「毎日の仕事のなかで一番嬉しいのは、子どもたちの笑顔を見ることです。彼らが内戦を逃れ、厳しい環境にいることを忘れそうになるくらい、本当に無邪気な笑顔をしているんですよね」
「このチャリティーTシャツを購入していただくことをきっかけに、彼らのことを知り、着るたびに避難先で頑張っているシリア難民の子たちのことを、思い出してくれたら嬉しいです」
政情不安が続く、中東のシリア。日々のニュースでも報道されているように、シリア国内から国外へ避難する人数は、400万人を超えると言われています。
私たちに、今、何が出来るのでしょうか。
今週のチャリティーはJAMMINで2回目の登場となる、NPO法人ADRA JAPAN。前回はネパールでの口唇口蓋裂の手術費用に関するキャンペーンを開催しました。
今回は、シリアの隣国レバノンでの学習教室活動に関するお話を伺ってきました。
私たち国際協力NGO、ADRA Japanは、レバノンでシリア難民の子どもたちのための学習教室を運営しています。厳しい状況に置かれているなかでも、子どもたちは屈託なく笑い、学び、将来の夢を育んでいます。
現地に駐在し、子どもたち、そしてレバノンを見守る、ADRA Japanスタッフの伊東彩(いとう あや)には、日本、そして世界中に知ってもらいたい、ある想いがありました。
(ADRA Japan、レバノン駐在員の伊東彩)
現在ADRA Japanの職員としてレバノンでシリア難民支援に携わる伊東が、国際協力に興味を持ったのは、単純な憧れからでした。
「大学1年生のとき、『情熱大陸』で、WFP(国連世界食糧計画)の忍足謙朗(おしだり けんろう)さんの存在を知ったのです。国連職員ってカッコイイな、世界を股にかけてすごいなと驚嘆し、自分も将来は同じような仕事がしたいと、漠然と思うようになりました」
きっかけは些細なこと。しかし伊東は、大学に入学するとすぐにとあるNGO(非政府組織)の活動にインターンとして参加しました。
半年間ケニアでプロジェクト実施の補助業務を体験し、その縁で、卒業後も関連NGOに就職。ケニアで2年半の任務にあたったのです。
「『情熱大陸』を見て、最初に憧れたのは国連職員でしたが、ケニアでの経験から、民間レベルで活動するNGOとしての仕事に魅力を感じました。たとえば援助の仕方によっては、現地の人たちが頼り切ってしまって、支援しないと生きていけなくなってしまう危険もあります」
「国際協力で大切なのは、現地の人々の希望を尊重し、自立を助けること。現地の人に近い立場でニーズや課題をしっかり把握し、繊細なアプローチを実行できるのがNGOなんです」
漠然とした憧れから飛び込んだ国際協力の世界。しかしケニアの任務が終わる頃には、伊東は現地の人としっかりと向き合い、適切な活動を実施できる、一人前のNGO職員になっていました。
「興味を持つきっかけは人それぞれ。私の場合はテレビ番組でしたが、そこから自分なりに調べ、行動するうちに視野が広がっていきました」
そんな彼女がケニアの次に赴いたのが、ADRA Japanより派遣されたレバノン。そこで伊東は、現地に逃れて来たシリア難民の子どもたちの、学習支援を担当することになったのです。
(レバノンに逃れて来たシリア難民のある家族)
シリアの現状についてはご存知の方も多いと思いますが、2011年3月からの内戦で、22万人以上が死亡。人口2200万のうち400万人以上の方が国外で避難生活を送っています。
シリア難民の避難先は多岐にわたりますが、なかでも隣接するレバノンやトルコには、百万単位の難民が押し寄せ、今もその人数は増え続けています。
そのなかにはもちろん子どももいて、心のケアを含めた、より本質的な支援を必要としているのです。
「私がケニアでやってきたことは、中長期向けのコミュニティー開発だったのですが、レバノンは緊急支援という全く違う分野。新たなチャレンジに、意欲を持って現地に入りました」
現在おおよそ47万人の学齢期のシリア人の子どもたちが、レバノンでUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)に難民登録されています。そのうち約70%の子どもたちが学校に通えていないと言われています。
また、一度学校に入学できたとしても、ずっと通い続けることは難しいのが現状。貧しくて交通費などが払えなかったり、教育を受けていない期間が長く、授業についていけないといった原因で、ドロップアウトしてしまう子どもも多くいます。
そういった子どもたちに教育の機会を提供することが、ADRA Japanのレバノンでのミッション。しかしいざ仕事を始めて見ると、伊東は思い描いていたプロジェクトと現地の状況にギャップを感じたと言います。
「難民の方が、難民キャンプじゃなくて、都市部に入って生活していることすら、日本にいるときは想像ができなくて。難民の人たちがどんな生活をしているのか見えていなかったんですね」
都市部に住むシリア難民の家族は、アパートの部屋を自分たちで借り、家賃を払って生活しています。
(シリア難民の方々が暮らすアパート)
しかしレバノンでUNHCRの難民登録を受けたシリア難民は正規雇用者として働くことが許されていないため、非正規の日雇い労働等による少ない収入から毎月の家賃を支払わなければなりません。生活が困窮し、家計を支えるために子どもたちが働くことを余儀なくされるケースもあります。
一方で、人口400万人、岐阜県程しかない国土に、150万人もの難民を受け入れたことで、レバノン人の生活も大きく圧迫されています。レバノン人の不満は、シリア難民に対する差別のかたちで噴出することもしばしば。
「家族が置かれた状況や、受け入れ側であるレバノン人との緊張関係により、シリア難民の子どもたちは教育を受ける機会だけでなく、子どもらしく振る舞う時間や場所を確保するのも難しい。学習支援も大切ですが、ADRA Japanの活動では、子どもたちが安心してのびのびと過ごせる場所を提供することも重要です」
ADRA Japanは、学習の場がないシリア難民の子どもたちのために、レバノン都市部で学習教室を運営しています。
現在は各国から集まった総勢8人のスタッフが連携。子どもたちにアラビア語、英語、算数、理科の授業支援と、心のケアを含めたレクリエーション活動を実施しています。
(毎週金曜に行なう心のケアのためのアクティビティー)
「毎日の仕事のなかで一番嬉しいのは、子どもたちの笑顔を見ることです。彼らが内戦を逃れ、厳しい環境にいることを忘れそうになるくらい、本当に無邪気な笑顔をしているんですよね」
「例えば、授業中に先生からの質問に答えられた子は、おでこにシールを貼ってもらえるのですが、彼らはとても誇らし気で、シールを付けたまま、家に帰ってしまうんですよ(笑)。平和な地域の子どもと同じような、子どもらしい行動を見ると、活動してきて良かったなと思います」
ADRA Japanの学習教室に通っている子どもたちのなかで、8歳以上のほとんどの子どもが、複数年に渡り学習の機会を得られていません。
学習教室で、再び学び始めた子どもたちが、日ごとに前向きな姿勢を見せるようになり、子どもらしさを取り戻して行く過程は、目に見えて分かる程だそう。また、そういった子どもたちの変化は、親にも希望を与えているようです。
(学習教室の様子)
「新しい環境で我が子に友たちができ、居場所が出来たことを、親御さんも喜んでくれています。また、彼らの母国シリアは、95%の識字率があった国ですから、子どもたちには基本的な読み書きだけでも学ばせたい気持ちが強い。教育を受けないことが、子どもたちの将来に及ぼす影響を心配しているんです」
現地に入って活動するなかで、外から思い描いていたのでは分からない、彼らのニーズや希望が見えてきたと、伊東はいいます。
「やはり皆さん、いつかはシリアに帰りたいんです。とはいえ内戦は収束の気配が見えず、心のどこかではもう帰れないかもしれないと、諦めている人もいる。そんななかで、せめて子どもたちがきちんと教育を受け、将来を見通せるようになることが、大人にとっての願いであり、希望になっています」
レバノンでのシリア難民の人々の置かれた環境は過酷ですが、国をあげた前向きな取り組みも、多くあります。
たとえばレバノンの教育省は、全ての子どもたちに教育の機会を与えることを目標に掲げていて、公立学校で難民の子どもを対象としたクラスの設置を進めています。
また、ノンフォーマルの教育プログラムも開発して、学校に通えない子どもたちもカバーしようと、一生懸命取り組んでいるそうです。
連日のシリア難民のニュースでは、内戦の悲惨さや難民として国を渡る際の危険など、センセーショナルな側面が強調されることが多いもの。確かに、レバノン市民との間にさまざまな軋轢はあるかもしれません。
しかし、レバノンの人々が、自分たちの生活を犠牲にしてでも、シリア難民に手を差し伸べようとしていることは、まぎれもない事実なのです。
(学習教室で、熱心に学ぶ子ども達)
「大切なのは、レバノンという国が自身で課題を解決する力をつけること。私たちも変化に応じてサポートの幅を広げ、今後の事業展開で、きめ細かく対応していきたいと思っています」
レバノンが難民の存在を受け入れて成長していく過程に寄り添い、そのなかで出て来る新しい問題を見逃さずに対応していきたいと、伊東は言います。
「公立学校にシリア難民を受け入れるレバノン政府の取り組みは、素晴らしいものです。でもその結果、子どもたちの情操面の発達にまで手がかけられなくなる心配もあります」
「実際、学校を二部制にしたりして、受け入れられる生徒の数を増やさねばならないなかで、音楽や体育などの時間は削られる傾向にあるんです。こういった問題に対応できるように、サポートを続けたいですね。また子どもを守れるのは周囲の大人ですから、親たちに対する心のケアも、今後取り組みたい課題です」
それでもシリア難民の子どもたちは未来のために学び、屈託のない笑顔を見せています。
日本の多くの人々に彼らの存在を知り、サポートをしていただきたい。そんな気持ちで、私たちは「LEARN FOR PEACE (平和のために学ぶ)」キャンペーンとして、チャリティーアイテムを作って頂きました。
デザインにあしらわれたアネモネはシリアの国花。日本人にとっての桜のようなもので、難民の方々の祖国を思う気持ちを象徴しています。
そしてLEARNには教育を意味する「LEARN」とADRA Japanがレバノンで行っている難民の為の学習支援「Lebanon Educational Assistance Refugees Needs」の頭文字からなる、2つの意味を持たせています。
愛着のある祖国を出ざるを得なかった子どもたちが、学びによって次世代の平和を作れるように……といった、願いが込められたデザインです。
(チャリティーアイテムのモチーフは「アネモネ」)
「このチャリティーアイテムを購入していただくことをきっかけに、彼らのことを知り、着るたびに避難先で頑張っているシリア難民の子たちのことを、思い出してくれたら嬉しいです」
アイテムが伝えるメッセージは、現地で子どもたちを見守る伊東の想いでもあります。
今回のキャンペーンがシリア難民の方々を知るための一歩となるように、ADRA Japanではチャリティーアイテム購入者が無料で参加できる特別イベントも計画しています。
イベントでは、シリア人で、難民キャンプで暮らした経験もあるラドワン・アペトアッラティーフ氏を招き、当事者の目から見たシリアの現実をお話していただく予定です。
アイテムがひとつの縁となり、シリアの人々の思いやシリアという国について理解を深めていただくきっかけを作っていただきたい…それが、私たちADRA Japanの願いです。
TEXT BY TOMOKO HACHIYA & HIROAKI SUGAHARA (FROM PR Table)
(学習教室で、笑顔を取り戻した子ども達)
【 THANKS MESSAGE 】NPO法人ADRA Japan から御礼とメッセージ | JAMMIN(ジャミン)
法人名:特定非営利法人ADRA Japan
活 動:東京に事務所を構え、キリスト教精神を基盤とし世界各地において今なお著しく損なわれている「人間としての尊厳の回復と維持」を実現するため、国際協力を展開する非営利法人。
住 所:東京都渋谷区神宮前1-11-1
H P:http://www.adrajpn.org