えています。
JAMMINは毎週週替わりで様々な団体とコラボしたオリジナルデザインアイテムを販売、1点売り上げるごとに700円をその団体へとチャリティーしています。
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