CHARITY FOR

災害救助犬やセラピードッグを育成、「犬とともに、社会に貢献する」〜 NPO法人日本レスキュー協会

1995年1月に起きた阪神・淡路大震災をきっかけに、災害救助犬を育成する民間団体として活動を始めた「日本レスキュー協会」が今週のチャリティー先。「犬とともに社会に貢献する」という理念のもと、災害救助犬の育成・派遣、セラピードッグの育成・派遣、動物福祉の3本の柱で活動しています。

「犬だけでも人間だけでもない、どちらも幸せになれる”共存”を目指していけたら」と話すのは、スタッフとして動物福祉事業に携わる辻本郁美(つじもと・いくみ)さん。

辻本さんと、災害救助犬ハンドラーの高木美佑希(たかき・みゆき)さん、セラピードッグスタッフの赤木亜規子(あかぎ・あきこ)さんにお話を聞きました。

お話をお伺いした、写真左より辻本さん、高木さん、赤木さん

今週のチャリティー

日本レスキュー協会

兵庫県伊丹市、佐賀県大町町を拠点に、国内外を問わず、緊急災害時に現地へ災害救助犬を派遣して救助活動を行っているほか、ドッグセラピーのために必要なセラピードッグの育成・派遣、動物福祉活動を行っています。

INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2023/08/28

阪神淡路大震災をきっかけに
災害救助犬を育成・派遣

災害救助犬の「陸(りく)」の訓練の様子。「隠れた人をにおいで探し、吠えて知らせます」

──今日はよろしくお願いします。最初に、団体のご活動について教えてください。

辻本:
「犬とともに社会に貢献する」という理念のもと、災害救助犬、セラピードッグの育成・派遣、動物福祉活動の3つの柱で活動している団体です。
1995年の阪神・淡路大震災をきっかけに、災害救助犬に特化した民間のレスキュー機関として活動をスタートしましたが、その後、被災した子どもたちを招いたクリスマス会に救助犬と参加した際に、塞ぎ込んだ子どもたちが犬と明るく元気に触れ合う姿を見て、セラピードッグの必要性を感じ、その育成もスタートしました。

さらに「犬をパートナーとして活動をしている以上、殺処分の問題も解決に導いていかなければ」という思いから、保護犬の里親探しや、子どもたちに向けて、命の大切さを伝える授業などを行っています。

啓発活動の様子。子どもたちに命の大切さを伝える「命のおはなし」

──「災害救助犬」とはどのようなものですか。

高木:
地震や土砂災害などの現場で、がれきに埋もれてしまった方や、山で行方不明になった方を探す犬です。犬の嗅覚は人の100万倍とも1000万倍と言われていますが、がれきの隙間から浮遊する人の呼気を感じ取り、それを地表でキャッチし、たどっていきます。
においが出る隙間があればキャッチできますが、たとえば土砂が深い場合は隙間がないため、そのような場所での捜索は難しいです。

令和3年に起きた熱海市伊豆山土石流災害の現場で活動する、災害救助犬「太陽(たいよう)」とハンドラー

適性のある犬が、訓練を経て
「災害救助犬」に

日本レスキュー協会の災害救助犬・訓練犬たち。左から「陸(りく/災害救助犬)」「太陽(たいよう/災害救助犬)」「湊(そう/訓練犬)」「結道(ゆいと/訓練犬)」「楽(たの/訓練犬)」

──災害救助犬になるには、どれくらいの期間が必要で、どのような訓練を行うのでしょうか。

高木:
3〜4年をかけて育成します。
子犬の時は、さまざまな環境に適応する能力を養うために、一般的な社会化のトレーニングを行います。人混みの中や工事現場など大きな音がするところや、大人から子どもまでいるさまざまな環境に身を置きながら、そのような中でも平然とした精神状態を保つ訓練を行います。

同時に、いろんな人と遊んだり、おやつをもらったりして人を好きになってもらい、人とともに作業する楽しさを覚えていきます。

──なるほど。

訓練犬の「咲楽(さくら)」。不安定な吊り橋での歩行を、おやつを使って練習

高木:
さらにそこから、災害救助犬として、現場を想定してがれきを登ったり、暗い場所で作業したりといった訓練に入っていきます。災害救助犬として必要な能力が、遊びながら自然と養えるようなトレーニングを心がけています。

犬の適性はかなり重視します。というのは、どれだけトレーニングを積んでも、たとえば人が怖い、物音が怖いという感情を持っていると、それがその犬にとってストレスになってしまうからです。
救助犬になれなかったらダメというわけではありません。セラピードッグや家庭犬として力を発揮する犬もいるので、その犬に合った道を選んであげることが大切です。

──日本レスキュー協会さんには、何頭の災害救助犬がいるのですか?

高木:
現在、2頭が災害救助犬として現場で活動しており、トレーニング中の犬が6頭います。

訓練犬の「湊」。「小さいころから、がれきでお散歩したり遊んだりして慣らしていきます」

──犬種などはあるのですか?

高木:
現在、私たちのところにいるのは、ジャーマン・シェパード・ドッグ、ボーダーコリー、ラブラドールレトリバー、ベルジアン・シェパード・ドッグ・マリノアという犬種です。

犬種は問いませんが、災害救助の現場では万が一の場合、犬を抱えて移動できなければいけません。そうなると、50キロ以上ある大きな犬は難しいです。小さな犬の場合は、足が細く、がれきの中や高低差のある現場で骨折などのリスクが高くなってしまいます。

神戸市消防局との合同訓練後のミーティングの様子。「災害救助犬の能力を理解していただくために、隊の皆さんとのコミュニケーションは欠かせません」

「初めての現場で、無力さを感じた」

──それだけ過酷な現場なんですね。現場でのご活動で、印象に残っていることはありますか。

高木:
2014年、入職して4か月の時に初めて出動した、広島の土砂災害の現場が特に印象に残っています。入職したてで犬は連れていませんでしたが、サポート役として出動しました。

ニュースなどで被災地の映像はこれまでも見たことがありましたが、その光景はあまりにも衝撃でした。たった一日でこれまでの生活が残酷に失われていく。その時に感じた恐ろしさを、今でもよく覚えています。

犬を連れて現場に行く私たちに対して、被災者の方々は「ありがとうございます」と頭を下げられ、捜索現場では土砂まみれになった家屋の中に、災害前の生活を感じさせる、子どもの教科書や家族の思い出の写真などが落ちていました。行方不明者を捜索中、ご家族が祈りながら見守り、その姿に胸が締め付けられる思いでした。

救助犬たちにも体力の限界があります。暑い夏の時期は、それほど長くは活動できません。犬たちの体調を考慮して現場を撤退すると決めた時、車内に戻ると、この災害でまだ幼い我が子を亡くした母親が、葬儀で悲痛に泣き叫ぶ様子が報道されていました。

2014年に起きた広島土砂災害の現場にて。ここでの経験が、高木さんの災害救助犬への思いを強くした

高木:
現場に入るためには、自治体からの要請がないと難しい。救助隊との連携がないと活動できない。深い土砂に阻まれて捜索が難航する…。一人の力ではどうにもならない現実に、「私は被災地のために何ができたのだろうか」と、自分の無力さを思い知らされました。

自然の猛威は恐ろしい。だからこそ一人ひとりが災害のことを平時から考え、備え、連携し、行動すること。それが私たちにできることなのだと、この時、本当の意味で理解しました。

日本の被災地でも当たり前のように救助犬が活動できるように、これからも訓練と活動に励んでいきたいと思っています。

「太陽の訓練後のご褒美は、恐竜のぬいぐるみ。大好きなおもちゃがモチベーションになります」

被災地などを訪問する「セラピードッグ」も育成

小児病院に入院中の子どもと交流するセラピードッグの「希(のぞみ)」

──セラピードッグはいかがですか。

赤木:
セラピードッグにも適性があって、人が好きなこと、攻撃性がないこと、環境適応能力があることが条件になります。ずば抜けて人が好きでないと難しく、どの犬でもなれるわけではありません。

セラピードッグのトレーニングの様子。「車いすの方とも落ち着いて交流できるよう、普段の関わりの中でトレーニングします」

赤木:
動物福祉活動も行っているので、殺処分一歩手前だった犬を保護して育成し、セラピードッグとして役割を持たせてあげられたら理想ですが、保護された犬たちの多くが人慣れしていないなど何かしらの事情を抱えていることや、すでに成犬の子も少なくないので、そこで一から人好きに育てるというのは、正直難しいです。
とはいえ過去には保護犬から、トレーニングを経てセラピードッグになった子もいました。

──ドッグセラピーでは、どのような場所を訪問されているのですか。

赤木:
災害があった地域の復興住宅や福祉施設、小児病院に定期的に訪問しているほか、小学校で命の大切さについてお話をさせていただいています。

──どのような反応がありますか。

赤木:
訪問している施設のスタッフさんから、「普段はあまり話さない人がたくさん話してくれてびっくりした」とか、病院のスタッフさんから「注射が怖くていつも泣いている子が、犬と会えたおかげで、泣かずにスムーズに処置ができた」といった声を聞きます。

会った人と距離を縮め、心を開いてもらう。犬たちは人間ができないことを、いとも簡単にやってのけてしまいます。いつもすごいなと感心します。

「セラピードッグたちはどんな人の心の壁も、いとも簡単に飛び越えてしまいます」

被災したペットと飼い主への支援も

豪雨災害があった地域で被災者を訪問し、ペット用物資の提供や困りごとの聞き取りを行っている

辻本:
災害救助犬の育成・派遣、セラピードッグの育成・派遣、どちらも被災地と深く関わりのある活動です。
災害があった現場へ行くと、ペットと離れ離れで避難生活を送っていたり、被災して手放さなければならないといったケースを目の当たりにすることが少なくなく、普段からしっかり備えておくことによって最大限防げることもあるのではないかという思いから、ペットの防災についても発信しています。

──具体的にはどのようなことができるでしょうか。

辻本:
避難所での生活を想定し、普段からケージの中で過ごすことに慣れさせておく、何かあった時にすぐ持ち出せるように必要なペット用品を準備しておく、何かあった時の預け先を決めておくといったことです。
「ペットを迎えた以上は、終生飼い続ける」という、すべての飼い主が持っている責任を果たすために何が必要かを、講座などでお伝えしています。

長野市で開催されたペットの防災に関する講座にて、講師を務める辻本さん

──大事ですね。

辻本:
現地では、災害救助活動のほかに、被災したペットと飼い主さんへの支援活動も行っています。

災害が起きた後、その地域にはがれきや土砂を撤去する重機、家屋の復旧、医療や避難所支援など、各地からさまざまな専門の技術を持った支援団体が集まりますが、ペットに特化した支援団体はほとんどありません。「家のことをここまで支援してもらっているのに、ペットに関することまでは言いづらい」という飼い主さんの思いもあるようです。

とはいえ、家族同然であるペットと一緒に過ごせないことや、混沌とした状況の中で十分にかまってあげられないことが積み重なって、大きなストレスを抱える飼い主さんが少なくないと感じています。

私たちのような団体が直接伺ってペットの話を聞くだけでも「ペットのことを聞いてくれて嬉しかった」「話せてよかった」とおっしゃっていただくことがあります。他団体さんとの連携も増えてきたので、「あそこのお宅にはペットがいたよ」と教えてもらい、伺うこともあります。

ペットと避難する際に必要な物品。数日分のフードや水、ケージ、ペットシーツやウンチ袋、ウェットティッシュなど。「自分とペットに合ったものを準備しましょう」

「犬と人とのより良い未来のために、
活動を広げていきたい」

ドッグセラピーの現場にて。「対象者さんはもちろん、『犬たちが楽しんでいる』ことが大前提です」

──現場で課題に感じていらっしゃることはありますか。

高木:
災害救助犬の場合は、私たちが現地で単独で活動することは難しく、その地域の公的救助機関との連携が必須です。

現在、災害時の救助犬派遣に関する協定を全国55の自治体や消防局と締結しています。協定の締結は第一歩としては非常に重要ですが、さらに重要なのは、災害が起きた時に、現地でしっかりと活動できること。平時より消防機関と合同訓練をして、顔の見える関係性を築いておくことがとても大切になってきます。

現在は、私たちの拠点である兵庫県伊丹市を中心に、関西地域を中心とした地域での活動なので、今後、全国に活動地域を広げていけたらと思っています。

──セラピードッグはいかがですか。

赤木:
肯定的な理解は広がっていると思いますが、一方で衛生面や感染症、アレルギーなどを懸念されて、なかなか病院や施設への導入がスムーズにいかないことが少なくありません。

ここでもやはり、病院や施設のスタッフさんといった、現場との連携が必須になってくるので、お互いに時間をかけて納得と理解をしていただきながら、安心安全な導入を目指していけたらと思っています。

「小児病院への訪問がスタートした最初の頃、犬を知らない女の子と出会いました。大きくてモコモコの生き物と初めて出会った時、『中に誰が入っているの?』と聞かれた事がとても印象に残っています。その時、看護師さんたちも一緒にみんなで背中のチャックを探した経験が、今でもセラピードッグとともに活動したいと思う原動力になっています」(赤木さん)

──動物福祉はいかがですか。

辻本:
動物福祉事業に関しては、殺処分を減らすことがやはり日本全体の課題としてあって、そのために、日本レスキュー協会として何ができるかというところです。

災害の備えにもつながりますが、災害、病気、何が起きても、ペットを迎え入れた限りは、そのいのちを最期まで面倒を見る責任があるのだということを、今後も発信していきたいです。飼い主さんの意識や備えが大切ですが、一方で社会として、災害があった際に飼い主さんとペットが安全に避難できるしくみがまだまだ整っていません。飼い主さんと行政、その両方にアプローチをかけながら、課題を改善していけたらと思っています。

行政への働きかけも。「行政の避難所へのペット受け入れについて、私たちが持つ情報やノウハウを行政の方に提供するとともに、一緒に考え取り組んでいけるようお話ししています」

犬だけでも人だけでもない、
どちらも幸せになれる「共存」を

「これまでたくさんの保護犬たちをお世話し、新しい家族につないできました。どの犬もとても印象深いですが、特に思い出されるのは『天真(てんま)』、現在は『孝太(こうた)』です。保護当時、人を怖がって犬舎のすみっこに逃げていた天真が、毎日の関わりによって、自分から近づいてきて手からおやつを食べたり撫でられるようになり、縁あって里親希望の方が来られた時も、時間をかけて少しずつ距離を縮めていきました。今ではご家族のもとで、自分からお父さんの膝に乗るほど甘えん坊になっています」(辻本さん)

──犬と日々触れ合ってご活動されているわけですが、皆さんは犬の持つ力や可能性について、どのように感じていらっしゃいますか。

高木:
災害現場は危険もあって、過酷な現場が少なくありません。
それでも普段通りに捜索活動をしてくれる姿を見ると、本当に感謝しかありません。
犬にとっても、知らない環境で何かしら感じているはずなのに、仕事となればそれを感じさせず、期待に応えようとしてくれる。頼もしく活動する強さは、大きな励みになっています。

赤木:
なかなか言葉で説明するのは難しいですが、犬はただかわいいだけの存在ではなく、人とコミュケーションを取り、信頼関係を築く生き物です。今後、もっともっと社会の一員になっていくのではないかと思います。

辻本:
犬は、こちらの愛情をフルパワーで返してくれる、すごい動物です。
保護犬に関わる機会も多いですが、やはり目指すところは、飼い主さんに愛情を注いでもらい、幸せに暮らせることだと思います。
しつけ教室で飼い主さんと接していると、犬の習性がまだまだしっかり理解されておらず、それが原因で飼い主さんと犬との間に溝やストレスが生まれていると感じることが少なくありません。

お互いの快適な暮らしのために、まずはいかに飼い主さんが犬を知り、気遣うことができるかが大切です。犬の習性を十分に理解した上で、お互いのことを尊重し、犬だけでも人間だけでもない、どちらも幸せになれる「共存」を目指していけるといいなと思います。

苦手としていた足場の不安定な場所での作業を克服できず、災害救助犬の訓練を引退した「グリュック」。その後、温かい家庭に引き取られ、元気に過ごしている

チャリティーは、育成やケア、トレーニングに活用されます!

里親募集中の保護犬「菊(きく)」。「スタッフの膝枕でゴロンするのが大好きです」

──チャリティーの使途を教えてください。

辻本:
チャリティーは、災害救助犬やセラピードッグの育成・訓練、保護した犬たちのケアやトレーニングにかかる費用として活用させていただく予定です。ぜひ、アイテムで応援いただけたら嬉しいです。

──貴重なお話をありがとうございました!

「犬たちは私たちにとって、かけがえのない最高のパートナーです」

“JAMMIN”

インタビューを終えて〜山本の編集後記〜

犬の存在、犬の持つポジティブさが、人に大きな力を与えてくれることを改めて感じるインタビューでした。
特に災害救助の現場では、混沌とした状況下で、物理的にも精神的にも、言葉では言い表せないものがあると思います。そのような中でも、人と向き合う犬のひたむきな姿勢、まっすぐ見つめてくれる視線が、人に力を与えてくれるということがあると思いました。

・日本レスキュー協会 ホームページはこちらから

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肩を組む2頭の犬を描きました。
それぞれの犬が、それぞれの役割を果たしながら一生を豊かに全うし、人とともに生きていくという思いを込めたデザインです。

“I love being with you no matter where we are“、「どこにいても、あなたと一緒にいるのが嬉しい」という言葉を添えました。

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