東京・世田谷にある「夢育て農園」。
NPO法人「ユメソダテ」が運営するこの農園は、知的発達障害のある若者たちを中心に、志をもつ人たちが集まって土に触れ、耕し、ともに野菜を育てています。
「知的障害のある人は成人するとそれ以上成長しないと言い切る専門家の方もおられる。だけど、そんなことはない。
障害がある人も夢を持ち、夢に向かって成長し続けられるということ、そして喜びに満ちた、心豊かな人生を生きられるという希望を発信したい」
そう話すのは、ユメソダテ代表の前川哲弥(まえかわ・てつや)さん(61)。知的障害のある息子がきっかけで、「夢を持つことができれば、誰しもが主体的に成長できる」ことに気づき、豊かな人間関係を育むことで夢を育てる場所、夢に向けて成長し続ける場所として、この農園をスタートしました。
「周囲の人たちとの豊かな人間関係が夢を育て、そして夢に向かい、自ら成長しようとするエネルギーになっていく。畑は、作業の具体性が高く(抽象度が低く)、何の役に立つのか分かり易く、多様な仕事があり、自然に囲まれて心がひらく、素晴らしい場所」と前川さん。
活動について、お話を聞きました。
お話をお伺いした前川さん。 京都大学農学部卒、 パリ国立農学院経営学修士(現 AgroParisTech)。 農林水産省、経済協力開発機構(OECD)環境局に勤務したのち、丸嘉運輸倉庫株式会社代表取締役。NPO法人ユメソダテ理事長、株式会社夢育て代表取締役も務める
NPO法人ユメソダテ
「社会がユメを育て、ユメが人を育て、人が社会を照らす循環づくり」。
東京都世田谷区桜丘に開園した「夢育て農園」から、知的発達障害があっても夢を持ち、成長し続ける喜びを発信しています。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2023/09/11
夢育て農園の畑作業の様子。障害のある人もない人も、大きな空の下、皆が交わって作業する
──今日はよろしくお願いします。最初に、団体のご活動について教えてください。
前川:
私の息子に知的障害があるのが出発点です。
今19歳になる息子が中学生ぐらいの時、「将来、福祉事業所にお世話になるだろうから、福祉事業所を見て回っておこう」といろんな事業所を訪れていた時に、ある施設でハッとすることを言われたんです。
「あなた、お父さんでしょ。私たちが教えられるのは仕事だけで、やる気は教えられない。本人のやる気は、家庭で育ててから連れてきてください」って。見渡してみたら、皆同様にやる気がなくて、笑顔のない人たちばかりでした。
夢育て農園で育てた大根を収穫!
前川:
「どうすれば知的障害のある本人が、受け身ではない、主体的な人生を送ることができるんやろう」というのが、活動の原点です。
そんな中で、ある社会福祉法人の余暇クラブが出している文集に掲載されていた“夢”について書かれた知的障がい当事者の文章との出会いが契機となり、「夢や希望があれば、主体的に生きれるのではないか」と思い、夢や希望を育てたいとNPOを立ち上げました。
「君は障害があって劣っているんだから、周りに少しでも追いつけるように頑張れ」と言われて努力するのは、つらいものです。一方で、自分の描いた夢や希望に向かって、自らの意思で成長を目指していくということは、本人にとって全く別のものです。本人は努力を努力とさえ感じずに、楽しく学んでくれます。そういう姿を増やしていきたいのです。
夢育て農園の入り口では、イメージキャラクター「夢育て君」の看板が出迎えてくれる。畑にはコスモスの花が優しく咲いている
前川:
2000年にベネッセ研究所が出した研究論文によると、夢を育てるには、親や先生ではなく、近所のおじちゃんおばちゃん、お兄さんお姉さんといった斜めの関係の人との関わりが、大切とされています。
夢は、感動体験を身近な大人に語るところから始まり、周囲から社会を教わることで個性や現実感が生まれ、進化し、深まり続けるものです。
しかし知的発達障害のある人は、夢の成長に不可欠な人間関係自体が乏しくなりがちで、夢が進化しなかったり遅かったり、場合によっては夢を持つことさえなかったりするのです。人と交わり、様々な経験をすることで世界を広げ、出会った興味のあることや好きなこと、憧れていることを、夢や希望にまで育てていきたい。そう思いながら取り組んでいます。
──農園をされているそうですね。
前川:
はい。昨年の10月から、世田谷区から借りた農業広場で「夢育て農園」をやっています。
小田急線千歳船橋駅から坂を登った丘の上で、日当たりのとても良い場所です。すぐ隣にみかん園もあります。畑は240平米ほどの大きさで、無農薬・無化学肥料で多品目の野菜を育てています。地域のひきこもり支援施設や老人ホームで販売もしています。
夢育て農園ですくすく育つなすびとカブ。無農薬・無化学肥料でさまざまな野菜を育てている
ブレインジムを実践する農園の受講生たち。「認知能力の基礎は身体能力ですが、多くの知的発達障害のある人は、赤ちゃんや幼児の時に消えるはずの原始反射が残存していることがあり、そのために身体の使い方が不器用な人が少なくありません。ブレインジムの体操を繰り返すことで、原始反射を卒業する等して体を上手く使えるようになり、認知発達の基礎をつくることができます」
──農園には、どのような目的があったのでしょうか。
前川:
まず知的発達障害のある人は、身体の使い方が苦手な方が少なくありません。それは「原始反射」と言われる、通常は発達の過程で消える反射が残っていることなどが原因だったりします。
認知発達の基礎は身体発達なので、身体の動きを改善するために「ブレインジム(Brain Gym®)」というエクササイズの専門家に指導いただき、身体の使い方の改善を図っています。
また知的障がいのある人は、「認知発達が遅れていて、成人すると成長しない」と言われていますが、そんなことはありません。通常の人が気づかずに乗り越えているようなところでつまずいているに過ぎないのです。一つ一つ手助けしていけば、成長し続けることができるのです。
──そうなんですね。
前川:
外界の情報を選択的に入手すること、言葉や概念を用いて頭の中で考えること、ワーキングメモリーを向上させること、ものを比べること、分類すること、分析しまた統合すること、前後左右の空間認知を他人の視点にたっても自由に使えること、時間の観念を育てて計画すること、帰納的に推論すること、仮説演繹的に考えること…等々を身につけるために、イスラエルの教育心理学者であるフォイヤーシュタイン博士の理論と教材を取り入れています。
ブレインジムの体操やフォイヤーシュタインの座学で学んだことを、実際に畑での具体的な作業で身につけていきます。
フォイヤーシュタインの座学の様子。「フォイヤーシュタインでは、認知機能を入力・精緻化・出力と3分野26の認知機能に分け、人がものや関係を認知する時に、この内のどれを用いていて、どこでつまずいているかについて詳しく迫る理論枠組みがあります。それらを育てるための教材が14種類用意されており、私たちはこの教材等を活用しつつ、独自に発展させているモデルもあります。例えば左右を理解するだけでも、自分の右手と左手がわかるというレベルから、他人の目線に立って左右を理解するまでの間に、大きく5段階ほどがあると私たちは考えています。こうして知的発達障害のある人のつまずきに迫ることで、彼らの問題を理解し、乗越えることをサポートすることができます」
前川:
しかもこれらを単なる目標として掲げているだけでなく、受講生の皆さんには定期的にアセスメントを行い、本人の中でどの認知機能がどのぐらい伸びたのか、次にどの認知機能にターゲットを絞り、どう伸ばしていくのかといったことを明確にし、本人だけでなくご家族や所属している福祉事業所とも共有しながら活動しています。
この秋に開催される、高齢障害求職者支援機構が開催している職業リハビリテーション研究実践発表会で、第一期生の認知的成長について発表する予定です。
さらに順天堂大学の先生方のご協力を得て、農園での授業の前後で受講生の唾液を採取してストレス状態を計測したところ、授業前は大変なストレス状態で心身が不活発な状態である受講生たちが、授業後には、ストレスが劇的に低下し、心身が活性化していることも分かってきました。畑は、学びには理想的な環境ということができます。このストレス検査の結果も、先ほどお伝えした研究実践発表会にて発表予定です。
受講生と一緒にブレインジム体操をするのは、ユメソダテの理事の一人、久保健さん。「『プラチナ・ギルドの会』という中間支援団体の理事長をされている久保さんは、ユメソダテの活動に共感され、会をあげて応援してくださり、自ら理事を引き受けて下さいました。とても心強いです」
──フォイヤーシュタインの認知発達理論を取り入れて活動されているのですね。
前川:
はい。たとえばですが、知的発達障害のある人には、全体の構造をとらえることが苦手、いわば「木を見て森を見ない」という人が少なくありません。
しかし私たちのプログラムの中で手がかりを見つけ、部分と全体の両方を見るためのトレーニングを経たことで、次第に「部分が全体を構成している」という構造を理解し、全体像も部分も明確に認知できるようになってきます。
これはとても大切な成長です。たとえば「種まきをしましょう」とざっくり言われても、何をしたら良いのか分からないのです。そこで指導する側は、袋を開ける、種を容器に入れる、土に穴をいくつ開ける、種を置く、土をかぶせる…といった一連の作業のつながりとして教える必要があります。ところが、部分と全体の関係を理解することでワーキングメモリーが向上し、種まきをするということ全体と、一連の作業を把握できるようになります。これは大きな変化です。ご家族も、本人の成長をとても喜んでおられます。
このような成長をもっとたくさんの人に知ってもらえたら、「障害があるから成長しない」という固定概念を払拭していけると思うんです。小さな成長かもしれませんし、「健常者と変わらなくなる」と言っているわけでもありません。しかし本人にとって、この小さな成長は、人生の質を劇的に改善します。夢や希望に向けて主体的に生きていくための武器を手に入れることになるのです。
「人を育てる畑コースに集まった知的発達障害のある受講生に2022年10月にアセスメントを行い、改めて2023年4~6月に再度アセスメント行った結果、視空間知覚・構成機能と非言語性視覚記憶、非言語性推理能力などが成長していることを定量評価することができました。つまり、環境を整えてやり方を工夫すれば、知的発達障害があっても、成人していても、成長し続けることができることを示したと考えています」
夢育て農園で鍬振り練習をする受講生
──畑にフォイヤーシュタイン理論を取り入れておられるのには、どういう経緯があったのでしょうか。
前川:
私の実体験から来ているんです。
知的障害のある息子のために、いろいろな教材や学習塾を試しましたが、全く理解してくれませんでした。
そんな時に、妻がある教室を見つけて、試しに行かせてみたんです。
イスラエルのルーベン・フォイヤーシュタイン博士はルーマニア生まれのユダヤ人で、ナチスのガス室の生き残りの子ども達や、シオニズム運動で世界中から集まってくる人種も言葉も異なるユダヤ人の教育に携わりました。中には書き言葉が存在しない部族からの移民もいたのです。
そんな中、彼は「遺伝子がすべてを決めるわけじゃない。どんな困難があろうと、人は成長することができる」との信念のもと、人の認知発達についての理論枠組みと、教材を開発しました。
息子はこれらの理論と教材を使った教室に通い始めてから、それまでどれだけ教えても全く理解できなかった左右を理解し、時計も読めるようになっていきました。私はびっくりしました。
夢育て農園にて、圃場(ほじょう)での作業を、ホワイトボードで絵に描いて伝えているところ
前川:
そこでその教室に出かけて行って、先生に「どうやって教えたんですか」と尋ねたんです。
そうすると、たとえば左右の理解については「まずまっすぐ立って、体の真ん中にある縦線=背骨と、それに垂直に交わる横線があるという基準となる枠組みを理解しないと、左右という概念がのる土台がありません。なので、まず縦と横を徹底して教えました。ここまでくれば、基準線を中心として一方を右、他方を左というんだよと教えると、理解することができました」と言われたんです。
そんな話は聞いたことがなかったので、驚きました。しかし言われてみると、僕自身も成長の過程で、縦横を理解してから左右を理解するプロセスを経てきたんだろうと思うんです。でもすっかり忘れているから、息子のつまずきが分からなかったんです。なるほどと思いました。
夢育て農園で育てた藍で、藍染め体験
前川:
息子の成長を目の当たりにして、他のさまざまなことでも、認知発達のどこでつまずいているのかにまで迫ることができれば、そこを乗り越える方法が見つかるだろうと思うようになりました。
また、知的発達障がいのある人は、抽象的なことが苦手で、具体的なことは得意な人が多いです。言葉、視覚、聴覚、味覚・嗅覚、触覚という順番で具体性が高まります。体や筋肉を使って学ぶという方法は、彼らにとても合っていて、成長につながるのではないかと思いました。
成長は本人にとっては悦びですし、家族にとっては希望です。「これは、いけるんじゃないか」と思いました。その時の先生は今、NPO法人ユメソダテの理事として一緒に活動しています。
──そうだったんですね。
この夏、ローマで開催されたフォイヤーシュタイン協会のワークショップに参加した前川さん。「多くの学びを得て、外山理事に続き、東日本で2人目のフォイヤーシュタインのトレーナーを目指しています。創設者の息子でもある、フォイヤーシュタイン協会のフォイヤーシュタイン会長(ご自身のご子息はダウン症でいらっしゃる)と意気投合し、『活動を全面的に応援する』と言ってくださいました。ありがたくて本当に嬉しく思いました」
前川:
障害のある我が子に対してイライラしたりがっかりしたり、勇気を無くして諦めたくなる気持ちは、すごくよくわかります。僕がそうやったから。息子とは結構、激しいやりとりもしました。
でも、そこで親が諦めて、成長の種になる刺激を与え続けることをやめてしまったら、親亡き後、我が子が成長軌道をみつけるのはもっと難しくなります。気持ちはすごくわかるけど、やまゆり園の事件(注:2016年7月、知的障害者福祉施設「津久井やまゆり園」にて、元職員が入所者の19人を刺殺した事件。また2021年に発覚した、「中井やまゆり園」で継続的に行われていた長時間の居室施錠)を見ても思うのですが、親が諦めてしまったら、たいへん不幸なことになってしまいます。
周りの親御さんを見ていても、高校ぐらいまでは頑張って、その後に力尽き、大人になると本人も親も、諦めてしまうことが多いと感じています。
「大丈夫、成長できるよ。希望を持って一緒にやりましょう」と伝えたい。「明日も明後日も、今日と同じ」と思ったら、人間、しんどくなってしまう。「明日は今日よりちょっと良い」と信じられたら、がんばれると思うんです。僕らの活動は、知的発達障害のある本人たちだけでなく、親御さんにも見てもらって「諦めなければ、必ず希望がある」と感じてもらえたらと思っています。
ユメソダテ理事の皆さん。写真上段左:前川由美さん。「妻である彼女と出会ったのがすべての始まりでした。妻が息子の話を傾聴してくれたことで息子は心を開きました。認知発達以前に、心を開くということはとても大切なことです」。写真上段中央:個別指導教室「よむかくはじく」主催の外山純さん。「東日本で唯一、フォイヤーシュタイン教材を使って教えられる先生を育てる資格を有している外山さんの塾に息子が通い始めたことが、フォイヤーシュタインとの出会いでした」。写真上段右:升岡圭治さん。「前川と同様、お子さまに障害があり、現在は『帝人ソレイユ株式会社』で農業を通じた障害者雇用に取り組んでおられ、障害のある人のつまずき箇所を見抜く素晴らしい眼力をお持ちです」。
写真下段左:天田武志さん。「外山さんと一緒にフォイヤーシュタインを勉強してこられた天田さんは、草木染の芸術家でもあり、みかん染めや藍染めのワークショップを開催して下さったりと、とても活発な理事です」。写真下段左から2人目:久保健さん(前述済)。写真下段左から3人目、4人目:坂本清子さん、谷山啓太さん。「お二人は前川夫婦とともに5年前にユメソダテを立ち上げたオリジナルメンバーです。それぞれ夢育ての他でも活躍されています。私たち皆の共通の夢として、認知発達のための学校のようなものを作り、経理をする人が簿記学校に行くように、夢育て学校に来て、認知能力を高めて社会に戻っていける場所を創りたいと思うようになりました。応援いただけたら、本当に嬉しいです」
息子の怜旺さんのYoutubeチャンネル、”Leoの一反MOMENチャンネル”の一コマ(https://www.youtube.com/@leomomen)。アグリイノベーション大学校横浜校でハクサイを収穫している様子。怜旺さんが企画を考え、撮影制作も行う。「Youtubeにテロップを入れたい一心で、ローマ字もローマ字入力も自然に身につけてしまいました。是非、ご覧いただき、高評価とチャンネル登録をよろしくお願いします!」
──「成長のためには、夢が必要」ということですが、「夢」とは?
前川:
夢は、人が成長するためのモチベーションを担うものです。人が本来持っている心の働きで、自分自身、あるいは自分が参加している集団の「こうありたい」という将来像が、夢だと思います。
最初は、荒唐無稽でいいんです。
夢があれば、それを目指して努力しますよね。努力すると、見えていた景色が変わります。また人間関係が豊かになると、社会の多様性を知り、夢が進化します。そうして夢がどんどん進化して、より具体的な、地に足の着いた人生の目標に育っていくんだと思うんです。
「今回のコラボTシャツプロジェクトは、NPO設立5周年の記念企画です。設立当初から変わらず応援して下さっている、書家の井上紅酔先生が素敵な夢の字を書いてくださいました。私たちはこれが大好きです」
前川:
息子は今秋二十歳になりますが、高校2年の時に「YouTubeがやりたい」と言い出しました。学校の先生に「就職しても、趣味がないと仕事が続かない」というアドバイスをもらったこともあって、じゃあやってみようかと、パソコンや編集ソフトなど一式を準備しました。
最初は妻がシナリオを書いて、息子がシナリオ通りに語る動画を僕が撮って編集して、テロップをつけてアップしていたんです。でも本人は、全部自分でやりたいんですよね。
自分でテロップを打ちたい一心で、最初はローマ字とひらがなの対照表を拡げて一字一字探しながら一本指で打ち込んでいました。それが今では、ローマ字もローマ字入力もマスターして、両手の5本の指を流暢に使ってテロップを書いてます。
──ええ!すごいですね。
アグリ・イノベーション大学校横浜校の畑で収穫した立派なカブを手にする怜旺さん
前川:
チャンネルを立ち上げて17本目からは、毎週自分で作業してアップして、今で250本ほどになりました。
誰かに言われてやっていたらつらかったでしょうし、できなかったと思います。でも、やりたいことのためだったら、ローマ字やタイピングを覚えたりすることに対して、本人は努力してるという意識さえありません。目標を持った時、生活の質が自然と向上されていく。本人にとっては全然苦じゃないどころか、楽しいんですよね。
──確かに。
前川:
自分で勝手にどんどん登っていくから、「夢を持てたら、最強!」なんです。
「君はここが劣ってるんだ」「君はなぜこれができないんだ、世間に追いつけないよ」と言われてうなだれながらやるのと、大違いなんです。
世田谷区で活動するひきこもりの居場所カフェ「コモリナ」の方に、夢育て農園で育てた野菜を納品
──本当ですね。
前川:
たった一人で孤立していたら、夢は進化しません。
夢を育てるために、いろんな人と関わることがとても重要なんです。豊かな人間関係の中で夢を育み、主体性を育んでいく。「皆で夢を育てること」、それが私たちが目指していることです。
息子は「就職は無理」と言われていましたが、今は就職して楽しく働きに出ています。本人がいきいきと楽しそうにしている姿は、親にとっては希望です。
行動障害があるからとか、言ったことができないからとか、そうやって知的障害のある人を外の世界と遮断するのではなくて、多少失敗してもいい、いろんな人と関わって、彼らの夢の種を育てていける社会を作りたい。小さな成功体験が「自分はできる」という希望となり、そこでまた夢が進化して、その達成のために努力します。そうやってどんどん成長し、世界が広がっていく。
成長は喜びです。ちょっとした成長を、周りが気づいて声をかけてあげられたら。驚いてみせるだけで良いんです、それは本人をものすごく勇気づけます。畑で、皆で夢を育てていきたいと思っています。
夢育て農園を始める前に、NPOユメソダテと株式会社夢育てが協力して開発した知的障害のある人のためのコインケース「ニコニコイン」。「数字の並び順に、ちょうど桁が変わる枚数の硬貨を整理して収納しているものです。プロトタイプを特別支援学級の皆さんに使ってもらってご意見をいただき、このご意見を、株式会社良品計画の小物デザインをされているデザイニト株式会社さんがデザインに反映してくださいました。昨年秋に完成、これまで千個ほど使っていただいています。『ニコニコインを使い、初めて自力で買い物ができた』という知的障害の方が続出しています」
夢育て農園オープンデイの様子。「農作業をしたり、お茶をしながらおしゃべりしたり。誰でも気軽にご参加いただけます」
前川:
「知的に障害があっても、成長し続けられる」ということを、本人や家族だけでなく、障害のある人を雇用している企業の方や、普段から障害のある方と関わっていらっしゃる障害福祉サービス事業所の方、特別支援学校や支援級の先生方にも知ってもらい、希望を共有したい。
農園では、こういった教える側の人材を育成するコースを開催しています。次は11月6 日から週1回、月曜日の夜の学びを9週間続けるワークショップを開催します。是非学んでいただきたいです。さらに、一般の方が気軽に参加できるオープンデイ、講習会なども開催しています。是非、遊びに来てください。人を育てる畑コースは随時受講生を募集していますので、体験希望などお気軽にメールで問い合わせください。
夢育て農園で採れた野菜を使い、皆でカレーを調理して食べる「カレーの会」。自分たちで育てた野菜を、皆で食べるとまた格別!
前川:
「知的に障害がある成人は成長しないものなんです」とズバッとおっしゃるお医者さんもおられます。だけど、お医者さんの言う「成長」と、僕らが求めている「成長」は、もしかしたら次元が違う可能性があります。
周囲からは微々たるものに映るかもしれません。だけど本人にとっては人生を大きく変えるような劇的な、インパクトのある成長をしながら、豊かに生きていけるということを、この農園からもっともっと示していきたい。
仲間が増え、できる作業が増え、居場所ができて、新しいことにチャレンジして、仕事がどんどん面白くなっていく。知的障害の重さにかかわらず、幸せな人生を構成するための「成長のベクトル」を持って生きていくことが大事なんじゃないかと思っていて、それを一生懸命やっているし、それが当たり前になるように、ここから広げていきたいと思います。
──素敵ですね!
「ニコニコイン」を使った「夏休みお買い物体験講座」の様子。「小学生から成人まで、参加された13人中9人の方がこの日、生まれて初めて自力でお買い物を楽しみました。写真のお子さんは、100円ショップ以外で初めてお買い物をしたのだそうです。知的障害の方だけでなく、高齢者、幼児、視覚障がいの方や片麻痺の方など、思いがけない方々にも使っていただいています」
月1回程度、チームで神奈川県立中井やまゆり園を訪問しているという。「7年前、神奈川県立津久井やまゆり園で悲惨な殺傷事件があったことは皆さんご存知だと思います。2年前には、中井やまゆり園で長時間の居室施錠が報道されました。県知事がやまゆり園の改革を宣言し、新しく転任して来られた中井やまゆり園の新園長は、すぐに夢育て農園を訪問してくださり、強度行動障害を理由に居室施錠を長時間されるなどしていた入居者の夢育てを依頼されました。
月に一度、園を訪問し、一緒に畑やみかん園の草を抜いたり、夏祭りを楽しんだりと交流を重ねています。入居者の皆さんは、交流を深める度にどんどん穏やかになっておられます。激しい行動があるから、刺激から隔離するというのは逆なんです。人間は社会的な動物です。人間関係を豊かにし、活動を増やしていけば、だんだん穏やかになり、柔軟性も生まれてくると思います。そういう意味で、中井やまゆり園の再生のベクトルと、僕たちのベクトルは、今、一致しているのかなと思います」
──最後に、チャリティーの使途を教えてください。
前川:
チャリティーは、農園で継続して活動していくための資金として活用させていただく予定です。ぜひ、アイテムで応援いただけたら嬉しいです。
──貴重なお話をありがとうございました!
夢育て農園にて、この日参加した皆さんと集合写真!「夢育て君の看板を挟んで隣にいるのは、世田谷区長の保坂展人さんです。農園に足を運んでくださいました」
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
障害のある人に対して、無意識に「こうなんじゃないか」と思ってしまうことがありませんか。私はありました。つい勝手に、遠慮したり気を使ったりしてしまうこともありました。でも、本人がそうしてくれと言ったのでしょうか?誰かがそうだと言ったのでしょうか?
障害や特性ではなく、その人自身を見て知ろうとした時に、向き合ったその瞳の奥に、とても豊かな世界の広がりを感じます。夢育て農園を通じてたくさんの夢が交錯し、豊かな交わりと実りが、広がっていきますように!
【2023/9/11~17の1週間限定販売】
野菜たちが集まってニコニコと育てているのは「夢の芽」。
一人ひとりが夢を持ち、それを周りの人たちが喜び、応援しながら、互いに刺激を受けて皆が成長し合う社会への思いを込めました。
“Dreams are the seeds for the future”、「夢は、未来への種」というメッセージを添えました。
JAMMINは毎週週替わりで様々な団体とコラボしたオリジナルデザインアイテムを販売、1点売り上げるごとに700円をその団体へとチャリティーしています。
今週コラボ中のアイテムはこちらから、過去のコラボ団体一覧はこちらからご覧いただけます!