CHARITY FOR

「自分の声を聞き、信じて」。虐待やDVを受けた女性が親子で入れるシェルターを運営、自立を支援〜NPO法人オリーブの家

DVや虐待の被害に遭っている人が、一時的に避難できるシェルター。
日本には現在、公的なシェルター(婦人保護施設)と、NPOなどが運営する民間のシェルターの二つが存在します。

各都道府県に設置されている公的なシェルターには、入居にあたりさまざまな条件があり、親子で逃れていてもお母さんしか入居できず子どもは児童養護施設に入らなければならなかったり、滞在できても原則2週間と決められていたりして、長期的な支援が難しい現実があります。
全国で100を超えるという民間のシェルターが、公的な部分では支えきれない女性や親子を支援しています。

「民間のシェルターのあり方、行政との連携などはこれからの課題」と話すのは、今週コラボするNPO法人「オリーブの家」代表理事であり、心理カウンセラーの山本康世(やまもと・やすよ)さん(58)。

「今のところ、民間のシェルター運営には、国から何の支援もありません。それぞれが寄付や民間の助成金などでなんとか資金を集め、運営している状態です。
さらにそれぞれのシェルターが独自のルールで運営されており、支援にもばらつきがあります」と山本さん。心理カウンセラーとしての経験を生かしつつ、専門的かつ細やかな支援を目指したいと話します。

活動について、お話を聞きました。

(お話をお伺いした山本さん)

今週のチャリティー

NPO法人オリーブの家

DVや虐待を受けた女性が親子で避難できる、長期滞在が可能なシェルターを岡山県津山市にて運営、自立までを支援しているほか、困窮した家庭への食料や学習支援、DVや虐待の無料相談、専門家によるカウンセリングを行っています。

INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2023/3/27

女性が親子で入れるシェルターを運営、
自立をサポート

(シェアハウス型のシェルターの個室の1室。「どの部屋も清潔感があり、きれいなお部屋です」)

──今日はよろしくお願いします。最初に、ご活動について教えてください。

山本:
活動の柱は、DVから逃れた女性が親子で入れるシェルターの運営です。成人男性は除外されますが、親子であれば子ども同伴で入ることができ、入居の期間の縛りもありません。次の行き先が見つかるまで、自立をサポートします。

それとは別に、メールによる相談も365日受け付けています。最近は男性からの相談や、加害者からの相談もあります。若い方がSOSを出しやすいように、LINEでも相談を受け付けています。その他にも、DV被害者へのカウンセリングや困窮している家族への食料品や生活用品の配布、子どもたちへの学習支援も行っています。

(「シングル家庭で不登校気味の子どもたちの学習支援の様子です。この日はオリーブの家にインターンに来ていた学生さんも参加しました」)

山本:
もう一つ力を入れて取り組んでいるのが、民間シェルターのあり方についてです。
日本には100を超える民間のシェルターがあるとされていますが、正確な数はわかっていません。シェルターとしての規定がなく、それぞれが独自に運営しています。

各地の民間シェルターとつながり、意見交換や互いのノウハウを提供し合いながら、居住支援だけではない、本人の自立や子どもへの支援、シェルターを出た後のサポート、行政との連携など、シェルターとしてのあり方を探っているところです。

(「お母さんが仕事の面接に行っている間、赤ちゃんをお預かりしました。知育玩具に興味津々です」)

困っている母子に対し、
公的な支援が追いついていない現実

(岡山県庁にて、行政支援・連携についての意見交換会と現状報告の様子)

──民間のシェルターを定義する法律などはないのですか。

山本:
ありません。シェルターに関しては、先進国の中でかなり遅れをとっています。その必要性をわかってもらえるよう、国に提言もしていきたいと準備しています。

──そうなんですね。公的なシェルターはあるのですか。

山本:
厚労省の管轄にある「婦人保護施設」があります。婦人保護施設は、1956年に作られた「売春防止法」に基づき、戦後、職のない女性が売春に走らないように、一時保護のために各都道府県に設置された行政機関です。
婦人保護施設の滞在は原則2週間とされており、子どもの年齢の制限がある場合もあるので、必ずしも親子で滞在できるわけではありません。また、配偶者が反社会勢力であるとか、外国籍である、子どもから暴力を受けている高齢の女性など、条件を満たしていないとされる場合には利用できません。そうすると、困っている当事者が行く場所がありません。

やっかいなのは、婦人保護施設の運営や子どもの福祉は厚生労働省の管轄で、DVは内閣府男女共同参画局の管轄であることです。

(連合岡山の人権学習会にて、登壇し講義を行う山本さん。「オンラインと現地のハイブリッドで行いたくさんの方にご覧いただき、大盛況でした」)

──どういうことでしょうか。

山本:
過去に、5人のお子さんを連れた女性を保護したことがありました。一番上のお子さんは成人していて、下は中学生でした。そのようなご家族の場合、公的シェルターでは家族全員の滞在が認められず、お母さんは婦人相談所、未成年のお子さんは児童養護施設、成人しているお子さんは制度上、施設には入れないので独立してください、というかたちで、バラバラにならざるを得ないのです。

親子でなんとか避難され、子どもたちと一緒にいたいと望んでいるのに、公的シェルターだとそれがかなわない。そこを民間シェルターが助けるしかありません。

──公的な面でまだまだ追いついていないんですね。

山本:
時代が変わり、家族のあり方や女性の困りごとも変化しています。DVだからそっちが担当、子どものことだからこっちが担当というやり方ではなく、どんな状況であれ、親子をまるっと助けるしくみが必要です。今はまだ、国としてその枠組みがないんです。

(啓発活動の様子。こちらはDV被害予防のために必要なワークを交えたコミュニケーションセミナー)

肉体的なDVだけでなく、
経済的・精神的なDVが増えている

(シェルターの入居者に、時には家族のように寄り添うスタッフたち)

──運営されているシェルターについて教えてください。

山本:
「シェアハウス型」と「アパートメント型」があります。「シェアハウス型」は新築2年目のきれいな一軒家で、個室があり、キッチンやリビングを共有するかたちです。共同生活が難しいという方は、借りているアパートの一室に入っていただきます。

──どのような棲み分けなのでしょうか。

山本:
どうしても個室がいいと望まれる方、精神障害や発達障害があり、人付き合いが難しい方の場合は、他の入居者と接触のないアパートにご案内します。
あるいはパートナーから逃れている方は、シェルターにいることが相手に知れると大変なので、危険を回避するために、居場所が知られないよう各地に借りた部屋を転々と移動してもらうこともあります。

私たちとしても固定の部屋を借りるわけではなく、定期的に変えるようにしています。過去に援助した方の中には、7年配偶者から逃げ続けた方がいました。7年も失踪すれば婚姻を継続しがたい重大な事由として離婚成立しやすくなります。

(子どもの笑顔は宝物。シェルターで迎えた誕生日に、精いっぱいのおもてなし)

──どのような方が入居されるのですか。

山本:
配偶者や家族からの暴力から逃れてきた方たちです。「DV」というと、一般的に肉体的な暴力のイメージが強いですが、人格否定、物を壊す、隠す、「子どもをどうにかしてやる」という脅し、行動制限など、精神的、経済的な暴力もあります。
もちろん、肉体的な暴力もあります。過去に保護した方は、肋骨が3本折れていました。

──肋骨が3本も?

山本:
肉体的な暴力の場合、これは犯罪なので警察が動きます。この方も、警察から依頼を受けて保護しました。目に見える暴力であれば警察が動き、証拠が残ります。暴力を振るった夫は逮捕され、勾留されました。その間に逃れることができるし、弁護士がついて、離婚の成立も比較的スムーズに進みます。もちろん例外もありますが、肉体的な暴力はその後の道筋がつきやすく、解決が早いケースの一つです。

しかし一方で、夫が生活費を出さない、妻の名義で勝手に借金を作った、借金返済のために風俗で働かされる、日常的に罵声を浴びせるといった目に見えないDVは、証拠をどうやってとるかが非常に難しく、離婚までの時間がどうしても長くかかってしまいます。相談を受けていると、肉体的DVよりも、このようなDVが圧倒的に多いです。性的DVも、被害者が恥ずかしさから訴えないことが多々あります。
また最近は、高齢者の相談も増えています。近くには入れるところがなかったと、遠い県外からの入居もあります。

(「シェルター入居者の方から気持ちがしんどくなってお話がしたいと連絡があれば、シェルター入居中は心理士のカウンセリングが受けられます」)

──高齢者の方は、どのようなケースなのですか。

山本:
夫や息子、嫁など身内から暴力を受け、「このままだと殺されてしまう」と逃げて来られたたり、以前保護したのは80歳近くの方は、障害のあるお子さんの面倒をみながら、ずっと二人で暮らしてきたところ、突然元夫が現れてストーカー被害に遭い、お子さんの障害年金を奪われてしまいました。警察が間に入って犯罪が立証されましたが、落ち着くまでしばらくシェルターにおられました。

──たとえばそのような場合、障害のあるお子さんも一緒にシェルターに入れるのですか。

山本:
女性であれば一緒に入居してもらいますが、男性に対して恐怖心を抱いている他の入居者の方もいらっしゃるので、男性の場合は、障害の重さによります。仮に入居していただくとなっても、シェアハウスではなくアパートで、他の入居者への影響がないよう配慮します。

(「赤ちゃんと逃げて来られる親子のために、ベビーサークルを準備。裏方では男性スタッフも頑張ってくれています」)

虐待やネグレクトを受け、発達の問題を抱える子どもたちも

(アウトリーチ支援として、困窮したひとり親家庭の相談にも随時対応している)

山本:
DVだけでなく、虐待から逃れてシェルターに来る方もいます。
幼い頃から親の虐待を受け、「児童相談所に相談したけどダメだった」と連絡をくれて、保護した方もいます。18歳未満の場合、本人がどれだけ「助けて」と訴えても、児童相談所は本人だけではなく、必ず親と話をします。見た目がアザだらけでよほど暴力があることが明らかでもない限り、親権者である親が絶対権力なのです。

親が「しつけのためにやっただけで、反省している」とか「子どもが精神的な病気で、勝手にそう言っているだけ」と都合よくその場を切り抜けると、本人のSOSは届きません。そのまま20代30代になり、意を決してやっと逃げてきた方もいます。

長年の虐待は、本人の発達や人間関係、社会性に影響を及ぼします。私は心理カウンセラーとして被害者と関わっていますが、虐待やネグレクト(育児放棄)などの環境で育った子どもたちの多くが、発達の問題を抱えていると感じます。

ある時、ネグレクトの家庭で育ったある子に「卵を描いて」というと、真四角の形を描いたことがありました。

──ええ。

(「アウトリーチで支援をしている経済不安を抱えていた妊婦さんに、寄付でいただいたオムツを渡しました」)

山本:
その子の家庭は、お母さんがほとんど一日中家におらず、ご飯はいつもコンビニのお弁当が一つ、テーブルに置いてあるだけだったようです。お母さんが料理しているところも見たことがなく、四角の形、つまり卵焼きが、その子にとっての「卵」だったんです。一般的に私たちがイメージする丸い卵を完全に知らない、見たことがなかったのです。

家庭で会話はなく、テレビやインターネットからの一方的な情報ばかりで、その子は周りの話に反応したり、うまく返すということができませんでした。毎日お風呂に入るとか歯を磨くということも教えてもらったことがなく、何日も同じ服を着ています。そうすると周りから浮くし、いじめにもつながってしまいます。

ネグレクトを受けた子どもの場合、社会復帰はその他の虐待と比べて遅いと感じています。他人とのやりとりや距離感のつかみ方がわからない。家で掃除や料理しているのを見たことがないので、やり方がわからない。

シェルターに入居していたある20代の女性は、洗濯の時に洗剤を丸々一本全部入れて、洗濯機が泡だらけになってしまいました。「後ろに説明が書いてあるよ」と言うと、「初めて知りました」と。自立に向けて、一つひとつ丁寧にお伝えしていくしかありません。シェアハウス型のシェルターの場合は、他の入居者さんが教えてくださったりもしますし、言っても忘れてしまう場合は、付箋で貼っておくと、気づきにつながるようです。

(「初めてでわからない利用者の方には、こんなふうに付箋を貼ることもあります」)

「自分のことを信じて。あなたは素晴らしい存在」

(「身内からの虐待で心も体も傷ついた親子に、愛する家族のように寄り添いました。シェルターで不登校、摂食障害を乗り越え、新たな道を歩むことになり、スタッフや学校関係者とともに小さなあたたかい卒業式を行いました。幸せな思い出です」)

──山本さんは心理カウンセラーでもいらっしゃいます。

山本:
パートナーからのDVや親からの虐待によって、後天的な障害が生まれることがあります。あるいは先天的な障害を持っている方もいます。心理カウンセラーとして、一人ひとりにどのようなサポートが必要なのか、見立てをして支援しています。

誰が悪いのか、何が悪いのかという犯人探しではなく、なぜDVが行われたのか、背景に何があって、今、それがどう本人に影響しているのか、ゆっくり話を聞きながら分析し、原因を探り、解決法を見立てます。精神的な問題であればそこを、発達や障害の問題、病気であればそこをサポートしたり連携先に紹介します。

DVや虐待の問題だけではない、他にも理由があるかもしれないうとことを意識して支援をしないと、支援する立場の人たちも「なぜ、これができないの」と、余裕を失ってイライラしてしまうこともあります。一人ひとりに合わせ、行政や他機関とも連携しながら、専門的な支援をする必要があります。

(社会心理士であり、ジェンダー問題に熱心に取り組む専門家との対談動画の撮影)

──心理カウンセラーとしての知識が役立っているんですね。

山本:
私はもともと人に興味があって、心理学と出会い「これを身につけたら、何もこわくない」と思って勉強を始めました。
自分の外ではなく、自分の中にある声を聞いて、ありのままの自分を認め、信じてあげることができたら、人は本当に望むものを手に入れることも可能だと思っています。しんどい立場にある方たちに「自分のことを信じて。あなたは素晴らしい存在だよ」ということを、もっと広く伝えていきたいと思っています。

DVや虐待を受けた人への物理的な支援はたくさんあっても、精神的な支援はまだまだないのが現状です。
シェルターを出た後、再被害に遭って繰り返しシェルターに入る方もいます。でも最後は、自分で生きていかなければなりません。再び虐げられることがないよう、依存せず、自分の力で生きていく知識や知恵を身につけてもらえるような支援がしたいと思っています。

そのための教育にも今、力を入れています。本格的な心理カウンセリングは、自己治癒力が非常に高くなるものです。セルフカウンセリングの手法を用いながら、自分の内なる声を聞き、自分の力で生きていくためのヒントや方法を書いた冊子の制作も手掛けています。

(「スイートピーの花言葉は”門出”、”別離”。カスミソウは”感謝”。女性や親子がつらい過去から逃れて、新しい門出を迎える日までお手伝いさせていただけることに感謝します」)

チャリティーは、女性や親子に必要な物品を購入するために活用されます!

(応援企業から贈られたたくさんの日用品。「シェルターにて大変役立っています」)

──最後に、チャリティーの使途を教えてください。

山本:
チャリティーはシェルターに入居している女性や、シングルマザーとして子育てする女性とその子どもたちの生活に必要な物品の購入費、自立に向けて、就職面接などに必要な身だしなみを整えるもの(衣類、靴、化粧品など)の購入のために活用させていただく予定です。ぜひ、アイテムで応援いただけたら嬉しいです。

──貴重なお話をありがとうございました!

(毎月開催の理事会にて、スタッフの皆さんと。「みんな優しい笑顔です。スタッフ全員心はひとつ、『誰一人、虐げられることのない世界のために』」)

“JAMMIN”

インタビューを終えて〜山本の編集後記〜

DVや虐待からの避難、身の安全を確保することがまず第一ですが、その後、やがて自分の足で生きていかなければならない時がやってきます。生きていくための必要な知恵や知識を身につけ、奪われた力を回復していくことがいかに大切であるかということを感じるインタビューでした。
民間シェルターの法整備が整うのはまだまだこれからとのことですが、つらく苦しい思いをしている方や親子が取り残されず、包括的な支援を得ながら自分らしさを取り戻していくことができるようにと願います。

・オリーブの家 ホームページはこちらから

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【2023/3/27~4/2の1週間限定販売】
「ノアの方舟」の話では、大雨の後に新しい大地を見つけた証として、放った鳩がオリーブの枝を加えて方舟に戻ってきたと書かれています。困難を乗り越えて、希望に満ちた新しい大地を見つけてほしい。そんな願いをデザインしました。

“If you believe in yourself, anything is possible(自分を信じられたら、なんでもできるよ)“、という言葉を添えました。

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JAMMINは毎週週替わりで様々な団体とコラボしたオリジナルデザインアイテムを販売、1点売り上げるごとに700円をその団体へとチャリティーしています。
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