「子どもの貧困」をサポートするいろんなNGO/NPO団体を、JAMMINではこれまでも取り上げてきました。
それぞれを取材させていただくなかで見えてきたのは、「経済的な貧困」、すなわち「お金がないこと」だけではなく、家族と出かけられないこと、家族で食卓を囲めないこと、他の友達と同じように習い事をしたり、旅行に出かけたりできないこと…そういったことが子どもたちを苦しめているという事実。
こういった「経験や人とのつながりの格差」が、子どもたちの疎外感や孤独、自己否定を生んでいるのではないか。
「子どもの貧困」とは、一体何か−−。
今週のテーマは、「子どもの貧困」から派生する「子どもの居場所」。
低所得の家庭に給付金を届け、その家庭の子どもたちに無料で合宿に招待しているのが、今週のコラボ先・公益財団法人あすのば。
今回は、事務局長の村尾さんと、学生スタッフとしてあすのばの運営に携わる花澤さん・工藤さんにお話をお伺いしました。
△あすのば事務局長の村尾さん。
公益財団法人あすのば
名前の由来は「明日の場」と「US(私たち)・NOVA(新星)」。子どもの貧困の調査・提言や支援を通じて、すべての子どもたちが明日に向かって希望を持てる社会を目指しています。
TEXT BY MEGUMI YAMAMOTO
やまもと:
今回のコラボをさせていただくにあたって、いろいろと私の方でも調べたのですが「子どもの貧困」って結局なんなのか?ということが疑問でして…。
「年収がいくら以下の家庭の子どもは、すなわち貧困だ」、それはそうなんだと思うんですが…。
たとえば極端な話、経済的にはそこまで困窮していなかったとしても、親が朝から晩まで働いて、いつも家でひとりぼっちだったりして、困っていたり悩んでいたり、悲しんでいる子どもがいるとしたら、これはやっぱり「子どもの貧困」のなかに定義されてくるのではないかと思ったんです。
その辺についてどう思われますか?
村尾さん:
まさにおっしゃる通りで、私自身もそうだったのかもしれないと感じています。
私の母親は、私が小学校6年生のときに自殺しました。
会社員をしていた父は、私たち子ども3人と障害を抱えた叔母の家族を一人で養うために、早朝から夜遅くまで働き詰めでした。
単なる年収の高低だけでは困窮していたかといわれると母子家庭と比べてそうではなかったかもしれません。しかし、父親がずっと家におらず、十分なコミュニケーションをとることもできなかった。また、高校からは学校でかかる費用や自分の生活費などの多くは自分のアルバイト代で賄いました。
「見えない貧困」にあったと思います。
△幼い頃の村尾さん。お母様と一緒に撮った写真。
やまもと:
そうすると、やはり「経済的なものさし」の定義だけではすくいきれませんよね。
「子どもの貧困」という言葉を聞くと、イコール今日食べるものがないとか、進学するお金がなくて進路を諦めるとか、生活に困窮するイメージがまだまだ浮かぶんですよね。
でも、そこまで直接的ではなくても、経済的な貧困が間接的に起因している「それ以外の部分のつらさ」みたいなことがあるんじゃないかと思ったんです。
村尾さん:
そうですね。
あすのばが過去に行ったアンケートで、子どもたちから「経済的に苦しくて部活の用具が買えず、好きだったスポーツを断念しなければならなくなり、つらかった」という声や「周りの友達のように習い事や塾に通えず、疎外感を感じた」といった声があったりします。
子どもにとっては、単に「お金がない」ことよりも、それによって物的なものも含めて、経験や人とのつながりが奪われてしまい、「うちは他とは違う」、「誰にも話せない」と孤独感や疎外感を募らせる原因になってしまうと思うんです。
△あすのば設立一周年行事にて。
やまもと:
そうですよね…。
あすのばとしては、どのようなサポートを行っていらっしゃるのですか?
村尾さん:
調査・研究を通じて子どもの貧困の実態を「見える化」して政策提言を行うほか、子どもの貧困に関する理解や対策促進のための講演等も実施しています。
また、返済不要・成績不問の「あすのば入学・新生活応援給付金」の支給を2016年より開始しました。
やまもと:
どのような給付金なのですか?
村尾さん:
はい。これは、
■生活保護を受けている世帯の子ども
■住民税非課税世帯の子ども
■児童養護施設・母子生活支援施設・里親など社会的養護のもとで生活していて、施設退所など自立生活を予定している子ども
これらの条件を満たす入学・卒業生を対象に、学年に応じて3〜5万円支給している給付金で、2016年度は2,200人の子どもに届けることができました。
△給付金の協力者を募る「ここにいるよ。」プロジェクトでは、街角でボランティアの学生たちが募金活動を行います。
やまもと:
給付金の給付の背景とか、意図をお伺いしてもよいですか?
村尾さん:
給付金を一時的に支給したからといって、子どもの貧困が解決するわけではありません。
でも「給付金で、新生活で必要なテキストや電子辞書が買えた」という声もありますし、直接何かを購入するということなくても、いつもは朝から晩まで働いている親御さんが、この給付金のおかげで仕事を1日休んで子どもの入学式に参加でき、一緒にゆっくり過ごすことができた、そういう使い方をしていただいてもいいと思っているんです。
やまもと:
「経済的な貧困というのはコアにあるんだけれども、そこから派生して生じる課題、そこで子どもが感じるこころの負担や孤独を、軽減したい」という思いなのだと理解しますが、いかがですか?
村尾さん:
おっしゃる通りですね。
また、この活動の目的として私たちが給付金をまず実施することで国や自治体のモデルケースとなり、国や各自治体が同様の取り組みをしてくれればという思いもあります。
△給付金を届けた子どもたちには、あすのば主催の合宿への参加を案内しています。こちらは小中学生対象の合宿の様子。
さて、ここからは学生スタッフとしてあすのばの合宿の運営にも携わる大学生の花澤さん・工藤さんにお話をお伺いしました。
△合宿初日、スタッフが横断幕を持って参加者を迎えます。左が花澤さん、右が工藤さん。
やまもと:
合宿について、詳しくお伺いしても良いですか?
花澤さん:
「あすのば合宿ミーティング」は、学生が主体となって運営する合宿で、70〜80名の高校生・大学生世代の若者の参加があります。交通費含め合宿費用はすべてあすのばが負担しています。
合宿のメインは「シェアのば」と呼ばれる経験や思いを共有する場所で、参加者が過去の悩みや問題について話す場を持っています。
やまもと:
参加するのは、どんな方ですか?
花澤さん:
ひとり親家庭や社会的養護の経験がある、または学習支援や子ども食堂など子どもに寄り添う活動をした経験がある、「子どもの貧困」問題に興味がある高校生・大学生世代の若者です。
やまもと:
花澤さんは、そもそもあすのばとどうやって出会ったのですか?
花澤さん:
高校3年生の夏、高校生向けのイベントに参加した際に合宿ミーティングのチラシを見たことがきっかけで、初めて参加しました。
私の家は、仕事をしない父親の代わりに母親が仕事に出ていました。家では弟と父親と3人で無言の食卓を囲み、いつも家に帰るのが嫌でした。
でも、それが私にとっての当たり前の生活で、不思議に思ったことはありませんでした。
合宿でこれまでの境遇を話し、周りの人に受け止めてもらえたとき、つらかったんだと自分の思いに初めて気付くことができました。
それまでは、経験を誰かと共有したこともなかったし「自分が貧困の当事者である」ということを意識したこともありませんでした。
あすのばの合宿に参加した後、進学を諦めかけていたときも、合宿で出会った先輩たちがサポートやアドバイスをしてくれたおかげで新しい道を見つけ、無事に進学することができました。
今は大学に通いながら、学生スタッフとして、あすのばの活動に携わっています。
△合宿中にはもちろん自由時間も。班のメンバーと思い思いの時間を楽しみます。
やまもと:
工藤さんは、どうですか?
工藤さん:
うちは両親の収入が少なかったんですが、祖父母や親戚からの援助があり、経済的にそこまで困窮しているというわけではありませんでした。
でも、周りの友達のように塾や習い事に通うことはできなくて、家と学校だけを行き来していました。
新しく誰かに出会うことも、人間関係も少なかった。
高校1年生の終わりから不登校になり、中退しました。
やまもと:
高校を中退したのは、どうしてですか?
工藤さん:
友達関係に問題があったわけじゃないんです。
進路指導があって、進学するのが当然のような雰囲気があったんですが、親から「親戚から援助してもらっているから、あまりお金がかかると申し訳ない。」と言われていました。
学校と家庭の板挟みに遭い、自分がやりたいことがわからなくなり、学校に行く意欲が失せてしまったんです。
やまもと:
生徒のためを思っての進路指導だったのが、工藤さんにとっては負担というか、つらかったんですね。
工藤さん:
国立大学なら経済的な負担を抑えられるけれど、そこまで勉強をして国立大学に行きたいのか。かといって、私立大学は経済的に負担が大きくて考えられないので、自分が何をしていきたいのかも見えない。どうしたらいいのだろう…と。
中退したときは、精神的にも荒れていました。
当時は「進学する」ことも、かといって親もしっかり働いていなかったので「働く」こともイメージできなかったんです。
「つながりの貧困」じゃないですけど、人間関係が狭く、知っている世界が少なくて、身近に「こんな風になりたい」というロールモデルになれるような大人がいませんでした。
「経済的な貧困」より、そこが問題だった。
あすのばをきっかけに、たくさんの人とのつながりができ、そこから出ることができました。
やまもと:
参加者の背景はそれぞれだと思いますが、2人にとってあすのばの合宿はどんな場所ですか。
花澤さん:
私を含め、あすのばを通して出会う若者は、自己肯定感が低いというか、悩んでいたり、困っていたりしても「誰に相談していいかわからない」、「相手に言っても迷惑だからやめておこう」って、自分のなかに留めてしまうという人が多い印象があります。
でも「相談してもいいんだよ」っていう空気があって、耳を傾けてくれて、同情じゃなくて、共感してもらえる。ずっと得られなかった「居場所」があります。
工藤さん:
思いを共有し、受け止め合うことで、新たな一歩を踏み出すことができたり、新しく知る世界があったりする。
それがこの合宿の良さだと思います。
△3泊4日の合宿のクライマックス、キャンプファイヤー。
やまもと:
今回のコラボを通じて「みんなに知ってほしいこと」 ってありますか?
花澤さん:
「子どもの貧困」と聞くと、「お金の問題」と捉えられがちです。
でも、「困りごと」だって問題の一部。誰が当てはまるのかわからない。何もないように見える子どもたちでも、孤独を感じているかもしれない。
「経済的な貧困」だけが「子どもの貧困」ではないと皆に知ってほしいし、子どもの孤立を防ぐために何かできたらと思っています。
工藤さん:
私は「子どもの貧困」という言葉自体しっくりこないんですよね(笑)。
たとえ「経済的な貧困」にあてはまらない家庭でも、しんどい状況にいる子どもたちはたくさんいる。一言では片付かない問題だと思います。
△「子どもの貧困」について、当事者や同世代の若者たちで考える。2016年6月に行われた子ども委員会・代表会の様子。
さて、あすのば事務局長の村尾さんに話を戻しましょう。
やまもと:
学生スタッフのお二人に話をお伺いしました。やはり「経済的な貧困」から派生した悩みがあるのだということを知りました。
合宿で経験や思いを共有することで、次へのステップが見える。すばらしい場だと思うのですが、参加者の費用をすべてあすのばさんが負担されているとのこと。
7〜80名となると決して安くはないと思うのですが、あすのばとして合宿を開催される意図を教えていただけますか?
村尾さん:
これまでの苦労や悩み、つらかった思いや悲しみを分かち合うことで、「1人じゃなかったんだ」と思える場を持つこと。
これが、子どもたちが孤立から抜け出していける第一歩になります。
あとは、今支えられた側の子どもたちが、大人になったときに次の世代を支えていってほしいという願いがあります。
まずは自分の居場所を見つけて、その先で、子どもたちの声に耳を傾け、寄り添える大人になってほしい。
「貧困」や「苦しい」という悪循環から、支え合いの好循環に好転する社会を作っていくために、合宿がそのきっかけの場になってほしいと思っています。
△支えられた側が、いつか支える側に。それがあすのばの願いです。
やまもと:
最後に、今回のチャリティーの使途を聞かせてください。
村尾さん:
皆様からのチャリティーは、夏に開催される合宿に全国の高校生が参加するための交通費として使わせていただきます。
北は北海道から、南は沖縄まで日本各地から学生が参加しますが、参加にあたって交通費という経済的なハードルは取り除いてあげたい。
昨年の合宿で全国の高校生1人あたりの交通費(往復)の平均は、一人あたり約18,000円でした。
今年の開催にあたり、1人でも多くの高校生が合宿で一歩を踏み出す「居場所」を見つけられるよう、ご協力いただけると幸いです。
やまもと:
ありがとうございました!
△2016年12月に行われた全国集会にて。集まったメンバーと記念撮影!
インタビューを終えて〜編集後記〜
「子どもの貧困」と聞くと、どうしても経済的な部分にフォーカスしがち。
以前、NPO法人チャリティーサンタさんとコラボした際も「経済格差から「思い出の格差」が生まれている」という話を聞き、「経済的な格差が生むその他の格差」を感じていたところでした。
家庭のかたちが多様化している現代、孤立した子どもたちを受け止められる社会を作っていくためには、まず子どもたちと同じ目線に立ち、声に耳を傾けることが大切。
そんな思いを胸に活動を続けるあすのばの活動を、ぜひ応援いただけると嬉しいです。
「あすのば」という団体名の由来、「US(私たち)」の「NOVA(新星)」を表現しました。
「子どもたち一人一人が、輝く星のように、無限の可能性と将来を秘めた存在だよ」というメッセージが込められています。
“We are always by your side”. 「いつも、君のそばにいるよ」。
あすのばの子ども達への思いを込めて。
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