突然ですが、あなたが最近、自分の故郷へ帰ったのはいつですか?
実家に帰って一緒に御飯を食べたり、同級生に会ったり。故郷で過ごす時間は、日々の忙しさから離れられる楽しい時間ですよね。
著者も一人の娘と妻を生まれた名古屋へ残し単身赴任中。生まれた町=自分の家族そのものであり、早く会いたい!という気持ちが、日々のモチベーションになっています。
あなたにとって、故郷はどんな意味を持っていますか?
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ここで、少し視点を変えてみましょう。
もし、あなたが生まれた町に戻れないとしたら?─、そんなことはあり得ない、と言わず少しだけ考えてみて欲しいのです。
そして、この「もし」が現実に起きている場所があります。
福島県・浪江町(なみえまち)─、東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故により、町内全域に避難指示が出されています。現在も浪江町の町民およそ20,000人が町外、44都道府県に散らばり、うち6,000人超が県外で生活している状況です。
(浪江町ホームページより)
浪江町は「町に人がいない」「住民票はあるけどそこには住めない」という状況。かつてあった町民どうしの繋がりは一度失われ、震災から5年がたった今も「町の繋がり」を取り戻すための取り組みが進んでいます。
その取り組み一つが、今週のチャリティーは「ともに考え、ともにつくる」をコンセプトに活動する一般社団法人Code for Japan(コード・フォー・ジャパン)が展開するプロジェクト、Code for Namie。
この3月末までプロジェクト・リーダーを務めていた吉永隆之(よしなが・たかゆき)さんに、活動の詳細について話を伺ってきました。
(Code for Japanの吉永さん)
最初、吉永さんを福島出身の方かと思っていたのですが、「生まれは神奈川・藤沢市なんです」と聞き驚きました。
吉永さんにとって、浪江町は「縁もゆかりもない」場所のはず。震災という背景はあるにせよ、活動にコミットした背景には何があったのでしょうか。
「私、吉永は当時、東京でIT企業に勤めていました。ただ、東京は震災後あっという間に“普通の状況”に戻っていったという感覚がありました。
東北の方々はあんなにも大変な状況なのに、自分は普通に暮らせてしまっている─、そんな違和感を常に感じていました。
震災以前から、地元(神奈川・藤沢)に対して何かしたい、とは漠然とは思っていました。その気持ちが震災後に感じた違和感とリンクして、浪江町のプロジェクトを通じて、地元に貢献するための力を身につけたい─、社会をこの震災後というタイミングで変えてみたい─、と考えるようになりました。
そもそも、全町民が避難する浪江町は異常事態なのでは?と見ている方も多いと思います。町が失くなるという確かに特殊な状況かもしれません。
しかし、私にとっては“今後の日本でも起こりえる課題”が一気に顕在化した地域、という見方をしています。例えば、高齢者と若者の対話が無い、まちづくりの担い手が不在など─、町外避難により地域が抱える問題が一気に出てきているので、将来まちづくりに関わりたい自分にとって、これ以上の機会はないと考えていました。
後は、将来子どもが出来た時に“パパ、震災の時何やってたの?”という言葉をかけられた時に、胸を張って“頑張った”と答えたい─、そんな想いを持っています」
(タブレットを利用する町民と町役場の職員)
Code for Namieは、浪江町民にタブレットを配布し、浪江町に関する行政情報やニュースを発信するプロジェクト。この2年間での具体的な活動はどのようなものだったのでしょうか。
「私たちCode for Japanの活動の合言葉は“ともに考え、ともにつくる”こと。
与えられるのを待つのではなく、町民自ら参加して課題を伝える─、
有志で集まった各界の専門家や民間で活躍する人材が、伝えられた課題を元に専門性を発揮して形にする─、
それを運用するための道筋を行政がつける─、
テクノロジーに詳しい民間の有志が町民に使い方を教える─、
ひとりひとりができることを集めて繋いで、バラバラに離散した浪江町の絆を繋ぐ─、
Code for Namieは、そうやってこの2年間浪江のまちづくりを進めてきました。
(町民を集めたタブレット利用に関する講習会の様子)
特にこの2年間腐心したのは、タブレットを触ったことが無い人もいる中、どう利用してもらうのか、ということ。
とにかくに使ってもらう人の意見を聞かないと始まらない、と考え色々な人に話を聞きに行きました。県外に避難している人へは、復興支援員(避難先で暮らしの相談に乗る嘱託職員)を通じてヒアリングを行いました。
そして、アプリを作ってはまたヒアリングの繰り返し。
実際のユーザーさんが開発に参加してもらっていることが、多くの自治体では50%程度に留まる中、浪江町民の利用率80%超を達成している背景にあると考えています。
開発したアプリの一つに『なみえ新聞』があります。
町の人からの“お悔やみ情報が見たい”という声があり新聞社と交渉して掲載できるようにしたり、町民自身も投稿できる新聞のようなアプリを作りました。
一番人気なのは、町民自身が写真と一言コメントを投稿するコーナー。浪江町民版のフェイスブックみたいなものですね。多い時には一日に2,000人以上が見てくれているんです。
今までに開発したアプリの数は6個。今も町民へのヒアリングを通じて、バージョンアップを繰り返し、より町民の方が使いやすいタブレットとなるよう創意工夫を続けています」
先進的な取り組みを続け、成果を残してきたCode for Namie。本来の目的である「町の繋がりを取り戻す」活動に関する進捗はどうなっているのでしょうか。
「今現在、浪江町民に起きていることは大きく2つあります。
1つ目は、自立して暮らせる人とそうでない人の間に大きな差が生まれつつあること。
仮設住宅などで周囲のサポートがないと暮らせない方がいる一方、避難先で家を買うなど生活を再建し、町へ戻らない選択をする人も少なくありません。
2つ目は、いつ町に戻れるかわからない、戻っても安全なのか、生活できるのかわからないという状況に、町へ戻りたいという意欲が少しずつ消耗してしまっていること。
町へ戻りたいか、というアンケートに対する最新の調査結果も、当初20%あったのが17%程度へ落ち込んで来てしまっています。
そんな状況にある今、私たちが果たすべき役割は“使いやすいタブレットを作る”フェーズから、“町をどうしていきたいのか”を支援するフェーズに移ってきている、と感じています。
今の町は、2017年の春には帰宅困難区域を除くエリアの避難指示解除を目指しています。本格的な復興は、その時からまた新たにスタートを切ります。
具体的にはこれからの活動となりますが、町の若い人に対して話を聞いたり、町の“グランドデザイン”を作るお手伝いを進めて行きたいと考えています。
また、もう少し広い目線で見ると、Code for Namieの活動は、浪江の課題だけではなく、日本各地の地域課題が解決できる社会づくりを目標にしています。
人口減少する現代では、全て行政任せで地域の課題が解決するわけではありません。これからは、民間と行政が協力して地域の課題の解決に取り組んでいく必要があります。
全てがリセットされた被災地だからこそ、タブレットを活用した方法など、“新しいコミュニティの在り方”を提言していけると思っています」
Code for Namieのプロジェクト、関わる吉永さんの想い、どう感じたでしょうか?
話を聞きながら著者が思ったのは、物理的に移動して戻ること=故郷(私の場合、家族)を想う方法ではない、ということ。
例えば、小さい頃からある地元のスポーツチームを応援したり、テレビで見かけたニュースで「あ、あの場所だ」とわかったり。浪江町で言うと、なみえ新聞アプリで見る「あ、近所の人の子ども、小学校卒業したんだ!」だったり。
自分の記憶と「何かしらのつながり」を感じられる瞬間、それこそがかけがえのない「街を想う時間」ではないでしょうか。
そして、町を想うきっかけを提供しているCode for Japan。彼らの活動を応援することは、あなたが「町を想う気持ちを表現すること」─、私たちJAMMINはそう考えています。
最後に、Code for Japanの吉永さんからメッセージを頂いています。
「全町避難を余儀なくされた浪江町民は、全国44都道府県に離散して生活をしています。
もしかすると、あなたの近所に浪江や福島から避難されている方がいるかもしれません。周囲に知り合いもおらず引きこもりがちかもしれません。そういう人が孤立しないよう、何か接点が生まれて欲しい、そう願っています。
今週、皆さんからお預かりするチャリティーは、Code for Namieを始めとする“地域を良くするためのIT推進プロジェクト”のために使われます。
デザインにあるNAMIEの“絆”というロープのように、町とあなたがしっかり結ばれ、よりよいまちづくりのために一緒にアクションを起こしていきましょう!」
TEXT BY KEIGO TAKAHASHI
(日本各地のエンジニアが参加した町民とのハッカソンの様子)
【 THANKS MESSAGE 】一般社団法人Code for Japan から御礼とメッセージ | JAMMIN(ジャミン)
法人名:一般社団法人Code for Japan
活 動:東京に事務所を構え、市民参加型のコミュニティ運営を通じて、地域の課題を解決するためのアイディアを考え、テクノロジーを活用して公共サービスの開発や運営を支援する非営利法人。
住 所:東京都渋谷区宇田川町3-14 渋谷セントラルビル4F
H P:http://code4japan.org