今日、あなたは何を食べましたか?
どんな味でしたか?どんな食感でしたか?誰と食べましたか?なぜ、そのメニューをチョイスして、食べた後、どんな気分になりましたか?
私たちは日々、食べ物を選択して生きています。
そしてまた、「あの人と、あれを食べにいこう」とか「あそこ行ったら、あれを食べよう」「がんばったご褒美においしいものを」…、食を選択できることが、日々の生活に与えてくれている豊かさは、実ははかり知れません。きっと皆さんも、食にまつわる楽しい思い出、楽しみにしていること、たくさんあるのではないでしょうか。
今週、JAMMINがコラボするのは、摂食嚥下(えんげ)障害のある子どもを持つ二人のお母さんが「ママ」を務める「スナック都ろ美(とろみ)」(一般社団法人mogmog engine)。
噛む力や飲み込む力が弱く、周りと同じものを食べることが難しい子どもたちにも、ワクワクして、おいしい食を楽しんでほしい。障害があるからと遠慮したり諦めたりするのではなく、誰にとっても身近な食を通じて、社会の壁を取り除いていきたいと活動する「スナック都ろ美」のママ、加藤(かとう)さくらさん(42)、永峰玲子(ながみね・れいこ)さん(45)にお話を聞きました!
いらっしゃいませ。お話を聞かせてくださった「スナック都ろ美」のさくらママ(写真左)、玲子ママ(写真右)
スナック都ろ美(一般社団法人mogmog engine もぐもぐエンジン)
食事支援が必要な子どもがいるママとパパのコミュニティ。摂食嚥下障害がある子どもも、日々の困りごとを皆で解決しながら、家族と一緒に「おいしい」が共有できる社会を目指して活動しています。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2023/07/10
「スナック都ろ美」は、摂食嚥下障害がある子どもとその家族限定のバーチャルスナック。「外食先でのお困りごとなど日ごろの困ったことをシェアしたり、こんな商品サービスがあったらいいなというアイディアだしをしたり、シンプルに愚痴ったり(笑)、全国各地からママ・マスターが参加し、皆が和気あいあいと話せる安心安全な場所になっています」
──今日はよろしくお願いします。最初に、ご活動について教えてください。
さくらママ:
スナック都ろ美は、摂食嚥下障害のある子ども、噛む力と飲み込む力が弱い子どもを持つ家族の情報共有のコミュニティです。「スナック」って、入るとママさんや見知った常連さんがいて、飾らずに日常の何気ない不安や愚痴を言えて、ちょっとスッキリできるような場所ですよね。そんな場所にしたいと思い「スナック都ろ美」と名付けました。
さくらママの娘の真心さん。「食べることが大好きですが、今は噛む力が低下しているため、丸飲みしても大丈夫なサイズやまとまり、弱い力で噛める柔らかさ、そして見た目が周りと同じであることが娘のお食事の攻略ポイントです」
──具体的にどのような活動をされているのですか。
玲子ママ:
大きく3つあって、ひとつが、オンラインのバーチャルスナックの開店です。不定期で月に2回ほど、「常連さん」、摂食嚥下障害を持つ子どもの親御さんたちが、食のことや日々の生活のこと、愚痴を含めて安心して語れる場です。時折、皆とオンラインで一緒に晩ごはんを食べる会も開催しています。
──楽しそうですね。
玲子ママの娘の楓音さん。「普段は誤嚥しないように、食事をミキサーにかけてとろみやまとまりを調整しているので、見た目がほぼ茶色になりがち。何を食べているのかを周りが理解することは容易ではありません。お祝いなどの晴れの日に、やわらか食のお弁当を通販で注文すると、食卓も一気に華やかになります」
玲子ママ:
二つ目が、通話アプリ「LINE」を用いたオープンチャットです。こちらは24時間365日、どんなことでもつぶやけます。
たとえば、最近あったのは「土用の丑の日に、子どもも一緒にうなぎを食べたい。どこのメーカーのうなぎがやわらかくておいしいか知っている人はいますか」とか「学校の給食対応でこんなことに困っているけど、どうしたらいいか」といった投稿です。「こんなのあるよ」とか「私はこうしたよ」などと、チャットに参加している方同士で返信し、情報交換の場になっています。
皆で楽しく食べられる「もぐもぐBOX」を、それぞれに口や胃からもぐもぐ。「親の味見が止まらないくらいおいしい!ビーフステーキを初めて食べた子は、瞬時に気に入った様子。好きなものを食べる時はお口の動きがものすごく上手になります」
さくらママ:
三つ目が、「スナック都ろ美」のリアル開店です。
こちらは対象が当事者家族ではなく、医療や障害関係の方たちへの啓発がメインで、福祉の専門学校や学会などで出店させていただいています。
摂食嚥下障害がある子どもたちのことや、普段、どんなものをどんなふうに食べているかとか、とろみをつけてもたとえば味は変わらないねとか、全然変わるねというところからも、興味を持って知っていただけたらと思っています。
一般社団法人「mogmog engine」として、当事者家族や現場の声を生かしたインクルーシブフードの開発、講演やメディア出演といった啓発活動も行っています。
摂食嚥下障害について、より詳しく学べる「アカデミック都ろ美」。「ノリとバイブスが合う専門職の方々にサポーターとして加わっていただき、セミナーの開催や商品開発の監修などをお願いしています」
「『もぐもぐは、それぞれ』。お口からペースト状・刻み・一口大など、さまざまな形状のお食事を食べたり、お鼻や胃にチューブを入れて、栄養剤やお食事をミキサーにかけてペースト状にしたものを食べたり、その両方をしたり…。お食事の楽しみ方のもぐもぐは、本当にそれぞれなのです」
──そもそものところで、摂食嚥下障害とはどういうものですか。
さくらママ:
それぞれに症状は全く異なってはきますが、食べ物をうまく咀嚼して、唾液でまとめて、飲み込むことが難しい状態のことです。
玲子ママ:
赤ちゃんは生まれてすぐにお母さんのおっぱいを吸うところから始まって、徐々に口を動かして、噛んで、まとめて、ごっくんと飲み込む訓練をしていきますが、娘の場合は、脳からの指令の伝達がうまくいかず未発達なため、噛む、吸う、飲み込むことがなかなかうまくできません。
食べ物を口に入れる時、それを認識したり距離感をはかることも難しく、そういった要素が重なって、自分で固形物を食べるということが難しいです。
食べ物をミキサーなどにかけて細かくすることで、まず「噛む」を整え、とろみをつけることで「唾液でまとめる」を整えた状態で口に入れると、舌が動いて、そのまま飲み込むことができます。
朝食(写真上)を、とろみをつけた状態(写真下)。「食事は全てミキサーにかけ、水分が多くサラッとしているものはとろみ剤を使用してヨーグルトくらいのまとまりにしています。ご飯などベタつくものは、ゲル化剤を使ってミキサーにかけることで、ツルっと仕上げる工夫などをします」
──なるほど。
さくらママ:
うちの子の場合はまた別のパターンで、進行性の病気のため、もともとは食べられていたものが食べられなくなっていきました。
小学校低学年あたりから噛む力が弱くなり、それまでは食べることができたお肉などを噛むのが難しくなりました。喉に詰まらないように一口サイズに切っていましたが、それでも食べるのが難しくなってくると、さらに細かく刻んで、誤嚥しないようまとまりをつけるため、マヨネーズで和えるなどしていました。
「ミキサーにかけるためにはある程度の量が必要になりますが、少量の場合は、包丁でみじん切りにして液体とろみ剤を使用してまとめます。たくさんのバリエーションを食べてもらいたい、お正月のおせち料理や、お弁当の一品料理などの調整方法です」
さくらママの娘の真心さん。「娘の餃子を愛でる目を見てください(笑)。ラーメン、餃子が大好きで、咀嚼(そしゃく)配慮しながら、なんとか工夫して食べています」
さくらママ:
「他の人と同じ食べ物を食べる」というのは、「見た目」もありますよね。
うちの子の場合は、もともと皆と同じものを食べていたのもあって、見た目が周りと同じじゃないと食べたくないんです。でも、たとえば家族と同じ献立を、全部まとめてミキサーにかけてドロドロにして出した時に、果たして見た目が同じかというとそうではないし、おいしそうではないですよね。
作り手としては面倒だと感じることもあるのですが、もし私が娘の立場だったら、自分もそう思うよな、皆と同じものを食べたいなと思うんですよね。
でも、摂食嚥下障害の子どもたちが「食べたい」と思えるものがどれだけあるかということなんです。
──確かに。
どんな食形態の子どもも食べられる、世界初の「もぐもぐBOX」を目の前に、目を輝かせる男の子。「茶こしでこしたものを鼻チューブから注入、お口からも少し楽しんでいました。摂食嚥下障害がないきょうだいと両親と、皆で同じものを食べる空間。そこには『障害』という言葉はありませんでした」
さくらママ:
皆と同じものを食べさせてあげたいけれど、固形物は食べられない。どうすれば?という時に、最近便利なケア家電も登場しています。容器の中に入れて蓋をすると、見た目はほぼそのまま、食べ物をやわらかくしてくれるんです。
──そんな便利アイテムがあるんですね。
さくらママ:
厳密に言えば、細かく砕かれるので、よく見ると見た目も、食感もかわります。でも、たとえば家族のトンカツと娘のトンカツ、同じように提供できる。娘も喜んで食べてくれます。
「ケア家電」と呼ばれる咀嚼配慮食に特化して作られた「デリソフター」。「お肉なども、切れ込みを入れてから高圧の水蒸気で圧をかけることで、見た目はそのまま、柔らかい食感になります」
さくらママ:
子どもが食べてくれないことは、親御さんにとってストレスにもつながりかねません。その軽減のためにも、普段からさまざま情報に触れ、そこから何をどれだけ、どう取り入れるのかという日々の選択が大切になってきます。その時にやっぱり、何をどれだけ知っているかによって、生活の質は変わってきます。
私の娘は食べることに貪欲で、食にこだわりが強いタイプですが(笑)、中にはそうではないお子さんもいるし、食に対する親御さんの考えもそれぞれです。たとえば胃ろうのお子さんで、胃への栄養剤の注入だけという親御さんもいるし、娘のように両方を使い分けていたり、あるいはできるだけ食べることにこだわっている親御さんもいます。
「スープストックトーキョー」立川店では「咀嚼配慮食サービス」を提供している。「咀嚼配慮食サービスの導入にあたり、サービス内容の提案、食材を食べやすくするためのマッシャーやシリコンスプーン、茶こしといった貸出機材の内容、メニューの具感がわかるチャートやオペレーションに不備がないかなど、一緒にサービスを構築しました」
さくらママ:
「もし自分だったら」と想像すると、毎日ただ胃に栄養剤を注入するだけなのは、萎えてしまうと思うんです。食の楽しみは、生きる楽しみでもあります。もし食が好きだったら、それを諦めなくていい。おいしく、楽しく、ワクワクしながら生きられるように、できるだけたくさん選択肢があるといいなといます。
「胃ろうだったら、味なんてわからないのでは」と思うかもしれませんけど、そんなこともないんですよ。たとえば豚骨ラーメンのスープを注入して、「ふわっと良い香りが楽しめる」という話も聞いたことがあります。
世界初の子ども向けのやわらかいお弁当「もぐもぐBOX」。「子どもが好きな唐揚げやパスタ、お肉、エビフライなどが献立に並びます。一度調理した後に、ミキサーや寒天などを使って咀嚼しやすい形状にし、再度見た目に美しい状態に加工してあります。職人の愛情もたっぷり詰まったスペシャルメニュー。初めて見る旗が立つお弁当に、こどもたちは食べる前からワクワク!付属のとろみの付いた出汁で、水分調整もできます」
大好きな食べ物を前に、全身で「好き!」を表現する楓音さん。「『toroa(トロア)』のとろ生チーズケーキは、口どけ滑らか。皆で食べることができる、まさにインクルーシブフード!コラボ商品もできました。おいしいので、食べる前から大はしゃぎです」
玲子ママ:
「摂食嚥下障害の子どもたちも、同じように食を楽しんでいこうよ!」となった時に、壁が立ちはだかります。この障害が知られておらず、なかなか市販品のレパートリーが少なくて親御さんの負担が大きかったり、外食しづらかったりという点です。
──たとえば離乳食のように、レトルトのようなものは売っていないのですか?
玲子ママ:
あるといえばあります。
ただ子ども用ではなく、介護食として、嚥下障害のある高齢者向けにつくられたものがほとんど。子どもは、ハンバーグとか唐揚げとかが好きですよね。それは摂食嚥下障害の子どもであっても同じです。でも、高齢者向けとなると、かぼちゃの煮付けや水炊き、肉じゃがといった、どうしても渋めのメニューになりがちです。それはそれで、もちろんおいしいのですが‥。
見た目はもちろん、味もおいしい。摂食嚥下障害がある方を起点に、皆で食べる『インクルーシブフード』のメニュー開発の会議の様子
──外出時の食事に関してはいかがですか。
さくらママ:
ありがたいことに外出できる環境は整ってきていますが、まだまだ整備されていません。
「外出して食事をする」という時に、食事だけを切り取ることは難しくて、たとえば自宅からお店までの導線もそうですし、車いすで入店できるのか、障害のある人が排泄できるトイレがあるのか、トイレはなくてもおむつ交換できる介護用ベッドはあるのかといったことも含まれてきます。
ハード面を整えるのは、お金もかかるし、設計上のことなどもあるでしょうから、すべてをバリアフリーにしてくださいと思っているわけではなくて。ただ、お店は難しくても、たとえばお店から一番近くにある多目的トイレを探しておく、介護用ベッドの代わりにここを使っていいよという一角を用意しておくといった、迎え入れる心構えをしていてもらえたら嬉しいです。
分身ロボットカフェ「DAWN」Ver.β(東京都)では、予約時にミキサーや茶こしなど必要な機材を併せて申請することで、手ぶらで外食がかなう。「とろみ剤も各種サンプルを用意してあり、必要な方は無償提供しています」
玲子ママ:
食べ物に関しては、お店のメニューがそのままでは食べられない子どもたちが来るわけで、その時に「レトルトの持ち込みOK」とか「ミキサー貸し出すよ」「機材を持ち込んでいいよ」といった、ウェルカム感、「食形態を自由に楽しんでね」という雰囲気を出してもらえたら嬉しいです。
さくらママ:
さらにもう一歩踏み込めば、家族で「いただきます」と皆で「いっせーのーで」一緒に食べられるメニューがあれば、すごく嬉しい。全部が全部をかなえるのは難しいと思いますが、決して不可能なことではないと思っています。
「皆が笑顔になれるインクルーシブスイーツです。ケーキのような物も牛乳を足したり、とろみ剤で水分を調整することが必要なのですが、昨年度東京都との共同事業で開発したスイーツは、そのまま食べることができます。見た目が美しく、楽しいしかけが施されたおいしいスイーツは、子どもから高齢者まで、皆を幸せにしてくれます。このようなメニューが、外食先で増えるといいな」
──皆で同じものを食べるというのも、思い出になりますもんね。
さくらママ:
本当にそうなんですよ。でも残念なことに、今はまだ、それがかなう場がほとんどありません。だから皆、外出しないし外食しない。皆さんも思い返していただきたいのですが、飲食店の店内を見渡しても、胃ろうで食事している人を見かけることはありませんよね。
障害のある人が外に出ていくことが難しく、確かに存在しているのに、いないことになっています。このままでは、いつまで経ってもインクルーシブになっていきません。
障害は外がつくりだしているのだと痛感します。困りごとはあるけれど、環境改善すれば、楽しく生きるを実現できます。日々攻略しながら、それをかなえていこうと活動しています。
とろみ剤いろいろ。「とろみ剤に限らず、咀嚼配慮に便利な商品が各メーカーさんから出ています。スナック都ろ美では、液体とろみ剤、ゲル化剤、ムース化、ゼリー化食品調整剤など最新の商品サンプルなどを必要な方へ配布させていただき、企業さんと当事者をつなぐお手伝いもしています。食材や用途によって使い分けできるようにご案内もしています」
2023年3月、栃木県にある「ココファーム・ワイナリー」で外食を楽しむさくらママ家族。「メニューの中から娘が食べられるものを探すのは一苦労だけど、アヒージョのオイルやソースでまとまりをつけたりと工夫をして、一緒に食事を楽しみました」
──「楽しく」というのがご活動のひとつのキーワードだと感じますが、そこにはお二人のこれまでのご経験や思いがあるのではないかと思いました。お二人のこと、お子さんのことを教えてください。
さくらママ:
娘の真心(まこ)は13年前、生まれて半年で「福山型筋ジストロフィー」という重度の筋ジストロフィーであることがわかり、絶望しました。
先に長女を育てていたので、いつまで経っても首が座らず、体に力が入らずだらーんとしていて、違和感は感じていたんです。6ヶ月検診の時に精密検査を受け、遺伝子構造的に筋肉を再生する力がないと。
自分の中の絶望をかみくだいた時、それは「自分の無力さ、無知、孤独さ」でした。
無力さについては、治療法のない難病と診断され、親として何もできないこと。この子のために何ができるのか、暴走して、一瞬「医者になる。そして、治療法を見つける」と思いました。でもよく考えたら、これから勉強して医学部に入って卒業して、研究したらこの子はもう中学生高校生になっているだろうと。「食だったら自分にもできる」と思い、玄米菜食、グルテンフリー、ナチュラルフード‥いろんな講習を受けて資格を取って、日々の食事にかなりストイックに取り組みました。
…気づくと、毎日の食卓はお葬式のようになっていました。当時の私は、「無力に対する攻略は、いろいろとやること」だと勘違いしていました。でも、違ったんです。娘が望んでいたことは、私も元気で、笑顔でいること。そうして彼女のやりたいことをサポートしてあげることだったんです。
幼い頃の真心さん。「真心は生まれてすぐの時から、ニコニコお地蔵さんのような穏やかな表情をする子でした。それは今でもずっと変わらず、一点の曇りもない良い笑顔で癒してくれて、こちらまで良い感じに脱力させてくれます」
──無知と孤独はいかがですか。
さくらママ:
無知については、私が偏見のかたまりだったと気づきました。「寝たきりは不幸」「病気の進行は不幸」だと勝手に決めつけていたんです。本当にそうなのか、娘と同じ疾患の方に会いに行き、そうではない姿を見ました。
いろんなコミュニティに属して、同じ状況の人はたくさんいるんだということにも気づかされ、孤独は薄れていきました。
──がらっと意識が変わるに至られた、きっかけがあったのでしょうか。
さくらママ:
巷の情報に翻弄されて不安になったりあれこれやったりしていた頃、主治医の先生に「情報に振り回されないでね。ちゃんと、真心ちゃんの目を見て生きてね」って言われたんです。
「真心ちゃんが何をしたら喜ぶのか、この子を見てあげてね」って。当時の私は、目の前の娘を見ないで、その先の不安や情報に翻弄されていました。完全に大事なものを見失っていたんです。
「スナック都ろ美では部活動もやっています。キャラ弁部の部長、ゆっきーママ渾身のキャラ弁の作品集。ペースト食でもこんなにバリエーション豊かなキャラ弁ができることを周りのママたちが知り、食に対して前向きになったとの声を聞きます」
バレンタインのチョコプリンを一緒に作る玲子ママと楓音さん。「混ぜるだけで簡単に作れる上に、チョコの香りを感じて楽しそうでした。パパと一緒に美味しく食べました」
──玲子ママはいかがですか。
玲子ママ:
私も、無力さ、無知、孤独を感じたことは本当にさくらママと似ています。
13歳になる娘の楓音(かのん)は、お腹の中にいる時は元気でした。しかし出産にすごく時間がかかり、産声もあげずに生まれてきました。生まれて間も無くてんかん発作をおこし、大きな病院へと緊急搬送されました。
初めての出産で、何が起きたかもわかりませんでした。娘がNICUに入っている1ヶ月の間、私ができることといえば、母乳を絞って冷凍し、持っていくことだけ。会いにゆくと、体中を管でつながれて、ミルクを口や鼻からチューブで飲む娘の姿がありました。
「大田原症候群」と診断され、一生寝たきりだと告げられました。目の前で起きていることを受け入れられず、産んだ後もしばらくお腹が大きいのですが、「もしかしたらこれは全部夢で、私はまだ妊婦なのかもしれない。悪夢であってほしい」と思いました。
NICUにいた楓音さん。「口からチューブを入れ、ミルクを飲んでいるところです」
──そうだったんですね。
玲子ママ:
出産時期の近いママ友達の子どもたちがどんどん成長していく姿に嬉しさを感じつつ、娘と比較してしまったし、娘のことを一緒に悩んでくれるのがつらくて。同じ仲間がほしいと思い、同じ疾患の子育てをブログで発信していた方に会いにいきました。
そのことが、大きなターニングポイントになりました。会うまでは「自分の子どもの未来を見にいくようでつらい」と思っていましたが、確かに重い障害はあるけれど、ママは明るく、子どもはとても愛されていて。その姿を見て「大丈夫だ」って思えたんです。
サイゼリアにて外食を楽しむ。「お店はバリアフリーで入りやすく、ミラノ風ドリアはクリームソースがいい感じにまとめ役になってくれるので、フォークで調整するだけでそのまま食べられる奇跡の食べ物!皆と一緒に外食を楽しんでいます」
玲子ママ:
家ではつらい情報ばかり目にして泣いたりしていたけど、この時を機に、明るく、前向きになりました。そうすると今度、娘が笑うようになったんです。「自分が笑顔になると、この子も笑顔になるんだ」って気づいて。娘がどうしたいか、どう幸せを感じるか、できないことではなく、できることや幸せなことに目を向けていこうと切り替えて生活をするようになって、本当に楽になりました。
一般的な子育ても、ママたちはたくさん苦労があると思いますが、離乳食を食べる期間は限られています。でも、私たちの子どもたちはこの先何十年とそれが続いていきます。
毎日続いていく時に、疲れることも、弱音を吐きたくなることもあるし、イライラしたり落ち込むこともあります。毎日介護をしても、誰も褒めてはくれません。そんな時に当事者同士で励まし合ったり情報交換したりできる場所があることはすごく大事だし、私自身、この場が大きな支えになっています。
記念すべきスナック都ろ美の初開店(2019年)。「特別支援学校の『特別おもしろ祭』の食のブースで、初めてスナック都ろ美をオープンした時の写真です。お困り事を吐き出すコーナーなどを設けたところ、大好評でした」
「一つのテーブルに大人や子ども、摂食嚥下障害のある方もそうでない方も、同じメニューを囲んで一緒に『いただきます』することができた時、その空間にはまさしく『障害』という概念はありませんでした。きょうだいさんで同じ形状のものを食べて嬉しそうにしている姿を目にして、感動で涙があふれました」
さくらママ:
冗談抜きで、私たちはここから世界平和を目指しています。
「皆で一緒に食を楽しむ」こと、それにものすごいテクノロジーが必要かというと、そうではないですよね。なのになぜ今すぐそれが実現できないんだろうと考えると、やはりそこには壁があって、もっとこの障害のこと、食の多様性を知ってもらう必要があると感じています。
食は、世界中誰にも必要なもの。障害のある人もない人も、同じ空間で、同じ食べ物を楽しめた時に、そこにはもう、障害は消えていると思うんです。
──確かに。
さくらママ:
誰もが同じように、分け隔てなく同じものが食べられる。「食の障害」を取っ払うだけで、ただ一人の人対人として、同じおいしさを、平和を共有できる。「食が好き」というポジティブなエネルギーは、人をつなぎ、障害を乗り越える力になると信じています。
「この絵のように、食を通してインクルーシブな世の中を創ることを目指しています。外食のシーンで『もぐもぐは、それぞれ。』の光景が当たり前になったら、自然とインクルーシブな世の中になると期待しています」
玲子ママ:
同じものを食べて「おいしいね」と感じる時、そこにともすると言葉はいらなくて。同じ幸せな気持ち、豊かな気持ちをシェアできる空間は、平和にもつながっていくと思います。
──最後に、チャリティーの使途を教えてください。
さくらママ:
チャリティーは、摂食嚥下障害がある子どもたちのこと、同じように食を楽しみたいんだよ!ということを、飲食店をはじめとして社会の一人でも多くの方に知ってもらうために、啓発グッズやチラシを制作するための資金として活用させていただく予定です。
食を通してインクルーシブな世の中を作っていくために、ぜひアイテムで応援いただけたら嬉しいです!
──貴重なお話をありがとうございました!
2022年、東京都×東京医科歯科大学・東京大学の事業でインクルーシブフード開発をした際の、開発メンバーの皆さんと。「子どもたちがワクワク、家族や周りの皆と一緒に『おいしい!』を共有できるメニュー開発に真摯に向き合っていて、本当にステキな大人たちの集まりです」
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
口から同じように食べることが難しい人や子どもの「食」について、正直、これまで深く考えてみたことがありませんでした。同じものを同じように食べることがただ難しいという理由で、食べるものが限定されるとか、皆と一緒を諦めなければいけないというのは、まず食ではあるのですが、食を超えて、とても残念でテンションが下がって、日々のやる気や肯定感もやがて失われてしまうと思いました。そう考えた時に、改めて食の大切さを感じました。
同じものが同じように食べられる。楽しめる。それはある意味、「生きる」を肯定することでもあるのだなと。
子どもたちの瞳のキラキラが、大好きな食べ物を前に、ずっと失われずにあるように。もっともっと選択肢が広がっていくといいなと思いました。さくらママ、玲子ママ、素敵なお話を聞かせてくださり、ありがとうございました!
【2023/7/10~16の1週間限定販売】
「嚥下」の語源にもなっている「燕(ツバメ)」が、とろみのついた食べ物をすくったスプーンをくわえ、空を飛ぶ姿を描きました。
摂食嚥下障害への理解が広まり、皆が同じように、おいしいものや食べたいものを食べる空間をシェアできるように。
ツバメがくわえたスプーンは、摂食嚥下障害のある子どもたちが食を豊かに楽しめる社会を広げていくための、思いと思いをつなぐバトンとしても描かれています。
“Eat together, love together“、「共に食べよう、共に愛そう」という言葉を添えました。
JAMMINは毎週週替わりで様々な団体とコラボしたオリジナルデザインアイテムを販売、1点売り上げるごとに700円をその団体へとチャリティーしています。
今週コラボ中のアイテムはこちらから、過去のコラボ団体一覧はこちらからご覧いただけます!
▼東京都との共同事業で制作した動画「みんなでもぐもぐ♡インクルーシブフードができた!!-2022年度 東京都×東京医科歯科大学/東京大学共同事業【インクルーシブフードの開発および普及】