CHARITY FOR

「娘がこの世に生まれてきた意味を、見つけてあげたい」。患者家族会として、難病「レット症候群」の治療法確立を支援〜レット症候群支援機構

原因不明・治療法未確立の難病「レット症候群」をご存知ですか。
1万人〜1.5万人に一人の確率で生後半年〜1年半の女の子に発症する、進行性の神経疾患です。

谷岡哲次(たにおか・てつじ)さん(45)の娘の紗帆(さほ)さん(14)は、2歳でレット症候群と診断されました。

生後1歳を過ぎた頃、それでまでできていたハイハイや一人座りができなくなり、そのうち歯ぎしりをしたり、手を口元に持っていったりといった行動が増えていった紗帆さん。「何かある」と感じた谷岡さんは、インターネットで情報を収集し、レット症候群にたどり着きます。住んでいる大阪から九州までレット症候群診断の第一人者である医師を訪れ、紗帆さんはそこで初めて、診断を受けました。

「今の医療では、レット症候群の治療法はありません」。医師からそう告げられた帰りの新幹線で、谷岡さんは治療法を見つけるために団体を立ち上げることを決意。2011年にNPOを設立し、今年で12年目を迎えます。

全国のレット症候群の患者家族とつながりながら、一方で治療法につながる研究を支援したり、製薬企業に出向いたりと一歩ずつ歩んできた谷岡さん。2021年10月には患者家族専用のアプリをリリース。患者家族とのつながりを生かし、次のステップへと大きく進もうとしています。

紗帆さんは今、特別支援学校に通う中学3年生。笑顔がとっても素敵なお姉さんです。
谷岡さんのご自宅にお伺いして、お話を聞きました!

(谷岡さんと紗帆さん。大阪のご自宅にて)

今週のチャリティー

NPO法人レット症候群支援機構

女の子だけに起こる不治の難疾患「レット症候群」を支援する団体。活動を通じレット症候群の認知を進めると同時に、根本的な治療法の開発を目指している。

INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2023/01/16

1万人〜1.5万人に一人の確率で発症する難病
「レット症候群」

(遺伝性疾患情報専門メディア「遺伝性疾患プラス」と医療従事者を対象とした医療ポータルサイトを運営する「エムスリー株式会社」のコラボイベントにて。「同じレット症候群の子どもたちと、啓発カラーであるパープルのドレスを身にまとい、プロのヘアメイクさん、カメラマンさんによって『アイドルのような写真を撮りたい』という夢をかなえてもらいました」)

──今日はよろしくお願いします。最初に、レット症候群について教えてください。

谷岡:
レット症候群は、女の子に発症する難病です。生後半年〜1歳半までごく普通に成長していたのが、徐々にできないことが増えていってしまう。遺伝子の突然変異で起こるといわれています。
症状の幅は広いですが、ほとんどの子が言葉を発さず、てんかんや側弯症、睡眠障害や息堪えなどを併発します。また、「常同行動」と呼ばれる、手の異常な行動が特徴です。

(レット症候群の診断基準の一つとして、手を揉むような動作や、手を口に持っていくなどの異常な常同行動がある)

谷岡:
娘の紗帆は、2歳の時にレット症候群と診断されました。それまでできていたことができなくなっていく姿を見守ることしかできず、できることなら代わってあげたい、もし自分の命と引き換えに紗帆が普通の子になれるなら…、「神様、できるならそうしてください」と何度も願いました。

代わりになることができないのなら、他の行動で、できるだけのことをやるしかない。根本的な治療法開発のために、患者家族として声を上げ、研究者のつながりをつくることを目的に団体を設立しました。

これまで累計1600万円の研究助成を行ってきましたが、未だ治療法の確立には至っていません。ただ海外では、症状を緩和する薬の治験が最終段階にきており、結果も悪くないとのことで、遠からず日本にも入ってくるのではないかと考えています。

(「少しずつできないことが増えていく中でも、できるだけ楽しく家族で過ごす時間を大切にしてきました。写真はまだ一人でお座りができていた2歳頃、家族旅行での一枚です」)

谷岡:
根本治療としての遺伝子治療についても進展が見られます。
日本の企業が、レット症候群の遺伝子治療について海外の製薬企業と業務契約を結びました。これまで、この分野に積極的だったのは海外の企業ばかりで、日本の企業が名乗り出たことで、日本のレット症候群の治療が大きく前進するのではないかと思っています。夢物語だと思っていた遺伝子治療が、いよいよ現実として近づいてきたなと感じています。

そんな中で、治療法や薬の開発をバックアップする体制を作ることが、我々患者家族会としてできることではないかと思っています。患者家族会としてのネットワークを生かし、前進を支えたいと思っています。

(「名古屋大学の研究者の方により、レット症候群モデルマウスの脳構造の異常が、MRIを用いて特定されたとの発表が出ました。現在、人でも同じような異常が特定できるか、患者会からも多数研究協力をしています。紗帆もMRI投影の協力をしてきました」)

患者専用アプリ「レッコミ」をリリース。
治療法確立にも役立てる

(レット症候群患者専用のSNS『レッコミ』。「患者同士のコミュニティのツールとなるのはもちろん、登録されているレット児の症状等の情報は、個人情報が守られた状態で、今後の研究開発にも役立てられます」)

──日本に、レット症候群の方はどのくらいいるのですか?

谷岡:
詳しい数字はわかっていませんが、20歳以下で1000〜1500人いると言われています。私たちの会員さんで80名ほど、他の患者家族会さんを全部合わせても、多く見て300人ほど。どこの家族会にも属していない方が2/3以上と、割といらっしゃいます。

SNSが発達した今、特に患者家族会などに入らなくても、症状や治療、日々の生活に関する情報はどんどん得られます。これはレット症候群に限らず、どの疾患でも言えることだと思います。家族会に入らなくても、特に不便はありません。

(研究者と患者家族との、オンラインの意見交換会。「現在行われている研究の進捗等の説明とあわせて、患者と研究者さんとの距離を縮める交流も兼ねました」)

谷岡:
ただ、それだといざという時、先ほども言ったように薬の治験をしたいとか、何歳代の患者や家族の情報や意見を知りたいという時に、なかなか人が集まらないということがあります。

──患者家族がそれぞれ点で存在して、つながっていないということですね。

谷岡:
そうです。そんな面からもつながりを持っていたいという思いもあって、2021年10月に、レット症候群の患者家族が登録できる「レッコミ」というアプリをリリースしました。基本的に、患者家族であれば誰でも無料で登録できます。登録者の数は現在、300名程度になりました。

登録の際に住んでいる地域や症状、年齢などをある程度入力していただくので、同じ症状を持つ方同士でつながり、悩みや不安を相談したり、治療や症状、地域などに関する情報交換ができる場となっています。

(アプリ開発のための打ち合わせの様子。「アプリの開発はもちろん初めて。仕事の合間に業者さんと念密な打ち合わせをしました。参考にできるようなアプリもあまりなく、手探りでイメージを伝え、約半年かけて開発しました」)

谷岡:
たとえば「睡眠障害」と検索すると、該当する方が出てきて、その中からさらに年齢や地域を絞り、近くに住む、年齢の近い方を探したりすることもできます。先日は、中部エリアに住んでいる方たちでオンラインの集まりを開催されていました。

患者家族同士が交流し、支え合うピアサポートとしての役割はもちろん、製薬企業や研究者がレット症候群の人たちの状況を把握するためのアンケートや、治験のリクルートの際にはプッシュ通知でお知らせし、協力をお願いしています。今日もこの後、研究者や製薬企業の方と打ち合わせがあるのですが、当事者や家族が何にどれだけ苦しんでいるか、より密な情報が得られるツールがあるという点は、治療薬や治療法の促進にも大きく貢献すると考えています。

(「コロナ禍という事もあり、ここ数年は対面で集まれることも少なくなっていましたが、写真撮影イベント時に、4家族で対面交流することができました。この時は残念ながら、子どもたちは皆、それぞれ移動と撮影でお疲れ気味でしたが…」)

──患者家族だけでなく、専門家も巻き込む。とても良い流れですね。

谷岡:
アプリに関しては、まだまだ改良が必要だと感じています。今は写真の投稿ができないんですが、写真も投稿できるようにしたいですね。ただ、アプリ開発や維持にはかなり費用がかかります。開発には260万円かかったのですが、偶然、コロナで2年間、毎年開催していたシンポジウムが開催できず、それで残してあったお金を開発に回すことができました。
結果として良い方向に進めたので、よかったです。

(2022年、福岡で開催された小児神経学学術集会にて、「患者会と進めるレット症候群の研究」というテーマで講演した谷岡さん。「研究班のメンバーの方々と、久しぶりにお会いすることができました」)

レット症候群と診断されて13年。
「この先の10年で、いろいろ動きそうな気がしている」

(療育センターでリハビリを頑張る紗帆さん。「できるだけ足を踏ん張る体制をとって頭を起こす訓練中。すぐに頭が下がってしまうので、大好きなアンパンの音楽を聴きながらなんとか持ちこたえているところです」)

──紗帆さんがレット症候群と診断されてからの13年を振り返って、いかがですか。

谷岡:
一瞬でした。
活動を始めた頃は「5年後ぐらいに製薬企業と結びついて、10年後ぐらいに薬が開発されないか」と思っていましたけど、なかなかですね。気づけば10年経っていたという感じです。でもこの先の10年で、治療法に関するいろいろなことが動きそうな気がしています。

団体として活動を初めて11年、患者家族、製薬企業、研究者…、団体としてのつながりはできてきたと実感しているので、あとは点と点をつなげていく。それがアプリだったりするかなと思います。研究の助成も、今後もっとできたらと思っています。

(2017年には各国の著名な研究者を招き、国際シンポジウムを開催した。「莫大な費用と時間と労力を費やしましたが、海外の研究者や患者家族会とのつながりもできました。海外の研究者の皆さんは、通訳の方を通してではありましたが、懇親会ではとても気さくに話してくださいました」)

谷岡:
紗帆の場合は、症状が出始めてから、参考になる情報は少なく、いろんな病院を回り、レット症候群と診断がつくまでに1年かかりました。今は情報もたくさんあるし、アプリも作ったので、その点は良いのかなと思います。

この10年で、一般の方の認知も増えてきたと感じています。
以前は「レット症候群」と調べても情報はわずかで、それもネガティブで暗いものばかりでした。それが今は、積極的にポジティブな情報を発信する方も増えてきました。

(取材中、やさしくてお茶目な、大人たちの会話を全身で楽しんでいるような笑顔を、何度も見せてくれた紗帆さん。不意に目があった瞬間の一枚)

谷岡:
今後は、啓発活動にももっと力を入れていきたいと思っています。
レット症候群のことを知ってくださる方が増えたら、それだけ関心が集まり、治療法確立が前に進むからです。
企業とコラボして、何か一つ寄付付き商品を作っていただき、病気に対する啓発と寄付が同時にできるようなことができないかなと考えています。

(パープルのアイテムを使ってレット症候群を啓発する「パープルチャレンジ」にも挑戦中。「ワインが作られるブドウも紫。山梨のワイン酒造会社の社長さんと、ブドウ畑を視察しました。レット症候群の啓発も兼ねて、寄附付きのワインの販売を調整中です。3月には京都で、ブドウの木の植樹会にも参加予定です」)

「紗帆がこの世に生まれた意味を、見つけてあげたい」

(2021年の春に、側弯症を矯正するための大きな手術を受けた紗帆さん。背骨の弯曲を矯正する為に、金属の棒を23本ものボルトで固定した(写真左が手術前、右が手術後)。「10時間にも及ぶ手術で1カ月の入院生活。いつも見せてくれる笑顔とは裏腹に、少しずつ進行している様々な症状を前に、自分の無力さを痛感しました」)

──紗帆さんに対しては今、どのような思いを抱かれていますか。

谷岡:
もうかわいいかわいいで。顔にどれだけチューしても、普通の中学3年生だったら嫌がるのに、ニコニコ受け入れてくれる。かわいくて仕方がないです。

紗帆は次の春に、高校に上がります。高校に3年間通った後、日常をどうしようかなというのが、今考えているところです。

(「今日までを振り返ってみると一瞬ですが、2歳で診断がつくまでがしんどかったです。本人もきっとつらい思いをしていた中で、レット症候群と診断がついたことで、向かっていく方向が見えたところがありました」と奥さまの陽子さん)

谷岡:
紗帆は働けないので、就労支援に通うことは難しい。そうなると生活介護か自宅でみるかという選択肢になるのですが…。たとえばパソコンのソフトを使って視線で絵を描くとか、本人が熱中できる好きなことで、それが社会との接点になるような場所があればいいなと思っていて、できることを模索しています。

──ずっと走ってこられた谷岡さんですが、モチベーションを教えてください。

谷岡:
紗帆がこの世に生まれてきてくれた、その意味を、生きている間に見つけてあげたい。それがモチベーションです。

(「最近は、何気ない瞬間にかけがえのなさを感じています。この写真は、大きな手術を前に、近所の桜の木の下で撮った一枚。春の暖かさとそよ風を感じながら、ほほ笑む紗帆の笑顔を改めて宝物だと感じた日でした」)

チャリティーは、レット症候群の研究を一歩前に進めるために、アプリの運営費、研究助成費として活用されます!

(「とあるイベントでブースを出展させていただいた時のこと。チャリティーとは無関係のイベントで関心を持ってくださる方がほとんどおらず、場違いなところに来てしまった…と落胆していたところ、2人の少年が興味を持ってくれて、自分のお小遣いから募金をしてくれました。思わず『いや、いいよ、気持ちだけで』と言っても『大丈夫!』と募金をしてくれたことに、とても救われました」)

──読者の方へ、メッセージをお願いできますか。

谷岡:
レット症候群を、まず知っていただきたいです。少しでも興味を持ってもらえたら、ホームページを見る、友人に伝える、どんな小さなことでも良いので、私がイベントで出会った少年たちのように、何か一つ、自分にできるアクションをしていただけたら嬉しいです。

(自宅の庭で、紗帆さんの妹分でもあるトイプードルの「フーちゃん」とまったり。「フーちゃんを見つめる表情が、ちょっとだけお姉ちゃんに見える…?」)

──最後に、チャリティーの使途を教えてください。

谷岡:
チャリティーは、レット症候群の治療法確立に向けて、患者専用アプリ「レッコミ」を継続して運営していくための資金、治療に関する研究を助成する資金として活用させていただく予定です。ぜひ、アイテムで応援していただけたら嬉しいです。

──貴重なお話をありがとうございました!

(インタビュー後、紗帆さん、谷岡さんを囲んで!)

“JAMMIN”

インタビューを終えて〜山本の編集後記〜

4度目のコラボとなるレット症候群支援機構さん。今回初めて、紗帆さんにお会いすることができました!ニコニコと愛嬌いっぱいで、とってもかわいい紗帆さん。透き通るような瞳は、心の中まで見透かしているようでした。言葉を発さない紗帆さんですが、すべてを知り、すべてを理解し、またすべてを出して、前を向いて生きている。直感的にそう感じました。私たちを見てケラケラと笑ったり、スキップしたりしている紗帆さんを感じたんです。

帰り際、私は紗帆さんから「お姉さんも、がんばってね!」と声をかけてもらったように感じました。紗帆さんが私に力をくれたように、私も自分の持っているもので、それがたとえ小さな力でも、世の中を前向きにできる。治療法確立のために、ぜひ応援いただけたら嬉しいです。

・レット症候群支援機構 ホームページはこちらから

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JAMMINは毎週週替わりで様々な団体とコラボしたオリジナルデザインアイテムを販売、1点売り上げるごとに700円をその団体へとチャリティーしています。
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