日本の10歳〜39歳の死因の第一位は自殺であることをご存知ですか(国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集2022」より)。
コロナ禍でさまざまな活動が制限されてきた中で、子育てや子どもたちにもさまざまな影響があり、生きづらさを抱えている人が少なくありません。
「ただでさえ『子育てをちゃんとしなくちゃ』と思っているお母さんたちにとって、さらに輪をかけるようなコロナによるさまざまな制限。極限状態だったと思います」と話すのは、今週JAMMINがコラボするNPO法人「くさつ未来プロジェクト」代表の堀江尚子(ほりえ・なおこ)さん(50)。
「今こそ、大人たちが声をあげるべき」と堀江さん。子どもたちが夢を持てる社会へ、好きなことや夢が「どうせ無理」と否定されず、「やってみよう!」となるために、「挑戦が連鎖する社会を作りたい」と話します。
好きなこと、興味があることは、生きる何よりの力になる。
活動について、お話を聞きました!
(お話をお伺いした堀江さん)
NPO法人くさつ未来プロジェクト(KMP)
子育て世代に対し、親になる方法を学ぶ機会と世代を超えさまざまな人とつながるきっかけを提供し、「大人も子どもも夢を持ち実現できる社会」を目指して活動しています。育児サークル運営のほか、各地で「子どもロケット体験教室」を開催。「思うは招く」を全国に広げています。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
RELEASE DATE:2023/01/09
(2011年に開始した「玉っこひろば」は「地域とつながる!」がテーマ。写真は、年に2回の芋ほりの様子。「7年目の開催となりました」)
──今日はよろしくお願いします。最初に、団体のご活動について教えてください。
堀江:
ベースの活動は、未就園児の居場所づくりです。親子で通える「たまっこひろば/にじっこひろば」、一緒に料理をする「幸せキッチン」、英語学習の「ダブルレインボー」など、関わってくれているスタッフの得意分野で居場所作りをしています。
特に需要が高いのが、子どもを預かる「キラキラキッズ」。実家の代わり、親戚の代わりに「子どもを預かって見ておくから、お母さんはしっかり休んでね」という事業です。
(料理教室「幸せキッチン」。「子どもが小さいうちは、手間がかかったり危なかったりで、なかなか作れない揚げ物も、みんなで作ればあっという間。夕ご飯用お総菜のお土産付きで、帰宅後の負担も軽減!」)
堀江:
自分の3人の子どもたちの成長、スタッフの得意なこと、その都度感じてきた地域の課題に合わせ、「こんなのがあったら良いな」を一つずつかたちにしてきました。今は小中学生向けに、夢を持つこと、それを追うことの大切さを伝える「子どもロケット体験教室」なども開催しています。
「子どもを守る手は、いくつあってもいい」というのが、私たちの思いです。
子育ては正解を追いがちだし、一人で抱えてしまいがちです。そうすると余裕がなくなり、子どもを否定したり、虐待したりしてしまうことがある。「正解はいくつあってもいいんだよ」ということを伝えたくて、子どもも大人も、いろんな人やいろんな価値観と出会える場を作るために活動しています。
(「我が子はかわいいけど、ずっと抱っこで、片時も目を離せない…。ママの身体は悲鳴を上げます。子どもを抱っこする手はいくつあってもいいのです」)
(コロナ禍での活動の様子。「冬でも窓は全開で、マスクをして、アクリル板越しで…、それでもやっぱりみんなと活動できるのが楽しいし、嬉しい。もっともっと子どもたちに体験の機会を!」)
堀江:
コロナは、子育て世代や子どもたちにとって大きな影響を与えています。
私たちが活動を始めた15年前、知らない土地で、知り合いもおらず、子育てサークルなどもなく、子育ては非常に孤独でした。今、その頃以上に大変な状況にあると感じています。
子育てや子ども向けのイベントは軒並みキャンセル、市民センターや図書館、公民館などは真っ先に閉じました。保育園や幼稚園も一時預かりをストップしていたし、実家を頼りたくても、帰省することもできない。
子どもと片時も離れられず、同世代のママたちと知り合うこともなく、一方で旦那さんはリモートワークでずっと家にいて、子どもが邪魔をしないか気を使いながら、「ダメ!ダメ!」と言い続ける育児。もちろんお母さんが息抜きできる場所も時間もない…。
私たちは公共の場を借りて居場所事業をしてきたので、これも軒並みストップせざるを得ませんでした。でも、一人で子育てはできないから、こういう時こそ、本当は支えたかった。
皆で集まれない、一緒に歌が歌えない、ご飯が食べられない…。だけどリアルな体験は、こんな時だからこそ必要なんです。それを強く言える状況ではなかったし、場所を借りている以上、閉まると何もできない。悔しいと思いましたね。
(「『コロナでイベントは中止、外出や旅行も控え、今年は一度も家族でお出かけしなかったので家族写真が一枚もないんです』。そんな声を受け、2021年の思い出作りに100組の親子で、空に向かってバルーンを飛ばしました」)
堀江:
それでも一軒ずつご自宅を訪問したり、あるいは野外で、場所が開いてからは定員を減らしたり感染症対策を行いながら、できるかぎりつながり続けるようにしました。
外出できない、人に会えない、人と出会えるようなイベントもない。人間関係を築ける機会がことごとくなくて、困った時に気軽に「助けて」といえる場所が、地域の中にない。とにかく、自分たちの都合では休まないようにしていました。
──そうだったんですね。
堀江:
お母さんたちからは、「よく辞めないでいてくれた」という声を多く聞きました。コロナで旦那さんも立ち会えず、病院で一人で出産して、張り詰めた中で子育てをしながら、「もう4ヶ月も5ヶ月も旦那以外の大人としゃべっていません」という方もいました。
(「コロナ禍、オンラインで育児サークルも行いました。とにかく活動を止めないこと。ママたちに『何かあったら頼ってね』って伝え続けることを大切にしています」)
(「昆布だし、いりこだし、市販のだしを味見!学校での調理実習はストップしているけどお味噌汁づくり、お醤油づくりなどを通して味覚を磨きます」)
堀江:
ただでさえ「子育てをちゃんとしなくちゃ」と思っているお母さんたちにとって、コロナはさらに輪をかけて「ああしなければならない」「こうしなければならない」が出てきて、極限の状態だったと思います。
子どもはどこにも寄り道できず、週末に出かけたり旅行に行ったりもできず、勉強や家で遊ぶ以外に逃げ場がない。好きなことを見つけたり、それに没頭したりする体験が、ほとんどできていないんです。
修学旅行、運動会、キャンプ…、楽しみにしていたイベントも突然中止になる。期待したのにがっかりする、その繰り返しは、子どもたちに「どうせ無理」という意識を植えつけてしまったところがあるように感じます。現場でも感じることですが、子どもなので言語化には至らなくても、「どうせダメなんでしょ」という意識が、小さなことでも発動しているような節があります。それは怖いことです。
──そうなんですね。
堀江:
ボール遊び禁止、大声を出すのも禁止、街の中からどんどん子どもが遊べる場所が奪われている上に、マスクをつけて、相手の表情もわからなければ、言いたいことも言えない。
そんな今だからこそ、大人がもっと大きな声で「子育てを手伝ってください!」と言ってあげないと。今こそいろんな人に会って、いろんな経験をして、いろんな大人の姿を見せてあげたい。
そうしないと、夢も希望もなくなってしまう。これ現場で子どもたちを見ていて直感として感じることで、3年後、5年後を考えるとすごく不安がある。危機感を抱いています。
(芋掘りにて。「周りの2〜3歳児に負けじと真似して掘る1歳の子。人は本来、何でもやりたい、何でも挑戦したい生き物だということを改めて感じる一枚です」)
(未就園児のパン作り。「自分で作り、自分で食べる体験です」)
堀江:
毎年、厚生労働省が年齢別の死因順位を発表しています。10~14歳、15歳〜19歳、20歳〜24歳、25歳〜29歳、30歳〜34歳、35歳〜39歳の死因の第一位は自殺なのをご存知ですか。
この状況に、何も感じない方がおかしいと思うんです。若い世代が、夢や自信を持てずに自ら命を経つということが起きているんです。
さらにコロナで行動が制限され、経験が削られ、閉塞感や子どもたちの生きづらさは増しています。ひずみが生まれてきています。
──確かに。
(「つながりが作りづらいコロナ禍でしたが、2021年に初めて、育児サークルの卒業式を行いました。子育ての早い段階で出会うことで、つらい時やしんどい時、一人で抱え込まずにお互いに声をかけ、助け合って子育てしていこう、という気持ちになってもらえたらと思っています」)
堀江:
子育ては、親や家族と学校の先生だけではできません。隣に住んでいる人、近所の大学生、犬でも猫でも、とにかくいろんな人が関わらないと人は育ちません。だから、いろんな人と価値観に出会える場所を作り続けること。微力かもしれないけど、悲観していても何もかわらない。コツコツやっていく以外に道はありません。
「いろんな考えがあるし、いろんな生き方があるんだから、死ななくていいよ。とにかく死ぬことだけはやめてください」と強く思っています。
「好きなこと、やりたいこと、自分の気持ちを、ありとあらゆる人に言ってごらん。絶対に応援してくれる人がいるから」というメッセージを伝えたい。周りの人から「おかしい」とか「どうせ無理」といわれるんだったら、そうじゃない世界があるんだよ、応援してくれる人が必ずいるよということを伝えたい。そう思っています。
(コロナ禍、2021年の思い出作りにと100組の親子でバルーンを飛ばした際の一枚。「皆で空を見上げて感動の時間を共有できたことは最高の宝物。良い思い出になりました」)
(ロケット教室にて、昨年から打ち上げできるようになった、ペーパークラフトの特大ロケット。「子どもたちのひときわ大きな歓声が響く瞬間です」)
──植松努さんのロケット教室も、そんな思いで実施されているんですね。
堀江:
言葉だけの大人はたくさんいます。でも、植松さんはそうじゃない。ずっと宇宙開発を続けています。子どもの頃、大人たちからダメだ、無理だといわれてもこだわりを捨てず、夢に向かい続けた植松さん。植松さんの講話は、ものすごく説得力があります。本当は、生で聞いてもらえるともっといいんですけどね。
ロケット教室は、植松さんの講話とセットになっています。植松さんのお話を聞いて、実際に自分の手でロケットを作り、それが空に飛ぶ姿を見て、何かを感じ取ってほしいと思っています。
(植松努さんと。「草津小学校150周年記念事業。植松さんの講演会と全校生徒によるロケット打ち上げを行いました」)
堀江:
「自分の好きなもの、興味のあること、なんでもいいから、それをどうか大事にしてね」と植松さんは話します。子どもたち一人ひとりが好きなものを、本人が、周りの大人たちがもっともっと大事にできたら、「何が好きかわからない」「生きている意味がわからない」ということにはならないと思うんです。
「勉強しろとしか言わへんやろ」と、今の子どもたちの多くが、大人を信頼していません。テストの点で評価され、好きなことや興味があることを話しても「どうせ無理」と一蹴されてしまう。ロケットを空に飛ばして、「私にもできるんだ」「私はできるんだ」っていう実感につなげてもらいたいと思っています。
(ロケット教室にて、ロケットを作る子ども。「約70分で1人1機ロケットを作り上げ、自分の夢ややりたいことを描いて打ち上げます」)
(小学6年で植松さんに出逢った、堀江さんの長男の善さん。「自分の好きを大切にして、17歳で動力滑空機の自家用操縦士ライセンスを取得しました」)
──堀江さんは、3人のお子さんのお母さんでもあります。
堀江:
高3、高2、中2の息子がいます。
子どもたちがやりたいことに対して「オッケー」と言ってきて、今、まさに本当に皆それぞれ好きなことをやっていてパラダイスなんです。
長男はネットの通信制高校「N高」に通い、のびのびと過ごし、大好きだった飛行機を極め、パイロット免許を取得しました。今、航空大学に入るために勉強しています。
次男は勉強が嫌いで、ゲームばかりしていました。魚をさばくのが好きで、テスト期間中、ストレスを発散するために包丁を研いでいるような子でした(笑)。
(「次男は魚をさばくのが好き。誕生日のプレゼントは包丁を希望しています(笑)」)
堀江:
無理して高校に通わなくても良いと思っていたので、ゲームばかりしていても否定はしませんでした。本人と相談して調理科のある高校に入ったところ、今や皆勤賞です。高校のテストの内容が包丁研ぎ。余裕で一番です(笑)。社会実習としてイタリアンのレストランでアルバイトしているのですが、好きな料理を学びながら、お給料ももらえる。自己肯定感が上がっています。
──良いですね!
堀江:
三男は本が好きで、韻を踏むことに興味があり、熟語や隠語をたくさん勉強しています。最近は英語の小説も読み始めました。自作の小説や英語の面白い小説を翻訳して、オンラインで発表しています。3人とも、好きなことに対してはものすごい熱量で向かっています。
結局、一つのところで合わなかったりダメだったりしても、価値観が違うところに行けばガラッと変わるわけですよね。一つの場所では否定されても、別の場所に行けば肯定される。見ていて本当にそれを感じるし、それがすごくおもしろい。
──本当ですね。
(「三男は自分の作品が本になることが夢だというので、コロナで学校が休みの間、記念に(笑)、絵本を自費出版しました。本人が『応援されているんだ!』って実感できることが大事」)
(「太鼓の達人が大好き→ドラムやりたい!→ドラムセット購入してもらって練習開始→高校で軽音部に入り、もちろんドラム担当。2バンドでドラム掛け持ちをしながら、生徒会長も務める高校2年生の颯斗くんです」
)
堀江:
ただ、親としてはものすごく覚悟も必要でした。私も散々勉強を教えたし、ゲームをずっとしているのに何も言わないのはとても勇気が要りました。
だけど私自身が、親に言われる通りに勉強して受験して、予備校の先生になり、ガチガチに生きてきて、それが子育てで何一つうまくいかず大きな壁にぶち当たった時に、同じやり方ではダメだと気づいたんです。
子育てをしながら「こっちの方がおもしろそうだぞ」に乗っかって、それはそれで腹を括って覚悟を決めて、違う世界の扉を開いた先に、本当に広がる世界があったんです。
だから、皆にも伝えたいんです。こっちの世界があるのを知っているから、「早くこっちに行こうよ!」って。暗くなったってしょうがない、周りの目を気にしていたってしょうがいない。明るく、楽しく、「行こうよ!」「やってみようよ!」って伝えたいと思っています。
(「工作が大好きなたまちゃんの夢は大工さん。建築会社さんにご協力いただいて通うこと3回、電動ドリルやノミやカンナなど、今まで触ったこともないプロの道具を使い、自分の手で知恵の輪を作りました」)
──最後に、メッセージをお願いします。
堀江:
「挑戦する楽しさ」を知ってほしいです。
大人が子どもに教える時に、「挑戦してごらん。楽しいよ」という言葉だけでは伝わらなくて、大人がまずやって見せないことには伝わらないと思うんです。挑戦に向かって楽しそうにしている姿、たとえ失敗しても起き上がる姿を見て、子どもたちも「そっか、大丈夫なんや」ってはじめて挑戦できるのではないでしょうか。
人が挑戦する姿は本当に美しい。私も植松さんはじめ、挑戦する方たちから勇気をもらい、「自分もやろう」と思えました。その連鎖が起きる社会にしたい。一生懸命、いのちの限りの挑戦は、周りの応援も生みます。そこには愛しかありません。
その中に一度でも、願わくは子どもの時に身を置くことができたら、それは必ず、その人の中で息吹いていくと信じています。
(誰もが必ず持っている、自ら動き出したくなる原動力のようなもの「わくわくエンジン®」を見つける学校用キャリア教育プログラム。「元気な地域の大人がそっと子どもの背中を押してあげて、自分の力で動き出せるように伴走します」)
(「草津駅西口商店街にあるお店が最初に製造・販売したとされる、お菓子を詰めたクリスマスブーツ。2022年にイメージソング『クリスマスブーツはなぜ赤い?』が完成しました!YouTubeでぜひ聴いてくださいね!→『クリスマスブーツはなぜ赤い?』- YouTube)
──今回のコラボのチャリティーの使途を教えてください。
堀江:
2021年に、植松努さんの「植松電機」に入社した弓桁春奈さんという方がいます。
彼女自身、若い頃に植松さんの講話を聞いて、自分のこだわりを捨てずに、やりたいことに向かって生きてきた一人です。
彼女の夢は、移動科学館で全国を周ること。移動科学館で草津に来ていただいて、子どもたちと身近なものでロケットを作り、それを空に打ち上げたい!
今回のチャリティーは、移動科学館を招待し、弓桁さんの挑戦と、子どもたち挑戦への一歩を踏み出すことを応援する、特別なロケット体験教室のために活用させていただく予定です。ぜひ、チャリティーアイテムで応援してください!
──素敵なお話をありがとうございました!
(2021年3月、育児サークルの卒業式にて、スタッフの皆さんの集合写真。皆さんが着用してくださっている”HOPE INVITES”と描かれた前回のコラボデザインアイテムも、今週1週間再販中です!あわせてチェックしてみてくださいね!)
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
なぜ学校へ通うの?なぜ勉強するの?なぜ成績で評価するの?なぜやりたいことをやってはいけないの?私は私なのに、私は誰なの?…子どもの頃、すべては「なぜ」に満ち溢れていました。決してわるいことをしているつもりはないのに、そんなだったから先生から目の敵にされて、怒られたり叩かれたりすることもありました。
でも、同時に理解を示してくれる大人たちがいたから、自分を見失わずにやってくることができたのだと振り返ってみて思います。皆さんは子どもの時、どんな大人が近くにいてくれたら嬉しかったでしょうか。そして今、そんな大人になれていますか。
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