鳥を狩猟する「鳥猟犬(GUNDOG)」として生まれ育ち、「猟に向かない」「病気になった」「怪我をした」という身勝手な理由で、遺棄される犬がいることをご存知ですか。
今週JAMMINがコラボするのは、千葉県市川市を拠点に活動する「GUNDOG RESCUE CACI」。代表の金子理絵(かねこ・りえ)さん(60)は、1993年より任意団体CACI(コンパニオン アニマルクラブ市川)を立ち上げ、犬の保護・譲渡活動を行ってきました。
その中で、千葉で他府県をはるかに超える数の鳥猟犬が遺棄されている事実を知り、2008年より、鳥猟犬に特化した団体としての活動をスタート。「鳥猟犬を使い捨てにさせない」という強い思いで、今日まで活動を続けています。
鳥猟犬のこと、そして活動について、お話を聞きました。
お話をお伺いした金子さん
GUNDOG RESCUE CACI(ガンドッグレスキュー シーエーシーアイ)
千葉県市川市にシェルターを構え、鳥猟犬を専門に救済し、里親につなげる活動をしているボランティア団体です。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2023/12/04
千葉の愛護センターに収容されていた鳥猟犬。「引き取りに行くと、見知らぬ人々に囲まれ、少しオドオドしていました」
──今日はよろしくお願いします。最初に、団体のご活動について教えてください。
金子:
千葉県市川市にシェルターを構え、遺棄された鳥猟犬を保護する活動をしています。
鳥猟犬とは、獲物を仕留めるのではなく、鳥の居場所を知らせ飛び立たせることが仕事です。鳥を射ち落とす猟銃(ガン)を使用するため、別名「GUNDOG」とも呼ばれています。
イングリッシュセッター、イングリッシュポインターなどが主な犬種となります。
保護され、動物愛護センターに移送されてきた鳥猟犬。「現在は新しい家族の元、幸せに暮らしています」
金子:
純血種なので、勝手に生まれてくるわけではありません。人間が産ませて、鳥猟犬として幼いうちから訓練を入れます。日本では、猟ができる期間が決まっており、場所にもよりますが、通常11月15日〜2月15日です。猟期が到来すると「役に立たない」「怪我をした」「病気になった」挙句「来年の猟のシーズンまで飼い続けるとお金がかかる」という身勝手な理由で捨てられてしまう猟犬がいるのです。
警察犬、盲導犬、セラピー犬など、様々な使役犬が社会で活動しています。彼らの現役引退後は、穏やかに過ごせる場所が用意されていますが、同じ使役犬である「猟犬」は、使い捨てにされている側面があるのです。
GUNDOG RESCUE CACIのシェルターの様子。「1頭1頭、ゆとりのあるケージで過ごします。 ストレスにならないよう、お互いが見えないように配慮しています」
──団体として、ずっと鳥猟犬に特化して活動していらっしゃったのですか。
金子:
いいえ、「三番瀬」と呼ばれる千葉の海岸沿いに遺棄されていた犬たちの保護・譲渡が活動の始まりです。1993年から10年以上かけて、600頭以上の犬を救済しました。
ある時、千葉の動物愛護センターに鳥猟犬が収容され、知り合いのハンターの方から「助けてほしい」と言われたことが、鳥猟犬の置かれたつらい現実を知るきっかけになりました。愛護センターに出向くと、他にも収容されたばかりの鳥猟犬が7、8頭いたんです。「なぜこんなに鳥猟犬がいるんですか?」と施設の方に尋ねると、「ほぼ毎日、新たに収容されています」と。
「どうするんですか?」と尋ねると「危険なので、譲渡はしません」といわれました。つまり、彼らは殺処分されるということです。
「鳥猟犬は、ハンターにとっては仕事を共にする立派な相棒です。信頼関係なしでは成り立ちません」
金子:
鳥猟犬は、決して危険な気質を持つ犬ではありません。気がついたら「危険ではないということを、証明してみせます。譲渡対象にしてください」という言葉が口から勝手に出ていました。そこから鳥猟犬に特化したボランティア団体として活動し、現在に至ります。
──なぜ危険だとみなされていたのですか。
金子:
幼いうちから鳥猟犬として訓練を受けてきた鳥猟犬の特徴として、動くものに非常に反応してしまうということがあります。施設で他の犬たちと一つの部屋に収容された時に、ちょこちょこと動く小型犬や子犬に体が反応してしまい、噛んでしまうことがあったようです。
また、鳥猟犬は飼い主に非常に従順で、その人以外に警戒心が強いことも、扱いづらさを生んでいたと思います。助けてもらえるチャンスが、他の犬たちに比べて少ない鳥猟犬たち。彼らを率先して保護するのが私たちの役目です。
「この犬は、繁殖犬だったように見受けられる乳房をしていました。幾度とない出産の跡が痛々しいです」
CACIを卒業し、里親さんのもとで幸せに暮らすイングリッシュセッター。「リボンレイ教室を主宰されていらっしゃいる里親ママの元、お教室の助手としても大活躍です」
金子:
2014年ごろから3年間ほど、全国の行政が公開する収容情報を毎日チェックしていました。すると千葉県では、鳥猟犬の収容が圧倒的に多いことがわかりました。年間に収容される鳥猟犬の数が、他府県と比べてダントツで一位だったんです。
──なぜ、千葉だけそんなに多かったのですか。
金子:
千葉は海沿いに、渡り鳥が飛来してくる地域です。山は低く土地が平坦で、鳥猟をするには最高の地形です。都心部から近く、趣味で鳥猟をする人にとってアクセスが良い場所でもあります。
──鳥猟が盛んな地域なんですね。そして鳥猟犬の遺棄の問題があると…。
千葉県動物愛護センターより引き取ったイングリッシュセッターの「レスカ」(オス、推定8歳、21kg)。「 引き取り当初に見られた皮膚の炎症は治りつつありますが、現在は左耳が外耳炎、左後ろ足の膝の皿が骨折しており、経過観察中です」
金子:
日本の場合、猟犬があまりにも閉鎖的なところで飼育されていることもあって、なかなか問題が表面化してきません。猟犬を、専門の犬舎で購入するだけではなく、個人で繁殖して数を増やし、仲間内で売買する構図もあるようです。
猟犬に向いていない、怪我をした、病気になったという理由で、猟に使えなければ捨ててしまう。若い鳥猟犬を新たに迎え入れたら老犬は捨ててしまう…。ただ猟の犬として扱われ、人生を共に過ごすパートナーとして扱われていないということが、残念ながら一部の心無い飼い主の間で起きています。
私たちが引き取りに訪れたあるお宅は、3頭の鳥猟犬を飼っていらしたのですが、家族の方たちは「お父さんの犬だから」と、犬たちの名前すら知りませんでした。「お父さんが猟をするための犬」だから、皆が面倒を見る必要もないと。
──「鳥猟犬」としてだけ扱われてしまうんですね…。
「埼玉県の愛護センターに収容され、高齢の独り暮らしの方へ譲渡されたものの、2年経たずして飼い主が死去。 借家に取り残され、親族の通報の元、保護されたセッターです。 譲渡後、強いフードガード(食べ物に対して執着し、攻撃的な行動をとること)があることが判明しました。どうやら飼い主も大怪我を負い、その後食事は自由に与えていたようです。本来であれば22〜3kgのセッターですが、35kgを超えるまでになっていました」
金子:
そうですね。ご家族がいても、一人でお世話をされていることも少なくありません。犬舎で飼われていることも多く、猟のフィールドと犬舎を行ったり来たりするだけで、たくさんの人の手に触れられるという経験やリードをつけて街中を散歩するという経験がない鳥猟犬は少なくありません。
──家庭犬とは大きくかけ離れた状況なんですね。
金子:
飼い主に非常に従順で、パートナーとしてはすばらしい犬です。その特性を理解して、愛情を注いで飼っていらっしゃる方もいらっしゃいます。
「鳥猟では呼吸や波長を合わせ、人と犬とが一体となって猟をします」
「イングリッシュポインター、セッター、2頭の保護犬を迎えてくださった岐阜県在住の里親さま。同じ鳥猟犬でも、性格は全く異なります。2頭がもたらしてくれる刺激的な出来事で、日々楽しく過ごされているそうです」
金子:
猟犬に関しては、戦後70年にわたってその保護に特化した団体がなかっただけでなく、「動物愛護団体VS狩猟者団体」というような対立が続き、猟や猟犬に対して批判だけがなされるだけで、狩猟犬を取り巻く環境の改善というところへはなかなか進みませんでした。
そこで私たちは「一般社団法人 全日本狩猟倶楽部(全猟)」に入会し、鳥猟犬との正しい付き合い方を啓発しています。外から批判するのではなく、一緒に啓発活動に取り組めていることは、大きな前進だと思います。
「全国のハンターの方々にも鳥猟犬遺棄問題に関して知っていただきたく、全猟の会報誌に活動状況を報告しました」
金子:
ここ数年は猟をする人も減ってきてはいますが、今でも全国各地で猟犬が放棄されています。一方で、猟犬を守るための法律は一つもありません。鳥猟犬の場合は特に、首輪をつけずにフィールドに出ることも多く、一度はぐれてしまうと飼い主を見つけることは困難です。首輪やマイクロチップの装着を徹底し、飼い主がきちんとわかるように呼びかけています。
──大事なことですね。
金子:
私としては、とにかく法律を変えたいと思っています。これだけ時代が変わり、さまざまな法律が生まれているのに、猟犬に関しては、大正時代から法律が何も変わっていないんです。
霞ヶ関の議員会館にて、地元衆議院議員に現状を説明し、今後の展望について意見交換をした時の1枚
金子:
この活動を始めた時は、そのままでは殺処分されてしまう猟犬があまりに多くて、とにかくなんとかしたいと必死でした。でも活動すればするほど、彼らを守るための法律が必要だと感じるようになりました。今60歳、残された時間は多くありません。もしかしたら私の命が終わるまでには変えられないかもしれません。でも、誰かが突破口になる必要があります。
犬をパートナーとして迎え入れたのならば、家族の一員として、亡くなるまで大事に飼うということ。ただそれだけの話なのですが、猟犬の場合はその特性もきちんと認めて生かしてあげながら、猟犬としての命を全うさせてあげてほしいと思っています。
生き生きと走る、元保護犬たち。「保護犬は、使役犬や猟犬としてではなく、家庭犬として譲渡されます。しかし、猟欲が消え去るわけではありません。ストレスがたまらないように、思いっきり走らせてあげることも必要です」
シェルターの犬との散歩の様子。「とっさのアクシデントで、リードを離してしまった際に対応できるよう、必ず二重リードでお散歩します」
金子:
鳥猟犬としての本能は、死ぬまで消えません。その本能を消すのではなく、その特性を理解し、人が先回りして、向き合うことが必要です。
譲渡会に参加された方たちには、外に出て、犬との散歩を体験していただきます。なぜなら、鳥猟犬の本能は室内では見られないからです。散歩を体験すると、多くの方が断念されます。
トレーニングの様子。「トレーニングにおいて、一番大事なことはコミュニケーションです。猟欲の強い犬ほど、コミュニケーションを十分にとる必要があります。関係性が築けた時、ようやく犬の意識がこちらに向き始め流のです。1に根気、2に根気・・・日々、同じことをコツコツ繰り返して体感させ、負荷なく習得させていきます」
──なぜですか?
金子:
猟犬として生まれ、小さい頃から人より先を歩くように教えられてきた鳥猟犬は、人より先に歩きますし、とにかく引きが強いです。これを直そうというのは、私たちが性格を直してくれと言われるのと同じぐらい難しいことです。
であれば、私たち人間の方で、できることを考える。
本人がのびのびと過ごせるように、こちらが技術を身につけていこうというのが私たちの考えです。犬と意識がぴったり合った時には、なんとなくついてきてくれるような感じがあるんですよね。
──そうなんですね。
譲渡会の様子。「1頭ずつケージから出して、参加者の方に丁寧に説明をします」
金子:
猟犬らしさを取り除いていくようなリトレーニングもあります。しかしそうすると、ストレスがかかって犬の表情が暗くなり、ご飯を食べなくなる、排泄をしなくなるというケースもありました。
猟犬として生まれた犬たちにとって、飼い主と一緒に仕事(猟)に出ることは喜びであり、楽しみです。そのことをしっかり理解して、猟の代わりとなる楽しさを用意してあげたり、たくさん運動させてあげたりすることが大事。私自身、猟犬のことをもっともっと知りたいし、その魅力を広めていきたいと思っています。
里親さんの元で元気に過ごす元保護犬。「鳥猟犬を家族に迎えると、彼らの運動量を発散させるため野外で過ごす時間が多くなります。里親さま同士、情報交換しつつ楽しい時を過ごされています。四季折々の自然の中に身を置くことは、人にとっても安らぎのひとときです」
皆から愛されるキャラクターだった、保護犬のマジックくん
──これまでに出会った中で、印象に残っている仔はいますか。
金子:
ポインターの「マジック」は、愛護センターで出会って保護した仔でした。
皆から愛されるキャラクターで、とてもかわいい仔でした。一緒に散歩に行くともちろん、蛇行しながらどんどん先に行くわけです(笑)。
散歩中もこっちを見てくれたら嬉しいなと思って、ジャンプを教えました。他にも公園の遊具の間や鉄柵を飛んだり…たくさんコミュニケーションを取って、芸達者な犬になりました。
「胸に大きな腫瘍があった仔です。愛護センターに引き取りに行き、この腫瘍を見た時は胸がつまり、言葉も出ませんでした。摘出手術は無事成功し、今では先住犬と共に、里親様の元で楽しく暮らしています」
金子:
一度譲渡に失敗し、マジックも里親さんも傷ついたのですが、最終的にはドッグトレーナーさんの元に引き取られました。その時に、まさに開花したというか。マジックの解放されていく様子を目の当たりにして、「飼い方が変われば、犬はこれだけ変わるんだ」ということをまざまざと見せてもらいました。
去年亡くなりましたが、やればできるんだ、私たちのやっていることは間違っていないと自信を持たせてくれた犬でもあって、忘れないですね。
スタッフやボランティアの皆さんとの勉強会の様子。「犬の保護には、ストレスや不安がつきものです。CACIではシェルターでの管理を統一できるよう、定期的に勉強会を実施しています。いかに保護された犬のストレスを減らし、心身ともに安心した保護生活を送らせることができるか。常に向き合い、真摯に取り組みたいと考えています」
「寄附型自動販売機を全国で展開中です。設置されたお店では、鳥猟犬たちの撮影スポットにもなっています」
──最後に、チャリティーの使い道を教えてください。
金子:
チャリティーは、遺棄され、保護した犬たちに適切な医療を受けさせるための資金として活用させていただく予定です。
残念ながら、遺棄される鳥猟犬は何らかの疾患を抱えていることが少なくありません。人を信じて生きてきた彼らが、困難を乗り越えて第二の人生を歩めるように、ぜひ応援いただけたら嬉しいです。 現在、猟期のシーズンです。1頭でも多くの遺棄された猟犬を、新しい家族に繋げたいと思っています。
──貴重なお話をありがとうございました!
2023年春に開催された、卒業生たちの同窓会の様子。「ボランティアスタッフと共に、里親様たちが活動を支えてくださっています」
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
鳥猟犬として生まれ、その役目が発揮できないという理由で使い捨てにされてしまう犬がいるなんて知りませんでした。飼い主だと信じ、愛し、慕っていた人に見放されてしまう。その時の犬たちの気持ちを思うと、とても悲しく、いたたまれません。
犬に限らずですが、道具ではなくて、人と同じように心を持った生き物です。このような事実を知る度に、本当にもっともっと動物を取り巻く環境が変わっていく必要があると感じます。
・GUNDOG RESCUE CACIホームページはこちらから
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鳥猟犬がフィールドを力強く走る様子を描きました。生き生きとした生命が失われることなく、その仔らしく豊かに生きていってほしいという願いが込められています。
“your presence brightens up my life”、「あなたの存在が、私の人生を輝かせる」というメッセージを添えました。
JAMMINは毎週週替わりで様々な団体とコラボしたオリジナルデザインアイテムを販売、1点売り上げるごとに700円をその団体へとチャリティーしています。
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