CHARITY FOR

「自然の力で、明日をひらく」。自然と人とが共に生きられる社会を目指して〜公益財団法人日本自然保護協会

2022年には16万人が訪れたという尾瀬国立公園。山や自然に詳しくなくても、誰もが一度は耳にしたことのある地名だと思います。
かつて、この場所で水力発電のダム建設の話が持ち上がり、反対運動をした人たちがいたのをご存知でしょうか。高度経済成長の中で進む開発に待ったをかけ、尾瀬はダムの底に沈むことを免れました。

それから70年。
尾瀬には多種多様な生き物が生息し、訪れる人、この地域で暮らす人たちにも恵みを与え続けています。

70年前、尾瀬のダム建設に反対するために立ち上がった人たちによってつくられた、公益財団法人「日本自然保護協会」が今週のチャリティー先。

「日本の豊かな自然を保護するだけでなく、その先の社会、経済も豊かにすることで、赤ちゃんからお年寄りまでが笑顔で暮らせるようにしたい」と話すのは、「自然のちから推進部」の原田和樹(はらだ・かずき)さん(29)。
活動について、お話を聞きました。

(お話をお伺いした原田さん)

今週のチャリティー

公益財団法人日本自然保護協会(NACS-J)

1951年にスタートした、日本の生物多様性の保全に取り組むNGO。「自然のちからで、明日をひらく」を基本理念に、科学的な根拠に基づいた、中立で、透明性のある自然保護活動を推進しています。

INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2023/4/17

「人の生活と自然が両立すること、そのバランスが大切」

(日本各地で自然保護のための活動を行っている。写真は、宮崎県綾町の貴重な照葉樹林)

──今日はよろしくお願いします。団体のご活動について教えてください。

原田:
全国規模の自然保護問題の解決と支援をする、自然保護を通じて社会課題の解決も目指す、自然とのふれあいの場と機会、導き手を増やす、大きくこの3つを掲げて活動しています。

近年では、「人の暮らしと豊かな自然の両立が大切」という意識が主流になってきて、自然保護の概念も少しずつ変わってきていると感じています。以前は「自然保護団体VS企業」のようなかたちが多く見られましたが、自然の中で人がどう生きていくか、人と自然がどう共生していくかも含め、科学的な根拠に基づいた、中立的な立場での自然保護の姿勢を大切にしています。

(問題があると判断した開発計画地は、現地へ訪問して調査を行う)

原田:
そのために必要なのが調査・研究です。 
「豊かな自然を壊して何かを作ろう」という計画に対して、協会として地域の方たちや専門家とも連携しながら、企業や国に意見書を提出することもあります。

たとえば、風力発電や太陽光発電など再生可能エネルギー自体について、団体としてはポジティブにとらえていますが、生物多様性を大きく破壊してしまうような再生可能エネルギーの建設計画であれば、賛同できません。
人の生活と豊かな自然が両立すること、そのバランスが大切だと考えています。

(海中での調査風景。「陸だけでなく、海の調査活動も実施しています」)

72年前、尾瀬の保全が、活動のスタート

(日本自然保護協会の始まりである尾瀬の風景)

──今年で72年目を迎えられるとのことですが、始まりは、今は国立公園となっている尾瀬の保全だったそうですね。

原田:
はい。群馬、福島、新潟にまたがる、美しい自然が広がる湿原・尾瀬を、ダム建設計画から守るために、登山家や学者、一部官僚も含めて1949年に作られた「尾瀬保存基成同盟」が前身の団体です。

当時の日本は高度経済成長期の真っ只中です。
電力が不足しており、水力発電のために尾瀬の自然を壊し、そこにダムを建設する計画が持ち上がりました。そのまま計画が通っていたら、今の尾瀬は、ダムの底に沈んでしまっていたわけです。

(開発が進んでいたら失われていたかもしれない自然。「日本に生息する哺乳類の多くが暮らす森と言われています」)

原田:
熱心な活動の結果、尾瀬に関しては自然が守られたわけですが、当時は尾瀬だけでなく、全国各地で同じような計画が立ち上がっていました。「日本の美しい自然を守り、後世に残していかなければならない。尾瀬を守るだけでなく、全国の開発計画に対しても取り組んでいかなければならない」と、その後も日本各地で活動を継続してきたのです。

(かつての尾瀬の風景)

スキーリゾート開発が持ち上がった
群馬県みなかみ町の事例

(群馬県みなかみ町にある赤谷の森で実施した自然観察会)

──最近では、群馬県みなかみ町の事例があるそうですね。

原田:
1980年代のスキーブームに乗って、温泉で知られるみなかみ町に一大リゾート開発とダム計画が立ち上がりました。この計画に反対した地域の方たちから、SOSを持ちかけられたのは1990年のことでした。当時、協会として全国のリゾート開発問題に取り組んでいたこともあり、話を聞いて、共に活動することになりました。

みなかみ町は古くから温泉が有名な地域ですが、温泉は、豊かな自然があるからこそ湧き出るものです。雨水を長い間蓄積して、湧き出たものが温泉です。もし開発の手が入って自然が壊されてしまったら、何十年か先に温泉が成り立たなくなるのではないか。そして何より水源の豊かな自然が失われることを懸念してSOSを発信してくださったのでした。

──そうだったんですね。

原田:
相談が持ちかけられた翌月、ヘリコプターでみなかみ町の上空を飛んでいた時、絶滅危惧種である「イヌワシ」が、つがいで飛んでいるのが見えたと聞いています。その後、開発を止めるために、さまざまな調査や活動が始まりました。

イヌワシは、豊かな自然がないと生きられない動物です。「イヌワシの棲む豊かな森を、しっかりと守らないといけない」とさらに気持ちを強くして、地域の方たちと共に活動を続け、2000年に二つあった開発計画は中止されました。

(群馬県みなかみ町「赤谷の森」で撮影されたイヌワシの様子。(撮影:上田大志))

──豊かな自然の象徴であるイヌワシが、みなかみ町の自然を守るシンボルというか、アイコンでもあり、実際に自然を守る道へと導いたともいえますね。

原田:
その後、みなかみ町における自然と人間社会の共生を目的とした「赤谷(あかや)プロジェクト」に関わり、今日に至っています。

(子どもたちとの自然観察会の様子)

食物連鎖が途絶えた暗い人工林では、
イヌワシの十分なえさがない

(2020年に赤谷の森で巣立ったイヌワシ幼鳥(雄)。地元小学生に「ミライ」と名付けられた。(撮影:上田大志))

──イヌワシについて、もう少し詳しく教えてください。

原田:
イヌワシは、北半球の高緯度地域に広く分布しており、草原などの開けた環境が本来の生息地である大型の猛禽類です。
日本に生息するイヌワシ(亜種:ニホンイヌワシ)は、森林も利用する世界的に珍しいイヌワシで、開けた森があり、えさとなる生き物が十分にいる場所に生息します。かつては九州から北海道に分布していましたが、現在の生息地は本州の山岳地域だけに減少しており、絶滅危惧種に指定されています。

羽を伸ばすとその大きさは2メートルにもなり、ノウサギやヤマドリなどを捕食します。つがいで約6000ヘクタール(山手線の内側程度)の縄張りを作り、その中で暮らします。産卵は冬で、岩肌の上に木などを集めて巣を作り、ヒナを育てます。

日本では数を減らし続けており、現在の数は500羽ほどと言われています。

──なぜ、数が減っているのですか。

原田:
原因のひとつは、えさ不足によるものだと考えています。

1940年代以降、戦後復興下で木材が不足し、拡大造林政策によって自然林を伐採してスギやヒノキなどの針葉樹がたくさん植えられました。自然豊かな森が減り、人工林が日本各地に広がったのです。

木をしっかり活用し、森を管理できていればよかったのですが、やがて海外から安い木材が入ってくるようになり、日本産の木材の需要は減りました。手入れが行き届かず、木々が密集した人工林では、翼を広げると2メートルもあるイヌワシは、獲物を捕らえることができません。また、木の下の植物や生き物たちには日光が当たらず、そこに生息する植物や、えさとなる生き物自体が乏しくなります。

──そうなんですね。

(生態ピラミッド(JAMMIN))

原田:
自然の生き物は皆、生態系の中でつながって生きています。Aという草が生えるからBやCといった昆虫がいて、さらにその昆虫を食べるDやEやFの哺乳類がいる。いのちをつなぐ食物連鎖があるのです。
イヌワシは、生態ピラミッドの頂点に存在する生き物です。イヌワシの姿が見られることはすなわち、生態ピラミッドでその下にいる生き物たちもたくさんいる、豊かな自然があるということを意味するのです。
イヌワシの存在を豊かな森の指標として、手入れの行き届いていない人工林を、時には伐ることもしながら自然の森に戻し、人の生活も豊かにできるようにと活動しています。

(イヌワシ観察会の様子)

原田:
赤谷プロジェクトでは、1万ヘクタール(10キロメートル四方)ある国有林を対象地域の状況に基づき6つのエリアに分け、それぞれにテーマを設けて活動しています。行政と民間、私たちが協働で、生物多様性の復元、持続可能な地域づくりを進めています。

──それぞれにテーマが設けられているのですね。

原田:
森の中も、場所によって自然や、人との接点が近い・遠いなど、社会的な特性が異なります。
サポーター(ボランティア)さんたちと人工林を自然の森へ戻していくための森づくり活動や、イヌワシをはじめとする猛禽類やエサとなる生き物のモニタリング、あるいは人の生活と近いエリアでは、林道に接する森の管理の検証や、赤谷の木材を地域の産業に活用する取り組みなども行っています。

(毎月第1週目の週末を「赤谷の日」とし、ボランティア活動などを実施。「この日は赤谷の魅力発見をしました」)

自然と人間社会との共生が認められ、
「ユネスコエコパーク」に認定

(みなかみ町の豊かな自然。赤谷の森で、豊かな自然を見守るカモシカ)

原田:
イヌワシをはじめとする生き物が暮らせる豊かな森を作ることと守ることが、赤谷プロジェクトの目指すところです。そのためにはただ自然だけを豊かにするのでなく、森の恵みを享受しながら、ここで暮らす人たちの暮らしもまた豊かにしていく必要があって、関係人口の増加は、日々目指して取り組んでいるところです。豊かな自然を再生することが地域の経済を回すことにもつながれば、生き物との共生は、大きな価値になります。

──確かに。

原田:
自然と人間社会の共生を目的とする取り組みが評価され、2017年6月には、みなかみ町は「ユネスコエコパーク(生物圏保存地域)」に登録されました。30年前にはリゾート開発計画が上がっていた町で、自然と人間社会との豊かな共生への取り組みが認められたのです。自然との共生が町の価値につながり、そこを魅力に感じて、みなかみ町に移住する人も出てきています。

──自然と人の豊かな共生のロールモデルとなったんですね。

(みなかみ町の自然の恵みを原料にしたアロマスプレー)

原田:
みなかみ町は、皆さんもきっと学校で使われたと思うのですが、赤と青のカスタネットの発祥の地です。
赤谷プロジェクトでは古くからあるカスタネット工房に依頼し、活動で出た地元の木材を活用し、みなかみのブランドを生かした新しいカスタネットを作りました。これを地元の小学校の子どもたちに届け、環境教育や木育を行っています。地域の子どもたちと森に入り、植樹やイヌワシ観察会なども行っています。

守ってきた自然とその恵みがこの町の観光資源となり、地域の方たちが中心となって前向きな町おこしが進んでいます。このような事例が、全国にもっともっと増えていくといいなと思います。

(赤谷の森の恵みを活用してできたカスタネット。「素材の樹種によって、音にも違いが生まれます」)

「自然はすべて、つながっている。
生物の多様性を知って」

(海や砂浜の魅力、抱えている課題を楽しく学ぶことができる砂浜ムーブメント。「自然はつながっている」ということも学ぶことができる)

──読者の方へ、メッセージをお願いします。

原田:
SDGsやサステナブルへの関心が高まっている中で、気候変動はニュースで取り上げられても、生物多様性の大切さについては、まだ注目度が低いと感じます。
僕自身、以前は「なぜ自然を保護するのに木を切るの?切らない方がいいんじゃないの」と思っていましたが、自然に囲まれた日本で今起きていることや、山や里、川、砂浜、海…自然はすべてつながっていること知ると、一つひとつの問題を、それぞれぶつ切りで対応しても解決しないということがよくわかります。

多様なつながりがあるからこその自然の豊かさを知ってもらい、生き物や生物多様性に興味を持ってもらえたら嬉しいです。そしてもし応援したいテーマがあれば、ぜひ僕たちの活動に参加してもらえたらと思います。

(1970年代から実施している「自然観察指導員講習会」。「自然を守る人材育成も、大きな活動の一つです」)

原田:
山に登ったり海に潜ったり、豊かな自然があるからこそ得られる体験を、これまでの人生でたくさん満喫させてもらってきました。リアルだからこそ得られる感覚、自然だからこそ体験できる感覚がたくさんあります。

もし自然が減ってしまったら…、当然ですが、肌でリアルに自然を感じることができなくなってしまうでしょう。人の生活もまた自然の一部であり、自然は僕たちの生活基盤。守っていかなければならないものです。

(みなかみ町と同じく、ユネスコエコパークである只見町で実施した「母と子のネイチャースクール」。「豊かな自然を子どもたちが満喫できる企画を実施しています」)

──最後に、チャリティーの使途を教えてください。

原田:
日本自然保護協会は、豊かな自然を未来につないでいくために、より多くの人に自然体験を届け、自然を知ってもらうきっかけ作りにもとても力を入れています。

今回のチャリティーは、家庭の事情から自然となかなか触れ合う機会のない子どもたちはじめ、一人でも多くの子どもたちに自然体験を届けるための資金として活用させていただきたいと考えています。壮大ですべてを受け止めてくれる自然が、子どもたちを取り巻く社会課題の解決の一助にもなるのではないかと考えています。ぜひ、アイテムで応援いただけたら嬉しいです。

──貴重なお話をありがとうございました!

(日本自然保護協会の皆さん。「70周年の際に撮影した写真です。スタッフは全国を飛び回っていることが多く、事務所にいるメンバーで撮影をしました」)

“JAMMIN”

インタビューを終えて

「自然と人との豊かな共生」、これはとても難しいテーマだと感じました。自然への価値観、豊かさへの価値観もまた、人によって全く異なるからです。「環境にやさしい」とか「SDGs」といった言葉が無責任に掲げられ、虐げられる自然があると感じてしまうこともあります。
でも、対話しないことには始まらない。自然は黙っています。だからこそ我々人間が、ここで暮らす人たち同士が、何に向かっていくのか、何を大切にしていくのか、リスペクトを持って対話していかなければならないのだと感じました。
人の中にある自然を見出すことができたら、あるいは自然の中に人を見出すことができたら、変わっていくことがあるのではないでしょうか。
その点でも、子どもたちが自然に入っていくことの大切さを改めて感じるインタビューでした。原田さん、ありがとうございました。

・日本自然保護協会 ホームページはこちらから
・日本自然保護協会の要望や声明、活動報告はこちらから

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【2023/4/17~23の1週間限定販売】
雄大な自然をバックに、イヌワシの気高い姿を描きました。
生態系の頂点であるイヌワシが自然を見つめる姿は、豊かな生態系が今まさにここにあり、未来にもずっとつながれていってほしいという願いが込められています。

“Our earth, our tomorrow“、「私たちの地球、私たちの未来」という言葉を添えました。

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JAMMINは毎週週替わりで様々な団体とコラボしたオリジナルデザインアイテムを販売、1点売り上げるごとに700円をその団体へとチャリティーしています。
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