地域の人たちの密な関わりが減り、人間関係が希薄になりつつある昨今。子どもの虐待死や高齢者の孤独死なども問題になっています。
──地域の人たちが互いに見守り、助け合いながら生きていくことができたら。そのために、「強制」ではなく「自発」的に地域の人たちが集まり、顔を合わせられる場所があったら──。
今週、JAMMINがコラボするのは一般社団法人「みんなのとしょかん」。
震災や自然災害によって移住を余儀なくされ、コミュニティーの再生が急務とされる地域、過疎が進む地域に「あらたなコミュニティーを醸成する場」として、地域住民たちが主体となって運営する「図書館」を設置する活動を続け、これまで被災地の仮設住宅を中心に保育所や老人ホームなど63もの箇所に図書館を設置してきました。
「全面的にサポートするが、実際にその図書館を使っていくのは地域の方たち。運営の細かいルールやどうしていくかといった方針は、住民たちの手に任せている。そうすることで、地域の新たな魅力が生まれていく」。そう話すのは、「みんなのとしょかん」代表理事の川端秀明さん。
活動について、お話をお伺いしました!
(お話をお伺いした「みんなのとしょかん」代表理事の川端さん。)
一般社団法人みんなのとしょかん
「コミュニティーを醸造できる場」として、民間の図書館を設置する活動を行う一般社団法人。単に本を送ったり資金面を支援するだけでなく、図書館を無理なく管理するための地域チームづくりもサポートし、地域での「生きがいづくり」や「新たなコミュニティーの場」を提供しています。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
──今日はよろしくお願いします。
図書館を通じて新たなコミュニティーを作ることを目的に活動されていますが、「図書館」に着目して活動を始められた理由を教えてください。
川端:
私たちの活動は、2011年の東日本大震災の後にスタートしました。最初は、被災地に物資を届ける活動をしていたんです。でも、お金がもたなかったし、届けられる支援も底をついてきてしまった。「モノを届ける」の支援の限界を感じました。
そんな時、仮設住宅に移り、隣近所が知らない人たちばかりで、人間関係を上手く築くことができず、孤立する被災者たちを目の当たりにしました。
新たな場所で、イチからコミュニティーを作る必要がある。でも「コミュニティーをつくる」って、そう簡単なことではありませんよね。
被災地に限らず、過疎の地域でも、コミュニティーの維持は難しくなってきています。自治会や町内会に対して参加意識が薄れ、これを強制的に続けていく、というのはなかなか難しい。
(震災直後、石巻市横川地区に設置された「みんなのとしょかん」(※現在は他の場所へ移動)。地元の中学生が図書委員を買って出てくれ、図書の管理を行ってくれた。子どもの施設や老人ホームの中にも図書館を設置することで、地元の人々に交流のきっかけを提供している。)
──確かに、私の住む地域でも、親の世代は地域の行事に参加していますが、私の世代になってくるとそうではないですね。役回りがあったりして、結構大変そうな印象もあります。
町内会なども、負担が大きいという理由で積極的に参加しない人たちも増えてきていると聞きます。
川端:
失われつつ「地域のつながり」を目の当たりにして、強制ではなく、地域の人たちが無理なく集まり、つながっていくことができる場所はないか──。そう考えたときに、図書館っていいんじゃないかな、と思ったんですね。
強制感が出てしまうと、なかなか続けていくことが難しくなります。けれど図書館って、強制もなければ、行く目的も特に要らない。お金もかかりません。
ただ遊びにいくだけでもいいし、誰かとおしゃべりに行くだけでもいい。そんな緩いつながりの中で「一人じゃない」と感じられるような場所を作りたいと思ったんです。
(宮城県亘理(わたり)郡亘理町の「みんなのとしょかん」にて、スヤスヤと眠る赤ちゃん。図書館という枠を超え、地域の人たちがつながり、皆で子どもを見守り、育てるきっかけにも。)
川端:
私たちが図書館をつくる上で大切にしていることは「持続可能かどうか」。
完成までいろんな面でサポートしますが、「完成=ゴール」ではありません。運営していくのは地域の人たちだし、図書館というきっかけが活かされていくかどうかは、地域の人たちの手に委ねられています。
「他人の力が必要な状態」だと、結局運営が難しくなり、成り立たなくなる。
地域の人たちが自分たちの力だけで運営していくことができるように、これまでの失敗も生かしながら、支援をしています。
(図書館設置にあたってのミーティング風景。最初に目標をしっかりと共有する。)
──一つの図書館を完成させるまでに、具体的にどのようなプロセスがあるのですか?
川端:
図書館が完成するまでに、私たちはいくつかのステップを踏んでいます。
まずは、地域の人たちから声をあげてもらうこと。
私たちが勝手につくっても、それってその地域の人たちからしたら「誰かにしてもらったもの」であって「自分たちのもの」ではないんです。そうすると、その後の運営が難しくなってくる。
自分たちのものであるからこそ、愛着も湧くし、地域に根付き、新しいコミュニティーが生まれるきっかけになっていく。だから、地域の方たちを巻き込んでいくことは、とても重要だと考えています。
あとは、設置場所と完成日や資金集めの方法、設置方法や「どんな図書館にしたいのか」を話し合い、あらかじめゴールを設定して動きます。
(全国から集まった本を仕分けている様子。企業や個人からたくさんの本が送られてくるのだそう。)
──最初から具体的に詰めていくんですね。
川端:
資金面に関しては、地域の人たちに何らかの負担を持ってもらうようにしています。一つの図書館が完成するまでに、安くて2〜300万から500万円ほどの資金がかかります。
そのうちの何割かを地域の人たちで集めてもらったり、重機はすべて用意してもらったり…。それも「誰かのではなく、自分たちの図書館」をつくるためには欠かせないプロセスです。諸々の準備が完了したら、「1日」で図書館をつくります。
(こちらは図書館の設置風景。1日で設置から完成までをやり遂げるため、コンテナハウスを使用。)
──「1日」ですか?
川端:
「1日」と決めることで、みんながんばれるし、作り上げた成果が目に見える。だから「1日で」というところにこだわっています。
(設置したコンテナハウスの図書館に、本棚を入れて本を並べる作業。)
──「継続できるかどうか」が重要、ということでしたが、図書館の運営はどうされているのでしょうか。
川端:
一人だと大変なので、何名かで運営チームを作ってもらい、開館閉館の時間や本の貸し出し期間など、細かいルール等はすべてそれぞれの図書館に任せています。
本はどうしてもなくなってしまうこともあります。また、「みんなのとしょかん」は、基本的には飲食OKなんです。おじいちゃんやおばあちゃんが、お孫さんと一緒に図書館に来て、お弁当を食べながら本を読んだっていいじゃないですか。本が汚れてしまうこともあるので、大切な本や高価な本は貸し出し禁止にするなど、事前の策を練ってもらうようにしています。
(本は各企業からの協賛のほか、小学校などでも読まなくなった本を募り、集めてくれています。)
──管理の上でモチベーションが保てなかったり、揉めたりということはないですか?
川端:
図書館が完成するまでステップをきちんと踏んでいるし、その間に、チームのみんなで「どんな図書館にしたいか」というイメージが共有できているので、管理運営の段階で問題が発生するということは随分減りました。
川端:
「みんなのとしょかん」の事例を紹介したいと思います。
宮城県亘理郡山元町(やまもとちょう)にある「みんなのとしょかん」。これまで私たちが携わった図書館のなかで、群を抜いて地域の方たちの利用率が高い図書館です。
(山元町の「みんなのとしょかん」外観。)
川端:
山元町という地名はあまり知られてはいませんが、ここは東日本大震災の後、岩手県陸前高田市に次いで人口流出率が高かった地域。
津波によって駅舎や線路もすべて流されてしまった、山元町にある旧山下駅の跡地にコミュニティーの再生を願って「みんなのとしょかん」はつくられました。
最初は3,000冊でスタートした蔵書も、今では8,500冊までになりました。
私たちは追加で500冊、リクエストされた本を持っていったのみなので、5,000冊は地域の方たちが持ち込まれた本ということになります。
(こちらが山元町の「みんなのとしょかん」の内部。所狭しと本が並ぶ。)
(山元町の「みんなのとしょかん」利用風景。子どもたちや家族がゆっくりと過ごせる場所。)
川端:
これまでの貸出本の累計は12,000冊を超え、今では、内陸の復興住宅に移った子どもたちも、自転車やバスに乗って、わざわざこの図書館へ遊びにきてくれます。また、「みんなのとしょかん」の周りには今、焼きもの教室やビニールハウスを改装したミニコンサートホールができ、たくさんの人が集まる場となっています。
(「みんなのとしょかん」横にできたミニコンサートホール。)
──すごいですね!
川端:
名も知られていない小さな町のがんばりというか、底力を見た気がしました。
名の知れた大きな町ならそんなことはないのかもしれませんが、小さな町の人口が減少したときに、行政も誰も支援してくれません。でも、地域住民が自分たちの力で町を活気づけているというモデルケースに、この町がなっていると思うんです。
10年後、20年後…、果たして自分たちの住む町も同じようになったとき、こんなふうに地域の人たちが力を発揮し、つながっていく場所になれるだろうか。
「モノ」はなくなるけど、「つながり」はなくならない。
図書館を通じて、「つながり」を作り広げていく空間、図書館だけにとどまらない空間が生まれていくことを願っています。
(東日本大震災の津波で浸水したため内陸に新設された山元町の山下駅(JR東日本常磐線)には、「みんなのとしょかん」ミニコーナーが設置された。)
──「すべてのまちに、としょかんを」というキャッチコピーを使われていますが、それは「すべての町に、地域のコミュニティー発信地を」ということなのですね。
川端:
そうですね。図書館は、一つの手段に過ぎません。
「図書館」という枠を超えて地域に根付き、地域の人たちの中にあって、もっと大きなコミュニティーを生んでいって欲しいと思っています。
だから「図書館」ではなく、あえてひらがなで「としょかん」と表記しているんです(笑)。
(毎年3月11日には、「みんなのとしょかん」の敷地内で慰霊の竹灯籠が飾られる。)
──今回のチャリティーの使途を教えてください。
川端:
今回のチャリティーは、紹介した山元町の「みんなのとしょかん」からのリクエスト本購入のための資金として使わせていただきます。
書籍購入にあたり、1冊あたり平均して1,000円ほどかかります。今回、書籍100冊分・10万円のチャリティーを集めることが目標です!
──最後に、川端さんにとって「みんなのとしょかん」のご活動とは、どういうものですか?
川端:
地域の人たちがいてくれたからこそ、ずっと続けてこられた活動です。
みんなで円陣を組んで一つのものをつくり出すのであって、決して私が教える立場というわけではありません。
教えるし、教わるし、刺激を受けて私自身「がんばろう!」と思える。
これまで携わってきた地域の方たちには、心の底から敬意を抱いています。
図書館づくりを通じて、お互いに刺激し合う関係が生まれ、図書館ができた後も、その良い連鎖が続いていく…そんな活動だと思っています。
──ありがとうございました!
(東松島市の仮設集会所の前にて、東松島市にある「みんなのとしょかん」運営スタッフの皆さんと。)
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
誰もが一度は利用したことがある「図書館」。図書館が嫌い!という方は少ないと思います。老若男女、いろんな人がそれぞれ思い思いに本を探したり、読んだり、ゆっくり過ごしたり…そんな空間は独特で、私も図書館が大好きでした。
自然と人が集まる図書館を、コミュニティー作りの場として着目された点、すばらしいなあと思いながらインタビューさせていただきました。
今以上に活気ある図書館、たくさんの人が集まる場所を目指して、ぜひ今回のチャリティーにご協力ください!
屋台のような移動式の図書館を描き、
「すべてのまちに、としょかんを」というみんなのとしょかんの思いと、リラックスできる場を表現しました。
“Take your time”、「自由にしていってよ」というメッセージを添えています。
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