今週JAMMINがコラボするのは、福岡県北九州市で、食料支援を通じて子どもの養育環境を改善する活動を行うNPO法人「フードバンク北九州ライフアゲイン」。
メインの活動としてフードバンク事業をしていますが「食料だけではない支援を届けたい」と話すのは、代表の原田昌樹(はらだ・まさき)さん(53)。
「食料支援を通じ、困窮した中で子どもを育てる家庭に焦点を当て、本当に必要な支援につなげていくのが活動の狙い。愛情を注ぎ、子どもたちが大人になった時に胸を張って生きられる社会をつくりたい」。
そう話す原田さんは、若かりし頃に愛に飢え、劣等感に悩み、薬物依存に陥った過去があるといいます。「命には価値があるんだと伝えたい」と、現在の活動を始める前から牧師として街の夜回りをし、人生につまずいた人や行き場を失った人を支援してきました。
「いろんな人と接していく中で、すべての問題の根本は同じで、彼らが幼少期に十分な愛情を与えられていないことに端を発するということに気づいた。幼い頃に十分な愛情を受ければ、多少のことがあっても、その子は自分の力を信じて生きていくことができる」と語る原田さん。
活動について、お話をお伺いしました。
(お話をお伺いした原田さん)
NPO法人フードバンク北九州 ライフアゲイン
すべての子どもたちが愛に包まれ、ゆとりをもってあたたかな食卓を囲める社会、国や企業や地域が寄り添い声をかけ、子育てを最優先できる社会、子どもたちの負の連鎖を断ち切り、次の世代の子どもを安心して育てられる持続可能な社会を目指して発足したNPO団体。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
(フードバンク事業の様子。事務所にて、子育て世帯へ食料個配の準備を行う)
──今日はよろしくお願いします。まずは貴団体のご活動について教えてください。
原田:
私たちはフードバンク活動を通じて生活困窮世帯に食料を届け、子どもの養育環境を改善するためのお手伝いをしています。「フードバンク」とはすなわち、印字ミスや箱が壊れたといった理由で品質や安全性には問題がないのに処分されてしまう食品、余ってしまった食品など、いわゆる「食品ロス」を引き取り、生活に困窮する状態にある方々へ無償で届けるしくみです。
事業としては「フードバンク事業」と「ファミリーサポート事業」が活動の大きな柱となっています。現在は121社の企業からご寄付いただいた食料を、85の生活困窮世帯に直接お届けしているほか、87団体の福祉施設や行政の困窮者支援の窓口を通じて、食料支援が必要なご家庭にお届けしています。
ただ、食料支援はきっかけの一つと考えていて、食料支援を続けて日々の生活を支えながら、ご家庭と密につながることで、それぞれのご家庭が必要としているその他の支援へとつなげていくこと、そのための新しい社会システムの構築が大きな目的です。
──なるほど。
原田:
食料を届けながら、ボランティアの「寄り添いチーム」が常にご家庭と連絡をとったり定期面談したりしながら信頼関係を築き、悩みを聞いて、その都度必要なサポートを届けられるよう日々努力しています。3年間このかたちで事業をしてきたのですが、どうしても表には出てきづらい家庭の課題を可視化して、そして適切な支援につないでいくこと、そのためのネットワークや仕組みづくりに今後取り組んでいきたいと思っています。
(事務所の前にある空き店舗を利用して週に3回運営している子ども食堂「もがるかホーム」にて、ある日のメニュー)
(必要に応じて、様々な支援を行う。こちらは「もがるかホーム」で開催している無料の学習支援の様子)
──家庭の問題は、やはりなかなか外からは見えづらいのですか?
原田:
そうですね。食料支援という括りでいえば、たとえば支援していたご家庭に経済的にゆとりができて「では食料支援はやめましょう」となった時に、じゃあそのご家庭がもう問題が何もなくて支援の必要がなくなるかというと、そうではありません。
食料支援を受ける必要はなくなったとしても、そこからまた様々な課題が家庭に訪れることがある。大切なことは、本当に困ったときに「助けて」といえる先があることです。だから、私たちはとにかく「つながっていること」を大切にしています。
寄り添いチームのメンバーが定期的に励ましの手紙を送ったりしながら、小さくてもつながりを持っておくことで、何かあった際に相談を持ちかけてくれます。
「オープン・ザ・ウィンドウ」と言っているのですが、常に「いつでも入ってきていいよ」という雰囲気を用意しておくことで、5年後10年後、何か困ったことがあった時にふと私たちのことを思い出して、「相談しよう」と思ってくれたらと思います。
(食料支援をしている家庭からのお便り)
──「相談しよう」と思えるのも、そこに関係性があるからこそなんですね。
原田:
そうですね。つながらないと、ご家庭の本音はなかなか出てこないと思うんです。
たとえば、家庭向けのアンケートで「何か生活に困っていることはありますか」という質問項目があった時に、「困っている」にマルをしなければ「困っていない」ことになりますよね。でも、よくよく聞くと、実はいろんなことに困っている。
家庭の問題は非常にセンシティブで、表に出ないこともたくさんあります。知らない人には打ち明けられないような繊細な問題も、つながりや信頼があれば「相談してみよう」と思ってもらえるきっかけにもなります。
(北九州市内で開催されたイベントにて、フードバンク北九州が運営する「青空子ども食堂」の呼び込みをするボランティアスタッフ)
(北九州市のモデル事業としてスタートし、毎月第2・第4水曜日にオープンしている子ども食堂「尾倉っ子ホーム」にて。子どもたちもボランティアの調理スタッフの皆さんも、みんなで「いただきます!」)
──もうひとつ、社会の仕組みやネットワーク作りにも力を入れていらっしゃるということですが、この辺りについて教えてください。
原田:
自治体や他のNPO団体、企業さん等とも提携して、地域でサポートできるネットワークづくりを進めています。生活困窮世帯をサポートするには、包括的な支援と見守りが必須だからです。
私たちだけで1から100まですべてを支援するには限界があります。地域にある他の団体さんや行政、企業さんとつながり、さらにそのネットワークを可視化していくことで、困っている方たちに行き届いた支援が提供できると考えています。
──心強い基盤になりますね。
原田:
生活困窮世帯への聞き込みやフォローアップ、地域のネットワークづくりも1年2年で構築できるものではなく、10年、20年後を見据えての活動です。
しかし、ここでしっかりとした関係さえ築くことができれば、たとえば今食料支援しているご家庭のお子さんが20歳、30歳になって何か困ったことがあった時にもサポートができる。将来にわたり支援できる、持続可能な仕組みができると考えています。
(「寄贈された冷凍・冷蔵倉庫のスペース利用や店舗でのブース出展等、活動に協力してくださっているエフコープ生活協同組合での1枚です。フードバンクの取り組みを地域の方たちに知ってもらうために定期的に出展をしています」(原田さん))
(笑顔でご飯をおかわりする子ども)
──ほかにも、子ども食堂の運営もされていると聞きました。
原田:
はい。北九州市に子ども食堂を普及させるために活動しています。現在は2箇所で子ども食堂をやっています。
子どもたちやご家庭が地域とつながる場があれば、家庭の孤立化を防ぐことができます。また、子ども食堂の運営を通じ、地元の人たちと「地域で子どもを育てる」という意識と、そのためのネットワークを育んでいます。
先ほども申し上げましたが、家庭の問題は外からは見えにくいという課題があります。さらに孤立化が進んでいる社会で、どこかで誰かが「助けて」という家庭の声をキャッチしなければなりません。
こういった声を逃さないために、役所の窓口だけでなく、子ども食堂、病院や小学校、学童保育…、それぞれの場所がアンテナを張り、さらに連携し、情報を共有していくことが大切だと思っています。
(「生きる力を育てたい」と、「尾倉っ子ホーム」では子どもたちと料理も。「お味噌汁づくりでの1枚です。一緒に調理しながら、食のありがたみを感じてもらえたらと思っています」(原田さん))
──先日、千葉県野田市で10歳の女の子が父親からの虐待に亡くなる事件がありましたが、本人が勇気を出して「父にいじめられている」と声をあげたにも関わらず、その声がかき消されてしまったというか…、ある意味この事件も、家庭の問題が表に出ることの難しさを語っているように感じました。
原田:
私がこれまでずっと子どもの養育を支援してきた立場でいえば、児童相談所に保護されるとか、叩く、殴る、無視するといった一般的に虐待といわれるほど酷いものではなかったとしても、親が忙しすぎて子どもの話を聞いてあげられないとか、家に帰った時にいつも親がいないとか、余裕がなくてつい子どもを叱ってしまうといったことも、子どもの心には大きな影響を与えていると感じます。
ある研究でも幼少期の養育と脳の発達の関係が科学的に証明されていますが、私自身も里親として子育てをした経験から、幼少期の愛情の必要性を強く感じました。
──里親をされていたんですね。
原田:
はい。里親として、これまで8人の子どもを受け入れてきました。
ある女の子は、1歳8ヶ月で私たち夫婦の元へやって来ました。児童相談所の職員の方に「これまで生きてきた年数の倍、つまり4年ぐらいは試し行動があります。原田さんたちがしっかり抱きしめてあげてくださいね」と言われたのですが、実際に彼女が私の膝に乗ってくれる子になるまでには、4年の歳月がかかりました。
──そうだったんですね。
原田:
自分が本当に愛されているのか、これでもかと汚い自分を見せて、「こんな自分でもあなたは捨てないか」を試すんです。
「愛しているよ」と声をかけると「大っ嫌い」と返す。好きなものを「これ好きでしょう」と渡したら捨ててしまう。彼女と手をつなごうとしたら振りほどいて、他のお父さんの手をつなぐ…。覚悟はしていたつもりでしたが、それでも腹が立ちました。でも、それが彼女の「愛してほしい」「ずっと愛してほしかった」という心の叫びだったんです。
思春期になると、試し行動は非行へと発展します。「私を大事にして」という悲痛な、屈折した叫びは、誰かがを埋めるまで、ずっと続くんです。
子どもにとって、本能で「私は大切にされている」と感じられる環境が必要です。そんな環境に早ければ早いだけ出会えることで、後々の影響も最小限にすることができるのです。
(フードバンク北九州ライフアゲインが企画した子ども食堂支援「カレーフォーチルドレン」。北九州市内の大学やカレー店でカレーを1杯食べると、20円~50円が子ども食堂を広げるための寄付金になる取り組み。昨年は3店舗4ヵ所が参加した。「地域で子どもたちを支える仕組みを作っていきたい」と原田さん)
(夜回り活動をしていた頃の原田さん。「マイクで5分語り、そのあとで声かけをしていました」(原田さん))
──原田さんは、ずっと子ども支援に携わられてきたのですか。
原田:
それだけというわけではないんです。
牧師になる勉強をしていた頃に、英会話スクールをやっていた姉から「生徒たちの家庭環境に問題があり、いろいろとアプローチしているがなかなか改善しない。せめて子どものために子ども会を開かんね?」と誘われたのがきっかけでした。その中で、子どもへ愛情を与えられない親御さんたちもまた、生い立ちの中で親から愛情をもらう経験がなかったのではないかということに気がついたのです。
行き場を失ってしまった大人も支援ができないかと思い、個人的に子どものための活動と里親をしながら、夜回りと親の相談支援を始めました。
それぞれ別の活動でしたが、活動しながら気がついたことがありました。「みんないろんな問題を抱えているけれど、根っこは同じ」ということです。
夜回りで知り合った刑務所を出たばかりの70過ぎのおじいちゃん、愛情を与えられないお母さん、自傷行為など問題行動を起こす子ども…。皆、幼い頃に家庭が壊れてしまっていたんですね。十分な愛情を受けられず、それによって空いてしまった心の穴を埋めようとずっともがき苦しんでいる。「ここにメスを入れないと、根本的な解決にはつながらない」と感じました。
──そうだったんですね。
(活動を始めた当初。原田さんが個人で立ち上げた団体「ハッピーアワークラブ」の夏のキャンプにて、中学生と語り合う)
原田:
夜回りの活動は、途方のないエネルギーが必要でありながら、それに比べて成果の見えなさを感じてもいました。何らかのかたちで自立のお手伝いをしているつもりでも、多くの人がもとの場所に舞い戻ってしまう。
自宅の周りの家を借りて夜回りで出会った方たちと一緒に生活をしていたのですが、もちろん鍵の置き場所も教えていました。ある時旅行から帰ってきたら、住んでいた一人と一緒に自宅に保管していたお金がごっそりなくなっていたということがありました。他にもいろんなことがあり、大人になってからの心のケアの難しさを痛感していました。
──それはショックですね…。
原田:
裏切られたと感じることもたくさんありました。でも、彼らもそうせざるを得ない環境にある。好意や善意を踏みにじってでも、また元の場所に帰ってしまうのです。
愛されたという経験がなければ、愛するということもまた理解することは難しいのかもしれません。人に大事にされた経験がなければ、人を大事にしたいという感情を持つことは難しいのかもしれません。
(現在支援をしている仲間と、教会のメンバーたちとで記念撮影)
(フードバンク北九州ライフアゲインが運営する、子どもの自己肯定感を育む子ども会「もがるかキッズクラブ」にて、田植え体験を行った時の1枚。「経験が自信を育てます」と原田さん)
原田:
過去に何度か出て行った方が「やり直したい」と戻ってきたことがありました。誰からも相手にされなくなり、最後に私に連絡をくれたようでした。ちょうど正月で、お雑煮とおせちを一緒に食べました。「母親にあげるから」と数の子は食べずにサランラップで包んで持ち帰る彼の姿が印象的でした。
「これからまたがんばろうね」と駅でハグして別れたのですが、後日お母さんから電話があって、「息子が亡くなった」と…。真冬、部屋に一人で、裸で亡くなっていたそうです。
ああ、ずっと苦しんでいたんだ、ずっと一人ぼっちだったんだ、そんなことが伝わるような亡くなり方でした。
生前、彼から聞いていた話では、幼い頃に家庭は崩壊していたということでした。もしお母さんが「あんた、生まれてきてくれてありがとう」と声をかけたり、おっぱいをあげて添い寝をしたり、そんな経験があればこんな風にはならなかったのではないか。そう思った出来事でした。
──つらいですね…。
原田:
小さな子どもたちには、同じような思いをしてほしくないんです。
(年3回開催する支援者やボランティアとの交流会「Lifeアゲインcafé」。「お昼作り、みんなで食べながら語らう場です。いろんなボランティアさんと、生の声を共有できる場所です」(原田さん))
(若かりし頃の原田さん。電気工事の仕事をしながら、将来の夢と自分の無力さにもがいていた)
──大変なこともたくさんあると思うのですが、原田さんがご活動を続けられるモチベーションを教えてください。
原田:
私自身、ずっと劣等感のかたまりでした。自分が何をしたらいいのか、夢も自信もなかった。両親はいましたが、自営業で二人とも一生懸命働いており、いつも一人でご飯を食べていました。気持ちが歪み、大学生の時に薬物依存症になって苦しみました。
薬物依存症からの回復を目指す中で「なぜこうなってしまったのか」と自分と向き合った時に、本当はずっと寂しかったんだと気がつきました。幼い頃を遡ってみたら、本当はお母さんの膝にのりたかったとか、一緒にしゃべりながらご飯を食べたかったとか、愛情に飢えていたことに気づいたんです。
いつも100点以外のテストは、家に持って帰る前に溝に捨てていました。母の喜ぶ顔が見たかったから。でも本当は、ありのままの自分を愛してほしかった。本当の思いを隠してきた結果、もがき苦しんでいたんです。
──そうだったんですね。
原田:
薬物依存症から回復して、ある時、ある方が「原田くんは、価値がある」と言ってくれた。その一言が、とてもうれしかったんです。それが原動力ですね。
人には、必ず生まれてきた意味や価値があります。
神さまは、失敗作はつくらない。
うなだれている人、死にたいと思っている人、行き場を失った人…。そんな人たちに「あなたは生きているだけで価値がある」と言いたくてたまらないんです。小さな子どもたちに関しては「自分には価値がある」ということを実感してほしい。
非行に走ろうが何をしようが「あなたは傑作品なんだ」ということを、まずはその子の親が、もし親が出来なければ周りの大人達が伝えていく必要があるし、そんな社会をつくっていきたいと思うんです。
(「この活動は、写真に写っている若者たちが小学生低学年の頃に始まりました。彼らが高校生になった時に撮影した1枚です。今、彼らはそれぞれの道を歩み、赤ちゃんを抱いて訪れてくれる子もいます。なつかしい思い出と共に、喜びを感じる1枚です」(原田さん))
(「もがるかキッズクラブ」で稲刈り体験。「お米が八十八の手間をかけて育つことを学びました」(原田さん))
──最後に、チャリティーの使途を教えてください。
原田:
私たちは、今後もフードバンク活動を続けながら、すべての子どもたちが愛情を受けながら健やかに育つ地域の仕組みづくりに取り組んでいきたいと思っています。そして、そのためにはやはり、それぞれのご家庭とつながっていることが非常に大切です。今回のチャリティーは、生活困窮世帯にお米や味噌などの食料品を届けながら、見守り、悩みを聞き、本当に必要な支援とそのネットワークを作っていくための活動資金となります。
1家庭あたり、1回の食料支援にかかる配送などの送料はおよそ1,200円。今回のチャリティーで、現在支援する85の世帯を訪問するための資金、10万円を集めたいと思います。
──貴重なお話、ありがとうございました!
(運営する子ども食堂「もがるかホーム」にて、スタッフの皆さんと集合写真!)
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
私の甥っ子はもうすぐ10ヶ月になります。私が抱いたり一緒に遊んだりすると最初は機嫌がいいのですが、5分もするとグズり始めます。一緒に遊んでいても、常に彼が目線で追いかけているのは姉(母親)の姿…。まるで恋愛かと思うほどですが(笑)、言葉は発さなくても、状況を良く理解していないようでも、実は母親という存在を強く認識しているのだということがよくわかります。
子どもに本能的に、成長する上で「自分は愛されている、守られている」と感じられる愛情が必要なんだということを、原田さんのお話を聞いて改めて強く感じました。
子どもたちの成長に必要な愛を届けるための今回のチャリティー、ぜひご協力ください!
小さな芽を守るように、動物や植物たちがその周りをやさしく、あたたたかく囲んでいます。
子どもが健やかに大きく成長できるように、大人たちが手を取り合いながら見守る社会をつくっていこうというメッセージを表現しました。
“Everybody deserves to sparkle”、「誰もが輝く価値がある」というメッセージを添えています。
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