多胎の子育てを支援、「誰もが命の誕生を当たり前に喜べる社会」を目指す〜NPO法人つなげる

周囲に頼れる人がいない、SOSが出せない…。
子育ての大変さを、JAMMINでも何度かご紹介してきました。

一人でも大変な子育て、多胎（双子や三つ子）を育てるとなるとどうでしょうか。
二人を同時に抱けない、あやせない、一人が泣き止んだらもう一人が泣き出して、睡眠時間がどんどん削られる…。心身を追い詰められていくお母さんたち。
「”ここにいるよ。あなたは一人じゃないよ”と伝えたい」と、多胎育児を中心に子育てを支援するNPOがあります。

代表の中原美智子（なかはら・みちこ）さん（51）も、双子を育てる当事者。

「子育ての中で孤独に感じることがあっても、その人が必ず持っている力を、信じていてほしい。あなたが頑張っていることを知っているよ、まずはあなたが生きていてくれることにありがとう、ということを伝えたい。子どもの健やかな成長を考えた時、親が笑顔でいられることが何より大切」

そう話す中原さん。
活動について、お話を聞きました。

（お話をお伺いした中原さん）

INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2023/02/06

「命の誕生を当たり前に喜べる社会」を目指して

（『oVice』というオンライン会議用サービス使い、多胎を育てるママパパが気軽に音声で話ができる「ふたごのひろば」）

──今日はよろしくお願いいたします。最初に、団体のご活動について教えてください。

中原：
「誰もが、命の誕生を当たり前に喜べる社会」を目指して、『育児を、みんなで育てよう』を合言葉に活動をしています。現在、多胎のママパパを対象に、主にオンラインでの交流や相談支援を行ってきました。もちろん、多胎が活動の中心ですが、多胎以外のことは考えませんということでありません。
多胎・単胎にかかわらず、子育ての中でしんどさを抱え、「うまくできない」と自分を責めたり、孤独を感じているママパパは少なくありません。その時に、「自分だけじゃないんだ」と思える場所があることが、まず何よりも大切です。そこが起点となって、ご自身で力を取り戻していけるような支援がしたいと思っています。

──なるほど。

中原：
「誰もが命の誕生を当たり前に喜べる社会」という目標をかかげていますが、これは子どもの誕生だけでなく、この世に生きる一人ひとりが、自分の命を大切にできる社会であってほしいという思いを込めています。
人は、一人では生きていけない。まずは自己を肯定し、受け入れ、愛してあげられること。子育てにおいても、まずはママパパが自分を肯定できることが、非常に大切だと思っています。

（地域で活動する多胎サークル「尼崎ふたご LINE」。「室内遊びや外遊び、夕暮れひろばなど、様々な場所と時間で交流する機会を作っています」）

情報が少なく、一般的な認知が低い
多胎の子育て

（オンラインの支援サービス「ふたごのへや」と「ふたごのひろば」。「ふたごのへや」はLINEオープンチャットで、多胎ママパパなら無料で参加することができる。「匿名だからこそ、ふだんは口に出せないつらい悩みを話せることもあります」と中原さん）

中原：
多胎の子育てとなると、単胎育児とくらべて極端に情報が少なくなり、適切な知識や経験を得ないまま、疲弊してしまうママパパが少なくありません。

──どういうことでしょうか。

中原：
子育てにあたり、育児書を読んだり保健師さんやご自身の親からアドバイスをもらったりしますが、単胎育児を前提としているシーンが多くみられます。

たとえば、自分の母親に「子どもの夜泣きで眠れない」とこぼすと「子どもは泣くものだから、仕方ない」と返される。でも、それが一人じゃなく、二人や三人だったらどうでしょうか。双子や三つ子が皆、同時に泣くわけではありません。一人が泣き止んだと思ったらもう一人が泣いて、その子が泣き止んだと思ったらもう一人がまた泣き出す…、ママは休まる間がありません。

保健師さんからは「授乳するときは、赤ちゃんの目をみてあげてください」とアドバイスをもらうのですが、双子や三つ子ではどうやってもできません。どうにかがんばって、まずは一人に集中してミルクをあげたいと思う。でも、もう一人がわんわん泣く。「なぜ、私はうまくできないんだろう」と自信を失くすママは少なくありません。

ずっと赤ちゃんに付きっきりなので、自分の時間はおろか、寝る時間も食べる時間もない。代わる代わる泣く子を一晩中抱え続けて、腱鞘炎になってしまったママもいます。

（「ふたごのひろば」で開催されている「つなげる相談室」。「アバターで参加するので、お顔をだす必要はありません。ご利用には、事前に母子健康手帳の登録が必要です」）

──多胎の育児が、一般にまだまだ認知されていないのですね。

中原：
そうですね。多胎育児に関する情報の少なさ、多胎の子育てが知られていないということは、一つ大きな課題です。育てる当事者や周りの人たちが、「多胎の子育ては単胎と同じようにはいかない」ということを、まず知ることが大切です。

もう一つの課題は、社会構造にあると感じています。
多胎・単胎にかかわらず、子育てについて「母親が一人で頑張るもの」という意識が、まだまだあると感じています。そのような雰囲気の中で、ママは「産むと決めたのは自分だから頑張るしかない」と、誰にも助けを求められない。「子育ては自己責任」のような風潮の中で、そこに多胎育児特有の悩みが重なると、ママはもっともっと大変になって、無力感や閉塞感を強めてしまうのです。

──確かに。

中原：
そういったところを解消するために、私たちはオンラインの支援サービスを行っています。
通話アプリ『LINE』のオープンチャットで気軽に相談やおしゃべりができる「ふたごのへや」と、『oVice』というオンライン会議用サービス使って気軽に音声で話ができる「ふたごのひろば」は、時間や環境に縛られず、参加したい時に参加できるし、バーチャルだからこそ気にせずに話せる、というメリットもあります。同じように多胎の子育てをする親同士、悩みを共有し、励まし合える場所です。

それとは別に、相談員が個別にオンラインで相談に乗る「つなげる相談室」や、テーマを決めて話し合ったり、双子ママ弁護士さんが相談に乗ってくれる会などもオンラインで開催しています。

（「まずは、『私だけじゃないんだ』を知ってもらうために、多胎ママパパと接点をたくさん増やしたいです」）

「心身を消耗し、恐怖と闘っていた」

（中原さんの双子のお子さんの幼い頃。「私が近くにいると嬉しそうに笑う双子の姿がかわいいと思いましたが、泣き声が怖くなることもありました」）

中原：
相談されるママの中には「外に出られない」と、つらそうに話される方が多くいます。世間的にはどうしても「かわいい」が先行して、それはもちろんそうだし、そう言ってもらえると嬉しいのですが、なかなか多胎育児の現実が知られていないところがあります。

双子が代わる代わるずっと泣いていると、知らないご近所さんから「泣き声がうるさい」「虐待やネグレクトではないか」と言われることがあったり、双子が歩けるようになると、どちらも視界に入るように少し離れた距離で子どもを見るのですが、「近くで見なさい」とか「ちゃんと世話していない」と小言を言われることもあったりするんです。

──確かに…。考えてみたことがありませんでした。

（県立高校での講演会の様子。「多胎育児の困難さを伝えつつ、生きづらさを感じたからこそ、目標にむかって一歩ずつ進んでいくことの大切さをお伝えしています」）

──中原さんも双子のママですが、お子さんが小さい頃、ご自身がいちばん大変だったことはどんなことですか。

中原：
先に長男の子育ての経験があったので、双子の子育ての中で「多胎育児はこんなにも違うんだ」と感じることが多々ありました。私は暴力の絶えない家庭に育ったので「私は虐待はしない。虐待を連鎖させない」と心に誓って子育てをしていましたが、双子の育児で心身を消耗し、追い詰められ、その一線を超えてしまいそうになったことがありました。

一線を越えることで親を理解できるのなら、どれほど楽になるだろう…と考えてしまうこともありました。自分が変わってしまいそうで、とても怖かったです。

──そうだったんですね。

中原：
環境的なことは、大きかったです。双子のベビーカーは重くて、街中の段差や階段で運ぶことは難しく、横幅もあるので、狭いトイレやエレベーターに入れません。出かける際は事前に調べて行くようにしていましたが、それでもわからないこともありますよね。一度、出先のトイレが狭く、どうしても双子ベビーカーを入れることが無理で、子どもたちが連れ去られてしまうかもしれないという不安と恐怖を感じながら、一人で個室に入ったことがありました。

もうひとつは、「人手がない」ということ。おっぱいをあげるのも、離乳食を作り、あげるのも二人分。それをすべて一人でやるのは限界がありました。二人とも同じように食べてくれるわけではありません。一人に食べさせることに集中してもう一人から目を離した隙に、お皿をひっくり返したり、泣いたり、喉につまらせたり…。

近所のママ友に、ある日「つらいんだ」と連絡をしたら、1、2ヶ月間、中学生のお嬢さんが放課後、離乳食をあげるために来てくれました。それはすごく助かりました。離乳食をあげるのもそうですが、私にとっては唯一の話し相手にもなってくれたんですよね。

（双子ベビーカー。「写真は、つなげるのメンバーの双子ちゃんです。エレベーターなどもギリギリの幅だったりします。双子と荷物を載せると、30キロを超えます」）

「望んだ場所へ、いつでも、自由に行きたい」

（「子どもたちにせがまれて、行きたかったけれどずっと行けなかった場所へ行った時の一枚です」）

中原：
双子の子育てに追われ、なかなか外出できず、それでも育児書には「情緒的な発育のために、天気の良い日にはお散歩に行ききましょう」と書いてある。それができない自分を責めたし、子どもたちの情緒の発達に、なにか悪い影響を与えてしまうのではないかと不安でした。「私がこの子たちの体験の機会を奪っているのではないか」と。二人にものすごく申し訳なく感じていました。

もっと自由に出かけて、この世界のいろんなものを見せてあげたい。そのためには、双子と一緒に乗ることができる自転車が欲しいと思いました。望んだ場所へ、いつでも自由に行くことができる手段がほしい。そう思って「ふたごじてんしゃ」を創りました。その後、量産化できる企業と手をくむことができ、2018 年同じような悩みを抱えているママたちに届けることができました。

（現在販売されている「ふたごじてんしゃ」。「日本で初めて、未就学児を2人同時に送迎できる3輪自転車です」）

──ふたごじてんしゃから、どんなふうに団体立ち上げへとつながっていったのですか。

中原：
自分と同じように、外に出られない人にこの自転車を届けたい。そう思って試乗会を開催すると、多くの方が足を運んでくださいました。自転車に困っている、それももちろんそうなのですが、あくまでそれは副次的なことであって、根本の課題は別のところにあることがみえてきました。

「本当はもっとこうしてあげたい」「本当は働きたい」「周りから理解をしてもらえない」「孤独」「経済的な負担が大きい」「なんで双子を産んじゃったんだろう…」。試乗会に足を運んでくださったママたちが、泣きながらポツリポツリと話してくれました。当時、家出少女の支援をしたいと思い、社会福祉士の資格をとるために大学へ通っていたのですが、双子ママたちの声を聞いた時に、「私は、双子家庭を支援しよう」と決めたんです。

（「ふたごじてんしゃ」の試乗会の様子。「ふだんお出かけが難しく、公園になかなか来ることができない多胎家庭なので、試乗会は皆で遊びに来られるようにと、公園での開催が多いです」）

自分の力を信じて、ワクワクしながら目的地に向かう。
そのために、周りの力が必要

（行きたい場所へ、願った場所へ行く権利が、誰にもある）

──すごくアクティブに活動されてこられた、中原さんのモチベーションを教えてください。

中原：
私は、自由でありたかった。「どう生きるか」は自分で決められる。自分が子どもたちと幸せに生きたいと思えば、必ずそうできるんです。「双子だからできない」ではなくて、「あそこに行くんだ！」と旗を立てた目的地に向かって、「どうやったらたどり着けるかな？」とワクワクしながら進んでいきたい。ただ、一人ではそれはかなえられないと思うんです。

疲れた時はちょっと休んで、大変な時は「ちょっと手伝って」と周りの人に助けを求めたらよいのではないでしょうか。できない自分を否定することなく、自分自身の力を信じて、生きていけるのではないでしょうか。

多胎に限らず、単胎の子育てをするママからもさまざまな悩みを伺います。多胎だからということを訴えたいのではなく、子育てにはそれぞれに大変さやつらさがあって、その一つひとつを受け入れ、認め合いながら、子どもが育つ、この社会自体を変えていくことができればと思っています。

子どもたちが幸せになるためには、親が幸せであることが大切。
ママの「ごめんなさい」「すみません」を、「ありがとう」「助かった！」という言葉に変えていきたい。子どもが一人でも二人でも三人でも、「私は（子育てが）できたのに、なぜあなたはできないの」とか「自分の子は、自分で面倒を見て当たり前」ではなく、「なんか大変そうだな」という状況に直面した時に、「手伝いましょうか」「ちょっと手伝ってください」と声を掛け合って、お互いにお願いができる、助け合える社会を作っていきたいと思っています。

（地域ふたごサークルの活動風景。「皆で子どもたちをみています。手が足りないこともあるので、ピアサポさんが見守りで来てくれることもあります」）

チャリティー使途

（「ふたごハウス」にて。「夕ご飯をみんなで一緒に食べています。準備するママ、遊びを引き受けるパパ、食事をフォローするママなどみなで分担しています」）

──最後に、チャリティーの使途を教えてください。

中原：
実は今、尼崎市に「ふたごハウス」を作っているところです。これまではオンラインが主な活動拠点でしたが、リアルな居場所があることで、オンラインとはまた違った支援ができると思っています。

──たとえば？

中原：
双子の沐浴で手が足りない、ミルクや離乳食をあげるのはどうしたらいいかといった悩みが多く寄せられます。ここで沐浴をお手伝いしたり、皆で離乳食を食べさせたり、つらさやしんどさ、悩みを抱えたママパパたちが「一人じゃないんだ」と感じられる、第二の実家のような場所を目指しています。「ふたごハウス」と呼んでいますが、一人っ子や年子さんも、もちろん大歓迎です！

2月25日にオープン予定ですが、まだまだこれから。
多胎育児に特化した居場所は、私が知る限り、日本にはありません。近くの方はもちろん、日本各地から「旅行ついでに寄ってみよう」と足を運んでもらえるような、子育ての拠点にしていきたいと思っています。

マンションの一室を市から安く借りていますが、場を維持するためには、月々最低3万円が必要です。今回のチャリティーは、この場を運営していくための資金として活用させていただきたいと思っています。ぜひ、チャリティーで応援していただけたら嬉しいです。

──貴重なお話をありがとうございました！

（「ふたごつなげるカーニバル2022」を、東京都大田区で開催。「2023年も開催予定です！ぜひ遊びにきてくださいね」）

双子の友達やお知り合いって、皆さんも思い浮かぶ方がいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、とにかく知られていないその子育て。中原さんのお話を伺いながら、「言われてみたら、確かにそうだ」と思うことが本当にたくさんありました。多胎育児が大変で、単胎育児が楽というわけでは決してありませんが、もしかしたらどこかで無意識に「単胎育児（一人の子育て）」を前提にはしていないか。これは社会のサービスにおいても言えることだと感じました。決して難しいことではなく、どんな子育ても、どんな環境にあっても「手伝って」と言い合える関係が増えていけば、良い方向に変わっていくことがたくさんあるように思います。改めてそう感じるインタビューでした。

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