2020年東京オリンピック・パラリンピック開催を目前に控え、メディアでもパラスポーツやその選手を目にすることも増えてきました。
しかし日本の社会は、障がい者と健常者の共生にはまだまだ程遠く、壁があるのが現状ではないでしょうか。
今週、JAMMINがコラボするのはNPO法人D-SHiPS32。
スポーツを通じ、障がい者と健常者が共生する社会を創ることを目的に活動しています。
代表理事を務めるのは、上原大祐(だいすけ)さん。
2010年のバンクーバー・パラリンピック冬季大会にアイススレッジホッケー日本代表として参戦、準決勝の対カナダ戦で決勝ゴールを決め、銀メダル獲得に大きく貢献しました。
2013年シーズンにはアメリカのチームに所属しプレー。帰国後、NPO法人D-SHiPS32を立ち上げました。
▲D-SHiPS32代表理事の上原さん。
NPO法人D-SHiPS32(ディーシップスミニ)
障がい者と健常者が時間を共有する場を創ることで、誰もが夢を持って挑戦する社会を創造することを目的に、「コミュニティ」、「イベント」、「教育」の3つの軸で、障がい者と健常者の相互理解を促すために活動するNPO法人。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
──今日はよろしくお願いします。まずは、上原さんについて教えてください。
上原:
僕は、二分脊椎という先天性の障がいで、下半身麻痺を持って生まれてきました。ずっと車椅子生活をしていますが、小中高と普通の学校へ通いました。
──普通の小学校へ通われたのは、意図的になんでしょうか?
上原:
そうです。あっ、今実家で、母親もいるんで、母親に聞いてください。
すずこー!すずこー!
紹介しますね。母親の鈴子です。
(ここで、お母様・鈴子さんが登場)
鈴子さん:
初めまして。
そうなんです。あえて普通の小学校へ通わせました。幼稚園の頃から活発で、友達ともうまくやっていたので「大祐なら、普通の小学校へ行ってもみんなと仲良くやっていける」という自信があったので。
──学校サイドからなかなかOKは出なかったのではないですか?
鈴子さん:
そうですね。99%「ダメ」と言われました。でも、1%でも可能性があるんだったら、と諦めずに何度も話し合いの場を持ち、最終的に「母親が付き添って面倒を見る」という条件付きでOKをもらいました。
▲幼い頃の上原さんとお母様の鈴子さん。とても活発なお子さんだったのだそう。
鈴子さん:
車椅子に乗っているだけで、何もできないと思われていたんです。でも、本人は足が悪いだけで、あとはごくごく普通に生活できるんです。
学校に通い始めると、最初はみんな車椅子を見たことがないので、遠巻きに大祐を見ていました(笑)。でも、彼が普通の子だとわかると、だんだん近寄ってきて、どんどん仲良くなって。
小学校6年生まで毎日尽き添う覚悟で入学したものの「何でも自分でできるじゃないか」と、入学から3週経ったときには「もう来なくていいです」と言われてしまいました(笑)。
あとは、先生とお友達が助けてくれました。
上原:
車椅子で生活をしている人を受け入れたことがなく、知らないし、どうしていいかもわからないから「入学できない」って拒否したけど、一緒に過ごしたら「別に変わらないじゃん」っていうことを実感してくれた。
後に就職活動で、営業の仕事の面接を受けていたんですがやっぱり同じ理由で「入社できない」ってなるんです。人事の人たちは、車椅子の人を雇ったことがなくて、知らないから「できない」と思い込んでしまう。
今でも、この状況って全然変わっていないんですよ。
このままだと、いつまで経っても、「健常者」と「障がい者」が互いに交わらないまま、知らないまま生きていくことになる。そんな現状を変えるために、活動しています。
▲仲の良い友達同士、二人で車椅子に2枚の刃がついた「スレッジ」を体験。二人とも普段は車椅子で生活しています。
──日本で普通に生活していると、ぶっちゃけ、障がいのある方と接点がなく、知らないというのはありますよね。
上原:
それは、障がい者の方にも責任があると思っています。
健常者は、障がい者とのかかわり方がわからない。
障がい者は、社会とのかかわり方がわからない。だから、本当は出て行きたくても出て行かない。
そうすると、いつまで経っても交わらない。誰かが行動を起こしたり、何か言ったりするのを待っている状態です。
そこで、僕みたいなのが行って、ヤーヤー言うわけですよ(笑)。大変ですよ、僕みたいなのが出て行ったら(笑)。
──街で困っている障がい者を見かけたとして、やっぱり「声をかけても何も役に立てないかも」とか「別に困ってないかも」とか、いろいろ言い訳を考えてそのまま何もしない、何もできないというのは、ありますね。
何かしたくても、どうしていいかわからない。
上原:
健常者は、障がい者への手の差し伸べ方がわからない。そりゃそうです、障がい者と接したことがなければ、障がい者が何に困っているか、どんなことが大変かとか、知らないし、わからないですよね。
その「知らない」が「知っている」になった時に、アクションって変わってくると思うんです。まずは「互いを知る」こと。それが、みんながより住みやすい社会をつくるための一つのキーワードだと思います。
上原:
だから、健常者も障がい者も楽しめるスポーツやイベントを企画して、互いを知り、理解を深められる場を作っています。
福祉じみたことをやろうという気持ちは一切無いんですよ(笑)。「障がい者」と限定するのではなく「健常者も、障がい者も」、「誰もが楽しむことができる」場を作ることがポイントです。
「ゆるスポーツ」ってご存知ですか?
僕は「世界ゆるスポーツ協会」のアンバサダーも務めているのですが「イモムシラグビー」っていうのがあるんです。専用のイモムシウェアを装着して試合するんですけど、基本動作はイモムシの動きなので、ほふく前進か転がるかしかないんですね(笑)
▲こちらが「イモムシラグビー」。イモムシウエアを着れば、障がいのあるなしや運動神経に関係なく、みんな同じ目線&フィールドに。
上原:そうすると、僕のように普段車椅子で生活をしている人間のほうが、普段から上半身を使っているので強かったりする。
障がいや運動神経にとらわれず、先入観なしで、みんな同じフィールドで戦える。同じ目線でものを見て、そして笑い合える。そこから理解が生まれていく。
そんな風に互いの理解が広がっていけばいいし、スポーツにはその力があると思っています。
──いもむしラグビー、めちゃめちゃ楽しそうですね。
上原:
D-SHiPS32の活動のひとつに「車いすスポGOMI」というのもあります。
車椅子に乗ってゴミ拾いし、集めたゴミの量とバリアフリーポイント、そうではないポイントを街中で探して、ゴミの量とポイントの数で競うスポーツなんですが、見慣れた場所も、車椅子に乗ることで健常者には新しい発見がある。「普段は気にしていない小さな段差でも車椅子だと大変なんだ」とかね。
そうやって車椅子目線から街を知ると、車椅子の人に出会ったとき、おせっかいをやけるようになる。「あっちにスロープありますよ!」って声をかけられるようになるんです。
──なるほど。
上原:
街に出れば、段差がある、通れない場所がある。車椅子に乗れば、障害だらけなんです。
「100パーセントバリアフリー」なんて、ないですから。
だったら、障がい者と健常者が助け合う道を模索していくほうがいい。
困っている障がい者を見たとき、そこで声をかけられるか、かけられないかは、障がい者の目線を知っているか、知らないかで変わってくると思うんです。知れば、それまでよりも気軽に声をかけられるようになる。
▲「車いすスポGOMI」。見慣れた風景でも、車椅子に乗ると違ったものが見えてくる。
上原:
障がいのある我が子に普通の生活をさせるのが精一杯で、スポーツをさせる余裕がない。
これは、障がいのある子を持つ親御さんの声です。
僕は、普通の子どもたちと同じように学生時代を過ごしました。でも、その裏で母は、僕が普通の学校に通えるように、いろんな人に頭を下げていたんですよね。
あれから25年以上経つのに、障がいのある子どもを持つ親御さん達から聞かれる声は同じなんです。「みんなと同じ、普通の生活をさせるのが精一杯だ」と。
努力して努力して、やっと普通の生活が送れると。障がいを持って生まれてきたという理由だけで「普通の生活」が送れない現状があるんです。これは、変わっていかなきゃならない。
障がいのある子ども達も、普通の子どもと同じようにキラキラ輝く夢を持ち、そこに向かって努力して自信をつけたり、ときには挫折したり、仲間と出会ったり、そんな当たり前の経験をしてほしいと思っています。
だって「夢が、一番のエネルギー。」だから。
▲上原さんのお友達、小学校2年生のまこちゃん(筋ジストロフィー)と。
──今回のコラボで集めるチャリティーの使途を教えてください。
上原:
僕たちの活動のひとつに、「ユニバーサルビレッジきっかける103」(長野県東御市)という誰もが楽しめる街づくりプロジェクトがあります。
チャリティーは、この夏実施する「じゃがいも掘りツアー&誰もが交わるキャンプ」の開催費(交通費など)に充てたいと思います。
▲昨年のじゃがいも掘りでの一コマ。参加者も嬉しそうな笑顔!
──「じゃがいも掘り」ですか?その心は?!
上原:
僕自身の経験から「車椅子の大敵は土」ということで(笑)。
車椅子だと、なかなか土のなかには入っていけないんですよ。前に進めないしね(笑)。
イベントには誰でも参加できます。車椅子の人も車椅子のまま畑のなかへ入って、みんなで芋を掘ります。
その後、採れたじゃがいもでバーベキューしたり、カレーを作ったり。
──めちゃ楽しそうですね(笑)。
▲車椅子で初めて畑に入れた!「できない」が「できた!」に変わった瞬間、周りにいる大人たちも皆感動します。
上原:
チームで動くとき、それぞれみんな持っている能力が違いますよね。
「自分はこれはできるけど、あれはできない」っていう壁があった時、話し合う、つまりコミュニケーションが生まれる。そこで互いを知っていくんです。
「じゃがいもを掘る」という同じ目標に向かって、みんなで助け合ってひとつのことを成し遂げる。子どもたちにはそれが自信にもなるし、障がいのある人もない人も、楽しみながら互いを理解するきっかけになる場所です。
今回は、開催費用のうち15万円を集めたいと思っています。
▲昨年開催したキャンプにて。参加者の皆さんで記念にぱちり!左端は今回インタビューにもご協力くださった上原さんのお母様・鈴子さん。
──ありがとうございました!
インタビューを終えて〜編集後記 by山本〜
過去にバンクーバーでしばらく生活をしてたのですが、障がい者と健常者の共生がずっと進んでいる場所でした。
日本の「障がい者」という言葉のイメージとはまったく別で、皆さんがっつりタトゥーを入れておしゃれだったり、当然のようにナンパしていたり(笑)。あと、バイク並に速い車椅子(たぶんモーター積んでますかね)が走ってたり、車椅子を二台横並びにくっつけて並んでゆ〜ったり走っていたり…そんな改造車椅子も見かけました(笑)。
日本ではあまり見かけない、障がいがある方も生活を楽しむ光景がそこにはありました。
「障がい」って何だろう?そんなことを最近思います。
もちろんフィジカル面や、できることに違いはあります。でも、このテーマを考えるとき、一番の「障がい」は、私たちの心が作り出す「壁」のことを言うのではないでしょうか。
上原さんが本当に楽しくユーモアとエネルギーに溢れた方で、時間が経つのを忘れるインタビューでした。
最後に、インタビューで上原さんがおっしゃっていた言葉で今回のインタビューを閉めたいと思います。
僕は「課題って楽しい!って思ってるんです。
難しいこととかネガティブなことに捉えられがちだけど、「課題がある」ってことは「それを改善できる余地があるってことじゃないですか。
その状況を変えるチャンスができたっていうことだから。ピンチは、チャンスなんです。
ピンチを、チャンスに変えて活動するD-SHiPS32を、チャリティーアイテムで応援ください!
“Sail your own dreams”.
夢こそが、いちばんのエネルギー。
D-SHiPS32の力強いメッセージを、船をモチーフに表現したデザイン。
Design by DLOP