6月21日は「世界ALSデー」。
この日にあわせ、今年もEND ALSさんとコラボします。
原因不明、未だ治療法が確立していない難病、ALS(筋萎縮性側索硬化症)。
体を動かす運動ニューロン(神経系)が変性して徐々に壊れてゆく病気で、意識や五感、知能の働きは低下することがないまま、身体のあらゆる箇所の筋肉が萎縮し、身体の自由が奪われていきます。歩くことや話すこと、食べること…、日常のありとあらゆる行動ができなくなり、最終的には、自力での呼吸すら困難になる難病です。
END ALSを立ち上げたHiro(ヒロ)こと藤田正裕(ふじた・まさひろ)さん(43)がALSと診断されて、今年で13年。まだ、治療法は見つかっていません。
「1日も早く治療法を見つけ、ALSを終わらせるために、一人でも多くの人にALSを知ってほしい」。
今のHiroさんの思いと、そして今回、END ALSの活動に賛同し、「ALSと闘う人たちの力になりたい」と歌い続ける歌手のHanaさんに、お話を聞きました。
アンケートに答えるかたちで近況を教えてくださったHiroさん。お兄さん家族の愛犬「しーちゃん」と
一般社団法人END ALS
日本だけでなく世界中にALSの認知・関心を高めるとともに、厚生労働省や医療研究機関などに対し、迅速な治療法の確立と、ALS患者が可能な限り普通の生活、あるいは生活の向上ができるように働きかけることを目的に2012年9月に設立されました。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2023/6/19
「履いている靴は友人からのプレゼントで、20年前に発売されたEric HazeというアーティストとNIKE DUNKのコラボですごくレアな物です。僕は10年くらい前まで、Ericのもとでアシスタントをしていました。 昨年12月に東京でEricの個展があり、友人がスニーカーにアートを描く依頼をしてくれて、最近、完成したスニーカーを届けてくれました」
──Hiroさんの状況について教えてください。昨年のコラボからまる一年経ちますが、この一年での出来事や変化を教えてください。
Hiro:
特に変化はなく、変わらず毎日を過ごしています。
──日々の生活の中で、Hiroさんの今の心境を教えてください。
Hiro:
病気やケガや事故がなく無事に過ごせている事がありがたい。
今後、友達や仲間と出かけたい。外出するのが楽しみ。
「サッカー大好きの僕への、とても嬉しいプレゼント」。「共に頑張ろう!」と書かれた色紙は、カタールW杯日本代表の森保一監督から
──今の生活の中で、ポジティブに感じていることや時間、ネガティブに感じていることや時間を教えてください。
Hiro:
ポジティブ→夜、「今日も無事に終わった」と思う。
ネガティブ→「いつになったら薬が出来て、治療法の研究が進んで治験が受けられるんだろう。間に合わなくてこのまま死んじゃうのかな」と、1日の中でふと考える。
Hiroさんの母校、The American School in Japan (ASIJ)でALUMNI IMPACT AWARDを受賞。「いただいたトロフィーと、記事が掲載された雑誌です」
──コロナも落ち着いてきましたが、Hiroさんが挑戦したいこと、やってみたいプロジェクトがあれば教えてください。
Hiro:
友達や仲間とみんなで海に行こうプロジェクト。
──今回、Hanaさんにお話を聞かせていただくことになりました。Hanaさんや、END ALSの仲間の皆さまへのメッセージをお願いします。
Hiro:
Hanaさん、いつも協力してくれてありがとう!
これからも一緒に頑張りましょう!
チームEND ALSの皆さんと、2019年に開催したパーティーにて
Hiro:
チームのみんな、約3年くらい外出、訪問が出来なかったけど、これからまたみんなに会えるのを楽しみにしています。
コロナ禍でなかなか活動が出来なかったけど、これから少しずつ活動していきたいと思っているのですが、またみなさんにSNSで報告が出来るようにしていきたいです。
──このページを見ている読者の方へ、メッセージをお願いします。
Hiro:
一人の小さな行動から大きなことにつながると信じているので、皆さんのやってみようと思う気持ちに期待しています。
2023年のお正月、Hiroさんのお兄さん親子、親友親子と
ここからは、シンガーのHana さんにお話を聞きました。Hanaさんは、アマゾンジャパンでクリエイティブプロデューサーとして働く傍ら、「ALSと闘う人たちに生きる力を届けたい」と歌手として活動しています。
お話を聞かせてくださった、サラリーウーマンシンガーのHanaさん
──HanaさんがENDALSさんをご支援されているのはなぜですか。
Hana:
5年前、私にとっては父親のような、大切なファミリーの一人がALSになりました。
自分に何ができるのか、模索していた時にHiroさんの著書『99%ありがとう ALSにも奪えないもの』(ポプラ社/2013年)と出会い、END ALSのことを初めて知りました。
インターネットで調べると、ちょうど近くでALS患者が絵画モデルとなるデッサン会 “I’m Still”を開催するのを知り、足を運んだのが最初です。Hiroさんの思いにすごく共感し、その後、支援させていただくようになりました。
2016年、GOOD DESIGN MARUNOUCHIでの開催を皮切りにコロナ直前まで実施されたデッサン会 “I’m Still / STILL LIFE”プロジェクト。身体の動かないHiroさんが、自ら絵画デッサンのモデルとなって残酷なALSを知らしめるもので、Hiroさん以外にも8人のALS患者がモデルとなり、デッサン会が開催された。すべての絵は、END ALSのサイトからご覧いただけます→https://end-als.com/#still
Hana:
ALSになった私のファミリーは、もともと音楽をやっていた人でした。
彼と血縁関係はありませんが、介護などを手伝う中で、これからを生きていく勇気や力を与えられないかと思ったんです。彼には自作の曲が50曲以上あって、ある時、彼の音楽仲間が、彼が歌ったデモテープを渡してくれました。声でかたちにして、曲を残していてくれたんです。
それを聴いて「歌だったら、私にも挑戦できるかもしれない」と思って、本格的にボイストレーニングを始めました。
Hanaさんの1st Japan Tour “Still Alive” での歌唱シーン。パワフルで温かい歌声が会場を包んだ
Hana:
彼はALSを発症してから、最後、声が出るか出ないかのギリギリの時までライブをやって、20年以上続けてきたバンドを解散しました。
今は人工呼吸器をつけていて、動くのは目だけ。完全介護が必要ですが、それでもアイトラッキングシステムを使って意思疎通できるし、介護士の皆さんのおかげで車椅子に乗り、持ち運べる人工呼吸器を持って外出もできます。
彼の曲を私が代わりに友人の結婚式で歌ったり、介護に関わっている方たちが私と同じように彼の曲をアレンジしてライブで歌ったりすると、彼はとても喜んでくれて。昨年の11月には、私が発起人となり、解散した彼のバンドメンバーが集まって、約4年ぶりにバンドを再結成しました。そして彼のバント、彼の曲を歌うために結成された介護士を中心としたバンド、私とでスリーマンライブをしたんです。彼は泣いていました。
歌うことはできなくても、彼の曲だけが流れるライブでした。心の中で、一緒に歌ってくれていました。彼の音楽は必ず受け継がれていくことを、みんなで伝えることができたと思います。
2022年、Hanaさんの地元・横浜にて、ALSと闘うファミリーのバンド再結成ライブを開催。ライブ後の一枚
Hana:
そんな姿を見て、それぞれかたちは違えど、本人や家族がALSと闘いながら生きるかたちを模索する時に、何か楽しめたり希望を見出せたりする場所を提供すること、あるいはそれができる介護の体制をつくっていくことが、すごく大切なんじゃないかなと思って。
「彼の素晴らしい曲がこれだけあるんだから、歌わないのはもったいない。代わりに歌い続けよう」と。
全国にいるALSと闘っている人とその家族に対して、「同じ思いでいる人がいるよ」「あなたのことを想っている人がいるよ」ということを、彼の歌にのせて伝えて、勇気や希望を感じてほしい。ALSになっても、可能なかぎり自分らしく生きる道があると知ってほしい。
当事者や家族が、ALSになっても外に気持ちを向けていくことを、当たり前にできるようになる。そんな社会を作るために、まずはALSのことを知ってもらおうと、ライブでは彼の曲を歌うだけでなく、ALSについても積極的に話しています。
──そうなんですね。
1st Japan Tour “Still Alive”公演最後の挨拶の様子。「バンドメンバー全員に、END ALSのロゴTシャツを着てもらいました。このツアーでは、チームEND ALSが作成した動画や、ストーリーもライブの中でお客さまたちに共有しました」
Hana:
本人の気持ち、その中でも特にALSと闘う恐怖というのは、どれだけ頑張っても同じ気持ちにはなれないと思いました。その時に思ったのが、「わかるよ」っていう同情ではなくて、何が必要なのか、こちらがどういう気持ちでいたらいいのか、当事者ではないからできることもあるんじゃないかなって。
私は彼と接する時、あえてすごく普通に接しています。
「元気?」「こんな曲ができたよ、聴いてみて!」とか「この曲、どう思う?」って。できなくなったことがたとえあったとしても、悲観するのではなくて、代わりにどんなやり方でそれをカバーできるか、それを考えて接したいし、それが当たり前の環境になっていけばと思っています。
岡山県在住のALS患者さんとそのご家族と、岡山でのライブ終了後に記念撮影
Hana:
重度訪問介護や介護タクシーなど、「その人らしい生き方に寄り添いたい」という思いを持って動いている方たちはあちこちにたくさん点在していて、私の活動もその一つ。今はまだつながりきれていないと思っているので、歌い続けていくことで点が強くなっていくと思うし、点同士のつながりができて、やがて線となり、大きな力になると信じています。
日本だけでなく、ゆくゆくは海外にも広がっていくといいな。そのためにも、まずは日本でしっかり活動していきたいですね。
──Hanaさんの歌手活動は、「ALSと闘う人たちのために」という思いと直結しているのですね。
Hana:
そうですね。ひとつはやっぱり、彼の曲があったから。
言葉だけでは伝えきれない表現も、音楽には乗せられます。聴いているだけで涙が溢れてきたり、心が震えたり…、これは万国共通で、どんな人の心にも届けられる。ALSの方にも、聴いてもらうことで何かを届けられたらと思っています。そして、私の歌を知ってくれて、私を応援してくれる方々の想いも一緒に届けていきたいです。
チームEND ALSの皆さんと。「皆さんがライブに来てくださった時に、ライブ終了後写真を撮りました。 #ENDALS とライブ会場の大きいモニターに映した時、みなさんが一斉にスマートフォンを取り出して写真を撮ってくれたり、私がALSの話をしている時、同じ想いで聞いてくださっていたことを、ステージ上から強く感じました」
──確かに。音楽はすべてを超えて、感動を与えてくれますね。
Hana:
私にとっては、いちばん身近にあって、自分を表現できるものが音楽です。
これからも前向きに、生きる力を歌い続けたい。歌を聴いて、孤独を感じる時、それをひとつでもふたつでも、払拭してもらえたら嬉しいです。
日本は、ALSを発症した本人や家族の医療や介護的な負担がとても大きく、ALSの症状が進んで自力での呼吸が困難になった時、人工呼吸器を装着することで延命が可能になるのにそれをしない、つまり「生きない選択」をする方が少なくありません。それが、すごく悔しい。
まだまだ生きていけるはずの命なのに、先々の家族への負担や完全に体が動かなくなり話せなくなる自分自身の姿を想像して、生きるか死ぬかを決めなければならないというのは、すごく酷なことです。本人もですが、家族や周りの人たちも、たとえどのような選択をしても、一生をかけて悩んだり後悔したりするかもしれません。
治療法が見つかることを祈るのと同時に、そういうことが少しでも減るといいなと思っています。そのためには、重度訪問介護制度の発展や、患者のみならず家族のサポート、尊厳死に対する法改正など、国の制度の改善が不可欠です。
ALSになっても、生きることを前向きに選択できる社会にしたいです。
チームEND ALSの皆さんと、世界ALSデーに向けたミーティング後の一枚
──この記事を見ている方へ、メッセージをお願いします。
Hana:
「病気だから」と諦めずに、声を上げて、周りの人たちのサポートにどんどん甘えて、やりたいことをかたちにする環境が作られますように。そしてまた周りの人たちは、そのために手をどんどん差し伸べてほしいと思っています。
どんな些細なことでも、行動はかならずつながっていくし、誰かの力になります。もし皆さんの中にも同じ思いがあれば、どんなに小さなことでも、ぜひ一歩踏み出して行動にうつしてほしい!そして、それをつなげていってもらえたら嬉しいです。
いつかみなさんに、ライブ会場でお会いできることを、心から楽しみにしています!
──最後に、HIROさんへメッセージをお願いします。
Hana:
テレビ電話ではお話ししていますが、コロナがあって、まだ実際にはお会いできていないんです。
「お会いできる日を楽しみにしています。必ず治るということ、それは私も、私の周りの人たちも諦めていません。それだけは忘れないでいてほしいです」とお伝えしたいです。
ミュージックビデオ撮影時、朝焼けに、ALSの治療法が見つかることを願う
6月21日の「世界ALSデー」に向けて、インスタでEND ALS #ALSPATIENTSCANNOT CAMPAIGNを開催中!是非ご参加ください!詳細はEND ALSのInstagram投稿へ→https://www.instagram.com/reel/CtG2rmuNYf1/?igshid=MzRlODBiNWFlZA==
6月21日の「世界ALSデー」を含む6/19〜25の1週間、JAMMINのホームページからアイテムをご購入いただくと、1アイテム購入につき700円がEND ALSへとチャリティーされ、ALSの治療に関する研究を進めるため、大学や医療機関の研究資金として活用されます。
ALSを終わらせるために。
チャリティーアイテムで、ぜひ、応援をお願いします!
Hiroさんとチームの皆さん。「Hiroが海へ行きたいということで、2017年10月に湘南の海へ出かけた時の写真です。また来年の春頃に、Hiroと仲間で海へ行きたいと思っています」(チームEND ALS 大木さん)
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
コロナ禍を例にあげると、さまざまな行動が制限された中で、多くの人が閉塞感や孤独感を抱いたのではないかと思います。ALS患者さんをはじめ、医療や介護が必要な人、またはそこに携わる人にとって、それはさらに大きくのしかかったのではないかと思います。
でも、そんな中であっても、人はつながりと希望を見出します。それは喜びであり、闇に打ち克つ光なのではないでしょうか。
一人じゃない。皆で、立ち止まらずに前に進んでいく姿を、私はいつもHiroさんと、END ALSのチームの皆さんから見せてもらいます。