夏といえば「プール」ですね。この夏休み、ご家族と、お友達と、プールに行く方も多いのではないでしょうか?
今週、私たちがコラボするのは、「NPO法人プール・ボランティア」
知的障がい者や身体障がい者、高齢者の方たちとマンツーマンで一緒にプールに入る活動を、1999年から続けてきました。
「障がい者の人たちは、陸上では体の自由がきかなくても、水中では浮力を使って陸上より自由に動くことができる。陸上ではどうしても監視されがちな生活の中で、水の中では自由になれる。プールで水と戯れることで、彼らの笑顔や新しい可能性を引き出すことができる」。そう笑顔で話すのは、プール・ボランティア事務局長の織田智子さん。
大阪にある一般の市民プールで、18年にわたって活動を続けてきました。
活動を始めた当初、健常者の人たちからは「目障りや」、「障がい者専用プールがあるのに、なんで市民プールにくるんや」といった批判もあったのだとか。
今、周囲から聞かれる声は「上手になってきたなぁ」や「がんばりや!」に変わってきているといいます。
逆境も乗り越え、活動を続けてきたプール・ボランティア。
ご活動について、詳しいお話をお伺いしました。
(お話をお伺いしたプール・ボランティア事務局長の織田さん。「プールに携わることじゃなかったら、ボランティアとは縁がなかったかもしれない」と語る、大のプール好き。)
NPO法人プール・ボランティア
大阪を拠点に、障がい者や高齢者が健常者と同じようにプールに行く事ができ、楽しく安全に「水」に親しむことができる社会の実現を目指し、1999年より障がい者や高齢者に有償でボランティア活動を行うほか、「人にやさしいプール」をテーマに、障がい者や高齢者の視点に立ったプールの相談・提言を行っています。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
──ご活動内容について教えてください。
織田:
私たち「プール・ボランティア」は、知的障がい者や身体障がい者、高齢者の方たちが安心してプールを楽しめるよう、有償でボランティアを行っている団体です。
活動を始めて18年になりますが、最近ではこれまでのノウハウを生かし、各地のプールで、障がい者対応研修や、「人に優しいプール」をテーマに、プールの設計や運営管理の提言なども行っています。
(肢体不自由の子どもも、プール用車イス(ベッド型)を使って安全にプールに入水することができます。「早くプールに入りたい」という気持ちから、生徒さんも体を左右に動かすため、抱えている方は落としてしまわないか、入水時はとても緊張するのだそう。)
──近年でこそ「バリアフリー」や「障がい者との共生」といったテーマが話題にのぼりますが、18年前となるとまだまだそういった意識が低かった時代なのではないかと思います。活動当初は周囲からなかなか受け入れてもらえないような状況だったのでは?
織田:
そうですね。偏見はありました。私たちは活動にごくごく一般の市民プールを使っているのですが、「目障りや」とか「障がい者専用プールに行ったらどうか」とプールの管理者さんに直接言われたりだとか、そういうことはありました。
障がい者専用プールは当時からあったんです。すごくアクセスしづらい場所でしたが…。でも、障がい者だからと障がい者プールに行くのでは意味がない。
私たちは、障がい者も健常者と同じようにプールに行ける社会の実現を目指しています。一般のプールを使い、障がい者たちが健常者の世界に混ざることで、「共生」ならぬ「共泳」への一歩を生んでいきたいという意図もありました。
予期せぬハプニングやトラブルがあったとしても、それが「共泳」への第一歩だと捉えています。
(プール・ボランティアは、障がい者支援事業のほか、高齢者のプール・リハビリ支援事業にも力を入れている。写真は沖縄で開催されたイルカ旅行にて。SCD(小脳変性症)により普段は車椅子生活を送っている参加者の石川さん、イルカに触れて嬉しそう!)
──確かに、そうですね。関わること・交わることがないと、ずっとそのままカベのある並行線ですね…。多少の摩擦はあっても、交わって相手を理解していくことで、より良い社会が生まれていくように思います。
織田:
活動を始めた当初、市営プールで私たちは完全にアウェーでしたし、白い目で見られることもありましたが、「こんにちは」、「お願いします」、「ありがとうございます」といった挨拶や声がけを徹底するようにしていました。今は、地域の方にある程度受け入れてもらっているなと感じます。
──周囲の人たちの意識が変わってきたんですね。
織田:
大阪が変わってきたと思います。今は、障がい者とボランテイアが市民プールに入るのが普通の光景になってきました。
「がんばりや!」とか「たいへんやな」って声をかけていただくことも増えてきました(笑)。大阪人ならではの、お節介というか世話焼きというか、人情深い風土もあったのかもしれません。
(支援を受けた企業のロゴ入りスイムキャップを着用。プールのお客さんから、「僕、○○(会社の名前)のOBやねん!」と声をかけられることもあるのだとか。)
織田:
受け入れられてきたからといって、プールでトラブルがないわけではありません。
生徒一人につき、ボランティア1名がマンツーマンでずっと付き添ってプールに入りますが、一生懸命泳いでいるうちに隣のレーンの人とぶつかってしまったり、おしっこをしてしまったり、予期せぬハプニングもあります。
また、ボランティアは、障がいのある生徒たちが安心して水を楽しめるよう、安全面の配慮に必死ですが、その生徒から「あっち行け!」とか「お前なんか嫌いや!」という言葉の暴力に傷つくこともあります。もちろん、感情をうまくコントロールできず発している言葉であって、本心ではないとわかってはいますが…。
──心折れたりしませんか?
織田:
やっぱり心が折れました(笑)。これ以上できないと思うこともありました。
でも、ボランティアみんなで協力し合い、大変なことも笑い飛ばしながらやってきました。ボランティアみんな、とにかくプールが大好きなんです。その思いは一緒だから、プールがあるから、深刻になりすぎず楽しく活動を続けてこられたのだと思います。
障がいのある生徒たちの素行に関しては、親御さんも家庭に戻ってから改善の努力をしてくれます。
「水中」という陸上とはまた違う空間を設けることで、生活自体が変わる。そんな良さがあります。
(プールの中では、障がいのあるなし関係なくプールを愛する者同士。ボランティアスタッフの皆さんも、プールの楽しさを伝える喜びを感じているといいます。)
──実際のレッスンはどのような感じで行うのでしょうか?
織田:
私たちは月々18,000円(障がい者水泳教室の場合の費用)の会費で活動をしています。お金をいただくことで、風通しの良い対等な関係と作ることができ、活動が長続きすると考えています。
一回のレッスンはだいたい90分。大阪をはじめ、奈良や兵庫の市営プールで教室を開講しています。レッスンは完全にマンツーマンで、水に潜む危険も、水と戯れる楽しさも熟知した水泳のプロフェッショナルが指導します。
障がい者がプールに入ることは、健常者がプールに入る以上にリスクが高いです。障がい者から目を離さず、見守りながら、それでいて本人たちが何にも邪魔されず、水中を楽しむ時間を作るようにしています。
「指導者」というよりは、水の中では同じように水を愛する人間同士。安全面
に関わることだけはしっかりと指導しますが、それ以外は指導方針を親御さんと相談しながら、なるべく同じ目線で接しています。
──プールの中では、生徒の皆さんはどんな反応ですか?
織田:
最初は怯えたり泣いたり叫んだりしていた子も、今では本当に楽しそうにしています。みんなニッコニコで(笑)。
慣れるまでは厳しく教えるところもありますが、「とにかく楽しく!」ですね。
身体障がい者の人たちは、水中では浮力を使って、陸上よりも自由に動くことができます。知的障がい者の人たちも、普段の生活でストレスや悩みをうまく表現できない中で、プールで泳ぐことが癒しの空間になっているようです。
私たち自身も水が好き、プールが好きでずっと活動を続けていますが、嬉しそうに泳ぐみんなの姿を見て、水の持つ力の偉大さのようなものを感じますね。
(全身で水を感じる。他では体験できない感覚に、生徒の皆さんは本当に嬉しそう!)
──すごいですね。
織田:
先日、生徒たちの水中写真を親御さんたちにプレゼントしたのですが、いつもは観覧席でレッスンを見ている親御さんたち「こんなに良い顔しているんだ!」という反応でした(笑)。
陸上では見られないような満面の笑顔に、いつも魅せられます。
──障がいのある方たちも、ボランティアの方も、「プール」を通じて幸せな気持ちを分かち合える。素晴らしいですね。
──今回のチャリティーの使途を教えてください。
織田:
障がいのある人たちのための「補助浮き具」の開発・試作のための費用を集めたいと思っています。
障がい者の中には、水に浮かぶことが難しい人たちもいます。
それでも、水の中の気持ち良さや楽しさを味わってほしい。そのために「補助浮き具」があります。体は水に浸かりながら、鼻と口は水面上に出るので、安心して水と戯れることができます。
──ライフジャケットとは違うのですか?
織田:
ライフジャケットよりももっと体全体が水の中に浸かり、自由に体を動かすことができながら、呼吸がきちんとできる。水を最大限に楽しめる浮き具です。
障がい者の人たちにプールを楽しんでもらうために、もっと普及したらいいなあと思っているのですが、現在あるのはデンマーク製のもので、一つ6万円と高額なのがネックで…。
(こちらがデンマーク製の浮き具。プール・ボランティアでも2つ所有しています。)
織田:
日本製で、安全面もしっかりしたクオリティーの高い補助浮き具を開発して、1/5ぐらいの価格で販売できたら、支援学校や、障がい者、高齢者の方がご家庭でお風呂に入る際などにも使うことができます。
──安心してプールやお風呂を楽しめる方が増えるということですね!
織田:
そうなんです。
「あればいいね」という話は、私たちボランティアの間でずっとあって、一旦試作品を作り、問題点や改善点を探りながらテストしている状態です。
(現在プール・ボランティアで開発中の補助浮き具。テストしているのは、プール・ボランティア理事長の岡崎寛さん。)
織田:
水中で使用するものなので、耐久性と安全性が必須条件。素材選びから、細心の注意を払っていく必要があります。
今回のチャリティーで、試作品を作り、テストして改善した試作品を再度作り…を数回重ね、ボランティアや障がい者本人の意見も取り入れながら、完成までを目指したいと思っています!そのための20万円を集めたいです。
──実際に完成すれば、障がい者や高齢者の方がもっと身近に、手軽に水と触れ合うことができるようになりますね!
皆さん、ぜひチャリティーにご協力ください!
(生徒さん、ボランティアスタッフの皆さんでパチリ!「2020年のパラリンピックに向けて、選手を育成するのが夢!」とも語ってくださいました。時に厳しく、何より楽しく!「プール」を超えて、共生の輪が広がっていきますように。)
インタビューを終えて〜山本の編集後記〜
とにかく明るく、笑顔でインタビューにお答えくださった織田さん!そして、常に隣で面白いコメントくださった(笑)、理事長の岡崎さん。とても楽しいインタビューでした。
「楽しくやっています」とおっしゃっていましたが、水中で一人の命を預かるということは、想像以上に責任の大きい、気の抜けない任務のはずです。
「私たちはプールが大好きだから、ただ、プールの楽しさを一人でも多くの人に伝えたい。福祉をやっているつもりは全然なくて、スポーツなんです」。
そう笑顔で話していらしたのが印象的でした。
その明るさや、生徒の方を必要以上に特別扱いしないこと。
もしかしたらそんなところが、普段特別扱いされがちな障がい者の方たちにとっても、「自分らしく、素で居られる」所以なのかもしれません。
潜水艦や魚、海藻…。
水中の世界に、車やビル、木々や鳥など陸上の世界が混在しています。
「水中では、誰もがなりたい自分になれる」、そんな思いを表現しました。
“I can be myself in the water”、「水の中では、本当の私になれる」。
そんなメッセージを添えています。
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