CHARITY FOR

子どもが生きる力を身につける、“本当の放課後”を取り戻せ!ある学童保育の挑戦〜NPO法人Chance For All

現在、両親の共働きやひとり親家庭などの事情で、放課後に学童保育に通っている子どもたちは、日本全国に110万人いるといわれています。

「学童保育」とは、保護者が仕事などの事情で日中家にいない場合に、子どもたちが生活する場所のこと。
乳児や未就学児を預かる「保育園」はイメージが湧きやすいと思うのですが、その小学生バージョン、といったところでしょうか。

「放課後は、子どもたちの可能性を伸ばし、心身共に健全に成長していくための大切な場所。でも、その放課後が、大人や社会の事情によって、かなり管理されてきている」。
そう話すのは、今週のチャリティー先・NPO法人Chance For All (以下CFA)の代表理事・中山勇魚(いさな)さん。

放課後、楽しいことや熱中できることを見つけ、人と関わり、様々なことを経験する子どもたちがいる一方で、家に帰っても誰もおらず、一人で家にこもって過ごしたり、預けられた学童保育で心を塞いだまま時間を過ごす子どもたちがいるのも事実です。

家庭や経済状況、地域など、生まれ育った環境による子どもの「放課後格差」をなくすために、学童保育の可能性を追求し続けるCFA。活動について、詳しい話をお伺いしました!

(お話をお伺いしたCFA代表理事の中山さん。)

今週のチャリティー

NPO法人Chance For All(チャンス・フォー・オール)

民間学童「CFAKids」の運営を行うNPO法人。従来の民間学童の半額以下の料金で質の高い保育を行うことで、子どもたちに豊かな放課後を、保護者には安心して働ける環境を提供している。2017年9月現在、東京都内で7つの民間学童を運営している。

INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO

女性の社会進出の背景で、犠牲になる子どもの放課後

──今日はよろしくお願いします。
ご活動について詳しく伺う前に、現在学童保育が抱えている課題について教えてください。

中山:
はい。学童保育自体の歴史は長いですが、近年は女性の社会進出によって働く女性が増えたこと、ひとり親家庭が増えたこともあって、学童保育に通う子どもが増えています。
2006年には70万人だった学童に通う子どもが、2017年には110万人と、この10年ほどで40万人増えました。

──時代の流れに合わせて、学童保育のニーズが増えてきているんですね。

中山:
そうですね。しかし、社会の制度自体が、ここに追いついていないというのが課題としてあります。
行政は働きたい女性を応援していますが、女性が社会進出する背景で、結果として子どもが犠牲になっているような感覚があります。

(CFAが運営する「CFAKids」での一コマ。外で元気に遊ぶ子どもたち。)

中山:
学童保育は大きくわけて公立と民間の二つがあります。
公立の学童保育はとにかく子どもが溢れている。場合によっては100人もの子どもたちが通い、先生たちのケアがなかなか行き届きません、そうすると、ただ「預かるだけ」になってしまいがちです。
逆に民間の学童保育は、高い保育料を支払う分、例えば「英語を教えて欲しい」という風に、保護者から知識的なことが求められる。

いずれにせよ共通して言えることは、「子どもが放課後をどう過ごすべきか」という、子どもの目線の考え方が欠落しているということなんです。

──確かに…。

中山:
本来、放課後は子どもたちが自由に安心して過ごせる場所です。
にもかかわらず、社会や保護者の事情に引っ張られて、子どもたちの放課後が、犠牲になっているのではないか。もっと子どもの目線で放課後のあり方を考えることが大切なのではなのではないかと考え、その思いに沿って学童保育を運営しています。

(生まれ育った家庭環境にかかわらず、すべての子どもたちがそれぞれの可能性を広げていけるように。)

子どもたちのための学童保育とは?
先生は皆正規雇用。環境を整え、安心して過ごせる「生活の場」を提供

──具体的に、CFAさんの学童保育の特徴を教えてください。

中山:
民間の学童保育の中では特殊なのですが、まず車での送迎をやっていないというのが、ひとつの特徴です。

──どうして送迎をしないのですか?

中山:
民間の学童保育の多くは、1日のうち、ずっと送迎をしているんですね。それってどういうことかというと、部屋は常に子どもたちが出たり入ったりしているということ。
そんな状況ではなかなか子どもたちも落ち着いて過ごすことは難しいし、送迎自体が「子どもより親の都合」の象徴のように思えるからです。

──確かに、子どもにしてみたら「時間になったらハイさようなら」という感じだとちょっと慌ただしいし、学童保育にいる間が切り取られた時間のようで、非日常な感じがしそうですね。

中山:
私たちの学童保育に通っている子どもたちは、一部私立の学校の子どもも通ってくれていますが、ほとんどが歩ける範囲に住んでいる地元の子どもたちです。

(CFAKidsにて、先生と子どもたち。時に楽しく、時に真剣に。「子どもと同じ目線」で放課後を考える。)

中山:
また、私たちのところで働いている先生たちは全員正規雇用の職員です。そうすることで、先生も安定して働くことができるし、継続して子どもたちと関わることができる。安心して生活できる中で、子どもたちにいろんなことを体験して欲しいと思っています。

──先生たちが皆正規雇用というのは、珍しいことなのですか?

中山:

日本ではまだ放課後の重要性が認識されておらず、学童保育に関しても「ただ預ける場所」という認識が強く、先生もパートタイムで働いていることが多いです。
「子どもたちのためにもっとよい場所にしよう」と思っても現実的に難しいことも多いです。

北欧では、放課後は「子どもたちの権利を保証する時間」という認識があり、そんな放課後を過ごす学童保育は重視されていて、学童保育の先生たちは学校の先生たちと同じ資格を持ち、社会的にも認められた立場です。

──毎日学童保育に通う子どもたちにとっては、毎日顔を合わせ、長い時間を一緒に過ごす先生なので、しっかり向き合ってくれるのはとても良いですね。

(学童保育は「預かる場所」だけではなく、安心してのびのび過ごすことができる「生活の場」。公園で寝転びリラックスした表情を浮かべる子どもたち。)

中山:
学童保育は「ただ預ける場所」ではありません。
私たちとしては、「ただ預ける場所」ではなく「生活の場」として、子どもが安心して成長できる環境を整え、質を上げていくことが課題です。
学童保育の分野に関して、100万人の子どもたちが通っている場所としてはまだまだこれからやらなければならないことだらけ。特に社会全体の意識を変えていく必要があると思っています。

家庭環境にかかわらず、誰もが可能性を伸ばせるように。
「放課後格差」を埋める取り組み

中山:
家庭にお金や余裕があって、子どもの教育に熱心な家庭では、子どもはいろんな場所へ連れていってもらったり、友達とたくさん遊んだり、たくさんの経験を通じ、刺激を受けて成長していきます。

一方で、たとえば保護者が忙しくてなかなか子どもと会話する時間がないといった家庭で育った子どもは、ほかの子とうまくコミュニケーションをとることが難しかったり、課題を抱えやすかったりという傾向があります。

生まれた家庭環境によって、本来持っていて良いはずの遊ぶ権利や学ぶ権利が奪われてしまう。そうあってはならないと思っています。「放課後格差」を埋め、誰かが子どもの可能性を守り、育てていかなくてはならない。私たちが、その役目を担っていきたいと思っています。

(イベントプロデュースなどを行う株式会社CRAZYさんの本社にて、社員の方と子どもたちが一緒にデザイン&ペイントをしました。)

──具体的には、どんな取り組みをされているんでしょうか?

中山:
日々の現場で、子どもたちとまず真剣に向き合うこと。これは大前提としてあります。
これまで子ども一人一人の状況を客観的に把握するために、学年別に647項目ある「CFAアセスメント」という評価シートを用いてきました。3年かけて開発したもので、先生が子どもを見ながらそれぞれの項目を5段階で評価する仕組みになっています。

しかし、まだ試験段階ではありますが、この8月からは子どもたち自身が自分たちで現状をチェックしていく方針に変えました。

一見元気そうで何の問題もなさそうに見える子どもが実は不安や悩みを抱えていることがあります。先生が判断するのではなく、子どもたち自身が評価することで、見えない部分をあぶり出し、悩んでいることを解決するためのひとつのきっかけにしたいと考えています。

──なるほど。

(生活の課題について子どもたちと話し合う様子。)

保護者や学校の先生との連携も重要

中山:
子どもと関わっていくにあたっては、保護者の方や通っている学校の先生方の理解と連携も非常に重要です。

面談など、保護者とのやりとりをしない学童保育が多い中で、私たちは保護者の方と半年に1回面談しますし、毎週お便りを出して、一人ひとりのエピソードを報告するようにしています。面談は、長い場合は4時間ぐらいとことん話すこともありますね(笑)

(保護者の方とやりとりをする「連絡帳」。子どもを見守るために、学校の先生や保護者の方との連携は必須。)

──4時間!すごいですね。

中山:
そのぐらい話をしないと、放課後の本当の価値って伝えづらい。「放課後で、うちの子はこんなに成長しているんだな」ということを、保護者の方に感じてほしいと思っています。また、今は足立区と墨田区で7つの学童保育を運営していますが、毎年すべての学校を回り、課題がある生徒は学校の先生とも連絡を取り合いながら、子どもと向き合っています。

(保護者向けに発行しているお便り。どんなイベントがあって、子どもたちが放課後をどう過ごしたかを、保護者とも共有している。)

──学童保育のイメージが変わりました。そこまでされているんですね…。

中山:
「子どもたちにとって、ベストは何か」。大人が考える放課後ではなく、彼らがどんな風に過ごしたいかを常に第一に運営していきたいと思っています。

大人ができることは、あくまで子どもたちをサポートすること。大人の決めたルールの中で生きていかなきゃいけないことが増えている中で、せめて放課後だけは、そんなしがらみから解放してあげたい。
子どもたちが自分で考え、選択できる空間にしてあげたいと思っています。

(子どもたちの話し合いの様子。学童保育内で必要な備品も、子どもたちの運営委員で話し合い。「『子どもたちのための放課後』から『子ども自身の放課後へ』。)

チャリティーは放課後の大切さを伝える冊子制作のための資金になります!

──今回のチャリティーの使途を教えてください。

中山:
先生方を対象に講演させていただいたり、保護者の方たちと接する機会がありますが、現場の先生方が「このままではよくない」と危機感を持っている一方で、保護者の方はなかなか放課後のイメージが出来ていないことも多いです。普段子どもたちがいる時間は保護者の皆さんは働いているので当然といえば当然なのですが。

しかし、学童保育の現場を変えていくためには、社会一般の人たち、特に保護者の方たちの「放課後は、子どもたちの自立にとって必要な時間」という認識が広まっていくことが必要だと感じています。

現場で子どもたちの放課後の評価を集め、いろんな事例を紹介しながら「放課後の重要性」を説く学童保育の冊子を作りたいと考えています。

(肝試しにて。)

日本の学童保育のあり方はまだまだこれからで「こうするのが良い」という定説があるわけではありません。今後そこを作っていく必要があるし、そのためにはまず「放課後の重要性」を知ってもらう必要があります。

完成した冊子は、市民センターや学童保育の関連施設などに置いて、「うちの子どもの学童保育は大丈夫だろうか?」、「自分の子どもは、放課後を楽しめているだろうか?」ということを考えるきっかけにしてもらい、学童保育のあり方を変えていくムーブメントを起こしていきたいです。

──すばらしいですね!どのぐらいのボリュームの冊子になるでしょうか?

中山:
20ページ弱の冊子をイメージしていて、今回のチャリティーで、500冊分の制作費・20万円を集めることが目標です。

──今回のコラボを通じて、子どもたちの自由な放課後を作っていくために協力できれば嬉しいです!
ありがとうございました!

(子どもたち、保護者の方やスタッフ皆で行ったBBQにて、みんなで記念撮影!)

“JAMMIN”

インタビューを終えて〜山本の編集後記〜

小学生の頃、終業のチャイムが鳴るや否や、心は「放課後何をするか?」に奪われていました(笑)。それぐらい、放課後ってワクワクする、誰にも邪魔されない自分たちの時間でした。友達も先生も、校庭の遊具でさえ、放課後は学校で学んでいるときとは全く別の表情を見せてくれるように感じたし、そんな中で、勉強からは学べない、計り知れないほど多くのことを学びました。

子どもたちを取り巻く環境、大人たちの意識が変わりつつある中、今の子どもたちはどうでしょうか?
豊かな経験が心を豊かにし、そんな中でやがて成長した子どもたちは、社会をも豊かに変えていってくれるように思います。

「日本の学童保育は、過渡期も過渡期。でも、ここを変えていかないと」。そう話す中山さん。静かな口調の中に、力強さ溢れるインタビューでした!

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“自立”を象徴する旗を掲げ、いろんな動物たちが前へと突き進んでいます。
放課後、互いに切磋琢磨しながら成長していく様子を表現しました。
いろんな種類の動物たちと、キリッとしていたり笑っていたり、それぞれの表情は子どもたち一人一人の個性を表しています。

“Play is the highest form of research”、「遊びこそ、最も最高な学びの場」!

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