障がいや病気、国籍や性別…。
「他の人とは違う」とみなされ、それによって生きづらさを抱えるマイノリティの人たちと共に、「違い」をアドバンテージにして、楽しめる社会を作りたい──。
アートや音楽、映像などエンターテインメントを通じ、誰も排除しない「まぜこぜの社会」の実現を目指す一般社団法人Get in touchが、今週のチャリティー先。
アートや音楽、映像など、楽しいことを通じて、誰も排除しない「まぜこぜの社会」の実現を目指し活動しています。
代表を務めるのは、女優の東ちづるさん。
活動について、「まぜこぜの社会」について、詳しいお話をお伺いしました!
(お話をお伺いしたGet in touchの東さん(右)。『MAZEKOZEブルーペイント』にて、アーテイストの尾形理子さん(左)と。)
一般社団法人Get in touch(ゲットインタッチ)
さまざまな創作活動や表現活動を通じて、誰もがそれぞれの個性を生かして豊かな人生を創造できる共生社会の実現を目指す一般社団法人。”違い”をハンディにするのではなく、特性としてアドバンテージにでき、誰もがもっと自然に、気楽に、自由に暮らせる「まぜこぜの社会」の実現を目指している。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
──今日はよろしくお願いします。
まずは、Get in touchさんのご活動について教えてください。
東:
私たちは、誰も排除しない「まぜこぜの社会」を目指し、エンターテインメントを通じて、色とりどりの人達とすでに一緒に生きているということを可視化・体験化したいと思っています。具体的には障がいのあるアーティストの作品展やパフォーマーのライブ、ファッションショー、映像制作などを行っています。
活動を通じて「なぜ、普段出会わないんだろう?」と気づき、「どうすれば違いをアドバンテージにできる社会になるだろう」と、考えるきっかけになればと思っています。
──「違いを認め合う社会」ということでしょうか?
東:
「認め合う」というときれいですが、そうじゃなくてもいいんです。
理解できなくても、わからなくても、一緒にいるとだんだんわかってくる。障がいの有無やLGBT(セクシュアルマイノリティ)、貧富の差や国籍の違う人たちと一緒にいる空間・時間・人間関係を作っていくことがまず大事だと思っています。
──なぜ、アートや音楽といったエンターテインメントの分野でこのような活動をしようと思ったのですか?
東:
講演やシンポジウムなど言葉で伝えることもとても大事なんですが、どうしても意識の高い人たちが集まりがちです。そこでの理解は深まっていくんですが、無関心な人や「自分の周りには障がい者やマイノリティなんていない」と思い込んでいる人たちには、声を届けることができない。こういった課題に興味がない人たちをも一緒に巻き込んでいくには、絶対的にエンターテインメントだ!と思っていたんです。
(Get in touchファミリーのみんなと、世界自閉症啓発デー『Warm Blue2017キャンペーン』のPRで東京都庁を訪問し、小池都知事と面談。写真前列右から3人目は、今回のJAMMINとのコラボデザインでイラストを描いたアーティストの田久保妙さん。)
──Get in touchで言われている「まぜこぜの社会」について、もう少し詳しく教えてください。
東:
WHO(世界保健機関)も、このように言ってるそうです。「障がい者なんていない。その特性でマイノリティにカテゴライズされ、生きづらさや不具合があるならば、それは社会の問題だ」と。
存在しているのは障がい者やマイノリティじゃないんですよね。生きづらさや暮らしにくさを与えている「障害社会」なんです。
──「障害社会」…。考えてみたことがありませんでした。
東:
社会全体に、マイノリティの人たちを想定してつくられていないことがたくさんあります。車椅子ユーザーがいるのに、公共の場に階段はあってもエレベーターやスロープがなかったり、小人症の人がいるのに公衆トイレの水道が高い位置に設置してあって、手が洗えなかったり。
「いや、自分の住んでいる地域にはマイノリティはいないから大丈夫」。そう思う人もいるかもしれません。そうだとしたら「なぜ、マイノリティがいないのか」を考えてみてほしいと思います。
──…排除している、ということになりますね。
(10万人以上を動員した『東京レインボープライド2017』では、Get in touchもパレードに参加。)
東:
障がい者施設や福祉施設は、町のど真ん中にはないことが多いです。それもあってか、自分たちの町にそういう施設があること自体知らない人たちがたくさんいます。
こういった施設は、彼らにとって帰る場所ではあるかもしれません。けれど、障がいのある人たちも町へ出て遊んだり、買い物をしたりしたいんです。それさえも分断されてしまっている今の状況は、違うのではないかなと思います。
障がいのある人たちにも、健常者と何ら変わらず、同じように趣味や嗜好もあれば、快楽な欲も顕示欲もある。息抜きしたい時だってある。けれど「外出したら周囲に迷惑をかけてしまう」と、街中へ行くことを遠慮している人たちがいます。
──確かに、普段の生活していて、私の町では障がい者を見かける機会はあまりありません。つまり、見えない排除、見えない境界線が張られているということなのか…。
東:
それに、悪気なく多くの人たちは、障がい者をまるで聖職者や聖人のように思っているのではないかと感じます。支援する人たちの中にも、そのように思っている方は少なからずいます。
障がい者は弱者、性欲もなく、趣味嗜好もなく、毎日を楽しみたい、自分らしく生きたい、幸せになりたいと思っていない、と勝手に思っている。けれど、そうじゃないんです。
「自分と違う部分」ばかりに意識がいってしまいがちだけれど、違う部分以外は、まったく同じなんです。
「支援する側」と「支援される側」の立場では、いつまでたっても関係はパラレル(平行線)で、交わらないままです。そうじゃなくて、すべての人は同等、人として同じ命です。同じ人間同士、違いをお互いにおもしろがりながら、浅くひろくゆるく依存し合って生きていく。そんな「まぜこぜな社会」を実現したいです。
(『東京レインボープライド2017』にて。パレードでGet in touchのフロートに登場したメンバーたち。右から2番目の黒い着物姿は、今回のコラボデザインのイラストを描いた田久保妙さん。)
──…「私は差別なんてしないし、全然オープンでウェルカムよ!」と思っていましたが、お話を伺っていると、実は心のどこかで無意識に、排除の意識があったんじゃないか?と思えてきました。相手や状況にもよりますが、「かわいそう」という気持ちだったり、「支える」という意識だったり、「自分とは違うから、わからない」という言い訳だったり…。それはつまり、対等には見ていなかったのかもしれません。
東:
誰だってあると思うんです。
大事なのは、普段から「色とりどりの人と一緒に暮らしているんだ」「私の普通は他の人の普通と違うんだ」いうことを知り、互いを知ることだと思うんです。
──「マイノリティの人たちのことを、正しく理解しないと」という風に思いがちですが…。
東:
まじめな人こそ、そう思うんです。街中で車椅子ユーザーや白杖を手にしている人たちを見かけても「きっと力になれない」「どうしていいかわからない」「話しかけたら失礼かも」といろいろ考えて、結局通り過ぎてしてしまう。
「困ってるように見えたんですけど、もし違ったらすみません。何か手伝いましょうか?」って一言声がけするだけで良いと思うんです。そうしたら、相手からも何か反応が返ってくるはずです。「いいえ、大丈夫です」であれば、「そうですか」、それでいいんです。
完璧なんて、ないんです。失敗もあるし、想定外のことも起きるんです。それで、いいんです。
(Warm Blue Dayに、みんなでブルーペイントしたブルートラックの前で。)
──…完璧に見える東さんにも失敗はあるのですか?
東:
ありますよ!
過去にイベントで、良かれと思ってたくさんバルーンをふくらませて用意したんです。見た目も楽しいし、おもしろいし。そしたら、参加者に「風船が怖い」という自閉症の人がいたんです。だからもう、その時は隠すのに必死(笑)。想定していなかったことでした。
後になって、なぜ風船が怖くて、どうしたら怖くなくなるかを一緒に考えました。
失敗、間違いは気づきのきっかけになります。失敗、間違いを繰り返しながら、互いに「配慮の仕方」を少しずつ学んでいけばいいんです。
──その方は、風船は怖くなくなったのですか?
東:
はい(笑)。風船が割れるイメージが怖かったそうで、空気を少なくして小さくやわらかい風船を作ったら、手に持ってくれました。
(アート展『MAZEKOZE ART3』準備の様子。)
──話は戻りますが、Get in touchを立ち上げられたきっかけを教えてください。
東:
きっかけは、東日本大震災でした。
被災地の避難所では、否応なしに大勢の人が同じ空間で過ごすことになります。まさに「まぜこぜ」。日本の縮図でした。本来の日本の姿です。そこで、共同生活のストレスや先行きの見えない生活への不安といった背景から、マイノリティの人たちが排除されてしまうという現実がありました。
──具体的に、たとえばどのようなことがあったのですか?
東:
自閉症のお子さんがパニックを起こして叱られたり、LGBTの人たちが生活しづらかったり、車椅子ユーザーさんが「ここはバリアフリーじゃないから、他へ行った方が良いんじゃないか」と言われたり…。普段から生きづらさを感じている人が、社会が不安に陥った時、より追いつめられてしまうという現実がありました。
普段から、色とりどりの人と共に暮らしていれば、何かあった時にも対処できる。そこで、2011年からこの活動を始め、2012年に法人化しました。
普段からお互いを知らないと、遠慮し合いますよね。声をかけにくいと思う方もいるかもしれませんが、対等な気持ちがあれば、大丈夫。配慮さえあれば、遠慮はまったく必要ないんです。
──「配慮があれば、遠慮は必要ない」…。考えてみたら、遠慮だらけだったかもしれないです。
(『MAZEKOZEファッションショウ』にて、出演者とスタッフの皆さん。)
──今回のチャリティーの使途を教えてください。
東:
12月10日に東京で開催される平成まぜこぜ一座「月夜のからくりハウス」開催のための資金を集めたいと思っています。
(平成まぜこぜ一座『月夜のからくりハウス』は、小人プロレス、車椅子ダンサー、全盲の落語家、寝たきり芸人、糸あやつり人形、ドラァグクイーンなど、摩訶不思議なパフォーマーたちがくりひろげる一夜限りのエンターテイメント。2017年12月10日(日) @クラブeX(品川プリンスホテル)にて開催。)
──どんなイベントでしょうか?
東:
歌あり、ダンスあり、小人プロレスあり、落語家の狂言まわしあり…。この日のために一夜限り結成される「平成まぜこぜ一座」の総勢30組を超える多彩な出演者が参加する、盛りだくさんなイベントです。
──「見世物小屋」という言葉をネガティブに捉える方もいると思うのですが…?
東:
「見世物小屋」というと彼らが見世物になると勘違いする方がいるかもしれませんが、彼らの体の特性が見世物になるのではありません。
お客さんに「笑われている」のではなく、プロのアーティストとして、自分の体の特性を生かしながら、お客さんから「笑いをとっている」んです。出演者の特性ではなく、パフォーマンスを楽しみ、何かを感じてくださったら嬉しいです!
(イベントに出演するパフォーマー・アーティストたちの真剣な表情。)
──なるほど。
東:
今回のプロジェクトは、日本財団からの助成金を受けて実現しました。出演者の皆さんはプロです。外注スタッフもたくさんいます。ボランティアでは運営できません。ギリギリの見積りで進めていますが、想像以上に経費がかさみ、まだまだ資金が足りていません。たくさんの人たちに「月夜のからくりハウス」を知ってもらい、次の機会へとつなげていくためにも、ぜひ今回のチャリティーで応援していただけたら嬉しいです!
(『月夜のからくりハウス』稽古風景。全盲のシンガーソングライター・佐藤ひらりさん(左)と、車椅子のダンサー・かんばらけんたさん(右)。)
──イベントを通じて実現したいことは、どんなことですか?
東:
プロとして活動する彼らの活躍の場は、現状あまりに限られています。福祉・教育・チャリティーの番組だけでなく、エンタメ番組やドラマ・映画・ショーの出演など、それぞれ活躍の場所が広がるきっかけになれば嬉しいです。
日本では、福祉で「楽しいこと」をやると非難されがちです。障がい者を紹介する番組も増えてきました。すばらしいことです。しかし、切り口はまだ「感動ドキュメント」というジャンルに限られています。でも、それだけじゃないはずです。
海外では、ドラマや映画に出演したり、アーティストとして表舞台に出たり、マイノリティもごくごく普通に活躍しています。
感動、笑い、エンターテインメント…。いろんな切り口で、マイノリティのアーティストやパフォーマーももっと活躍できるはずです。日本でも、実現できるはずです。そうしていきたいです。
──平成まぜこぜ一座のアーティストの皆さんと、観客の皆さんの織りなすバイブスが、輪となり渦となって、大きなムーブメントを起こしていく。そのためのお手伝いができれば幸いです!貴重なお話、ありがとうございました!
(『月夜のからくりハウス』出演者のダンプ松本さんとミゼットプロレスラー、キャストの皆さん)
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
インタビュー中、東さんの話を伺いながら「配慮か…配慮?いや、難しい…。傷つけるかもしれないし…あれ?そもそも配慮ってなんだ?」「“正解”ってなんだ?」「“正しいこと”ってなんだ?」…いろんな思いが、脳裏を駆け巡っていました。
でも、お話を伺う中で、思ったこと──。“正解”があるから実行をするのではなく、失敗してもいい、間違ってもいい、自分だけの“正解”を見つけ出していくことが、次につながっていくんじゃないか…?!
「こうやって教えられたから」「こう聞いたから」。世のウワサや固定概念を疑いもせず信じ続けるのではなく、未知で捉え所がなくても、そこに触れて「なんでかな?」「だめなのかな?」「どうしたらいいのかな?」…湧きおこる自分の中の「まぜこぜな感情」を受け入れていくことが、結果として「まぜこぜの社会」につながっていくのかも?!、…そんなことを感じたインタビューでした。
「私が正しいと感じてきたことは、どうして正しいんだろう?本当に正しいんだろうか?」そんなことを、感じてみてほしいと思います。
「楽しく、ゆるくつながる」。
Get in touchの活動を表した田久保妙(たくぼ・たえ)さんのイラストと、JAMMINデザイナー・DLOPのタイポグラフィーの合作。
田久保さんは自分の心や頭の中に浮かんだイメージを抽象的に描くダウン症アーティスト。
“Let’s MAZEKOZE get in touch”、「さあ、まぜこぜになって、つながろう!」という
メッセージの”O”部分は「ハート子ちゃん」、
“T”部分は「飛びたい心くん」という名前のキャラクターが入っています。
文字はそれぞれ、かたちもサイズもバラバラ。
違いをアドバンテージにできる社会の「まぜこぜ感」を表現しました!