CHARITY FOR

「誰かのためじゃない、あの人のために」。医療支援や水衛生環境の整備を通して、途上国の子どもの未来を守る〜NPO法人あおぞら

世界では、5歳未満の子どもが6秒に1人、命を落としているのをご存知ですか?
多くの子どもたちが、本来であれば予防や治療ができるはずの下痢やマラリア、出産の際の合併症などで命を落としています。

「自分たちができることで、一人でも多くの命を救いたい」。

そう語るのは、今週JAMMINがコラボするNPO法人「あおぞら」理事の大音雄真(おおと・ゆうま)さん(28)。あおぞらは、カンボジアやラオスで医療支援や水衛生環境の整備に取り組んでいます。

大音さんに、あおぞらの活動内容や、活動に込める思いを聞きました。

(お話をお伺いした大音さん(写真左)。代表理事の葉田さんと)

今週のチャリティー

NPO法人あおぞら

「すべての命が大切にされ、その人らしく生きられる社会」の実現を目指して、「届ける」「支える」「伝える」をキーワードに、発展途上国の医療支援や、水衛生環境の整備を行うNPO法人です。

INTERVIEW & TEXT BY TAISUKE KOBAYASHI
RELEASE DATE:2023/04/03

「少しでも多くの命を救うために
今、できることをやる」

(カンボジアにて、子どもたちを診察する葉田さん)

──本日はよろしくお願いします。最初に、活動について教えてください。

大音:
あおぞらでは主に二つの活動を行っています。
一つめが「医療支援」です。具体的な内容として、新生児蘇生法の指導をカンボジアやラオスで行っています。

世界では、新生児(生後28日未満の子ども)だけでも年間約270万人が亡くなっています。これらの命を救うために大切なのは、医療環境の整備だけではありません。適切な医療技術があれば、半数以上の新生児の命を助けられます。あおぞらには新生児蘇生法のスペシャリストや助産師が在籍しており、そういった専門家が現地に行き、蘇生技術の指導にあたってきました。

(2019年、ラオスにて新生児蘇生法講習を行った時の様子)

大音:
コロナ禍になってからも現地で指導を続けていますが、いつ海外に行けなくなるかがわかりません。
そこで現地でも蘇生技術を教えられる人を育てるために、今はタブレットを使用したデバイスを用いて講習も行っています。ラオスではすでに数十名の方が新生児蘇生法講習を終え、実際に指導できるまでになっています。

(2022年には、「2021年度世界の人びとのためのJICA 基金活用事業」として、ラオス保健科学大学にて、1年間で3回にわたり、デバイスを用いた新生児蘇生法インストラクター育成講習を行った)

大音:
二つめの活動が「水衛生環境の整備」です。
私たちが支援を行うカンボジア・サンブール地域には7つの小学校がありますが、うち6つは手洗い場がなく、ため池の水や瓶に貯めた雨水を使用している状況でした。そこで2020〜2021年のうちに、6つの小学校に新しい手洗い場を設置しました。

元々は医療支援だけを行っていたのですが、コロナ禍になって渡航できず、活動が制限された時期がありました。そこで「コロナ禍だからこそできることをやろう」という話になり、水衛生環境を整える活動を始めました。

(サンブール地区で最初に建設支援を行ったSrah Chhuk小学校の手洗い場。現在では雨風での劣化を防ぐために、簡易シェルター(小屋)も設置されている)

「誰かではなく、この人のために」。
一人の女性との出会いが、活動のきっかけ

(2020年、当時建設中だったタンザニアのクウェディボマ公立保健センターにて、現地の皆さんと)

──あおぞらさんは、どういった経緯で活動を始めたのでしょうか。

大音:
あおぞらを立ち上げたのは理事長を務める葉田甲太です。2005年、葉田は学生時代に「カンボジアに150万円あれば小学校が建ちます」というパンフレットを偶然見かけ、仲間を募ってチャリティーイベントでお金を集め、2006年にカンボジアに小学校を建設しました。その過程を綴った葉田の著書『僕たちは世界を変えることができない。』は、俳優の向井理さん主演で2011年に映画化もされています。

学校建設から数年後、医師になった葉田が小学校の継続支援のためにカンボジアを訪れた際、生後すぐの赤ちゃんを亡くした女性と出会いました。その時に「この人のためにできることがしたい」と思い、新たに活動を始めました。

(あおぞらを立ち上げた当初の葉田さん。「自ら現地に足を運んで現地調査を行っていました。今でも、新たな支援をスタートさせる際には必ず、自ら現地調査に足を運びます」)

大音:
カンボジアから帰国後、亡くなった赤ちゃんや泣いていたお母さんに何かできないかと、葉田は、長崎大学大学院の熱帯医学講座にて、亡くなっていく赤ちゃんをどう減らせるかを学びました。
その後、最初に取り組んだのは保健センターの建設です。カンボジアのサンブール地域には保健センターがあったのですが、老朽化が進み、機材も故障していて安全な医療を提供できませんでした。

当時は、一番近くの病院も車で数時間を要しました。
そもそも住民の方は車を持っておらず、緊急の場合は救急車を手配する必要があります。しかし救急車に乗るにも高額なお金が必要となり、利用できるのは一部の人だけ。出産は自宅で、しかも分娩技術は発達していません。そのため、生後1週間のうちに亡くなる子どもたちが非常に多かったのです。

(「カンボジア・サンブール地区には、伝統的産婆と呼ばれる医学的な知識を持たない助産師さんが立ち会う、危険な出産も一部残っていました。出産後の母親と生後間もない赤ちゃんを、約2週間薪でいぶすという文化もあり、赤ちゃんは常に、肺炎等の命の危険にさらされていました」)

大音:
葉田は、小学校建設の際に活動を共にした国際NGO「ワールド・ビジョン」さんに連絡を取り、保健センターの建設を進めていくことになります。そこで2017年7月にあおぞらが設立されました。NGO団体の協力のもと、2018年2月にサンブール保健センターが開院しました。

その後、葉田はタンザニアで2歳の赤ちゃんを亡くしたばかりのお母さんに出会い、タンザニアでも活動を始め、国際NGOワールド・ビジョン様の協力を経て2020年に保健センターを建設しています。この活動ではクラウドファンディングを行い、多くの方のご協力があったおかげで1200万円を超えるご支援をいただきました。
保健センターへの支援をタンザニア政府に引き継ぎ、2022年をもってタンザニア支援は終了しました。

(あおぞらで最初に実施したプロジェクトで建設した、サンブール保健センター)

「”100%完璧にできない”は、
目の前の1%をやらない理由にはならない」

(あおぞらのスタッフの皆さん。カンボジア サンブール地区の子どもたちと)

──あおぞらのメンバーは何名いらっしゃるのでしょうか。

大音:
メンバーは12名です。現在は主にカンボジアとラオスで支援活動を行っています。
メンバーは皆、本業の合間を縫って活動を行い、時には本業より、あおぞらの活動に時間を使うこともあります。あおぞらの主な活動資金は、医療従事者や映画、これまでの活動に共感してくださった方々からの寄付金です。人件費は最低限で、寄付金はできる限り、現地での活動資金にしているので、現地への渡航費や滞在費は自腹ということもあります。

(2019年、ラオス新生児蘇生法講習会を行った時の一枚。あおぞら理事であり、内科・救急医の中西さん)

──大音さんは、あおぞらでどういった活動をされているのでしょうか。

大音:
私は医療従事者ではありません。主に経理や事務作業、運営、事務局を担当しています。

──どういった経緯であおぞらの活動に参加されたのでしょうか。

大音:
私があおぞらに加わったのは2019年です。19歳の時に映画「僕たちは世界を変えることができない。」を観て、10代で一番の衝撃を受けました。
それで葉田のSNSをチェックするようになったのですが、カンボジアの保健センターが完成した1年後、あおぞらが継続寄付者を募集することを知りました。そこで私も「できることをしたい」と思い、あおぞらに毎月寄付を始めました。

私が最初の継続寄付者だったようで、葉田から直接連絡をもらい、メンバーが近所に住んでいたこともあって、実際に会って話をして、参加を決めました。正式に活動メンバーになったのは2020年です。

(メンバーで支援者に送るパンフレットを作成した時の一枚。左から理事で内科・救急医の中西さん、新生児蘇生法インストラクター、プログラムマネージャーで小児・新生児科医の嶋岡さん、ラオスプロジェクト担当スタッフの萬谷さん、理事の大音さん)

──海外での支援活動に興味があられたのですか?

大音:
いえ、支援について考えたことはありませんでした。ただ、昔から苦しんでいる人のために何かできないかと思うことがあったんです。
私は中学生の時に、友達を不慮の事故で亡くしました。生きていると、自分ではどうしようもできない出来事がある。それに対して何もできないことに違和感がありました。
「僕たちは世界を変えることができない。」を観て、世界には別の形の負があることを知って、形は違うけれど、自分でも何かできないかと思うようになりました。

(理事に就任する前の大音さん。「本業が休みの日に仕事を教わっていました」)

──今はどういう気持ちで活動に取り組んでいるんですか?

大音:
想いは最初の頃と変わっていません。
基本的に現地に渡航するのは医療従事者のメンバーです。現地で活動するメンバーとは感覚に少なからず違いがあると思っていて、そのギャップに時折「ちゃんと力になれているのかな」と考えることもあります。
そのような時は、あおぞらの新生児蘇生インストラクターである嶋岡が言った「『100%完璧にできないからは』目の前の1%をやらない理由にはならない」という言葉を思い出します。

(サンブール地区では、あおぞらが手洗い場を支援する前は、手を洗ったりするために溜め池の濁った水を運んでいた)

大音:
医療従事者のメンバーは、「僕らは医療の仕事はできるけど、管理の仕事はできない。僕たちにはそれぞれにできることがあって、それぞれ必要な仕事なんだよ」と言ってくれる。なので、自分のできることを通して、現地の人たちのためになれたらいいなと思って仕事に取り組んでいます。

──人のためになる、ですか。

大音:
相手に喜んでもらえるって、結局は自分のためだと思うんです。
自分のためにやって、感謝したりされたりすることってまずありませんよね。でも、人に何かしてもらった時には感謝するし、その逆も然りです。

自分以外の人とのやり取り、相手を思いやり、行動を起こすことに感謝が生まれる。そういうのが増えていけば、社会はもっと良い方向に向かっていく気がするんです。

(「日本よりも不自由な環境で生活するカンボジアの子どもたちですが、日本の子どもたちよりも笑顔の子が多い。援のために現地に足を運ぶと、逆に元気をもらうこともあります」)

「継続して支援を行うことで、
途上国の現状を多くの人に知ってもらいたい」

(2022年、ラオスで新生児蘇生法インストラクター育成講習を行う、あおぞら新生児蘇生法インストラクターの嶋岡さん)

──あおぞらは今、どういう活動に取り組まれているんですか?

大音:
現在、表立って動いている活動は、カンボジア・サンブール地域の小学校へのトイレ建設支援です。
今回の支援先となる小学校では、生徒が250〜280人くらいいるのに対し、トイレがたった2つしかありません。野外排泄が当たり前になっていて、衛生上の問題や女性の生理などの問題もあります。今回のプロジェクトでは、5つ増設する予定です。

──その費用は支援金で賄うのでしょうか。

大音:
今回のプロジェクトは、支援者の皆さまからの寄付金から賄うほか、理事長の葉田が、全国の中学校や高校で講演会を行っており、国際支援に興味を持つ高校生と協働でのクラウドファンディングも実施しています。

支援内容によっては一部、現地の方にもお金を出してもらうこともあります。
金額の問題ではなく、自分たちがお金を出すことによって、支援に依存しないことや、支援されたものに対し、大切に継続的に使用してもらうことを考えています。設置費用だけでなく、現地で調査をする必要もあるので、そのお金として使わせてもらうこともあります。

(建設支援を行った手洗い場で、手を洗う子どもたち)

──どういった調査をされるのでしょうか。

大音:
ニーズ調査です。何が必要とされているのか、本当に必要とされているか。今回のプロジェクトではトイレですが、私たちはトイレを作って終わりではありません。
正しく使われているか、この先も継続的に支援を続ける必要があります。そのため、現地でヒアリングをしたり、土地を調査したりして、支援の優先順位をつけています。

──今、団体として課題はありますか。

大音:
お金の課題は大きいと思います。
多くの方にご支援いただいているのですが、現状、活動規模はそれに追いつかなくなってきています。世界の富裕層上位1%で世界全体の4割の資産を占めると言われており、その中で慈善活動を行っている方もいますが、それでも解決できないのが貧困問題です。単純な問題でないことは承知の上ですが、あおぞらの話だけではなく、途上国支援を行っている団体として、切っても切り離せない問題だと思います。

あおぞらとしては、新たにカンボジアで貧困層の高齢者、特に末期患者の緩和ケアを中心に訪問診療、看護サービスをスタートします。カンボジアでは訪問診療というものに馴染みがありません。新たな試み、活動が始まれば、さらに資金が必要になっていきます。

私たちは認定NPO法人なので、寄付金は税金の控除対象になります。それでも税金控除は関係なく寄付していただく方も多く、頑張ってくださいとメッセージを下さることも多いので、本当にご支援様には感謝しています。

(「創立当時、パンフレットは支援者の方たちと共に上がってきた原稿をあえて切り貼りして、1枚ずつ手作業で作成していました。コロナ禍になったことで、支援者との直接的な交流が減ったため、現在、パンフレット作成交流会は無くなりました」)

チャリティーのお金は
カンボジアの小学校のトイレ建設に使われます!

(カンボジアにて、訪問診療を行う葉田さん)

──ありがとうございます。今後の展望を教えてください。

大音:
あおぞらとしては、カンボジアでの訪問診療サービスの実施のほか、ラオスやカンボジア以外の国でも新生児蘇生技術の講習を行うことです。インドでは訪問診療のニーズが増えているようで、カンボジアでもできることがあると考えて取り組んでいます。

私自身の目標としては、あおぞらの活動をより多くの方に知ってもらいたいと考えています。
「医療支援という話にピンと来ない」という声も聞くので、活動内容を知ってもらえる取り組みをさらに増やしたいです。さまざまな取り組みを通して、少しでも多くの方にあおぞらの活動を知ってもらいたいと思っています。

──最後に、チャリティーの用途について教えてください。

大音:
カンボジアの水衛生環境の整備に使わせていただきます。
人の生活の根本にあるのは「水」だと思っています。清潔な水を提供し、少しでも多くの命を救いたいと考えています。

──貴重なお話をありがとうございました。

(あおぞらのスタッフの皆さん。「まだ私がマンスリーサポーターだった時の写真です。葉田の講演会を私の地元である宇都宮で企画し、会場決めや参加者への案内、対応など運営を行いました。翌日、私が経営に携わるセレクトショップ“町の小さなおみやげ雑貨屋さん 和音”にて撮影した一枚です」)

“JAMMIN”

インタビューを終えて〜山本の編集後記〜

大音さんは落ち着いていらっしゃいますが、内に秘めたものがとても熱い方でした。何事も始めることより、継続する方が難しいと思います。今後もあおぞらさんが活動を継続し、さらに支援の規模を拡大できるよう、この記事が少しでも多くの方に届くといいな、と感じました。

・あおぞら ホームページはこちらから

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