CHARITY FOR

「自分は愛されるために生まれてきた」。生まれた環境にかかわらず、全ての子がそう思える未来を目指して〜NPO法人トナリビト

虐待やDVなどさまざまな事情から、親を頼れない10〜20代の若者がいることをご存知でしょうか。
自分は愛されていいのかがわからないまま、社会に出た後、何の後ろ盾もなく一人で生きていかなければならない若者たち。彼らを支援したいと、熊本にて相談窓口や居場所スペース、自立支援シェアハウスやシェルターを運営するNPO法人「トナリビト」が今週のチャリティー先。

代表理事の山下祈恵(やました・きえ)さん(36)が社会的養護下の子どもたちと出会ったきっかけは、アメリカの大学で出会った一人の同級生。山下さんと同じ熊本の出身で、幼い頃に養子として海を渡り、アメリカ人の里親のもとで育てられた友人。その生い立ちを知りたいと、熊本にある児童養護施設を訪れたことでした。

そこで、苦しい状況の中を生きる子どもたちと出会った山下さん。
「自分は愛されていいのかがわからないまま、社会で生きていかなければならない若者たち。『愛してほしい』という彼らの心の叫びを、受け止める場所が必要」と団体を立ち上げました。

活動について、お話を聞きました。

お話をお伺いした山下さん

今週のチャリティー

NPO法人トナリビト

親を頼れない10〜20代の若者たちが、「自分は愛されるために生まれてきた」と思える未来を目指し、自立支援や就労支援、学習支援、啓発活動などを行っています。

INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2023/11/27

活動について

自立支援シェアハウス「IPPO」。親を頼れない事情を抱えた若者たちが、共に生活を送っている

──今日はよろしくお願いします。最初に、トナリビトさんの活動について教えてください。

山下:
虐待やネグレクトを受けたり、あるいは親を知らなかったり、何らかの事情があって親を頼れない10代〜20代の若者の自立にまつわる全般的な支援、学習支援や就労支援、居場所や居住支援を行っています。

18歳で児童養護施設を出た子どもたちはその後、なんのサポートもなく社会に出なければなりません。あるいは虐待やDVを受けていながら、周囲の大人に発見してもらえず、大人になるまで保護を受けずに生きてきて、そのまま社会に出る若者たちがいます。
いずれにしても、家や施設を出た後は、一人で生きていかなければいけません。その時に「頼れる家族がいない」というのは、とても大きな壁です。

──そうなんですね。

IPPOのとある日の晩ごはん。「ごはんは、調理ボランティアの方々が心を込めて作ってくださっています」

山下:
活動を始めた頃は、児童養護施設の子どもや卒業生を支援の対象にしていました。でも、いろいろな若者と出会っていく中で、親や家族を頼れず、しんどい時に孤立してしまうということは、施設に入っていなかった子にも、同じように起こり得ると感じました。

山下:
虐待を受けてきたけれど、親から「何も言うな」と言われ、警察にも児童相談所にも、学校の先生にも相談できずにきた子。児童相談所の職員が家に来て、「これで助かる」と思ったのに、親が「改善します」と言って保護がかなわず、職員が帰った後に「あんたが通報したせいで嫌な思いをした」と殴られたという子。18歳になってから家を追い出され、路頭に迷ってホームレス生活を送っていた子…。結果的に保護につながらなかっただけで、それでも大変な中を生きてきた子たちがたくさんいるんです。

私たちは、生まれた家庭環境や地域に左右されず「当たり前」に受けるべき支援を提供したいと活動しています。

居場所スペース「おとなりさん」は、若者とスタッフが好きに過ごす空間/span>

人は皆、「愛されたい」という願望を持っている

スタッフと一緒に料理をするIPPOの入居者たち

── 一見普通に見える家庭でも、潜在的に問題を抱えていることもあるんですね。

山下:
少子化が進んでいるにもかかわらず、虐待相談件数は年々増加しています。しかし児童養護施設の受け入れ数については横ばいか、もしくは減っています。

子どもの数も保護される数も減っているのに、なぜ、相談だけがこんなにも増えているのか?相談の後、保護されずに家に帰されている子どもたちの中に、見えない虐待や家庭内暴力につながっているケースは、確実にあると思います。

──確かに。

山下:
そうやって年を重ねた子どもたちが、高校生ぐらいになってくると自分で考えて行動できるようになりますから、「大人なんて頼ったって仕方ない」と自ら家を出て、非行に走ることも少なくありません。でもそういう子たちは、単純に不良として片付けられることも多い。

どんなに傷ついていたとしても、絶対真理たることとして、人は皆、「愛されたい」という願望を持っています。しかし残念ながら、虐待やネグレクトの環境で育った若者たちは、安心できる場所で過ごした経験がなく、そこがしっかり受け止められていない。

自分は愛されていいのかがわからないまま社会に投げ出され、何の後ろ盾もなく生きていかなければならない若者たち。否定され、ずっとジャッジされ続けるような環境で生きた子たちに、「あなたの存在は、ないがしろにされていいものではないんだよ」と伝えたい。「愛してほしい」という彼らの心の叫びを、受け止める場所が必要です。
活動を通じて「あなたは愛されて良い存在なんだ」と伝えたいと思っています。

ハロウィンに皆でコスプレ。「『ラブファースト』はまず関係作りから。若者がやりたいことや楽しいことを一緒に全力で楽しむようにしています」

自立支援シェアハウスを中心に、
さまざまな事業を展開

IPPOでいちばん大事にしているのは、「一緒にごはんを食べる時間」

──具体的なご活動の内容を教えてください。

山下:
団体として最初に立ち上げたのが、自立支援シェアハウス「IPPO」です。児童養護施設を退所する若者や、事情があって家で暮らせない若者に1~2年安心できる住居と食事を提供し、自立までの道のりをサポートします。家事を教えたり、就職活動の相談に乗ったり、役所の手続きなどもサポートします。
毎日顔を合わせるので関係作りもしやすいですが、必要以上に干渉しないようにしています。

シェハウス以外にも、個別に若者たちからさまざまな相談を受けるようになり、何かあった時に頼りにしてもらえたらと相談窓口も設けました。電話、LINE、対面と、本人が相談しややすい形で相談に乗れるようにしています。

その延長で、今日寝る場所がないという子が安心して過ごせるシェルターもつくりました。
さらに、もう少し予防的なつながりとして、親や家庭を頼りづらいという10代〜20代の若者が、日中自由に過ごせる居場所「おとなりさん」や、就労支援事業「職親ネット」も運営しています。
見えてきたニーズを事業としてどんどん付け足していった感じですが、相談や居場所から、短期〜中長期の支援をすべて自分たちでカバーできているのが、私たちの強みです。

職親ネットの活動。「働く」を応援してくれる職親さんのもとで仕事体験

アメリカで偶然、地元の施設出身者と出会う

「キャンプ、山登り、牧場、スノーボード…皆といろんなところに行っています」

──山下さんはなぜ、このご活動を始められたのですか?

山下:
団体を立ち上げる前、働きながら児童養護施設で家庭教師ボランティアをしていました。そこで入所している子どもたちと出会い、想像をはるかに超えてシビアな状況で生きていることを知りました。ある時、教え子の一人のノートを見せてもらうと、その子は毎日『自分は生まれてこなければよかったんですね。すみません』と書き続けていました。

自分は生まれてきてよかったのか、生きていて申し訳ないと感じたまま、その溝を埋める人や場所が何もなく、18歳になったら社会に出て、一人で生きていかなければならない。どう考えたってそれは難しいのではないかと思いました。社会の構造として、彼らに準備されている未来があまりに狭い。どうにかしたいと思ったのが、シェアハウスを始めたきっかけです。

トナリビトの前身となる「アウトリーチチーム」の初代メンバー。このチームで児童養護施設を訪問したのが、活動の始まり

──児童養護施設のボランティアは、何かきっかけがあったのですか。

山下:
児童養護施設のことを何も知らなかったし、興味もなかったです。
私はアメリカの大学に通ったのですが、ある時、アマンダという同級生の部屋に遊びに行ったら、熊本城のタペストリーがかけてあったんです。遠く離れたロサンゼルスで、まさか地元の熊本城を見るなんて思いませんよね。びっくりしました。尋ねると、彼女は熊本の施設から幼い頃に養子として海を渡り、アメリカ人として育てられたとのことでした。

──すごい偶然ですね。

山下:
帰国後、サラリーマンとして一生懸命働いていましたが、3〜4年経って心にふと余裕ができた時に「そういえば、アマンダの育った施設を探してみよう」と思い立ちました。単純に彼女の生い立ちを知りたい、彼女が育った場所に行ってみたいという気持ちでした。

そしてこれもまた偶然で、連絡をとって最初に訪れたのが、彼女と関連のあった施設でした。
そこで施設の先生と話していると「中高生と向き合う大人が少ない」というようなことを言われ、それで家庭教師のボランティアを始めたんです。アマンダの存在がなければ、児童養護施設と接点を持つこともなかったと思います。

アマンダさんと山下さん

アメリカで見えた「JAPAN」のビジョン

ニューヨーク州ブロンクスのスラムにて、担当していたエリアの子どもたちと

山下:
児童養護施設でボランティアをするようになって子どもたちの厳しい現実を知り、またある時、「失敗しても安心して過ごせるおうちが欲しい」と言った一人の子に「そんな場所を、いつかつくるから待っていてね」と言ったものの、自分に一体何ができるのか、悶々としていました。

そんな時、たまたま世界中のスラム街で子どもの支援をしているMetro Child Worldの創設者の方が来日され、講演を聞く機会がありました。その方が講演で言ったのは、「子どもたちがかわいそうだと、ただぺちゃくちゃおしゃべりするだけの人間に私は疲れました。行動を起こす気がある人だけ、私のところに来てください」と。
「ああ、私はぺちゃくちゃおしゃべりするだけの人間だ」と強烈に突きつけられた気がして、講演後にその方のところに行ったんです。

そうしたら「一度ニューヨークの本部に来なさい」と言われたんですが、実はちょうど3週間後に、ニューヨークに行く予定がありました。これもすごい偶然ですよね。

──導かれているようですね。

「若者たちはみんな話を聞いてほしくて、おしゃべりが止まらない日も。他愛のない話もあれば、深刻な悩みを吐き出してくれることもあります」

山下:
この時はあまり時間がとれなかったのですが、その後、半年ほど休職し、ニューヨークへ訓練を受けに行きました。本当に私はこういう問題に関わっていけるのかどうか、そこで見極めたいと思ったんです。もし喜んでできなかったら、やるべきではないと。

12時間以上働き詰めの毎日でしたが、スラムの子どもたちと一緒に過ごすのがすごく楽しくて、満たされていました。さらにスタッフも世界中から志を持って集まった人たちで、そういう意味でも仕事がやりやすく、刺激的でした。

このまま、その団体で働き続けるという選択肢もありました。そのぐらいやりがいを感じました。でも、訓練中にこの先どうしていくのかということを考えた時に、不思議ですが頭の中に「JAPAN」という5文字のビジョンが与えられました。なぜ日本なんだろう、なぜ日本で1から一人でやらないといけないんだろう‥、納得できなくて、1週間泣いて過ごしました。

──そうだったんですね。

山下:
それでも「JAPAN」というビジョンは変わらず、最後の最後に、「日本でやるんだ」と腹を括りました。その時に、自分の中にあったネガティブなもの、ドロドロした感情やこれまでのつらかった経験が、キラキラと宝物に変わっていくように感じたんです。

「ああ、ネガティブなものたちは、私のこの決断のために、今日までここに置かれていたんだ。日本でやっていくために準備されていたんだな。私の道は、間違っていない」とすとんと腑に落ちたんですね。「日本でやる」という覚悟は確信に変わり、根拠のない自信と共に帰国し、その後はトントン拍子にことが進みました。お金はありませんでしたが、不思議と物件や人に恵まれ、無事スタートを切ることができたんです。

──本当に、全部準備されていたんですね。

山下さんが印象に残っている出来事。「IPPOの最初の卒業生には、メッセージを添えたフォトフレームをプレゼントしました。入居したときは本当に大変な状況だったけど、今では結婚し、お母さんになりました」

「ラブ・ファースト」。
愛して、受け入れること

入居者の誕生日、深夜0時にサプライズでお祝い!

山下:
「トナリビト」という団体名は、「あなたの隣人をあなた自身のように愛しなさい(マタイの福音書22:39)」という聖書の言葉から来ています。この言葉はとても奥が深いと思っていて、自分自身を愛せないことには、他人を愛することも難しいと思うんですね。

隣に困っている人がいた時に、自己犠牲ではなく、自分に当たり前にすることを、その人にもしてあげる。その感覚がぴったりだなあと思って。私たちは「ラブ・ファースト」を行動指針に掲げているのですが、まずは相手を愛し、受け入れるということを大事にしています。

──「愛して受け入れる」、簡単なようで簡単でないとも思うのですが、気をつけている点はありますか。

山下:
事情がある若者としてではなく、まずはその人自身として、フラットに接すること。「こうした方が良い」などこちらの意見や気持ちを押し付けないこと。支援者として「してあげたい」という気持ちは一旦手放すことは大事にしています。

15歳ぐらいになってくると、人に「こうしなさい」と言われてやれるような年齢でもないし、「本人がどうしたいか」を聞くのが原則で、私は本人が「こうしたい」と決めたことであれば、その責任は自分でとる力があると思っています。

「大変な状況にあっても、いろんな課題を抱えていても、若者たちは人との関わりの中で一歩ずつ成長し、大人になっていきます。いつも皆の将来にワクワクしています!」

──信じて、向き合うということなんですね。

山下:
そうですね。自立支援の分野は、どうしても「ちゃんとした大人に」とか「危なくないように」といった過保護な方に向かいがちなんですけど、私は、きれいごとは通じないと思っていて。大人の基準でああだこうだ言ってもあんまり意味がなくて、それよりもまずは、若者たちとつながり続けること、信頼し続けてもらうことが、彼らの長い人生を考えた時に、大事なのかなと思います。

うまくいくこともあれば、うまくいかないこともあります。関わってくれたことがもう万々歳なんです。
自立だけがゴールではなくて、毎日死にたいと思っていた子が、そう思う回数が減っただけでも嬉しいし、仕事や学校、生活、たとえうまくいかないことがあっても、私たちと出会うことで、「生きてて良いんだ」とか「死んだら悲しむ人がいるかもしれない」とか、「世の中って捨てたもんじゃないな」と思ってくれたら、私はすごく嬉しいです。

親が頼れない新成人の二十歳を一緒にお祝いする「KIMONOプロジェクト」。「毎年様々な事情を抱えた若者たちが参加し、とびきりの笑顔を見せてくれます」

チャリティーの使い道

居場所スペース「おとなりさん」にある、スタッフの掲示板。「若者たちに興味を持ってもらえるように作りました」

──最後に、チャリティーの使い道を教えてください。

山下:
チャリティーは、親を頼れない中、シェハウスやシェルターで過ごしながら自立を目指す若者たちに、温かい食事と生活を提供するための資金として活用させていただく予定です。ぜひ、アイテムで応援いただけたら嬉しいです。

──貴重なお話をありがとうございました!

トナリビトのスタッフの皆さん。「スタッフのほかにもボランティアさんや理事メンバーなど、たくさんの応援団の方々が若者たちを支えてくださっています」

“JAMMIN”

インタビューを終えて〜山本の編集後記〜

親元を離れての学生生活、社会人になったばかりの頃、いや現在に至るまで‥、親や家族のサポートにどれだけ助けられたかを振り返ると、「もしこれがなかったら」という想像は難しくないのではないでしょうか。

何かあった時に帰ることができる場所、頼れる人、相談できる人がいること。他者との中で、安心に気づいていくこと。トナリビトさんの活動を通じ、「自分」という温もりに触れる若者が一人でもたくさんいますように。

・トナリビト ホームページはこちらから

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【2023/11/27~12/3の1週間限定販売】
たくさんの花が咲いたリュックを背負ったクマが、一輪の花を手にこちらを見つめています。一人ひとりにある個性や魅力、楽しい思い出などが愛情によって芽吹き、育ち、花を咲かせて、また次の誰かに手渡されていく様子を描きました。

“Love your neighbor as yourself“、(あなたの隣人を、あなた自身のように愛せよ)というメッセージを添えました。

チャリティーアイテム一覧はこちら!

JAMMINは毎週週替わりで様々な団体とコラボしたオリジナルデザインアイテムを販売、1点売り上げるごとに700円をその団体へとチャリティーしています。
今週コラボ中のアイテムはこちらから、過去のコラボ団体一覧はこちらからご覧いただけます!

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