「そういえば最近、あの鳥を見かけなくなったな…」。
日々の生活で、そのように感じられることはありませんか?
環境が変わってしまったことで、すみかを奪われ、数を減らしたり絶滅したりする鳥たちがいます。人にとっても自然にとってもより良い社会のために、全国各地で経年的な調査を行い、鳥を取り巻く状況を把握することで保全につなげる活動を行うNPO「バードリサーチ」が今週のチャリティー先。
「自然に対抗するのではなく、その力も受け止めながら、自然と向き合っていく視点への転換期に来ているのでは」
そう話すのは、バードリサーチ研究員の守屋年史(もりや・としふみ)さん(51)。
今回は急激に数を減らしているという「シロチドリ」をメインに、活動についてお話を聞きました。
お話をお伺いした守屋さん
NPO法人バードリサーチ
人間と自然が共存できる社会の構築ために、全国の鳥の分布や生態など基礎的な情報をアマチュアの観察者と共に調査。情報を収集して解析し、保全のための有効な対策を立案しています。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2023/12/18
鳥類の種類や数を継続的に記録するモニタリング調査を行っているところ。アマチュア研究者やボランティアなど、たくさんの人が調査・研究に携わっている
──今日はよろしくお願いします。最初に、バードリサーチさんのご活動について教えてください。
守屋:
「人間と自然が共存できる社会を構築する」ことをミッションに、全国各地のボランティアさんや研究者と協力して、野鳥に関する調査・分析を行う団体です。
主な活動として、アマチュアの野鳥観察者と協力してさまざまな野鳥の数や分布を把握して、その変化を調べたり、人と野鳥の軋轢を減らすためにどうしたらいいか考えたり、便利な野鳥の調査方法や道具を考えて提供したりしています。
──そうなんですね。
守屋:
活動の中でも、日本の野鳥の変化をとらえることに力を入れています。
「なんとなくスズメを見かける機会が減ったな」とか「ムクドリが前よりもたくさんいるな」とか、皆さんも日々の暮らしの中で感じることがあると思います。でも、実際のところはどうなのか。長期的なモニタリングで科学的に数字を見える化することによって現状を把握し、野鳥を取り巻く環境の変化に気づくことができます。さらに、調査で得た情報をもとに対策を練ったり、国と相談して施策につなげたりしています。
活動を始めた2004年頃の一枚。「活動を始めた頃、野鳥研究に関心のある協力者の皆さまに集まってもらい、勉強会を行っている様子です。全国の野鳥の調査は多くの協力者の方々によって支えられています」
──野鳥の数は、減っているのですか、それとも増えているのですか。
守屋:
数が増えている鳥もいれば、減っている鳥もいます。
森林で暮らすような鳥は、おそらくですが樹木が大きくなって増えている鳥もいます。カワウやムクドリなども、さまざまな背景はありますが、人間の生活にフィットして数を増やしています。
一方で、草原や原っぱなどの平地、田んぼや里山で暮らしていた鳥には減っているものがいます。
「コマドリは、三大鳴鳥と呼ばれる美しいさえずりが特徴的な野鳥ですが、分布が減少しています。近年増加傾向のシカなどが生息場所である笹を食べてしまうことが要因の一つではないかと言われています」
──なぜですか?
守屋:
原っぱや河原、湿地、里山といった環境が減っていますよね。人の生活や農業のあり方の変化、繁殖地の温暖化、などが背景にあり、影響を受けている鳥たちがいます。
春、オーストラリアや東南アジアから、繁殖のためにロシアやアラスカに長距離の移動する「シギ・チドリ」という鳥にとって、日本は移動の中間地点になりますが、そういった鳥も数を減らしています。
密猟や気候変動による影響などが指摘されており、台風が強力になってきたり豪雨が増えていること、それらによって河川の環境が変化し、結果、そこで暮らしてきた生物たちの生息環境が変わってきているということも言われています。
気候変動や生息地の改変といった人間の介入による生態系の急速な変化、そこに野生動物たちがついていけていないという現実があります。
ひと昔前は減少していたカワウ。「近年その数を回復させて、食害が問題になってきました。食害対策に生かすため、カワウがどういったものを食べているかフンに含まれているDNAから調べます。写真はフンを採取しているところです」
シロチドリのオス。「繁殖期のオスはメスと比べて額の上が黒く、後頭部が橙色になります。オスもメスも卵をあたため、子育てをします」
──少し話は変わりますが、どうやって鳥の数の調査をするのですか?
守屋:
私が主にかかわっているシギ・チドリ類は、北海道から沖縄まで全国の調査地で、毎年なるべく同じ調査方法で、春と秋、冬に調査していす。方法は、望遠鏡や双眼鏡を使ってひたすら数えるかたちです。だだっ広いところにいるので、距離があっても、見つけて数えるのはそんなに難しくありません。
──それでも、根気のいる作業ですね。
守屋:
シギ・チドリ類は、我々が調査している中でも、極端に数を減らしているます。
観測数は調査を始めた50年前に比べ、1/3にまで減る勢いです。その中でさらに「シロチドリ」に関しては、1/10ほどにまで減っています。
九十九里浜でのシロチドリの調査の様子
──そんなに減っているんですか。
守屋:
はい。20年前と比較しても、1/6ほどに減っています。
シロチドリは、僕が学生時代に鳥を観察し始めた頃は、まだまだ普通にいるような種類の鳥でした。しかし現在では、千葉と三重では、絶滅危惧Ⅰ類(近い将来における絶滅の危険が高い)相当に指定されています。
我々の調査の結果は環境省に報告されており、国としても数の減少を把握しているので、今後どうしていくかもモニタリング調査を見て判断されます。シロチドリは2012年に国レベルの絶滅危惧Ⅱ類(絶滅の危険が増大している)に指定されましたが、おそらく今後、危険度がもう1ランク上がる可能性があります。
冬場、寒さをしのぐために羽毛を起こして丸くなったシロチドリ
卵を温めるシロチドリの親。「営巣写真の撮影は、繁殖の妨害にならないように細心の注意を払っています」
──なぜ、そんなに数が減ってしまったのですか。
守屋:
シロチドリは主に砂浜に生息する鳥ですが、全国で砂浜環境が消失していることが原因の一つです。
そのことをお話しする前に、シロチドリがどんな鳥かを少しご紹介すると、スズメよりちょっと大きいぐらいの小さな鳥で、全国の砂浜や河川の中流に生息しています。まるまるとしたシルエットと長い足、短いくちばし、大きな目が特徴です。
冬は越冬地で集団で過ごし、春、3月あたりになると繁殖のために移動します。我々の調査地の千葉県九十九里浜から三重や鹿児島など長距離を移動する個体もいれば、ほぼ移動しない個体もいます。越冬地と繁殖地を行ったり来たりして過ごしますが、どちらも砂浜でした。
シロチドリのオスが、砂浜に掘った穴をメスが気に入るか確認する
──砂浜で暮らす鳥なんですね。
守屋:
はい。産卵や子育ても砂浜でします。
オスが砂浜に穴を掘り、かたちや場所をメスが気に入ると、交尾して卵を産みます。卵が孵るまで、「抱卵」といって親鳥が卵を抱いて温めますが、日陰もなく暑い環境の砂浜で、シロチドリの親は自分の体で卵に日陰を作ったり、お腹を水で濡らし、自分の体温や卵の温度を下げたりします。
シロチドリは主に砂浜や砂州で繁殖するが、造成中の埋め立て地など砂礫地で繁殖することもあるという
──かしこいですね。
守屋:
1回の繁殖で卵を3個ほど産んで、3週間ほどで孵ります。生まれてしばらくは親鳥がお世話をしないといけない鳥もいますが、シロチドリの雛は生まれてすぐに走れるし、自分で採餌もできます。それでもしばらくは親の保護の下で過ごします。餌は、砂浜にいるゴカイや小さな貝の仲間、昆虫や幼虫のほかに、ヨコエビの仲間なども食べているようです。
シロチドリなどの一部の野鳥が持つ特徴の一つ「擬傷(ぎしょう)」。「巣に天敵が近づいた時、親鳥が弱ったフリをして天敵の気を引き、天敵が巣から離れたら元気に飛んで逃げる行動です」
──砂浜が減ると、生活できる場所がなくなってしまいますね。
守屋:
はい。シロチドリは砂浜という水辺に住む鳥ですが、湿地や干潟、水田地帯といった環境も全国で減っており、ちょっと危機的な状況かなと思います。
九十九里浜もそうですが、ダムや護岸設備の建設によって、砂の元になる河川からの土砂の流入が堰き止められてしまい、土砂の供給不足で砂浜が痩せ細る状態が各地で起きています。
干潟は浅瀬なので埋め立てやすく、人にとっては都合が良い場所です。
どんどん埋め立てて、レジャー施設や商業施設、工場などを建設すると、どんどん干潟も減ってしまいます。干潟を埋め立ててしまうと、海と陸とがなだらかにつながっていた水辺が、まっすぐコンクリートで隔てられているような状況になってしまいます。
削られた砂浜。福岡県にて撮影
守屋:
少し専門的な話になりますが、生き物にとっては「エコトーン」といって、陸と海とがなだらかに少しずつ推移する場所があることが、多くの生き物に生息場所を与えることになるので、とても大切なことです。
海と陸との境目がコンクリートで垂直に隔てられた時に、本来なだらかなエコトーンに暮らしていたさまざまな生き物、貝や魚の稚魚なども生きる場所を失います。当然、それを食べたり利用していた生き物にも影響があります。これは水産資源を利用している我々人間にとっても、影響が出てくることです。
──生態系が失われるんですね。
守屋:
内陸部では、また別の問題があります。昔の湿地帯が現在田んぼとして活用されていますが、今の田んぼは、昔の田んぼのようにジメジメしていません。田んぼには水を入れたり抜いたりする穴があって、水が入っている時は湿地になりますが、そうでない時は固い地面になります。その環境で、昆虫や植物が生存するのは難しい。水鳥が生息できるような生態系自体、育まれることが難しくなってきています。
毎年砂浜にやってくる沢山のシギ・チドリ類の野鳥。「何千キロもの渡りをするには、飛来場所でたくさん栄養を蓄える必要があります。シギチドリたちが生きていくためには、餌となる多くの生き物がすめる環境が必要です」
センサーカメラでシロチドリの巣をモニタリングした際の画像。「(写真左)シロチドリの親が砂浜の上に作った巣で卵を温めています。(写真右)巣の隣を人が歩くと、親鳥は卵を温めるのをやめて、いったん巣から離れます。時には人が卵に気づかず踏んでしまうこともあります」
──そのような状況で、何かできる対策はあるのですか。
守屋:
一番良いと思うのは、「人間は使う場所はここ、鳥のために残す場所はここ」と決める、いわゆる「ゾーニング」をすること。保護区を持つということが現実的だと思います。
砂浜環境が失われていっていることに対して、正直、生育環境をどうにかして増やそうということは、個人レベルではどうしようもできません。でも身近なところで、少なくとも生育環境を荒らさないようにすることはできます。
悪影響を与えないように砂浜にゴミを捨てない、ゴミがあったら持ち帰るとか、犬や猫が卵やヒナを捕食してしまうこともあるので、繁殖地ではリードから離さないようにする、繁殖中の場所には一時的にロープを張って近づかないように注意喚起するといったことは、普段の生活の中でできることではないでしょうか。
──確かに。
越冬期、集まって過ごすシロチドリ
守屋:
そうやって行動を起こしてもらうためにも、まずはこういう鳥がいるということを知ってもらいたいと思っています。シギ・チドリ類の野鳥も、シロチドリも、皆さん知らないんです。もしかしたら皆さんの足元に、こういう生き物がいますよ、卵を産んでいますよっていうのを、まず知ってほしい。そしてできることを考えてもらえたらと思います。
そのためにも自分たちは、どこに何の鳥がどれだけ住んでいるか、どういう状況かを調査して、皆さんが考える材料にしてもらいたい。自然と人の生活の調整をうまくつけながら、どちらも良い方向に向かっていく社会を作りましょうというのが、私たちの理念です。
シロチドリのオスとハマヒルガオという砂浜の植物
シロチドリがすむ砂浜環境を未来に残していきたいと思います
守屋:
「生き物の保全」という話になった時に、「保全することに、何か得があるのか?」という話が、必ずといっていいほど出てきます。
いろんな可能性があるかもしれないものを、よくわからないうちに失くしてしまっている。それが本当に失われた時、果たして実際にどういう影響があるかというのは、我々はまだ正確に把握できていません。
即物的な話をすると、鳥が姿を消しているということは、その環境が失われているということで、それが巡り巡って私たち人間にも影響をもたらすでしょう。もしかしたら我々が食べている魚のゆりかごになっている場所だったかもしれないし、もしかしたらそこに生息している生き物から今後、特殊な薬が作られるかもしれません。
──確かに。
熊本県で開催された、野外での勉強会の様子
守屋:
日本は特に、ここ数十年、自然に対抗し、できるだけハードで抑え込んできたようなところがあったように思います。
たとえば津波を防ぐためにと大規模な護岸工事をした時に、そうすることで海岸線のエコトーンは大きなダメージを受けています。ですが、たとえば浅い地形の砂浜には、波の強さを吸収する効果があります。自然環境をそのまま残すかたちでも、防災効果がある程度見込めるのです。
今年の夏も猛暑でしたが、これからもっと大変な気象状況になるでしょう。猛暑は、ハードでなんとかできる話ではありません。でも湿地がたくさんあれば、高温を和らげるかもしれません。それだけでなく、多くの生き物の保全・保護につながるかもしれません。
集団で渡りを行うシギ・チドリ類の野鳥たち
守屋:
自然に対抗して、いつまでもお金をかけてハードな力で押さえ込むことを繰り返した先に、いつか破綻がくるのではないかと感じています。自然の力も受け止めながら、それをうまくいなすような視点で、自然と付き合っていく必要があるのではないでしょうか。
お金にならなきゃとか、自分のためにならなきゃとか、そういう近視眼的な考えはそろそろ脱却して、意識を転換していくタイミングに来ているのではないかなと感じています。
長距離移動する渡り鳥の保護は他国との連携も重要。写真は、日本政府側専門家として国際会議で説明しているところ
──守屋さんにとって「共存」とは?
守屋:
末長く、持続可能な生活をお互いにできるということ。奪いすぎず、お互いが両立していくことができる世界だと思います。
僕は生き物が大好きで、大学では昆虫生態学を専攻したのですが、昆虫や鳥も含めさまざまな生き物を見ていると、自然環境にとても適応しているんですよね。ただ生き残ってきた結果なのですが、結果すごく工夫されていて、とても良くできたしくみだなと感じます。
──そうなんですね。
守屋:
自然から遠く離れた暮らしは、人にとって良い方向ではないと感じています。
土を感じ、風を感じること。それは人のストレスを軽減し、精神的な安心や安定にもつながっています。でもそれを感じるためには、まっすぐに整備された道ではなく、時にでこぼこで土だらけの道も受け入れていく必要がある。それもまたいいのではないでしょうか。
「バードリサーチは、野鳥研究者、研究に関心のある方に集まって研究発表をする場も提供しています」
シロチドリの子育てを守る囲い。「シロチドリの卵やヒナを人やペットから守るために、巣の上に囲いを設置。シロチドリは小さいので、囲いの網の隙間から自由に出入りできますが、人やペットは囲いの中に入ることはできません」
──読者の方に、メッセージをお願いします。
守屋:
普段の生活ではなかなか気にすることはないと思いますが、足元から自然は広がっているので、自然を注意深く見てもらえたらなと思います。「興味を持ってほしい」という贅沢までは言いません(笑)。そこに何かがいて、確かに生きてるということを、ぜひ知ってもらえたら嬉しいです。
──最後に、チャリティーの使途を教えてください。
守屋:
チャリティーは、野鳥と野鳥を取り巻く環境を保全していくために、地元団体や企業さんとの勉強会やイベント開催、野鳥の生息数調査と生態調査で使用するセンサーカメラ等の機材購入費、シロチドリの子育てを守るための囲いを購入するための資金などに活用させていただきます。ぜひアイテムで応援していただけたらと思います。
──貴重なお話をありがとうございました!
バードリサーチの皆さん。「毎年年末に撮影している集合写真。今年も事務所近くで最も野鳥が見れる場所で撮影しました」
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
毎日スマホを1時間2時間見ることはあっても、自然の中に身を置いて、景色を1時間2時間見る機会というのは、よっぽど意識しない限り、減っていると思います。鳥や昆虫、野生動物…、実は私たちのすぐ近くで、確かに同じ空間を生きている存在を、私たちはどこかで忘れ去り、分断していはいないでしょうか。鳥たちが教えてくれること、自然が教えてくれることはそのまま、私たちのいのち、暮らしにダイレクトに関わってくることです。今日は手元から顔を上げ、空や大地に視点を置いてみませんか。
【2023/12/18~24の1週間限定販売】
シロチドリの親子を描きました。
当たり前のようで決して当たり前ではない、美しい自然と共にある光景を、皆で手を取り合いながら、次の世代へ、そしてまた次の世代へとのこしていこうという思いを込めています。
“Take care of the beauty of nature for our future”、「私たちの未来のために、自然の美しさをのこしていこう」というメッセージを添えています。
JAMMINは毎週週替わりで様々な団体とコラボしたオリジナルデザインアイテムを販売、1点売り上げるごとに700円をその団体へとチャリティーしています。
今週コラボ中のアイテムはこちらから、過去のコラボ団体一覧はこちらからご覧いただけます!