皆さん、「入院」にどんなイメージを持っていますか?
「退屈」、「孤独」、「できることならしたくない」…。
育ち盛り、遊び盛りの子どもたちにとって、病気が理由で入院をすること、家族と離れ、制限のある生活を強いられることは、大人以上につらい経験だと思いませんか?
今週のテーマは「がん・難病を抱える子どもの入院」事情について。
JAMMINがコラボするのはNPO法人チャイルド・ケモ・ハウス。
「がんになることは、不運なこともかもしれない。それでも「がんである」ということ以外は、他の子どもと何ら変わりなく、笑顔で過ごせる場所を作りたかった」。そう話すのは、NPO法人チャイルド・ケモ・ハウスを立ち上げた医師、楠木重範さん。中学生時代、自らも小児がんを発症・入院、克服した経験があります。
チャイルド・ケモ・ハウスについて、これからのビジョンについて、詳しいお話をお伺いしました。
▲お話をお伺いしたチャイルド・ケモ・ハウスの楠木先生。
NPO法人チャイルド・ケモ・ハウス
兵庫県神戸市で、小児がんをはじめとした医療的なケアが必要な子どもや若年成人と、その家族のための滞在型療養施設「チャイルド・ケモ・ハウス」を運営するNPO法人。
INTERVIEW & TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
──チャイルド・ケモ・ハウスについて教えてください。
楠木:
チャイルド・ケモ・ハウス(以下チャイケモ)は、小児がんやその他の難病の子どもとその家族が一緒に滞在・宿泊できる施設です。
他の病院と違うのは、入院中、自宅にいるように家族と過ごすことができること。
医療スタッフが常駐し、非常事態に備えつつ、お母さんの手料理を食べたり、おもちゃで遊んだりと「普通の生活」を送ることができる医療施設です。
▲チャイケモの施設の真ん中には、子どもたちが遊べる公園のようなプレイルームがあります。壁にはドネーションプレートを並べた、大きな「すごろく」が。
──なぜ、このような施設を作ろうと思われたのですか?
楠木:
医者の立場から見ると、小児がんの治療は進歩し、苦痛を軽減することが可能になってきています。
しかし、小児がんの認知度は低く、通っている病院によって「治療の質」が異なるという状況がありました。
大学病院で小児がんの子どもたちを診療していましたが、中には「もっと早くに適切な治療方法があったのに」という子どもたちがいたんですね。
小児がんの子どもたちに適切な治療を与え、治癒率を高めたいという思いがありました。
そのためには、小児がんに対する認知度を上げなければならない。小児がん専門の施設を作れば、認知度を上げられるのではないかと考えたんです。
──そうだったんですね。
楠木:
施設を作るにあたり、患者さんやご家族に話を聞いてみると、「あまりにもプライバシーがない」、「質が低く、長期入院できない」といった療養環境に対する不満の声が聞かれました。
患者さんに適切な治療を提供し、非常事態に備えるために、病院にはいろんな設備があるし、患者さんに対しても様々な制約が出てしまいます。それが患者さんの生活に負担にもなります。
かといって在宅医療は、家族の介護負担も大きくなるし、患者さんは生活としては安心だけれど、何かあったときに対応ができない。
「病院」と「在宅医療」と、両極端になってしまいがちなこの二つの中間的な位置付けの施設を作りたいと思いました。
▲付き添いの家族も簡易ベッドではなく、ゆったりと休めるベッドがあります。また、食事はベッドの上ではなく、家と同じようにテーブルで家族と一緒に食べることが出来ます。
──在宅のような安心感もありつつ、何かあったときにも対応してくれる医療施設なんですね。
楠木:
はい。
宿泊施設が医療施設として認可がなかなか下りなかったのですが、2年前から認可されました。
何かあった時に対応できるよう、医療スタッフが常駐しているのはもちろんですが、患者さんのかかりつけの大病院と連携できることが宿泊の条件となっています。
──「在宅のような安心感」とのことですが、どんな施設なのか、チャイケモの造りについて、教えてください。
楠木:
チャイケモには、19の個室があります。
それぞれの個室にキッチンやお風呂、ベッドがあって、患者さんとその家族が一緒に滞在することができます。
その他、自由に遊べる共有スペースや勉強スペース、共同風呂やレストランもあります。
共有スペースで、子どもたちやその家族が自由に参加できるイベントを開催することもあります。
▲個室ごとに、仕事で帰りの遅いお父さんなどのために外から直接部屋に入ることができる玄関があります。子どもは自分の家のように「おかえり」と言えます。
──施設を建てる際にこだわった点はありますか?
楠木:
特別なものは何も作っていませんが、「家」のような環境にこだわりました。
子どもたちとその家族が、自分の家での生活と同じように遊んだり、料理したり、食事したり、好きな時間にお風呂に入れたり…。何気ない普段の生活が送れるような環境を用意しています。
共有スペースは、大きな天窓で太陽の光を多く取り込めるようにしてあります。
子どもたちを見ていると、本当に、広いスペースと太陽の光さえあれば、自由に遊び始めるんですよね(笑)。
ただ、様々な疾患を持つ子どもたちにとって、感染症対策はとても重要です。空気清浄機や高性能フィルターを使用し、施設内を清潔に保つことには十分に注意を払っています。
▲個室には、小さな子どもがハイハイの練習をしたり、付き添いの家族がゴロンと寝そべることとできるように、畳の部屋も用意。布団を収納できる大きな押入れもあります。
──「病気だから」という理由で、家族と離れ、病院のベッドの上で1日を過ごす毎日。思いっきり遊んだり、笑ったりできない生活って、考えてみたらすごくつらいですよね。
楠木:
子ども達は、病気になってただでさえつらいこと、いやなことがいっぱいあります。
せめて、がんや病気以外では苦労しない環境を作りたい。私たちは「がんになっても、笑顔で育つ」というスローガンを掲げていますが、チャイケモには、そんな思いが詰まっています。
「病気だから」という理由で、できるはずのことができないという従来のあり方に、憤りを感じていました。
家族とご飯を食べたり、遊んだり。かけがえなのない当たり前の日常を過ごすことで、子どもたちに自然と笑顔が生まれます。
子どもたちにとっては、当たり前のことが、一番安心できるんですよね。
がんになることは、不運なことかもしれません。それでも「がんである」ということ以外は、他の子どもと何ら変わりなく、笑顔で過ごせる場所を作りたかったんです。
▲夏祭りやハロウィン、クリスマスパーティーなど、季節に応じたイベントを随時開催しています。
──施設を利用したお子さんやご家族にどんな変化がありますか?
楠木:
普通の病院に入院すると、基本的にはベッドの上で過ごすことになります。
寝たきりで動かないと、まずお腹が空かないですよね。
お腹が空かないと、ご飯も食べない。動かないから、成長に必要な筋力もつかないし、ご飯を食べないから体力も落ちる。結果的に子ども自身がしんどくなってしまいます。
でも、運動できるスペースがあったり、遊ぶものがあれば、子ども達は遊びます。そうるすと、お腹も減りますよね。
さらに、イメージでいえば「あまりおいしくない」病院食ではなく、お母さんの手料理が食べられる。
そうすると、自然と必要な点滴の回数も減ってくるんですよね。
病気になって治療が必要であっても、子どもたちが子どもらしく過ごせる場所なんですね。
いわゆる「普通の病院」だと、なかなかそうはいかないですよね…。
私自身、中学校のときに小児がんを発症し、入院したんですが、やることもなく退屈で、1日が本当に長くて。
「病気やからっていう理由だけで、なんでできへんねん」っていう思いは、人一倍強いかもしれません。
病気であっても、子どもたちにとって、普通に遊んだり、親と過ごしたりする環境が大切だとは思っていましたが、チャイケモをオープンしてから、自分たちが思っていた以上にこれらのことが大切だと気づかされました。
普通の病院では、子どもたちが心から嬉しそうに笑っている姿や、走り回っている姿が見られなかった。ここでは、子どもたちが嬉しそうに走り回り、笑っています。
そんな姿を見るたび、その大切さに気づかされています。
▲普段外泊や外出が難しくても、ここではその子にあったペースで遊ぶことが出来ます。
──利用される患者さんのご家族はどうですか?
楠木:
子どもの病気に対して、親御さんたちは罪悪感を抱いていたり、精神的にもつらい状況にあります。
さらには、自分たちの苦しみやつらさをなかなかわかってもらえず、周囲の何気ない一言に傷ついたり、相談できる相手がいなかったり。そんななかで社会からの孤立を感じている親御さんも少なくありません。
チャイケモは、多くの方からの寄付でできた施設です。
チャイケモに来てそのことを感じとってもらうだけでも、「自分たちの苦労を分かってくれる人がいる」、「支援してくれる人がいる」と、社会とのつながりを感じる親御さんもいらっしゃいます。
がんや難病の子どもたちを、社会で育てていく環境はまだまだ整っていません。
がんになっても、子ども達が笑顔で育つことが普通に叶う社会を目指して、チャイケモが、その一つのシンボルになってくれればと思っています。
▲大きなサイコロを振って実際に遊ぶことが出来る「ドネーションすごろく」。たくさんのひとの「想い」が集まれば集まるほど、楽しくなる。関わりたくなる「応援のカタチ」を表しています。
──最後に、チャリティーの使途を教えてください。
楠木:
毎年、入院中・入院したことのある子どもたちとその家族を対象に、夏祭りを開催しています。
病気の子どもたちは、免疫力が低下していて感染症などにかかりやすく、人混みのある場所に行くことが難しいです。
チャイケモで開催する夏祭りは、そんな子どもたちでも、安心して遊ぶことができる場所。
花火をしたり、屋台で買い物をしたり…普通の子ども達と同じように、夏の楽しい思い出を作って欲しいと思っています。
▲夏の楽しみのひとつ、いろんな屋台が並ぶ「夏祭り」。治療中や免疫力の低下で、人が多く集まる場所に遊びに行けない子どもも、安心して楽しむことができます。
楠木:
また、夏祭りは入院中に仲良くなった子どもたちやその家族が一同に集まって顔を合わせる、同窓会のような場でもあります。
遠方から利用されるご家族も多く、チャイケモに滞在中にせっかく仲良くなっても、出てしまうとなかなか会う事ができない。夏祭りで再会し、親交を深められる場です。
今回のチャリティーで、この夏祭りの開催費用のうち10万円を集めたいと思っています。
▲退院したけれど治療の続く子ども、在宅医療を受けている子ども、そしてそのきょうだい達。みんなが安心して集まり、楽しく遊べる場を作るために、イベントを開催しています。
──今回のコラボで、夏祭り開催のお手伝いができたら嬉しいです。
ありがとうございました!
▲チャイルド・ケモ・ハウスのスタッフの皆さん。家の雰囲気に近づけるため、白衣などは着用しないのだそう!
インタビューを終えて〜編集後記 by山本〜
一人暮らしをしていた時、3日ほど入院したことがあります。
白いカーテンで区切られたスペースは、社会から切り取られたような無機質な空間で、どこか世間から置いてけぼりをくらったような、不安な気持ちになりました。
家族と過ごさないことに慣れきった一人暮らしの入院ですらそうだったのに、子どもにとっては、お父さんやお母さんと離れ、一人で過ごす夜はどんなに不安でしょうか。
「子ども」と聞くと「何にでも興味津々で、良く遊び、良く笑う」。そんなイメージが一番に浮かびます。病気になっても、子どもが子どもらしく、あふれる笑顔のなかで生きられる社会を目指して、今回のチャリティーにぜひご協力ください!
インタビューをお願いした楠木先生は、スカイプを通じてチャイルド・ケモ・ハウス内を案内してくださいました。
写真でもわかるように、施設内はとても開放的で明るく、広々とした気持ちい空間。
楠木先生のようなお医者さん、チャイルド・ケモ・ハウスのような場所に出会えたら、闘病生活はずっと明るく、楽しくなるんだろうな、と思いました。
チャイルド・ケモ・ハウスが一つのモデルとなって、小児がんや難病と闘う子どもたちが病気であっても笑顔で生きられる場が、日本全国に広がっていくことを心から願います。
”Welcome home. It’s our place ”. 「ここは、私たちの場所。ようこそ“我が家”へ」。
がんや難病を抱える子ども達に、自分の家にいるようなくつろげる場所と安心を提供し、そして笑顔になってほしい──。
チャイルド・ケモ・ハウスの想いを表現したデザイン。文字のなかに、家が隠れています。
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